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淫魔編:先輩の背中
【219話】もういやですこいつら
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「はっ…はっ…」
「だぁー…っ、きっつー…」
最奥に辿り着いてから7時間が経った。500体いたオークは、主にアーサーとイェルドによって残り100体程度にまで減っていた。武器を持っており、巨体オークの影響か知性も多少発達していたため通常のオークよりも数段手こずっている。恐らくそれまでの11時間にわたる戦闘の疲労も溜まっているのだろう。近接組がかなりバテているのが目に見えて分かったので、ベニートは二人を呼びよせた。
「今日はここまでにしよう。これ以上は危険だ」
「ああ、そうした方がいいっ…。これ以上減らしたら多分オウサマもそろそろ動くだろうしな…」
「お水飲みたい…」
「寝る場所はアデーレが確保してくれてるはずだ。行くぞ」
ベニートはアーサーに水を渡しながら歩き出した。10分ほど歩いたところで、アデーレが火を熾して待っていた。返り血にまみれたイェルドとアーサーを見て申し訳なさそうにしている。
「おかえり。力になれなくてごめんね」
「ただいま!いや、あれは俺が悪いだろ!ごめんなアデーレ。びっくりさせちまったよな」
「ううん。むしろアレを知らずに戦ってたかと思うとゾッとするわ。教えてくれてありがとう」
「アデーレ、もう大丈夫?すっごく動揺してたけど」
「ごめんねアーサー。もう大丈夫よ。さ、座って。疲労回復効果のあるハーブティーを作ったから」
「助かる。イェルド、アーサー。ハーブティー飲んでから返り血を拭いて服を着替えろよ」
「はあい」
「みんな怪我はない?」
「あー、俺ちょっと怪我した。たいしたことないからポーションで治る」
「そう。じゃあこれ飲んで」
「さんきゅー!」
「アーサーは?」
「僕もちょっとだけ怪我しちゃった」
「どこ?」
「おなか」
「見せて」
アーサーは武具を脱いで服をめくった。オークの攻撃をもろに受けたのだろう、横腹がえぐれて内臓がちらちら見えている。3人は顔を真っ青にして慌ててエリクサーをアーサーの口に突っ込んだ。
「は?!お前こんな怪我してたのかよ!いつだ?!」
「えーっと、オークを100体くらい倒した時かな」
「2時間くらい前じゃねえか…。なんで言わなかったんだ?!」
「え?だって動けるから」
「……」
「?」
「いやいや、なんでそんな当たり前のこと聞くんだみたいな顔でこっち見るなよ」
「どうしてそんな当たり前のこと聞くの?」
「声に出して聞いちゃったよこの子…」
「当り前じゃねえからだよ…」
こいつやばい、と3人が同時に悟った瞬間だった。ベニートはゆっくりと深呼吸をしてからアーサーに話しかける。
「アーサー。その傷、即戦闘離脱するレベルの怪我だと俺たちは思っている」
「え?!そうなの?!動けるのに?!」
「普通は動けない。お前痛くなかったのか?内臓がはみ出てチロチロしてたんだが?」
「痛かったけど…モニカのアッパーの方が痛かったし…」
「モニカのアッパーえげつないな?」
「お前のその…人並外れた痛み耐性は良いのか悪いのか分からないな…」
「アーサー。あなたは自分の体が傷つくことと、モニカの回復魔法に慣れすぎてると思うわ。これからは怪我をしたらすぐに戦闘離脱して回復して。じゃないと私たちの心臓がもたない」
「ご、ごめんなさい。そんな心配されるなんて思ってなくて…。あっ!そうだ!」
「ん?」
アーサーはおもむろにアイテムボックスをまさぐり始めた。取り出したのはリンクスの指輪。シャナから国宝級の貴重な物だと聞いていたので、紛失することを恐れてアイテムボックスにしまっていたのだ。指輪に紐を通し首にかけてから3人にニコっと笑った。
「これで大丈夫!!」
「何が大丈夫なんだ?」
「あのね、これ、すっごい指輪なんだ!これを付けてたら怪我が治るらしいよ!」
「それってつまり、加護魔法付きの指輪ってことか?」
「そう!」
「加護魔法って言っても微弱なものでしょう?」
「ううん!たぶんちがう!すごいらしいから!」
