【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

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異国編:ジッピン後編:別れ

【311話】座敷童の笑顔

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歩くことと双子を追いかけることに疲れてしまった大人たちは、階段に腰かけてお酒を飲みながら談笑していた。祭りごとが好きなのか、ノリスケは普段以上に陽気になり酒をガバガバ飲んでいた。それを見てもキヨハルは咎めることなくクスクス笑っているだけだ。カユボティとヴァジーもノリスケにつられて酒の進みが早い。夕方、そんな彼らの元にアーサーとモニカがやっと戻って来た。両手には金魚がパンパンに入っている透明の袋が提げられていた。

「アーサー、モニカ?!なんだいその小魚は!!」

「あはは…ちょっと夢中になりすぎちゃって…」

「気付いたらこんなに…」

ヴァジーの問いに双子が苦笑いをしながら答える。キヨハルはお酒をくいと一口飲んでから彼らに声をかけた。

「金魚すくいに興じていたんだね。ずいぶん上手じゃないか」

「もともと下手だったんだけど、上手になっちゃったっていうか…」

「二人で競争してたらお互いムキになって止められなかったんだぁ」

「ほう。競争していたのかい?それで、どちらが勝ったのかな?」

「ワタシ!!」

モニカが自慢げに手を挙げた。隣でアーサーが「くやしい~」と地団駄を踏んでいる。

「途中までは僕の方が上手だったんだけど、モニカが急に覚醒しちゃってそれからは追いつけなかったよぉ…」

「魔法でよく水をあつかってるからね!リアーナとの特訓のときのことを思い出して、それから水のことがよく見えるようになったの!あっ、もちろん魔法でズルはしてないわよ?」

「分かってるよ。モニカがズルなんてするわけないじゃないか」

「えへへ~。アーサーに勝っちゃった~!ん~!なにしてもらおうかなあ~?」

「うぐぐぅ…」

「ん?なにか賭けていたのかい?」

「賭けてはいないけど、負けたほうが勝ったほうの言うことをなんでも聞くって約束したんだ」

「なんでも…」

「それは賭けよりも危険な約束だね」

「一体なにをさせられるんだか…」

「モニカのお嫁さんにされる」

「アーサーお嫁さんにされる」

おそろしい約束事に大人たちがざわざわしたので、アーサーはこわくなってプルプル震えた。レンゲとムクゲの声も聞こえており、アーサーはちらりと妹を見て小さな声で断った。

「…モニカァ…。僕、男の子だからお嫁さんには…」

「そんなこわがらないでよアーサー!私がアーサーにひどいことするわけないでしょう?それに、今回の願いはお嫁さんじゃないわ。お願い事はバンスティンに帰ってから聞いてもらう!ふふ!たのしみーーー!!」

「えー!なんなのぉ?!僕なにさせられちゃうのぉ?!」

「きゃはは!帰ってからのおたのしみー!!」

◇◇◇

春祭りを堪能した双子と大人たちは、陽気におしゃべりをしながら賑やかな場所をあとにする。屋敷へ到着し中へ入ろうとしたアーサーとモニカを、キヨハルが呼び止めた。

「アーサー、モニカ。こちらへおいで」

「?」

「ドウシタノ キヨハル?」

ちょいちょいと手招きされて、アーサーとモニカがキヨハルに駆け寄った。キヨハルは一本のジッピン酒を取り出してモニカに渡す。

「おつかいを頼まれてくれないかな」

「分かった!誰に?」

「私の大切なモノに。蓮華、蕣」

「はい」

「はい」

名を呼ばれた座敷童が頷いた。レンゲがアーサーの手を、ムクゲがモニカの手を握り、アーサーとモニカも手を繋ぐように言われる。言われるがまま手を繋いだ双子を連れて、座敷童は森の中へ入って行った。キヨハルは小さくなる彼らの背中を見送りながら、寂し気な微笑みを浮かべていた。

アーサーとモニカは森の奥を進む少女たちについていく。しばらく歩いていると、大木に背中をもたれかけている青年がいた。彼は青白い顔をして目を瞑っている。怪我をしていると思ったモニカが慌てて駆け寄り回復魔法をかけた。

「だ…大丈夫ですか?!すぐ治すから…!」

「ん…」

青年はゆっくりと目を開けてモニカを見た。白い髪に赤い瞳。この国では珍しい色だ。彼はモニカに回復魔法をかけられていることに気付き、なんとも言えない顔で小さく笑った。

「どこかで見たことがある光景だ」

「あれっ?もしかして怪我してない?」

「ええ。うたた寝をしていただけですよ。それでも、ありがとうございます。…一応尋ねておきましょうか。あなたたち、名は?」

「モニカよ」

「アーサーだよ」

「そうですか。モニカ、アーサー。良い名だ」

青年はそう呟きアーサーとモニカをふわりと抱きしめた。突然のことに二人とも一瞬かたまってしまったが、彼の優しい触れ方と花の香りに心が安らいだ。

「ああ、愛しいヒトの子。再び私をその目に映してくれてありがとう」

「……?」

「ああ、愛しい風のあやかし。このヒトの子の目に映ることを許してくれてありがとう」

「……」

青年の瞳から涙が一粒流れるのをモニカは見た。胸が苦しくなり、思わずモニカも彼を抱きしめる。アーサーも彼の背中に手をまわした。

「…あなたがウスユキ?」

「ああ、申し遅れました。私の名は薄雪と申します」

「あなたとは夢で何度も会ったことがあるわ。だからかな。初めて会った気がしないし、ずっとあなたに会いたかった気がするの」

モニカの言葉に薄雪は優しく微笑んだ。

「…朝霧が見せた夢ですね。アレはもともとは私が持っていた脇差です。大変やかましいですが、これからはどうぞアレをよろしくお願いしますね」

「うん。…本当にうるさいけど、でも悪い子じゃないわ」

「ふむ。アレはとても悪い子なのですが…まあいいでしょう。アーサー、モニカ。こちらへおいでなさい」

薄雪は立ち上がり森の奥へ歩き出した。マイペースな彼に、アーサーとモニカは目を見合わせた。どうしようか迷っていると、レンゲとムクゲに手を引かれグイグイと引っ張られる。

「行ってあげて」

「ヌシサマ、嬉しい」

「ヌシサマ、二人に古桜見てもらいたい」

「あの日から、ずっとこの日を待ちわびてた」

「大好きなヒトと目を合わせる日を」

「大好きなあなたたちと言葉を交わせるこの時を」

そのとき、レンゲとムクゲがはじめて笑った。嬉しそうに、心から嬉しそうに、にっこりと笑った。
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