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淫魔編:フォントメウ
【199話】モニカの目覚め
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「……」
ゆっくりとモニカの瞼が上がる。ぼやけた視界に映っているのは、今にも泣きだしそうな兄の顔。
「…アーサー…」
「っ!」
目を見開いているアーサーの頭を抱き寄せる。モニカは兄の匂いをすんすんと嗅ぎ、ホォーっと安堵のため息をついた。
「えへへ…本物のアーサーだぁ…」
「モ、モニカ…」
「むふふ。しあわせぇ…」
「ぼ…僕が本物だって分かるの…?」
「え?あたりまえでしょ…?ほら、こっち見て…」
「……」
モニカはアーサーの顔を掴んでまっすぐと見た。だがアーサーは目を逸らしてこちらを見ようとしない。モニカはムスッとしながら言った。
「私を見てアーサー」
「……」
アーサーは不安げにモニカの目を見た。妹の目に自分の姿を映すことが怖かった。自分のことを淫魔だと思われるのではないかと恐れていたからだ。だが、モニカは彼を兄だと疑わなかった。
「口調も、仕草も、私を見る目も、においも…あんなやつと全然ちがう。あなたが私のだいすきなアーサーよ。すぐ分かるわ」
「モニカ…」
「どうしてそんなにキョドキョドしてるの?意味が分からないわ」
「だ、だって…」
「あ、分かった!自分のせいで私がーとか思ってるんでしょぉ!!ばっかねえ!」
「……」
「私が言いたいのはひとつだけよアーサー」
「な、なに…?」
「助けてくれてありがとう」
「っ…」
「一人で頑張らせちゃってごめんね。怖かったでしょ?」
「こわかった。モニカが元に戻らなかったらって思うと、すごく…こわかった」
「大丈夫。大丈夫よアーサー。ちゃんと戻ってこれたわ」
「モニカ、ごめんね。辛い思いさせたよね」
「うん。アーサーが苦しい思いしてるって考えると、すっごくつらかった」
「大丈夫だよ。シャナとユーリが支えてくれた。だからもう大丈夫だよ、モニカ」
二人は静かに微笑み合った。モニカはもう一度アーサーを抱き寄せ、ふるふると震えた。アーサーもまた、唇を噛んで震えている。
「…ずっと会いたかった」
「僕も…っ」
「ふえっ…ふえぇ…」
「ひぐっ…ぅぅ…」
「ふぇぇぇん!!!アーサぁぁ…会いたかったよぉぉぉ!!!」
「モ、モニカぁぁぁ…!!うわぁぁぁぁん!!僕もっ…ひぐっ…僕も会いたかったぁぁ!!」
「もう私をひとりぼっちにしないでぇぇっ…!」
「しないっ…!絶対しないからぁぁっ…!!」
「もう私から離れないでぇぇっ!!ずっとそばでいてぇぇぇっ…!うわぁぁぁん!!」
「うんっ…!約束する…っ、約束するからぁぁっ!!」
双子はお互いにしがみついてわんわんと泣いた。遠くで見守っていたシャナとユーリは、彼らに思う存分泣かせてあげ、少し落ち着いた頃に声をかけた。シャナはモニカを、ユーリはアーサーをふわふわの毛布に包み立ち上がらせる。アーサーとモニカは手を繋ぎながら二人のあとをついていった。
「モニカ、よくがんばったわね。さあ、戻って暖かい食事をとりましょう」
「シャナ、ユーリ…!ほんとにありがとう…。私、あなたたちがいなかったら完全に誘惑に落ちてたわ。ほんとにほんとに、ありがとう…!」
「モニカが元に戻って良かったよ。それだけで充分。だからほら、行こ」
「うん…!」
「アーサーも」
「うん!」
4人はゆっくりと歩を進ませてシャナの家へ戻った。玄関の扉を開けると、ソワソワと彼らの帰りを待っていたツェンとフェゥが駆け寄ってきた。彼らは清められたモニカに思わず跪いた。それに驚いたモニカは戸惑ってしまう。
「えっ」
「はっ…!す、すまない。白翼狼の印に思わず跪いてしまった…」
「昨日までは濁っていた印がすっかり清められていて、つい昔の癖が…。ごめんなさい」
「昔の癖?」
「モニカ。この二人は私の祖父母であるツェンとフェゥよ。よろしくね」
「祖父母ォ?!」
「フォントメウのエルフは昔、白翼狼と共に生活をしていたの。エルフは白翼狼をピュリゾ神の化身として崇めていた。白翼狼の印を与えられたあなたは、お年寄りのエルフにとっては白翼狼の子と同じ。だから思わず敬意を示してしまったみたいね」
「え?え?シャナの言ってることがひとっつも分からなかった…。フォトメーとかピュリドシーてなに?あと、あれ?え?お年寄りのエルフってだれ?祖父母って嘘よね?」
「ああ、そうだったわね。あなたにもいろいろ教えておかないといけないわ。食事が終わったらゆっくりお話しましょう」
「う、うん…」
「モニカ、神さまのお話はちょっと難しくて長いから、居眠りしちゃわないようにね」
