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異国編:ジッピン前編:出会い
【246話】ヴァジーの語学教室
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屋敷へ戻ったときもモニカの機嫌は直らず外には強風が吹き荒れていた。客室では、部屋の隅でさんかく座りでぷんぷんしているモニカと、離れた場所で正座をしているアーサーとの間に気まずい空気が流れている。
「モニカぁー…そんなに怒らないでよぉ…」
「怒ってないもん」
「どうやったら機嫌直してくれるのぉ…?」
「今は一人にしてほしいかな!!」
「うぅぅ…」
取り付く島もない妹に、アーサーは途方に暮れていた。このまま一緒にいてもどうにもならないと思ったアーサーは、ビクビクしながら立ち上がり客室のドアに手をかけた。
「どこいくの?」
「ヴァジーのところ行ってくるね…。ちょっと教えて欲しいことがあるから。1時間くらいしたら戻ってくるよ。…だからそれまでに機嫌直してね」
「ふんっ」
「モニカァー…。僕別にオツユさんのこと好きになったわけじゃないよぉ…?ちょっときれいだなあって思っただけで…」
「早く行ってくれる?」
「はい…」
はぁぁ…と深いため息をつきアーサーは部屋を出た。困ったなあ…と頭を掻きながらヴァジーの部屋へ向かう。ドアをノックすると、中でヴァジーの「入って」と言う声が聞こえてきた。今にも泣き出しそうな顔で部屋に入ってきたアーサーを見て、ヴァジーがニヤニヤと笑いながら手招きする。
「まだモニカの機嫌が直らないのかい?」
「うん…。どうしようヴァジー、僕モニカに嫌われちゃったのかなあ」
「嫌っていたらあんなことで怒らない。むしろ逆だと思うけど」
「逆?」
「モニカはアーサーのことが大好きでしかたないのさ」
「それは知ってるけど…。でもさっき一人にしてほしいって言われちゃったよぉ」
「冷静になるのに少し一人の時間が必要なだけだよ。あまり気にしなくていいさ。…それで?モニカのことを相談しに来たのかな?」
「あ、ううん!ちがうんだ。ヴァジーにお願いしたくって」
「僕にお願い?なにかな」
「あのね、ジッピンのことばを教えて欲しいんだ」
アーサーのお願いにヴァジーは「ほう」と呟きクスクス笑った。
「カユボティに君を見習わせたいね」
「教えてくれる…?」
「もちろんいいとも。だけど、二週間で覚えられるかな…」
「がんばる!!ジッピンの言葉を話せるようになったら、きっともっと楽しくなると思うんだ!ノリスケさんとも、キヨハルさんとももっとお話したいもん!」
「オツユさんともね」
「わ!ヴァジーまでやめてよぉ!だ、だから僕はべつにオツユさんのことが好きになったわけじゃなくて…!」
「ははは!冗談さ。分かってるよ。君にモニカ以上にたいせつな人なんてできるはずがないんだから」
「分かってるならからかわないでってばあ」
「すまないすまない。あんまり君たちがかわいらしくて。さて、じゃあ早速お勉強しようかアーサー」
それからアーサーはヴァジーにジッピンのことばを習うことになった。紙にジッピンの文字を書いてもらい、一文字ずつ音読してもらった。文字と口の動きを見たアーサーは一目でそれを記憶する。文字の次は単語、単語の次は文章と、順を追って教えてもらった。一度教えたことを完璧に覚えてしまうアーサーに、ヴァジーは驚きを隠せなかった。
「おいおいアーサー…。一度教えただけで覚えてしまうのかい?」
「うん。僕の目ってちょっと変わってるみたいでね。見たものを全部覚えちゃうんだ」
「君にそんな特技があったとは」
読むことと聞き取ること(読唇に近いが)は簡単にできるようになったアーサーだったが、発音することはなかなか難しかった。バンスティンの言語と使う口の筋肉がまったく違うようで、分かってはいるのに正しい発音ができない。特にジッピンの発音の「た行」と「は行」は音の出し方がまったく分からなかった。ヴァジーに発音のコツを教えてもらっても、うまく発音できないアーサーはもどかしそうに口元をぽんぽんと指で叩いた。
「うぅぅ…むずかしいよぉ…」
「アーサー、完璧な発音なんてしなくていいよ。僕だって外国なまりだし。それでもちゃんと通じるから」
「そうかな…?」
「そうだよ。発音ばかりは抜きんでた記憶力を持っている君でも一晩で習得できるものじゃない。毎日練習をして馴らすしかないよ」
「分かった!毎日練習する!ねえヴァジー、また教えてくれる?」
「もちろんいいよ。これから毎晩1時間勉強しようか」
「やったあ!!」
「暇なときは「は行」と「た行」の練習をしておいて。あと君にこの本をあげる。ジッピンの単語と、その発音記号が書かれているものだよ。君だったらこれで簡単に語彙力を増やせるだろう。これもあげよう…日常会話の文例集」
ヴァジーはアーサーに2冊の本を渡した。アーサーは大喜びでそれを受け取り、さっそく中を見て記憶し始める。
「語彙力が増えれば会話の幅も増えるからね。あとは実践…ノリスケとたくさんお話しするといい」
「はぁい!!ありがとうヴァジー!!」
