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初夏編:喜びの魔女

【334話】差し出すものを差し出すとき

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湯舟に浸かり少し落ち着いたアーサーとモニカは、服を着替えてソファで座らされた。二人ともまだ先ほどのことを恥ずかしがり、赤面してモジモジしている。シャナとフーワは全く気にしていない様子で双子と向かい合って座ったが、ミジェルダはなかなか釜の前から離れなかった。痺れを切らしたフーワが魔女に声をかける。

「ミジェルダ。早くしてくれないかい」

「ヒヒッ!待っておくれよ~。ああ、嬉しいねえ、嬉しいねえ。こぉんなものが手に入るなんてねぇ~」

ミジェルダは気味の悪い笑い声をあげながら、釜の中に2本の試験管に入った少量の液体を注ぎ込んでいる。液体を注ぎ込まれると、釜の中の煮立った液体がパァっと光り、あっと言う間に美しく輝く金色の液体になった。(その瞬間断末魔が聞こえてきたので双子が震えあがっていた)

「…あんた、なんだいその奇妙な薬は」

「分かんないよォ。こんなもの私だってはじめて見たよぉ。なんだかとてもイイものができちまったぁ」

「な…なに入れたのぉ…?」

「んん~?聞きたいかい?それはねぇ」

「アーサー!モニカ!聞かない方がいいわ!さあ、早く本題に入りましょう?!」

シャナが慌てて会話を遮り、ミジェルダを睨みつけてソファへ座るよう威圧した。ミジェルダはケタケタ笑いながら瞬間移動をしてふわりとソファへ腰かける。双子がビクリと反応し、目を瞑ってお互いにしがみついた。

「おやおやまあまあ。良い反応だねぇ!怖いのかい!ヒヒ!」

「ミジェルダ、いい加減にしてくれないかい。御子を怖がらせてどうするんだい」

「アーサーのこともよ。フーワ、いい加減アーサーとモニカに対等に接して頂戴」

「ん~!こうるさいエルフだねぇ」

「…アーサー、モニカ。大丈夫よ。魔女ってみんなそうよね。怖がらせて面白がるの。でもミジェルダはあなたたちにひどいことはしないから安心して。さっきミジェルダとフーワが契約を交わしたのを見たでしょう?もしミジェルダがあなたたちにひどいことをしたら、すぐさま首が吹き飛ぶような強い契約よ」

「ひぃぃぃっ…!」

「そうでもしないと魔女は裏切るからねぇ」

「そうでもしないと老いぼれエルフは欲しいものをくれないからねぇ」

フーワは不本意そうに、ミジェルダは楽しそうにそう言った。モニカはおそるおそる顔を上げ、ずっと気になっていたことを尋ねる。

「でも…フーワさんは魔物がきらいでしょう…?どうして魔女となんかおともだちなの…?」

「友だちではありません御子よ。それに、あなたさまのおっしゃるように私は魔物など大嫌いです。ですが、私はエルフであり杖師。杖師は魔物から杖の元となる素材をもらわねばなりません。なので不本意ながら、非常に不本意ながらも厳選した魔物と交流を交わさねばならないのです」

「そうなんだぁ…」

「ええ。今回もこやつの力が必要でしたため、やむを得ずあなたさまをこちらへお招きいたしました。このような不気味な山頂に足を運ばせたこと、心よりお詫び申し上げます」

フーワは急にかしこまり、モニカの前で跪いた。モニカは小声で「またこれだよぉ…」と困ったように呟いている。そんなフーワを見てミジェルダは大笑いしていたが、フーワが杖を一振りすると首からピュと血が噴き出した。それでも魔女は笑い続けている。

「ミジェルダ、うるさいよ」

「ヒヒヒ!!だぁって面白いんだからしょうがないよぉ!!あんたが!!ヒトの子に!!跪くなんてねえ!!」

「このお方は白翼狼の印を与えられたヒトの子。私たちエルフにとっちゃぁ神と同じさ」

「ほうほう!!白翼狼の印だってぇ?!そりゃまた面白いもんを持ってるねえ!!」

「お黙りよミジェルダ。さっさとやるよ」

「はいなはいな!」

「シャナ、杖を」

「はい」

フーワに合図され、シャナが布から一本の杖を取り出しローテーブルへ置いた。見た目は以前のブナとそっくりだ。だが、モニカに声は聞こえない。

「……」

「モニカ、この杖は入れ物よ。なにも入っていないカラッポの杖。ここへブナを呼び戻すわ」

「ブナ…」

「シャナ、杖の説明を」

「はい。モニカ、この杖はブナの木でできているわ。繊細でコントロールが必要よ。その分使いこなせたときには洗練された高度魔法を使うことができる。芯に使われているのはラミアの鱗。これでより癖がきつくなっている杖なんだけど、間違いなく火力が強く、敵に状態異常を付与しやすいの。そしてもうひとつ、あなたが大切にしていたブナの欠片も芯にしている。きっとこの欠片が、ブナを呼び覚ましてくれるわ」

「うん…」

初めてブナの杖と出会った日と同じ説明。そのときのことを思い出し、アーサーもモニカも喉元が熱くなった。

シャナが杖の説明を終えるとフーワが双子の前に膝をついた。モニカの手をさすりながら、心苦しそうに口を開く。

「御子よ。あなたさまと、その兄には差し出していただくものがあります。それは以前もお伝えいたしましたよね」

「うん。私たちの血と髪。私はそれと魔力の器の一部で、アーサーは内臓の肉をひとかけらね」

「左様でございます」

「あと、ミアーナの加護の糸もだね」

「そう。よく覚えているね。そして、それを奪い、杖に移すことはミジェルダにしかできない。エルフには与える力はあっても奪う力はないからねえ」

「そうだよそうだよぉ!もちろん手数料はいただくよぉ。ヒヒヒ!!」

「…こればっかりは仕方ないねえ。ではミジェルダ、始めておくれ」

「はいよぉ!ん~嬉しいねえ嬉しいねえ!!こぉんな子たちの一部をもらえるんだからねぇ!ヒヒ!!喜んで手伝うよぉ~!!」

ミジェルダは変態じみた笑みを浮かべながらモニカに杖を振った。するとモニカの胸から小さな光が浮き上がり、ふよふよと宙を浮く。光はミジェルダの手の上に乗った。そしてそれを、ミジェルダがぱくりと一口味見した。
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