アーサーが耳元で囁くと、モニカはあからさまに嫌な顔をした。シャナはクスクス笑いながら双子をダイニングチェアに座らせた。
ゆっくりとモニカの瞼が上がる。ぼやけた視界に映っているのは、今にも泣きだしそうな兄の顔。
「…アーサー…」
「っ!」
目を見開いているアーサーの頭を抱き寄せる。モニカは兄の匂いをすんすんと嗅ぎ、ホォーっと安堵のため息をついた。
「えへへ…本物のアーサーだぁ…」
「モ、モニカ…」
「むふふ。しあわせぇ…」
「ぼ…僕が本物だって分かるの…?」
「え?あたりまえでしょ…?ほら、こっち見て…」
「……」
モニカはアーサーの顔を掴んでまっすぐと見た。だがアーサーは目を逸らしてこちらを見ようとしない。モニカはムスッとしながら言った。
「私を見てアーサー」
「……」
アーサーは不安げにモニカの目を見た。妹の目に自分の姿を映すことが怖かった。自分のことを淫魔だと思われるのではないかと恐れていたからだ。だが、モニカは彼を兄だと疑わなかった。
「口調も、仕草も、私を見る目も、においも…あんなやつと全然ちがう。あなたが私のだいすきなアーサーよ。すぐ分かるわ」
「モニカ…」
「どうしてそんなにキョドキョドしてるの?意味が分からないわ」
「だ、だって…」
「あ、分かった!自分のせいで私がーとか思ってるんでしょぉ!!ばっかねえ!」
「……」
「私が言いたいのはひとつだけよアーサー」
「な、なに…?」
「助けてくれてありがとう」
「っ…」
「一人で頑張らせちゃってごめんね。怖かったでしょ?」
「こわかった。モニカが元に戻らなかったらって思うと、すごく…こわかった」
「大丈夫。大丈夫よアーサー。ちゃんと戻ってこれたわ」
「モニカ、ごめんね。辛い思いさせたよね」
「うん。アーサーが苦しい思いしてるって考えると、すっごくつらかった」
「大丈夫だよ。シャナとユーリが支えてくれた。だからもう大丈夫だよ、モニカ」
二人は静かに微笑み合った。モニカはもう一度アーサーを抱き寄せ、ふるふると震えた。アーサーもまた、唇を噛んで震えている。
「…ずっと会いたかった」
「僕も…っ」
「ふえっ…ふえぇ…」
「ひぐっ…ぅぅ…」
「ふぇぇぇん!!!アーサぁぁ…会いたかったよぉぉぉ!!!」
「モ、モニカぁぁぁ…!!うわぁぁぁぁん!!僕もっ…ひぐっ…僕も会いたかったぁぁ!!」
「もう私をひとりぼっちにしないでぇぇっ…!」
「しないっ…!絶対しないからぁぁっ…!!」
「もう私から離れないでぇぇっ!!ずっとそばでいてぇぇぇっ…!うわぁぁぁん!!」
「うんっ…!約束する…っ、約束するからぁぁっ!!」
双子はお互いにしがみついてわんわんと泣いた。遠くで見守っていたシャナとユーリは、彼らに思う存分泣かせてあげ、少し落ち着いた頃に声をかけた。シャナはモニカを、ユーリはアーサーをふわふわの毛布に包み立ち上がらせる。アーサーとモニカは手を繋ぎながら二人のあとをついていった。
「モニカ、よくがんばったわね。さあ、戻って暖かい食事をとりましょう」
「シャナ、ユーリ…!ほんとにありがとう…。私、あなたたちがいなかったら完全に誘惑に落ちてたわ。ほんとにほんとに、ありがとう…!」
「モニカが元に戻って良かったよ。それだけで充分。だからほら、行こ」
「うん…!」
「アーサーも」
「うん!」
4人はゆっくりと歩を進ませてシャナの家へ戻った。玄関の扉を開けると、ソワソワと彼らの帰りを待っていたツェンとフェゥが駆け寄ってきた。彼らは清められたモニカに思わず跪いた。それに驚いたモニカは戸惑ってしまう。
「えっ」
「はっ…!す、すまない。白翼狼の印に思わず跪いてしまった…」
「昨日までは濁っていた印がすっかり清められていて、つい昔の癖が…。ごめんなさい」
「昔の癖?」
「モニカ。この二人は私の祖父母であるツェンとフェゥよ。よろしくね」
「祖父母ォ?!」
「フォントメウのエルフは昔、白翼狼と共に生活をしていたの。エルフは白翼狼をピュリゾ神の化身として崇めていた。白翼狼の印を与えられたあなたは、お年寄りのエルフにとっては白翼狼の子と同じ。だから思わず敬意を示してしまったみたいね」
「え?え?シャナの言ってることがひとっつも分からなかった…。フォトメーとかピュリドシーてなに?あと、あれ?え?お年寄りのエルフってだれ?祖父母って嘘よね?」
「ああ、そうだったわね。あなたにもいろいろ教えておかないといけないわ。食事が終わったらゆっくりお話しましょう」
「う、うん…」
「モニカ、神さまのお話はちょっと難しくて長いから、居眠りしちゃわないようにね」
アーサーが耳元で囁くと、モニカはあからさまに嫌な顔をした。シャナはクスクス笑いながら双子をダイニングチェアに座らせた。
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