「説明がふんわりしてて要領を得ない…」
「うーん、正直僕もあんまり効果のほどが分からないんだよね。一回やってみよっか」
そう言うやいなや、アーサーがニコニコしながら自分の手首に剣を滑らせた。血がビュシュッと勢いよく吹き出したので大人たちが絶叫した。
「ぎゃーーーー!!なにしてんだお前!!…ん?」
「わ、すごい!」
ぱっくり切れた手首の傷が瞬く間に塞がった。その再生の速度はモニカの回復魔法に匹敵するほどだった。ベニートたちは信じられない光景に口をあんぐり開けている。
「う、うそ…」
「なんだよその指輪…。ただの加護魔法付きじゃないだろ…」
「お、俺…こんなすげえの初めて見た…」
「あっ、僕がこれ持ってるの誰にも内緒ね?なんか本当にすごいものらしくって…」
「言うかよ…。こんなやべえの持ってるって知られたら…殺されるぞ」
「ひっ…」
「アーサー、それ、本当にやばい代物だわ。本当に信頼してる人にしか持ってること言っちゃダメよ」
「う、うん」
「にしてもすげえな…」
指輪をまじまじと見ながら感心している3人に、アーサーがそわそわしながら話しかけた。手に持っているのは、モニカの毒魔法液。
「ねえ、みんな気にならない?この指輪がどこまで効果あるのか」
「お、おい。アーサー、お前何する気だ…?」
「それ、さっき使った毒魔法液じゃ…」
「怪我にこれほどの効果があるのなら…」
「きゃぁぁ!アーサー?!」
アデーレの叫び声が響き渡る中、アーサーが毒魔法液を一気飲みした。一滴残らず飲み干したあと、ほわぁ…と幸せそうな表情を浮かべる。
「あー…。最高だよモニカの毒魔法液…」
「え…?それ毒だよな?それともグレープジュースか?」
「グレープジュースじゃない?あんなおいしそうな顔してるし。もう、びっくりさせないでよアーサー」
「ゴフッ」
「?!」
安心したのも束の間、アーサーがどす黒い血を吐き出してぴくぴく痙攣し始めた。それなのにアーサーは相変わらず嬉しそうな顔をしている。
「わー。すごい。学院の頃よりモニカ毒魔法上手になってる」
「えっ?ジュースじゃないの?!」
「吐血、皮膚の変色、体中の痺れ、内臓破損…」
「ん?!ん?!待て待て待て今それお前の身に起こってることか?!」
「リンクスさんの指輪でも毒は治らないみたい。よかったぁ」
「なにが良かったの?!ベニート!!はやくエリクサー!」
「あ、ああ!!」
ベニートが2本目のエリクサーをアーサーの口内にドバドバと流し込む。そのおかげである程度毒は抜けたようで、吐血もおさまり皮膚も元の色に戻った。もう少し毒を堪能したかったアーサーは、残念そうな顔をしながら残りの毒を抜くために解毒薬を調合する。
「おいアーサー。なんでちょっとムスっとしてんだよ」
「してないもん」
「してる」
「してない」
「俺たちに言うことは?」
「…心配かけてごめんなさい」
「分かってるならいい」
「もう毒なんて飲んじゃだめよ?」
「はぁい…」
自分で作った薬を飲んでいるアーサーの向かいで、ベニートがモニカ特製マップを開いて眺めていた。隣にいたアデーレも、モニカのメモを読んで頬を緩めている。そんな彼女に「ここ見ろ」とモニカのメモのひとつを指さした。
「やっとモニカがマップに書いてたことが分かった。ここ見ろよ、"毒があるけど刺されに行っちゃダメだよ"って書いてあるだろ?アーサーこいつ、毒が好きなんだ」
「ええ…?どんな嗜好?」
「さあ。俺にはさっぱり」
一方、イェルドはアーサーに話しかけている。
「なあアーサー!お前がさっき飲んだの、本当に毒だったのか?!」
「うん。カックロウチにかけたやつと同じ毒だよ」
「へえ!お前すっげーうまそうに飲んでたけど、毒ってそんなうまいのか?」
毒に興味を持ってもらえたことが嬉しかったのか、アーサーは目を輝かせて身を乗り出した。
「あ!イェルド毒に興味あるの?!あのね、毒はおいしくないよ!でもね、なんだろう、体を蝕んでいく感じ?あれがクセになっちゃんだよね!!じわじわ体の感覚がなくなっていったり、胸が気持ち悪くなって血を吐いたりするのとか!このモニカの毒は最高級だよ!!最上の苦しみを与えてくれる魔法の液体!!」
「んな大げさな!どうせかるーい毒なんだろお?だってお前すっげーニコニコしてたじゃないか!強い毒ならあんな顔できねえって!」
