上 下
253 / 718
異国編:ジッピン前編:出会い

【273話】頭ごっつんこ

しおりを挟む
「モニカ、モニカ」

「ん…」

「起きて、朝だよー」

「……はっ!」

「ぐえっ!」

突然起き上がったモニカと、寝ていたモニカを覗き込んでいたアーサーの頭が勢いよくぶつかる。アーサーは「いてて…」で済んだが、モニカは脳震盪を起こして意識を失ってしまった。アーサーは顔を真っ青にしてモニカを抱きかかえた。

「わぁぁぁっ!モニカぁぁぁっ!!ごめんよぉぉっ」

「アーサー、どうかしたのかい?朝から大声で」

アーサーの大声を聞いて駆け付けたノリスケが部屋のドアを開けた。アーサーは半泣きで妹にエリクサーを飲ませながら事情を話す。

「モニカト ボク アタマ ゴッツンコ シタ! モニカ キ ウシナッタ!」

「えええ?!大丈夫?!」

「エリクサー ノマセタ ダイジョウブ オモウケド…」

「どどどどうしようどうしよう…!」

「なんの騒ぎだい?」

パニックになったノリスケまで騒がしくしていたからか、キヨハルまでもが客室に顔を出した。だが、大騒ぎしているアーサーとノリスケにその声は届かない。キヨハルはため息をついて二人が騒いでいる原因を探した。

(モニカが白目をむいて倒れている。これでか)

「エリクサー飲ませたし大丈夫だよね?!えーっとベニートのときどうやったっけ!!うわああん」

「モニカぁぁっ!目を覚ますんだモニカぁぁっ!!」

「揺らしてはだめだよ」

「喜代春さん!?」

アーサーとノリスケの間に入り、キヨハルがモニカの容態を診る。すぐに彼女から目を離してアーサーの頭を撫でた。

「大丈夫。しばらくそっとしておけば目が覚めるよ。彼女になにか飲ませたのかい?」

「オント…?エリクサー ノマセタ」

「エリクサー?聞いたことがないな」

「ボクタチ ツクッタ クスリ」

「ああ。そう言えば君たちは薬師でもあったね。とても良い薬だ」

「モニカ オントウニ ダイジョウブ?」

「心配いらない。もしどうしても気になるなら手当をするけど」

「アーサー、喜代春さんはとても質の良い医術を使えるんだよ!手当てしてもらったらどうだい?」

「シテクレル…?モニカ ボクノ アタマ ゴッツンコ シタ。アタマ ホネ シンパイ。エリクサー ホネ チャント ナオセナイ」

「分かった。ではモニカをしばらく預かるよ。いいかな」

「ボクモ イッテイイ…?」

「もちろんいいよ。でも30分だけ待ってくれるかな。手当をしているときは集中したいから、人を入れたくないんだ」

「ワカッタ…。アリガトウ キヨハル。 ヨロシクオネガイシマス」

「それにしても、またジッピンのことばが上手になったねアーサー」

「オント?エヘヘ ウレシイ。レンシュウ シタ!」

「君の優秀さには目を見張るものがあるよ。…では徳助。私はモニカを手当するから、アーサーに朝食を食べさせてあげてくれるかな」

「はい!」

「アーサー、ごはんをゆっくり食べてから私の部屋へおいでなさい」

「ワカッタ!」

キヨハルはモニカをひょいと抱きかかえ客室を出た。しょんぼりしているアーサーに、ノリスケが朝食を出してあげる。一人だと寂しいと思い、その日はノリスケも客室で一緒に食べた。

◇◇◇

「ん…」

「目が覚めたかい?」

「はっ」

モニカが目を覚ますと、目の前にはレンゲとムクゲの顔があった。相変わらず無表情だが、モニカは二人が彼女を心配していることが分かった。

「起きた」

「起きた」

「レンゲ、ムクゲ…」

「具合はどうかな」

すこし離れたところから声が聞こえ、モニカは上体を起こして声の主を探した。いつもの場所で煙管を吸っているキヨハルと目が合い、モニカは恥ずかしそうに笑った。

「あ、あれ?わたしどうしてこんなところで寝てるの?」

「アーサーと頭がぶつかって脳震盪を起こしていたんだ。君たちの作った薬と、私の手当てでもう痛みもないだろう?」

「えっ、そんなことがあったのぉ?全然覚えてないや…。痛みはないよ。ありがとうキヨハルさん」

「どういたしまして。モニカ、今日はでかけられそうかな?もし心配であれば一日ゆっくり休むといい」

「ううん!大丈夫!せっかくジッピンに来てるんだもん!1日だって無駄にしたくないわ」

自分が元気なことを見せるため、モニカはぶんぶんと腕を振った
。そんな彼女を見てキヨハルはクスクス笑う。

「ふふ。モニカはジッピンが気に入った?」

「とっても!!」

「よかった。…そろそろアーサーが来るね。モニカ、蓮華と蕣のことはアーサーには言わないでくれないかな」

「えっ、どうして?」

「二人はアーサーたちには見えないんだ。見えるのは、私とモニカの二人だけ」

「そうなのぉ?!」

「彼女たちはあやかしと呼ばれているもの。本来ヒトの目には映らない」

「あやかしぃ?!」

「だがこの子たちは悪い子じゃないから心配しないで」

「わ、わかったぁ…。よく分からないけど…」

蓮華と蕣の正体をはじめて聞いたかのように反応したモニカに、レンゲとムクゲは視線を落とした。下唇を噛むレンゲの手をそっとムクゲが握る。

しばらくしてアーサーがキヨハルの部屋に入ってきた。すっかり治ったモニカに抱きつき、わんわん泣きながら謝った。泣きじゃくっている兄の背中をさすり、モニカは伸びをしてから立ち上がる。

「キヨハル、ありがとう!じゃあ私お部屋に戻るね」

「…アーサー。モニカは何と言っているのかな?」

「アリガトウ エヤニモドル ッテ イッテル!! キヨハル アリガトウ!モニカ ゲンキニ ナッタ!!キヨハル ノ オカゲ! アリガトウ!!」

「どういたしまして」

「モニカ、キヨハルがどういたしましてだって!じゃあ、もどろっか」

「…?」

「モニカ?」

「う、うん!」

キヨハルにもう一度お礼を言い、双子は客室に戻った。部屋へ戻っているあいだもずっとモニカはうんうん唸っていた。

「モニカどうしたの?」

「ん?うーん、なんだろう。急にキヨハルさんのことばが聞き取れなくなったの。アーサーが来るまで普通に会話できてたのに…」

「それはキヨハルさんが僕が来るまでバンスティンのことばを話してくれてたからじゃない?」

「あっ、そういうことかあ!」

「それよりモニカ、今日はウスユキに会いに行くの?行くなら僕もついていきたいなぁ!」

もじもじしながらアーサーがお願いした。はじめはウスユキに対してヤキモチをやいていたアーサーだったが、モニカの話を聞くうちにアーサーもウスユキに良い印象を抱いていた。

モニカはウスユキのことを、とてもきれいで儚げな雰囲気なのに、ちょっぴり無神経な人だと言っていた。でもどこか憎めなくて、一緒にいたら心地がいいとも言っていた。アーサーの中のウスユキは、外見がセルジュ先生で性格はリアーナのイメージだった。そんなちぐはぐな人、一度会ってお話してみたい!と興味津々だったのだ。

アーサーのお願いを聞いたモニカは不思議そうに首を傾げていた。しばらく考えるそぶりを見せたあと、困ったように兄に問いかけた。

「アーサー、ウスユキってだあれ?」
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。