ヴァジーにことばを教えてもらった約1時間で、アーサーは日常会話の聞き取りならできるようになっていた(話すのはあいさつ程度が精一杯)。夢中になって借りた本を読みながら、アーサーは客室へ戻って行った。
「モニカぁー…そんなに怒らないでよぉ…」
「怒ってないもん」
「どうやったら機嫌直してくれるのぉ…?」
「今は一人にしてほしいかな!!」
「うぅぅ…」
取り付く島もない妹に、アーサーは途方に暮れていた。このまま一緒にいてもどうにもならないと思ったアーサーは、ビクビクしながら立ち上がり客室のドアに手をかけた。
「どこいくの?」
「ヴァジーのところ行ってくるね…。ちょっと教えて欲しいことがあるから。1時間くらいしたら戻ってくるよ。…だからそれまでに機嫌直してね」
「ふんっ」
「モニカァー…。僕別にオツユさんのこと好きになったわけじゃないよぉ…?ちょっときれいだなあって思っただけで…」
「早く行ってくれる?」
「はい…」
はぁぁ…と深いため息をつきアーサーは部屋を出た。困ったなあ…と頭を掻きながらヴァジーの部屋へ向かう。ドアをノックすると、中でヴァジーの「入って」と言う声が聞こえてきた。今にも泣き出しそうな顔で部屋に入ってきたアーサーを見て、ヴァジーがニヤニヤと笑いながら手招きする。
「まだモニカの機嫌が直らないのかい?」
「うん…。どうしようヴァジー、僕モニカに嫌われちゃったのかなあ」
「嫌っていたらあんなことで怒らない。むしろ逆だと思うけど」
「逆?」
「モニカはアーサーのことが大好きでしかたないのさ」
「それは知ってるけど…。でもさっき一人にしてほしいって言われちゃったよぉ」
「冷静になるのに少し一人の時間が必要なだけだよ。あまり気にしなくていいさ。…それで?モニカのことを相談しに来たのかな?」
「あ、ううん!ちがうんだ。ヴァジーにお願いしたくって」
「僕にお願い?なにかな」
「あのね、ジッピンのことばを教えて欲しいんだ」
アーサーのお願いにヴァジーは「ほう」と呟きクスクス笑った。
「カユボティに君を見習わせたいね」
「教えてくれる…?」
「もちろんいいとも。だけど、二週間で覚えられるかな…」
「がんばる!!ジッピンの言葉を話せるようになったら、きっともっと楽しくなると思うんだ!ノリスケさんとも、キヨハルさんとももっとお話したいもん!」
「オツユさんともね」
「わ!ヴァジーまでやめてよぉ!だ、だから僕はべつにオツユさんのことが好きになったわけじゃなくて…!」
「ははは!冗談さ。分かってるよ。君にモニカ以上にたいせつな人なんてできるはずがないんだから」
「分かってるならからかわないでってばあ」
「すまないすまない。あんまり君たちがかわいらしくて。さて、じゃあ早速お勉強しようかアーサー」
それからアーサーはヴァジーにジッピンのことばを習うことになった。紙にジッピンの文字を書いてもらい、一文字ずつ音読してもらった。文字と口の動きを見たアーサーは一目でそれを記憶する。文字の次は単語、単語の次は文章と、順を追って教えてもらった。一度教えたことを完璧に覚えてしまうアーサーに、ヴァジーは驚きを隠せなかった。
「おいおいアーサー…。一度教えただけで覚えてしまうのかい?」
「うん。僕の目ってちょっと変わってるみたいでね。見たものを全部覚えちゃうんだ」
「君にそんな特技があったとは」
読むことと聞き取ること(読唇に近いが)は簡単にできるようになったアーサーだったが、発音することはなかなか難しかった。バンスティンの言語と使う口の筋肉がまったく違うようで、分かってはいるのに正しい発音ができない。特にジッピンの発音の「た行」と「は行」は音の出し方がまったく分からなかった。ヴァジーに発音のコツを教えてもらっても、うまく発音できないアーサーはもどかしそうに口元をぽんぽんと指で叩いた。
「うぅぅ…むずかしいよぉ…」
「アーサー、完璧な発音なんてしなくていいよ。僕だって外国なまりだし。それでもちゃんと通じるから」
「そうかな…?」
「そうだよ。発音ばかりは抜きんでた記憶力を持っている君でも一晩で習得できるものじゃない。毎日練習をして馴らすしかないよ」
「分かった!毎日練習する!ねえヴァジー、また教えてくれる?」
「もちろんいいよ。これから毎晩1時間勉強しようか」
「やったあ!!」
「暇なときは「は行」と「た行」の練習をしておいて。あと君にこの本をあげる。ジッピンの単語と、その発音記号が書かれているものだよ。君だったらこれで簡単に語彙力を増やせるだろう。これもあげよう…日常会話の文例集」
ヴァジーはアーサーに2冊の本を渡した。アーサーは大喜びでそれを受け取り、さっそく中を見て記憶し始める。
「語彙力が増えれば会話の幅も増えるからね。あとは実践…ノリスケとたくさんお話しするといい」
「はぁい!!ありがとうヴァジー!!」
ヴァジーにことばを教えてもらった約1時間で、アーサーは日常会話の聞き取りならできるようになっていた(話すのはあいさつ程度が精一杯)。夢中になって借りた本を読みながら、アーサーは客室へ戻って行った。
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