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淫魔編:モニカの画家生活

【231話】冒オタビュリー

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モニカが2枚目の絵を仕上げた翌日、アーサーたち冒険者組が無事トロワダンジョン掃討を終えて帰ってきた。魔物が多く日数はかかったが、王様オークを経験した彼らにとってはなんてことないダンジョンだった。アンデッド系もモニカの火魔法液で軽々と殲滅することができ、在庫たっぷりのエリクサーのおかげで気持ちに余裕を持って魔物と戦うことができた。

「お待たせいたしました。すべてのダンジョンで9割以上の殲滅を確認できました。こちらが報酬の金貨170枚と、依頼完了証明書90枚です。さらに50年間トロワダンジョンにはびこっていた淫魔を掃討したということで追加報酬が出ております。金貨30枚と証明書10枚。合計金貨200枚と証明書90枚ですね。どうぞ」

「わぁぁ…!」

依頼完了の報告をするためにギルドで手続きをしていた双子の前に、麻袋と証明書の束が置かれる。一度にこれほどの証明書を受け取ったことが初めてで、アーサーもモニカも目をキラキラさせてそれを見つめていた。

「これで証明書が130枚となりました。F級からE級へクラスアップするためには、お一人当たり100枚の証明書が必要となるのはご存知ですよね。今でしたらどちらかお一人はEクラスに昇級できますが、どうされますか?」

「いえ!200枚溜まってから二人で昇級します!」

アーサーが元気にそう答えると、受付嬢のビュリーが「かしこまりました」と言いながら紙にメモを取った。そのメモを冒険者名簿に貼り付けたあと、双子をちらりと見て呟いた。

「まさかあなたたちがベニートパーティと組むとは思いませんでした」

「ビュリーさん、ベニートたちを知ってるの?」

「ええ。お話したことはありませんが。今最も期待されている中級冒険者ですから」

「そうなのぉ?!」

「昇級スピード、丁寧な仕事、実力…。どれをとっても申し分ないです。特別ずば抜けた能力はありませんが、あの安定感はギルドの者から見たらとても魅力的なんです。未来のA級冒険者のトップになるだろうと言われています」

「ほえぇぇ…!ベニートたちってすごかったんだねえ…!!」

アーサーとモニカが感心していると、ビュリーはぶんぶんと首を縦に振り身を乗り出した。

「ええ!すごいんです。たった2年でF級からC級にまでクラスアップした背景には彼らの並々ならぬ努力とストイックなスケジュール管理があったからにほかありません。それにパーティのバランスが非常に良いのです。頭脳派であるベニートさん。生存を優先している指示は的確で、彼がいる合同ダンジョン掃討の生還率は目を見張るべきものがあります。次に冷静に淡々とタスクをこなすアデーレさん。剣技もさることながら何より彼女のダンジョン飯が冒険者のモチベーションをぐんと上げるらしいです。最後にイェルドさん。彼の力強い槍技はまわりの冒険者の士気を上げると言います。そしてこれが私としては最も重要な鍵となるところでして、イェルドさんはどんなときでも明るく優しい方と聞きます。長期間ダンジョンを潜っているとどうしても気分が沈んできますよね。負傷していたらなおさらです。ダンジョンで最も怖いのがこれです。仲間割れが簡単に起こってしまうんですよ。ですがイェルドさんがいることによってムードが明るくなりパーティに笑顔が絶えないのです。こんなバランスの良いパーティがいますか?いえいません。これほど良いバランスのパーティなんて、カミーユパーティくらいです。ただ魔法使いがいないのが心配です。ベニートパーティに優れた魔法使いが加入すれば…!もっと化けますよこのパーティは!!!」

「……」

突然早口で語り始めたビュリーに双子は口をぽかんと開けていた。どうやらビュリーは重度の冒険者オタクのようだ。我に返った彼女は、少し顔を赤らめてコホンと咳ばらいをした。

「…とはいえまだまだ実践を積んで実力をつけていただかないといけませんがね。まだまだ経験不足です」

「ソ、ソウデスカ」

「ベンキョウニナリマス」

「と、ともかくっ。あなたたちが上級冒険者に助けを求めたのは賢明な判断でしたね。2人で潜るなんて言いだした時は正気か?と思いました」

「今思うと僕もそう思う…。ダンジョンを甘く見てたよぉ…」

「あらあら。やっと気付きましたか。どうやら今回のダンジョン掃討でずいぶん痛い目を見たようですね?」

「痛い目見たー…」

「ダンジョンこわい…」

「それは良い傾向です。ダンジョンを甘く見ている冒険者はだいたい帰ってきませんから。功を急ぎすぎて無茶な依頼を受けるのは控えてください。そして、無駄なプライドは持たず、今回のように他の冒険者にどんどん協力をあおいでください。それが冒険者として生き残るコツですよ」

「はい!」

「ビュリーさんありがとう!」

「いえ。私は受付嬢としての仕事をしているまでですから。…あ、ベニートパーティとギルドマスターのお話が終わったみたいですね」

ビュリーの視線の先には、ギルドマスター室から出てきた彼らが立っていた。ベニートたちはなんだか不機嫌そうな表情をしているように見えた。クサカヴは彼らから逃げるように双子に駆け寄ってきた。

「アーサーさん!モニカさん!この度はダンジョン掃討お疲れ様でした!」

「ありがとうクサカヴさん!」

「私はダンジョン行ってないけどね!」

「でもモニカの魔法液大活躍だったから、モニカが行ったも同然だよ!」

「ふふ。アーサーありがと」

「さてさて。ベニートさんたちからお話を伺いましたよ。GランクダンジョンでA級の魔物が出現したとか」

「うん!びっくりした!」

「あなたがたには大変ご迷惑をおかけしました。そのお詫びと、巨体オークを討伐した追加報酬と、亡くなってしまった冒険者たちの遺品を持ち帰ってくれたお礼として…」

そう言いながらクサカヴがドサっと麻袋をアーサーの手に落とした。さらに、討伐依頼証明書の束をモニカに手渡す。

「金貨500枚と証明書50枚です」

「え?!」

「こ、こんなにぃ?!」

驚いている双子にクサカヴはコソコソと耳打ちした。

「本当は金貨300枚と証明書20枚くらいが妥当なんですがね。残りの金貨200枚は、遺品を受け取った冒険者の遺族の方たちから預かったものです。みなさん涙を流して喜んでいましたよ」

「そっか…。よかった…」

「そして証明書30枚は、私の独断で追加しておきました。ベニートさんたちから聞きましたが、アーサーさんもモニカさんも、F級の実力ではないとのことでしたので。私個人としても、あなたたちには早くクラスアップして活躍していただきたいと思っております。

もうすぐあなたたちが受けるジッピン護衛の指定依頼…。あれの報酬は金貨100枚と証明書20枚です。なので、それを無事完了したらクラスアップできるよう、ちっとばかし多めにお渡しいたしますね」

そう言ってクサカヴはウィンクをした。アーサーとモニカは追加報酬をしっかり握り、ギルドマスターに抱きついてぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「クサカヴさんありがとう!!」

「私たち次の依頼もがんばるからね!!待っててねー!!」

「ええ。首を長くして待っていますよ。なので次の依頼も無事に戻ってきてくださいね」

「うん!!」

「約束するぅー!!」
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