「そうなのかなあ?僕が今まで飲んだ毒でも1,2を争うくらい強い毒だと思うけど…」
「どれどれ!俺が確かめてやろう!」
「わっ、だめだよイェルド!ベニートに怒られちゃうよ!」
「だーいじょうぶだって!俺もちっとは毒耐性あるし!それにエリクサーとお前の薬飲めば治るんだから!」
「せ、せめて一滴だけにして?!うわ、こわい!人が毒を飲むの見るのってこんなに怖いの?!」
「はいはい。じゃあ一滴だけな」
イェルドが舌の先に一滴だけモニカの毒を落とす。その瞬間、イェルドは「ぐぁぁぁっ!!」と呻きながら倒れこんだ。ガクガクと痙攣して嘔吐と吐血をした。瞬く間に皮膚が真っ黒になり、苦し気に地面に爪を立てている。アーサーは慌ててエリクサーをイェルドに飲ませ、容態を診て薬の調合を始めた。地図を見て微笑んでたベニートとアデーレも異変に気付き顔を上げて呆然としている。
「な…なにしてんだ、お前ら…?」
「あ、えっと…」
「もしかして、イェルドも毒飲んだの?」
「い、一滴だけ…」
「…本当になにしてるの?」
「ぢが…、アーサーわるぐない…俺、勝手に飲んだ…っ」
「アーサー、イェルドは治るのか?」
「治る…。エリクサー飲ませたし、もうすぐ薬できるから…っ」
「早く治してくれ。説教しなきゃいけないからな」
「だっで…。アーサーが…すげーうまそうに飲んでたから…俺も飲んでみたくなっで…」
「…考えがアホすぎるわイェルド。どう考えたってアーサーが強い毒耐性持ちなのくらい分かるでしょ」
「生命力の強いカックロウチを一匹残らず瞬殺する毒だぞ?あれを一本丸々飲んでアレだったんだぞ?間違いなく強い毒耐性持ちだろ…。お前の毒耐性じゃ耐えられないことくらい分かれよ…」
「ずみまぜんでじだ…」
エリクサーとアーサーの薬によって、無事イェルドは解毒された。だがそのあとベニートとアデーレにこっぴどく叱られたことは言うまでもない。アーサーとイェルドは、迷惑をかけた罰として休憩場所の掃除(吐血と吐瀉物でひどいことになっていたので)と、夜の見張りを命じられた。深く反省した二人は翌朝起きたベニートとアデーレに、もう二度とあのようなことはしませんと地面に頭をこすりつけて謝り倒した。
「だぁー…っ、きっつー…」
最奥に辿り着いてから7時間が経った。500体いたオークは、主にアーサーとイェルドによって残り100体程度にまで減っていた。武器を持っており、巨体オークの影響か知性も多少発達していたため通常のオークよりも数段手こずっている。恐らくそれまでの11時間にわたる戦闘の疲労も溜まっているのだろう。近接組がかなりバテているのが目に見えて分かったので、ベニートは二人を呼びよせた。
「今日はここまでにしよう。これ以上は危険だ」
「ああ、そうした方がいいっ…。これ以上減らしたら多分オウサマもそろそろ動くだろうしな…」
「お水飲みたい…」
「寝る場所はアデーレが確保してくれてるはずだ。行くぞ」
ベニートはアーサーに水を渡しながら歩き出した。10分ほど歩いたところで、アデーレが火を熾して待っていた。返り血にまみれたイェルドとアーサーを見て申し訳なさそうにしている。
「おかえり。力になれなくてごめんね」
「ただいま!いや、あれは俺が悪いだろ!ごめんなアデーレ。びっくりさせちまったよな」
「ううん。むしろアレを知らずに戦ってたかと思うとゾッとするわ。教えてくれてありがとう」
「アデーレ、もう大丈夫?すっごく動揺してたけど」
「ごめんねアーサー。もう大丈夫よ。さ、座って。疲労回復効果のあるハーブティーを作ったから」
「助かる。イェルド、アーサー。ハーブティー飲んでから返り血を拭いて服を着替えろよ」
「はあい」
「みんな怪我はない?」
「あー、俺ちょっと怪我した。たいしたことないからポーションで治る」
「そう。じゃあこれ飲んで」
「さんきゅー!」
「アーサーは?」
「僕もちょっとだけ怪我しちゃった」
「どこ?」
「おなか」
「見せて」
アーサーは武具を脱いで服をめくった。オークの攻撃をもろに受けたのだろう、横腹がえぐれて内臓がちらちら見えている。3人は顔を真っ青にして慌ててエリクサーをアーサーの口に突っ込んだ。
「は?!お前こんな怪我してたのかよ!いつだ?!」
