上 下
185 / 718
淫魔編:フォントメウ

【205話】アクセサリー店

しおりを挟む
へとへとになったアーサーを連れて、次はアクセサリー店へ入った。ガラスのショーケースの中にさまざまな宝石のアクセサリーが並べられている。店内には男性エルフの店主と女性エルフの売り子がおしゃべりをしていた。シャナに気付いた彼らがパッと顔を輝かせる。

「おや?おやおや?」

「あら?あらあら?」

「どうも、リゥ、ユエ。久しぶり」

「1年ぶりくらいかな?まったく。少し帰省する頻度をあげたらどうだいシャナ?」

「そうよ。幼馴染にまで顔を忘れられちゃうわよ?」

「ふふ。ごめんね。元気してた?」

どうやらシャナとリゥ、ユエは仲が良いようだ。彼らと言葉を交わしているときのシャナは、今までで一番気楽に話しているように見えた。ひとしきり冗談を交わしたあと、リゥとユエがユーリに挨拶をして双子に目を向ける。

「シャナ、こちらのかわいらしいヒトの子は?」

「アーサーとモニカよ。偽名は訳あり」

「そう。まだ若いのに苦労してるのね」

「よろしく。アーサー、モニカ」

「アーサー、モニカ。こちらリゥとユエよ。二人は夫婦で、私の幼馴染でもあるの」

「アーサーです。よろしくおねがいします」

「モニカです!よろしくおねがいします」

「ふふ。本当にかわいらしいヒトの子ねえ」

双子と握手をしたエルフ夫婦はあたたかい笑みを浮かべた。二人のやわらかい雰囲気に、アーサーとモニカはふわふわとした気持ちになった。まるでふかふかの布団にくるまっているような居心地の良さだ。双子の様子にシャナはクスクス笑う。

「アーサー、モニカ?赤ちゃんみたいな顔になってるわよ?」

「「ハッ」」

「ふふ。本当にかわいらしい」

「それで、今日はどうしたんだい?」

「アーサーとモニカがアクセサリーを買いに来たの。良いのがあったら出してあげてくれる?」

「分かったよ。ユーリもなにか欲しいかい?」

「ううん。今日はいいかな」

「はあい。じゃあ、アーサーとモニカ。君たちに合うものを選ぶために、少し君たちのことを見させてもらうね。シャナ、僕たちに視覚強化の魔法をかけてくれるかい?」

「あら?自分でできるでしょう?」

「君の魔法の方がよく見えるんだ」

「ああ、そういうこと。分かったわ」

シャナは二人のこめかみに杖を軽く当てた。視覚強化されたリゥはアーサーの、ユエはモニカの目を覗き込む。リゥの顔が一瞬苦し気に歪む。だがすぐ元の表情に戻り、次に胸に目をやった。

「ユエ…」

「…ええ、見えてるわ」

「強力な加護の糸だ…」

「すごい…。こんな糸、見たことがないわ…」

「これは…少し選ぶのが難しいね」

リゥの視線がアーサーの小指に移る。はめている指輪を見て「えっ」と驚いた声をあげた。

「まさかこれ、リンクスの加護魔法かい?」

「あ、はい。さっきもらいました」

「わぁ…すごい。すばらしい。白金貨1000枚で買い取りたいくらいだよ…!」

「そ、そんなにすごいものだったの?!」

「すごいってものじゃない…。ヒトの世だったら値段が付けられないほどの価値があるものだよ。アーサー、先に謝っておくけれど、君が今嵌めている指輪ほど良いものはうちにはないからね」

指輪の価値を知ったアーサーは「ひぇ…なくさないようにしなきゃ…」と呟いた。食い入るように指輪を見つめているリゥに、ユエが苦笑いをしている。

「こらこらリゥ。そんな羨ましそうな目で見ないの」

「だって僕たちがどれほどお願いしたってひとつも作ってくれなかったんだよ…?」

「ふふ。でもリンクスがアーサーにそれを渡した気持ちが分かるわ」

「はは。たしかに」

「?…」

「それにしてもモニカ。あなたの魔力とその器、とぉっても綺麗ねえ」

「えへへ。ありがとう」

ユエはうっとりした目でモニカの胸あたりを見ている。

「ん~。迷うわあ…。この子にぴったりのアクセサリー…。モニカ?アクセサリーなら何をつけたい?」

「うーん。ネックレスはもうしてるし…。ピアスがいいな!」

「ピアスね。分かったわ。…じゃあちょっと悩ませてね」

「はあい」

「アーサーは?なにがいい?」

「僕はピアスもネックレスもしてるし、リンクスさんに指輪ももらっちゃったしなあ…」

「だったらアンクレットにしようか」

「アンクレット?」

「足首につけるアクセサリーだよ」

「わ!おしゃれ!それがいい!」

「分かった。じゃあ僕も選んでくるよ」

リゥとユエは立ち上がり、ガラスケースを覗きながら長い時間相談していた。しばらくして彼らはカウンターの奥へ姿を消した。待っているあいだ、双子はぶらぶらと店内を見て回る。モニカは赤い宝石のブレスレットを見つけ、周りに聞こえない小さな声でコソコソとアーサーに話しかけた。

