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異国編:ジッピン前編:出会い

【250話】おもちゃ

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「そう言えば、この子たちは冒険者だと言っていたね。物ノ怪を狩れるということかな?」

キヨハルはそう言いながら、品定めするような目で双子を見た。それに対してヴァジーが「そうですね…」と返答に困っていた。

「モノノケの強さにもよるかと思います。僕たちは彼らに全幅の信頼を置いていますが、冒険者としてのランクはF…8段階の下から2番目のランクですから」

「ふむ…。それなら危険な目には遭わせられないな…」

「僕たちに頼みたいほどお困りなのですか?」

「ん…いやね、屋敷の裏に森があるだろう?最近そこによく物ノ怪の死骸が落ちているんだ。それも…無惨なね」

「ほう」

「普段あそこは穏やかな森だから気がかりでね。私が行ってもあまり意味がないし…」

「モノノケの巣ができたのでしょうか?もしくは…凶悪な魔物が棲みついたとか」

「…かもしれないね。もしできるなら彼らに調べてほしかったんだが…。少し荷が重そうだ」

「お役に立てず申し訳ありません…」

「いや、かまわない。こちらこそ気を遣わせてしまってすまないね。さあ、こんな話はやめてよろず屋へ行こうか」

「そうですね。あ、よろず屋の帰りに服屋へ寄っていいですか?オツユさんにこの子たちのキモノを仕立ててもらっているので」

「オツユに着物を?それはいいね。私もこの子たちの着物姿を見てみたい」

「きっと愛らしいですよ」

大人たちが話しているのをぼーっと聞いていたモニカが、こそっとアーサーに話しかけた。

「ねえアーサー、なんて言ってるの?」

「お屋敷裏の森でこわーいモノノケがいるんだって」

「えー?!私昨日入っちゃったよぉ…遭遇しなくてよかったあ…」

「ほんとだよ…。モニカになにかあったら僕どうしたらいいんだよぉ…」

アーサーが不安げにモニカの手を握ったので、モニカはその手をやさしく撫でた。それを聞いていたカユボティが、昨晩アーサーが狼狽えていた理由をなんとなく察して困ったように笑った。

「ああ、モニカが屋敷からいなくなってアーサーが騒いでいたんだね。モニカ、夜はあまり出歩いたらだめだよ。ジッピンの町はバンスティンのように城壁で囲まれていないし、その上ダンジョンが存在しない。数多くの魔物がそこかしこで棲息しているんだ。つまりバンスティンの夜より数段危険ということ。いくら君が強いと言っても充分気を付けて」

「ええ…そうなの?こわい…」

「気を付けるぅ…」

「カユボティ、アーサー、モニカ。話は終わったかな?よろず屋へ行きたいんだが」

ヴァジーがそう声をかけると、「ああ。行こう」と言いカユボティが立ちあがった。大人たちがキヨハルの部屋を出たのでアーサーとモニカもあとをついていく。アーサーに手を引かれたモニカは、部屋を出る前にレンゲとムクゲに手を振った。少女ふたりも無表情で手を振り返し、「いってらっしゃい」と見送ってくれた。

◇◇◇

キヨハルが治めている町は朝から賑やかで、通行人の笑い声やハキハキした呼び込みの声が行き交っている。食べ物やおもちゃを屋台で売り歩いている人たちもいたので、双子はキョロキョロと忙しそうに町の様子を見ては目を輝かせていた。

「アーサー!あれ見てぇ!風に吹かれると音がなるおもちゃよ!かわいい!!」

「わー!いいねえ!買っちゃう?!」

「ほしい!!ねえカユボティ、買いに行ってもいい?」

「もちろんいいよ。いっておいで」

「わーい!!」

許可をもらったアーサーとモニカはパタパタと屋台へ駆け寄った。屋台を引いていた男の人は、突然現れたかわいらしい外国人の兄妹に「うぎゃっ?!」と変な声をあげた。アーサーは緊張しながら彼に話しかける。