「えーっと、オークを100体くらい倒した時かな」
「2時間くらい前じゃねえか…。なんで言わなかったんだ?!」
「え?だって動けるから」
「……」
「?」
「いやいや、なんでそんな当たり前のこと聞くんだみたいな顔でこっち見るなよ」
「どうしてそんな当たり前のこと聞くの?」
「声に出して聞いちゃったよこの子…」
「当り前じゃねえからだよ…」
こいつやばい、と3人が同時に悟った瞬間だった。ベニートはゆっくりと深呼吸をしてからアーサーに話しかける。
「アーサー。その傷、即戦闘離脱するレベルの怪我だと俺たちは思っている」
「え?!そうなの?!動けるのに?!」
「普通は動けない。お前痛くなかったのか?内臓がはみ出てチロチロしてたんだが?」
「痛かったけど…モニカのアッパーの方が痛かったし…」
「モニカのアッパーえげつないな?」
「お前のその…人並外れた痛み耐性は良いのか悪いのか分からないな…」
「アーサー。あなたは自分の体が傷つくことと、モニカの回復魔法に慣れすぎてると思うわ。これからは怪我をしたらすぐに戦闘離脱して回復して。じゃないと私たちの心臓がもたない」
「ご、ごめんなさい。そんな心配されるなんて思ってなくて…。あっ!そうだ!」
「ん?」
アーサーはおもむろにアイテムボックスをまさぐり始めた。取り出したのはリンクスの指輪。シャナから国宝級の貴重な物だと聞いていたので、紛失することを恐れてアイテムボックスにしまっていたのだ。指輪に紐を通し首にかけてから3人にニコっと笑った。
「これで大丈夫!!」
「何が大丈夫なんだ?」
「あのね、これ、すっごい指輪なんだ!これを付けてたら怪我が治るらしいよ!」
「それってつまり、加護魔法付きの指輪ってことか?」
「そう!」
「加護魔法って言っても微弱なものでしょう?」
「ううん!たぶんちがう!すごいらしいから!」
「説明がふんわりしてて要領を得ない…」
「うーん、正直僕もあんまり効果のほどが分からないんだよね。一回やってみよっか」
そう言うやいなや、アーサーがニコニコしながら自分の手首に剣を滑らせた。血がビュシュッと勢いよく吹き出したので大人たちが絶叫した。
「ぎゃーーーー!!なにしてんだお前!!…ん?」
「わ、すごい!」
ぱっくり切れた手首の傷が瞬く間に塞がった。その再生の速度はモニカの回復魔法に匹敵するほどだった。ベニートたちは信じられない光景に口をあんぐり開けている。
「う、うそ…」
「なんだよその指輪…。ただの加護魔法付きじゃないだろ…」
「お、俺…こんなすげえの初めて見た…」
「あっ、僕がこれ持ってるの誰にも内緒ね?なんか本当にすごいものらしくって…」
「言うかよ…。こんなやべえの持ってるって知られたら…殺されるぞ」
「ひっ…」
「アーサー、それ、本当にやばい代物だわ。本当に信頼してる人にしか持ってること言っちゃダメよ」
「う、うん」
「にしてもすげえな…」
指輪をまじまじと見ながら感心している3人に、アーサーがそわそわしながら話しかけた。手に持っているのは、モニカの毒魔法液。
「ねえ、みんな気にならない?この指輪がどこまで効果あるのか」
「お、おい。アーサー、お前何する気だ…?」
「それ、さっき使った毒魔法液じゃ…」
「怪我にこれほどの効果があるのなら…」
「きゃぁぁ!アーサー?!」
アデーレの叫び声が響き渡る中、アーサーが毒魔法液を一気飲みした。一滴残らず飲み干したあと、ほわぁ…と幸せそうな表情を浮かべる。
「あー…。最高だよモニカの毒魔法液…」
「え…?それ毒だよな?それともグレープジュースか?」
「グレープジュースじゃない?あんなおいしそうな顔してるし。もう、びっくりさせないでよアーサー」
「ゴフッ」
「?!」
安心したのも束の間、アーサーがどす黒い血を吐き出してぴくぴく痙攣し始めた。それなのにアーサーは相変わらず嬉しそうな顔をしている。
「わー。すごい。学院の頃よりモニカ毒魔法上手になってる」
「えっ?ジュースじゃないの?!」
「吐血、皮膚の変色、体中の痺れ、内臓破損…」
「ん?!ん?!待て待て待て今それお前の身に起こってることか?!」
「リンクスさんの指輪でも毒は治らないみたい。よかったぁ」
「なにが良かったの?!ベニート!!はやくエリクサー!」