「わ!ねえアーサー!このブレスレット、ジュリアに似合うと思わない?!」

「本当だね!これはウィルクに似合いそう」

「うわあ、絶対似合うよお!送ってあげようよ!」

「いいね!2か月後にはジュリアもウィルクも学院に戻るしね!学院に二人宛てで送っちゃおう!」

「きゃー!喜んでくれるかなあ?!」

「きっと喜んでくれると思う!」

そうと決めた二人は赤い宝石のブレスレットと、青い宝石のアンクレットが入れられた小箱を手に取った。シャナの元へ戻ろうとしたモニカだったが、アーサーが黄緑色の宝石が埋め込まれた指輪をじっと見ていることに気付き立ち止まった。

「アーサー?どうしたの?」

「…ヴィクスにもなにか贈りたいなあって思って」

「……」

「でもダメだよね…。城に送るのはさすがに…」

「じゃあ、ウィルクに頼みましょうよ!」

「えっ」

「ヴィクスに、ウィルクからの贈り物として渡してもらうの!もちろん私たちからってことは伏せてもらって!それだとヴィクスにアクセサリーを贈れるし、私たちのこともバレないわ」

「わあ!それいい考えだよモニカ!どうしちゃったの?!」

「どうしちゃったのって何よ!」

「あはは!ごめんごめん!」

「じゃあ、そうしましょ!ジュリア宛にブレスレットを送って、ウィルク宛にアンクレットと指輪を送る!それでオッケー?」

「賛成!喜んでくれるといいなあ~」

「ねー!」

3つのアクセサリーを持って双子はシャナの元へ戻った。すでに双子のアクセサリーを選び終わっていたリゥとユエがニコニコしながら待っていた。

「ごめんなさい!夢中になっちゃってた」

「気にしないで。そんなにはしゃいでアクセサリーを選んでもらえたら私たちも嬉しいわ」

「手に持っているのも買うのかい?」

「うん!贈り物!」

「いいね。どのアクセサリーにもちょっとした加護魔法が付与されているんだよ。ブレスレットと指輪には魔力回復の強化。アンクレットには再生力の強化の効果がある。本当にちょっとした、だけどね」

「わあああ!素敵!」

「あとで綺麗に包んであげるわね」

「わーい!」

「じゃあとりあえずその3つのアクセサリーは預かっておいて…。次は私とリゥがあなたたちに選んだアクセサリーを見てくれる?」

「見る!!」

ユエは小箱をそっと開けた。そこには乳白色の宝石のピアスが入っている。モニカはそれを見て「わぁぁ…!」と感激しながらぴょんぴょん飛び跳ねた。

「かわいい宝石…!!こんな宝石みたことない!!」

「乳白色ヒスイよ。綺麗でしょう?」

「きれい!!」

「ふふ、よかった。でも綺麗なだけじゃないのよ?この宝石には、魔力回復強化の加護魔法が付与されているの。それも、強力なね」

「店に並んでるものの軽く10倍は強力さ」

「ええー?!」

「シャナの顔で、特別にとっておきを出してきたの。どう?気に入ってくれたかしら?」

モニカはそのピアスを手のひらに乗せ、じっと見つめながら無言でコクコクと頷いた。嬉しすぎて言葉が出ないようだ。アーサーもモニカの手の中を覗き込んで「わぁぁ…」と声を漏らした。

「モニカ、よかったねえ。こんな素敵なピアスを選んでもらえて」

「うん…!一生大切にする…!」

「アーサー、君はこれ」

リゥがアーサーに手招きをする。小箱を開くと、赤紫と藍が混じり合ったような不思議な色をした宝石のアンクレットが入っていた。

「綺麗…」

「アレキサンドライトと言ってね。光によって色が変わる不思議な宝石だよ。赤紫になったり、藍色になったり、ふたつの色が混ざっていたり」

「わぁ…」

「加護魔法は、精神の安定を保つ」

「……」

「辛いことがあっても、これをつけていたら心がかき乱されにくい。ある程度は、だけどね」

「リゥさん…僕の記憶を…?」

「いや、見ていないよ。見なくたって分かる。今は安定してるけれど、それでもまだ、君にはこれが必要だ」

アーサーはアンクレットを小箱から取り出し握りしめた。それだけでもホッとするような気がした。

「…ありがとう、リゥさん」

「気に入ってくれたかな?」

「とっても」

双子はさっそくアクセサリーを身に付けた。モニカは鏡で自分の姿を見て「かわいいーー!!」と大喜びしている。アーサーは自分の足首を見ながら「なにこれぇ…!おしゃれすぎるよぉぉ…!」と漏らしていた。二人に気付かれないようにシャナが夫婦に声をかける。

「で?お代はいくらなの?」

「モニカとアーサーの分で白金貨100枚。プレゼントのアクセサリー3つで白金貨3枚よ」

「やっぱり!!あんな希少なものよく初対面の子に渡してくれたわね?!どうして?!私としてはありがたいけど!」

シャナは財布から白金貨を取り出しながら彼らに尋ねた。リゥとユエは目を合わせてからシャナににっこり笑った。

「ふふ。リンクスと同じ理由よ」

「リンクスと?」

「ああ。彼らはずるいよね。どうも守ってあげたくなってしまう。だって…」

「「あぶなっかしすぎるから」」

声を揃えてそう言った夫婦の答えに、シャナは困ったように笑った。

「納得したわ」
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。