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異国編:ジッピン前編:出会い
【275話】座敷童の恨み言
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◇◇◇
「アルジサマひどい」
「ヌシサマからまた大切なモノ取った」
「モニカからヌシサマ取った」
双子が去り、しんとした部屋でレンゲとムクゲが恨めし気に呟いた。キヨハルは何食わぬ顔で煙管を吸いながら扇子をもてあそんでいる。
「薄雪には悪いことをしてしまったかな」
「悪いことした」
「モニカにも」
「モニカからヌシサマ取った」
「アーサーからもヌシサマ取った」
「アーサーに関しては良かれと思ってしたんだが…。あやかしを目に映すことができないヒトがあやかしと関わるとろくなことがない。…私を別として、ね。モニカに関しては…まあ、ね。責められても仕方ないかな」
「ひどい」
「ひどい」
「…先に私から薄雪を取ろうとしたのはヒトじゃないか」
「いつの話」
「大昔の話」
「モニカ関係ない」
「あの子たちはアルジサマからヌシサマ取らない」
「あのヒトの子は、薄雪に枝を折らせた」
「……」
「自らの体を傷つけさせたんだよ、あの子は」
「それは…」
「ヌシサマ、嬉しかったから」
「トモダチできて嬉しかったから」
「だからいやなんだよ。薄雪はヒトを愛している。守りたいと思っている。尽くしたいと思っている。そのためなら自分の体を傷つけることも厭わない」
「……」
「私はヒトより薄雪の方が大切だ。彼を守るためならなんだってするよ。たとえ薄雪に恨まれてもね」
「アルジサマ、朝霧と一緒」
「朝霧と一緒にしないでくれ。さっきもわぁわぁと騒がしかったねあの子は」
「…ヌシサマひとりぼっち」
「ずっとずっと」
「さみしい」
「だから君たちがいるんだろう」
「……」
「薄雪が孤独に耐えられずにつくったモノが蕣」
「……」
「それを真似して私がつくったモノが蓮華」
「……」
「私はもう二度と薄雪に会うことはできない。薄雪をあの森へ閉じ込め、ヒトという彼にとって一番大切なモノを奪ったあの日から…」
「それが代償」
「ヌシサマに劣るあやかしであるアルジサマが、同等の代償で済んだのは奇跡的」
「そうだね。だが私には君たちがいる。薄雪と私の縁はまだ、君たちのおかげで繋がっている」
「ヌシサマが繋いでくれた」
「大切なモノを奪ったアルジサマのために」
「そんな棘のある言い方をしないでおくれ、蕣」
「本当のこと」
「すまないと思っているよ。だから許してくれないか」
「いやだ」
「まあ、そうだろうね」
「うん」
「蓮華も私に怒っているのかい?」
「怒ってる」
「おやおや。君の親は私だよ。せめて君は味方でいておくれよ」
「いやだ」
「まったく…。君まで薄雪の方に懐いてしまったのかい」
「だってヌシサマには私たちしかいない」
「アルジサマにはたくさんのヒトがいる」
「だから私たちはヌシサマに寄り添う」
「そうだね…。そうしてあげたほうがいい。私のまわりにはたくさんのヒトがいる」
「ヒトを憎んでるくせに」
「ヒトはアルジサマを慕ってる」
「本当に慕うべきはヌシサマなのに」
「確かに私はヒトを憎んでいる。でもね蓮華、蕣。ときどきどうしようもなく、ヒトを愛おしく思うんだ」
「…それは分かってる」
「アルジサマは、ヒトを憎んでるのに、愛してる」
「不思議なものだね」
「アルジサマはアーサーが好き」
「ああ、彼は特段気に入っているよ。彼は不思議な子だ。まるでヒトじゃないようで気味が悪い」
「アルジサマ、それは悪口」
「褒めているんだがね」
「どこが」
「ヒト特有の醜さがすっぽり抜け落ちていると言いたかった」
「…そんなアーサーの記憶取った」
「モニカからも取った」
「アルジサマひどい」
「ひどい」
「…彼からは記憶をすべて取ってあげたほうがいいだろうけどね。ふむ。いっそ目の記憶だけでも全て…」
「だめ」
「アルジサマの愛情は重過ぎる」
「こわい」
「そうかな。君たちがそう言うのなら、やめておく」
「それがいい」
「分かった。…さて蓮華、蕣。もういいよ。薄雪の元へ行っておあげ。きっと寂しがっているから」
「うん」
「アルジサマのせいで」
「モニカ取られたから」
「ヌシサマ寂しがってる」
「古桜から離れない」
「折れた枝をずっと眺めてる」
「浮世絵ずっと眺めてる」