「イオウ クダサイ!」

「おわ!!ジッピンの言葉喋った?!」

「イクラ デスカ!」

「ご…500ウィンだけどんも…」

「ダケドンモ…?わー…分からないな。どういう意味だろう…」

「アーサー、それはただの方言だよ。500ウィンって言ってくれてる」

心配でついてきたヴァジーがうしろから助け舟を出してくれた。アーサーのアイテムボックスから500ウィン硬貨を出して彼の手に乗せる。アーサーが屋台の男性に渡そうとしたら、モニカが遠慮がちに「アーサー…」と兄の袖を引っ張った。

「ん?どうしたのモニカ」

「私がコイン渡したいなぁ」

もじもじと言うモニカに、アーサーはにこっと笑って硬貨を妹の手に乗せた。

「もちろんいいよ!そうだよね、モニカが欲しいものなんだもん。自分でお買い物したいよね!」

「ありがとうアーサー。えへへ。はい、500ウィンです!」

モニカは嬉しそうに硬貨を屋台の男の人に渡した。彼は鼻の下を伸ばしながら「まいどあり!」と言い、おもちゃを2つ紙に包みモニカに手渡した。

「あれっ?わたし、1つしか買ってないよ?2つももらっちゃっていいの?」

「ほんとだ。スミマセン カズ マイガッエマセンカ? ゴャク ウィン シカ ワアシエナイ。 ウアウ モラッア」

「???」

バンスティン訛りを聞き慣れていない屋台の男の人には、アーサーのジッピンの言葉が通じなかったようだ。首を傾げて必死にアーサーが言ったことを考えている。通じなかったことにアーサーが「ううう…そうだよね。全然発音できてないもんね…ごめんなさい…」と謝っている。ヴァジーはそんな彼の頭をポンポンと撫でた。

「アーサーはよく話せているよ。ただ聞き慣れていないとやっぱり相手も難しいからね。ここは僕に任せて。…すみません、500ウィンしか渡していないのに2ついただいていいのですか?」

「ああ!すまんねえ。おれ、外国の人と話したことなくってよお…。1つはおまけだぁ。だってこんなかわいい外国人の子に買ってもらえたんだから嬉しくってよぉ。2人いるのに1つしか買わないなんて、さみしいだろぉ?」

「ありがとうございます。きっとこの子たちも喜びますよ」

「イイノ?!アリガオ!!」

「エリガオ!!」

「んあー!かわいいねえ!!あんた、この子たちの父ちゃんかい?こんなかわいい子たちがいてしあわせもんだねえ」

「ふふ。ありがとうございます。ではまた」

「あいよ!ジッピン楽しんでなあ!」

男の人は手を振りながら屋台を引いて去っていった。買い物を終えた双子とヴァジーがキヨハルとカユボティの元へ戻り、よろず屋へと歩を進める。そこへ着くまでの途中、顔を真っ赤にしながらアーサーがモニカの手を握った。

「ん?どうしたのアーサー。嬉しそうな顔しちゃって。そんなに1つおまけしてもらえたのが嬉しかったの?」

「うん。それも嬉しかったんだけどね。屋台のお兄さんが、ヴァジーのことを僕たちのお父さんだって勘違いしてたんだー」

「そうなんだあ。えへへ」

「えへへ。なんだかうれしくって」

「うれしいねえ。カミーユに、ジルに、ヴァジー…わたしたちのお父さん、たくさん増えて行くねえ」

「うん。素敵なお父さんがたくさんいてうれしい」

「わたしたち、しあわせものだ」

「しあわせものだー」

ご機嫌になった双子は、繋いだ手をぶんぶん振りながらキヨハルたちのあとを歩いた。こっそり聞き耳をたてていたヴァジーとカユボティは目を見合わせてクスリと笑う。本当の父親の名前が挙がらないことに気が付きながら、お互い知らないふりをした。
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