「あ、ああ!!」
ベニートが2本目のエリクサーをアーサーの口内にドバドバと流し込む。そのおかげである程度毒は抜けたようで、吐血もおさまり皮膚も元の色に戻った。もう少し毒を堪能したかったアーサーは、残念そうな顔をしながら残りの毒を抜くために解毒薬を調合する。
「おいアーサー。なんでちょっとムスっとしてんだよ」
「してないもん」
「してる」
「してない」
「俺たちに言うことは?」
「…心配かけてごめんなさい」
「分かってるならいい」
「もう毒なんて飲んじゃだめよ?」
「はぁい…」
自分で作った薬を飲んでいるアーサーの向かいで、ベニートがモニカ特製マップを開いて眺めていた。隣にいたアデーレも、モニカのメモを読んで頬を緩めている。そんな彼女に「ここ見ろ」とモニカのメモのひとつを指さした。
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「ええ…?どんな嗜好?」
「さあ。俺にはさっぱり」
一方、イェルドはアーサーに話しかけている。
「なあアーサー!お前がさっき飲んだの、本当に毒だったのか?!」
「うん。カックロウチにかけたやつと同じ毒だよ」
「へえ!お前すっげーうまそうに飲んでたけど、毒ってそんなうまいのか?」
毒に興味を持ってもらえたことが嬉しかったのか、アーサーは目を輝かせて身を乗り出した。
「あ!イェルド毒に興味あるの?!あのね、毒はおいしくないよ!でもね、なんだろう、体を蝕んでいく感じ?あれがクセになっちゃんだよね!!じわじわ体の感覚がなくなっていったり、胸が気持ち悪くなって血を吐いたりするのとか!このモニカの毒は最高級だよ!!最上の苦しみを与えてくれる魔法の液体!!」
「んな大げさな!どうせかるーい毒なんだろお?だってお前すっげーニコニコしてたじゃないか!強い毒ならあんな顔できねえって!」
「そうなのかなあ?僕が今まで飲んだ毒でも1,2を争うくらい強い毒だと思うけど…」
「どれどれ!俺が確かめてやろう!」
「わっ、だめだよイェルド!ベニートに怒られちゃうよ!」
「だーいじょうぶだって!俺もちっとは毒耐性あるし!それにエリクサーとお前の薬飲めば治るんだから!」
「せ、せめて一滴だけにして?!うわ、こわい!人が毒を飲むの見るのってこんなに怖いの?!」
「はいはい。じゃあ一滴だけな」
イェルドが舌の先に一滴だけモニカの毒を落とす。その瞬間、イェルドは「ぐぁぁぁっ!!」と呻きながら倒れこんだ。ガクガクと痙攣して嘔吐と吐血をした。瞬く間に皮膚が真っ黒になり、苦し気に地面に爪を立てている。アーサーは慌ててエリクサーをイェルドに飲ませ、容態を診て薬の調合を始めた。地図を見て微笑んでたベニートとアデーレも異変に気付き顔を上げて呆然としている。
「な…なにしてんだ、お前ら…?」
「あ、えっと…」
「もしかして、イェルドも毒飲んだの?」
「い、一滴だけ…」
「…本当になにしてるの?」
「ぢが…、アーサーわるぐない…俺、勝手に飲んだ…っ」
「アーサー、イェルドは治るのか?」
「治る…。エリクサー飲ませたし、もうすぐ薬できるから…っ」
「早く治してくれ。説教しなきゃいけないからな」
「だっで…。アーサーが…すげーうまそうに飲んでたから…俺も飲んでみたくなっで…」
「…考えがアホすぎるわイェルド。どう考えたってアーサーが強い毒耐性持ちなのくらい分かるでしょ」
「生命力の強いカックロウチを一匹残らず瞬殺する毒だぞ?あれを一本丸々飲んでアレだったんだぞ?間違いなく強い毒耐性持ちだろ…。お前の毒耐性じゃ耐えられないことくらい分かれよ…」
「ずみまぜんでじだ…」
エリクサーとアーサーの薬によって、無事イェルドは解毒された。だがそのあとベニートとアデーレにこっぴどく叱られたことは言うまでもない。アーサーとイェルドは、迷惑をかけた罰として休憩場所の掃除(吐血と吐瀉物でひどいことになっていたので)と、夜の見張りを命じられた。深く反省した二人は翌朝起きたベニートとアデーレに、もう二度とあのようなことはしませんと地面に頭をこすりつけて謝り倒した。
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