「アルジサマにモニカ取られたから」
「ヌシサマかわいそう」
「かわそう」
「ああ、耳が痛いな」
「アルジサマひどい」
「ヌシサマからまた大切なモノ取った」
「モニカからヌシサマ取った」
双子が去り、しんとした部屋でレンゲとムクゲが恨めし気に呟いた。キヨハルは何食わぬ顔で煙管を吸いながら扇子をもてあそんでいる。
「薄雪には悪いことをしてしまったかな」
「悪いことした」
「モニカにも」
「モニカからヌシサマ取った」
「アーサーからもヌシサマ取った」
「アーサーに関しては良かれと思ってしたんだが…。あやかしを目に映すことができないヒトがあやかしと関わるとろくなことがない。…私を別として、ね。モニカに関しては…まあ、ね。責められても仕方ないかな」
「ひどい」
「ひどい」
「…先に私から薄雪を取ろうとしたのはヒトじゃないか」
「いつの話」
「大昔の話」
「モニカ関係ない」
「あの子たちはアルジサマからヌシサマ取らない」
「あのヒトの子は、薄雪に枝を折らせた」
「……」
「自らの体を傷つけさせたんだよ、あの子は」
「それは…」
「ヌシサマ、嬉しかったから」
「トモダチできて嬉しかったから」
「だからいやなんだよ。薄雪はヒトを愛している。守りたいと思っている。尽くしたいと思っている。そのためなら自分の体を傷つけることも厭わない」
「……」
「私はヒトより薄雪の方が大切だ。彼を守るためならなんだってするよ。たとえ薄雪に恨まれてもね」
「アルジサマ、朝霧と一緒」
「朝霧と一緒にしないでくれ。さっきもわぁわぁと騒がしかったねあの子は」
「…ヌシサマひとりぼっち」
「ずっとずっと」
「さみしい」
「だから君たちがいるんだろう」
「……」
「薄雪が孤独に耐えられずにつくったモノが蕣」
「……」
「それを真似して私がつくったモノが蓮華」
「……」
「私はもう二度と薄雪に会うことはできない。薄雪をあの森へ閉じ込め、ヒトという彼にとって一番大切なモノを奪ったあの日から…」
「それが代償」
「ヌシサマに劣るあやかしであるアルジサマが、同等の代償で済んだのは奇跡的」
「そうだね。だが私には君たちがいる。薄雪と私の縁はまだ、君たちのおかげで繋がっている」
「ヌシサマが繋いでくれた」
「大切なモノを奪ったアルジサマのために」
「そんな棘のある言い方をしないでおくれ、蕣」
「本当のこと」
「すまないと思っているよ。だから許してくれないか」
「いやだ」
「まあ、そうだろうね」
「うん」
「蓮華も私に怒っているのかい?」
「怒ってる」
「おやおや。君の親は私だよ。せめて君は味方でいておくれよ」
「いやだ」
「まったく…。君まで薄雪の方に懐いてしまったのかい」
「だってヌシサマには私たちしかいない」
「アルジサマにはたくさんのヒトがいる」
「だから私たちはヌシサマに寄り添う」
「そうだね…。そうしてあげたほうがいい。私のまわりにはたくさんのヒトがいる」
「ヒトを憎んでるくせに」
「ヒトはアルジサマを慕ってる」
「本当に慕うべきはヌシサマなのに」
「確かに私はヒトを憎んでいる。でもね蓮華、蕣。ときどきどうしようもなく、ヒトを愛おしく思うんだ」
「…それは分かってる」
「アルジサマは、ヒトを憎んでるのに、愛してる」
「不思議なものだね」
「アルジサマはアーサーが好き」
「ああ、彼は特段気に入っているよ。彼は不思議な子だ。まるでヒトじゃないようで気味が悪い」
「アルジサマ、それは悪口」
「褒めているんだがね」
「どこが」
「ヒト特有の醜さがすっぽり抜け落ちていると言いたかった」
「…そんなアーサーの記憶取った」
「モニカからも取った」
「アルジサマひどい」
「ひどい」
「…彼からは記憶をすべて取ってあげたほうがいいだろうけどね。ふむ。いっそ目の記憶だけでも全て…」
「だめ」
「アルジサマの愛情は重過ぎる」
「こわい」
「そうかな。君たちがそう言うのなら、やめておく」
「それがいい」
「分かった。…さて蓮華、蕣。もういいよ。薄雪の元へ行っておあげ。きっと寂しがっているから」
「うん」
「アルジサマのせいで」
「モニカ取られたから」
「ヌシサマ寂しがってる」
「古桜から離れない」
「折れた枝をずっと眺めてる」
「浮世絵ずっと眺めてる」
「アルジサマにモニカ取られたから」
「ヌシサマかわいそう」
「かわそう」
「ああ、耳が痛いな」
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