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異国編:ジッピン後編:別れ

【284話】俺が取り戻す

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「喜代春ぅぅぅぅ!!」

モニカ(朝霧)は叫びながらキヨハルに斬りかかった。モニカでは到底できない見事な刀さばきは、アーサーは思わず見とれてしまうほどだった。だがキヨハルは軽々と受け流している。なぜ扇子でカタナを受け流せているのかアーサーには不思議でしょうがなかった。

「喜代春てめぇなぁぁっ!!俺の薄雪あんまいじめんじゃねぇよ!!あぁ?!」

「薄雪は君のものではないだろう。捨てられた脇差がよく言うね」

「っるっせぇ!!だから俺は捨てられたんじゃねぇっつってんだろ!!俺が捨てたんだ!!」

「そうかい。では捨てた主人のことをとやかく言うんじゃないよ」

「うっ、うるせぇやいっ!!」

「それに、今の君の主人はモニカだろう。君は主人の体を乗っ取ってなにをしているんだい。まったく呆れた子だね」

「お前を一閃ぶん斬るために借りただけだ!!お前斬ったらすぐ返す!!」

「なるほどね」

「だからさっさと斬らせろ!!」

「断る」

「うっ…」

モニカ(朝霧)の攻撃をかわし、扇子でトン、とモニカの胸を軽く押した。その瞬間、刀屋に風が吹き荒れる。モニカ(朝霧)は苦し気な表情で喜代春を睨みつけたが、キヨハルは変わらず微笑んだままだった。

「てめぇ…」

「苦しいかい?このまま君を消し去ることだってできるんだよ。いやならこの子の中から出ていきなさい」

「くそがぁっ…」

「薄雪の妖力を借りているとはいえ入れ物は所詮はヒトが作ったモノ。君が私に敵うはずないだろう?」

「ぐぅぅっ…」

「ほら。早く出て行かないとモニカの体が傷んでしまう。本来のこの子はそんな動きができないんだから」

「ちっ…。おいガキ!!」

「ひぇっ?!僕?!」

突然声をかけられたアーサーはビクっとしてモニカ(朝霧)を見た。モニカ(朝霧)はフラフラになりながらもいまだキヨハルに向かってワキザシを振っている。顔をしかめ、苦しげだ。モニカ(朝霧)はキヨハルに斬りかかりながらアーサーに伝言を頼んだ。

「お前しかいねぇだろうが!!妹に伝えろ!!…守ってやれなくて悪かったって…」

「…え?」

「おやおや。クスクス」

「あと!!毎晩俺を抱いて寝ろって伝えろ!!」

「は?!」

「俺が取り戻す…!あいつが奪われたもの…!!」

「しつこいね」

顔をかげらせたキヨハルが扇子で脇差をペシっと叩いた。モニカ(朝霧)は苦痛に顔を歪め、うめき声を漏らし意識を失った。キヨハルは体の力が抜けたモニカを抱きとめて、倒れているアーサーに手を差し伸べた。

「大丈夫かいアーサー」

「ア、アリガト…。イマノ ナニ…?」

「どうやらこの脇差は妖刀…つまり意思を持った刀だったようだ。モニカが刀に憑依されてしまった。でももう大丈夫だよ。目が覚めたらいつも通りのモニカだ」

アーサーはモニカをぎゅっと抱きしめた。よほど不安だったのか、声もあげずポロポロと涙を流している。キヨハルはアーサーの頭を優しく撫でた。

「怖かったよね。大丈夫。大丈夫」

「ウン…。キヨハル、アノ ヨウトウト シリアイ?」

「ああ。昔何度か会ったことがあった。そのときに恨みを買ったみたいだね」

「ソウナンダ…。…アト、ウスユキッテ ダアレ?」

「私の昔ながらの友人さ。アーサー、それよりもまずはモニカを診てあげたほうがいいんじゃないかい?応接間を開けてるから、そこへ行こうか」

「ウン…」

アーサーはモニカを抱きかかえて立ち上がった。意識を失っているものの、顔色はいつもと変わらない。呼吸も心音も安定している。これならすぐに目が覚めそうだ。

ちらとモニカの腰にさしている鞘に視線を移し、刀屋の床に突き刺さっているワキザシを見た。

「あ、ワキザシ…」

ワキザシに近づき柄を握ろうとしたアーサーの手を、キヨハルが扇子で制止した。

「アーサー。この脇差は手放した方がよさそうだ。モニカにまた憑依でもしたらいやだろう?」

「…ウン。デモ…」

「……」

「コノ ワキザシ。 クチ ワルカッタケド ワルイ カタナ ジャ ナイキガ シタ」

「……」

「モニカヲ マモロウト シテタカモ。ソレトモ ベツノ ダレカ…。トニカク コノ カタナ ダレカ マモロウト シテル。 ソノタメニ モニカ ヒツヨウ ナノカモ。ダカラ モニカト ソウダン スル」

「…まったく。思うようにいかない子だね君は」

「ダメ…?」

「いいや。構わないよ。君たちがそうしたいのなら、そうすればいい」

「アリガト」

「ここまで皆に責められてしまって、さすがの私でも負い目を感じてるからね…」

「エ?」

「なんでもないよ。…店主さん。暴れて悪かったね」

急に話しかけられて店主はびくりと体をこわばらせた。本当であれば文句のひとつでも垂れたいくらいだが、相手はキヨハルなのでなにも言えない。下手な作り笑いをして「いえいえ」と頭をかいただけだった。

「店に損害はないね?」

「はい、ないですとも」

「よかった。では行こうかアーサー。シゲフミが呼んでいる。私たちが見ていない間に大手柄をあげたそうだね?」

「エヘヘ」

キヨハルと、妹を背負ったアーサーは刀屋を出て応接間へ向かった。
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