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淫魔編:フォントメウ
【198話】モニカの核
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「だぁぁぁあ!!!もぉぉぉぉ!!うっとおしいわねええ!!!」
淫魔により深い誘惑に落ちてしまったモニカ。呆けてしまった体と精神の奥、未だ穢されていない彼女の核は押し寄せる誘惑と戦っていた。モニカは苛立ちの声をあげながら、誘惑の手を聖魔法で焼き尽くす。だが、焼いても焼いても一向に数が減らない。必死に抵抗しているモニカの核に、淫魔の魂魄がすり寄ってきた。
《ドールちゃん…いい加減素直になりなよぉ…俺もう疲れてきちゃった…》
「じゃあさっさと私の体を返しなさいって!!もぉ何回言えば気が済むのよぉぉぉ!!もぉぉぉぉ!!!」
《いやに決まってるじゃん!君が欲しくて魂魄まで憑依させたのにさぁ~。なんで君の核はまだ俺のものにならないわけぇ?》
「ええ?!あんた、私に魂魄憑依させたの?!はぁぁぁ?!なに勝手なことしてるの?!やだあああ!!」
淫魔はアーサーに殺されたあと、早々に自分の体を捨ててモニカの中へ魂魄を憑依させていた。魂魄はまだ誘惑に落ちていない核を穢そうと、このようにずっと話しかけながら誘惑を試みている。モニカは淫魔が近寄るたびに聖魔法で威嚇していたのだが、魂魄はそう簡単に消えないらしい。聖魔法を受けると一時的に弱体化するが、すぐに元に戻りモニカの核を奪おうとした。
《ほら!君の大好きなアーサーの姿になってあげたよ!!ほら、ほらぁ~!》
「それ以上私のアーサーをグロウすんじゃないわよ!!!もぉぉ!!いい加減に消えなさい!!」
《どうしてそんなにツレないのさぁ!俺たちあんなにイチャイチャしてたじゃないかぁ~!!》
「きもっちわるいこと言うんじゃないわよ!!あたしの体好き勝手してぇぇぇ!!しかもアーサーの姿でって!!あんなの見たらアーサーがトラウマになっちゃうじゃない!!あああかわいそうなアーサー!!ずっとずーっと大切にしてきた私をこんなクズでバカな変態に…しかも自分の姿に化けて襲われちゃうなんて!!かわいそう!!かわいそうすぎるよぉぉぉぉ!!!」
《自分の体よりアーサーの心配してんのぉ?妬けるなあ~》
「当り前でしょうが!!私の体なんてどうなってもいいけどねえ!!アーサーがそれで立ち直れなかったら私あんたを一生恨み続けるからね!!ばーか!!ばかばかばーーーーか!!」
《ドールちゃん!残念だけどアーサーはもう壊れちゃったよ~。俺の体ズッタズタにして殺してから、ずっと君の体をだっこしながらボーっとしてる!あらら~…魂抜け落ちたみたいになっちゃってるねえ。涙が止まらないみたい~。よっぽどドールちゃんのこと大切だったんだねえ》
「ぎゃーーーー!!!ちょっと!!早く!!早く私の体を返しなさい!!アーサーは私がいないとダメなのよ!!早く目を覚まさないと!!もぉぉぉ!!あんたのせいだからねインマぁぁぁ!!ほんと許さない!!」
《いやいやー。もとはと言えば君がアーサーの姿を望んだんじゃないか!俺は悪くないしぃー》
「そ、そうだけどぉぉぉ!!そもそもあんたが私を襲わなかったらこんなことにもならなかったでしょぉ?!なんでもいいから私を元に戻しなさいって!!まずはこの誘惑を消してよ!!」
《なんで俺がそんなことしなきゃいけないのさ!俺はこのままでいいもーん》
「いやよこんななんにもない空間であんたの魂魄と二人っきりなんて!!さっさと死んで消えてくれない?!」
《ええ~!!ひどくない?!俺のこと捨てるわけぇ?!》
「捨てるもなにもはじめっからあんたとそんな関係じゃないでしょうが!!ふふ、残念だったわねインマ!体を介さない今の私はいくらだってあなたに攻撃できるのよ。聖魔法でギャンッギャンにしてやるわ!!」
《はぁ~。ヘコむなあ。だから本気で恋なんてしたくないんだよねー。こんなに好きなのに報われない俺まじ可哀そう…》
「あーめんどくさい!!めんどくさいわぁぁ!!早く本物のアーサーに会いたいよぉぉぉ!!アーサァァァ!!うわぁぁぁん!!」
《アーサーいいなあ…。こんなにドールちゃんに愛されてて…いいなあ…》
ひょいひょいと聖魔法を避け、淫魔が羨ましそうな声をあげた。モニカは襲い掛かる誘惑を焼き払いながら、暇さえあれば淫魔にも攻撃をしかける。数時間それを続けていると淫魔がぴくりと反応した。
《あ。アーサーが動いた》
「え?!」
《…馬車に乗った》
「馬車…?どこへ行く気かしら」
《ここから南へ向かってる》
「南…。はっ、ポントワーブへ戻ってるんだわ!助けを求めるのね…。よかった…。死んでしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたわ…」
《助け?》
「今はカミーユたちもベニートたちもいない…。助けを求めるとしたら…シャナね」
それを聞いた淫魔はびくりと魂魄を強張らせた。
《ポントワーブ…シャナ…?!シャナって、ま、ま、まさか…あのエルフの…?!》
「あら、知ってるの?」
《知ってるもなにも…!100年前に俺をボコボコにした子だ…!!その時はまだ低級冒険者だった…だったのに!それはもう恐ろしいほど強かった…!俺が誘惑にかける間もなくやつざきにされたんだ…!しかも…瀕死の俺を見て…笑ってた…!あんな…あんな血なまぐさいエルフ、その時まで見たことがなかった…!あの時言われたことはよく覚えてる…。"あらあらとっても汚い血の色をしているのね"、"もう少し泣き叫び声を聞かせてくれる?"って…!正直俺、その時すっごくゾクゾクした…!》
「え…?人違いでしょ?シャナはそんなこと言わないわ」
《ポントワーブに住んでるんだろ?!それに、その子は最近人間の冒険者と結婚したって噂で聞いた…!ちがう?!》
「う…たしかにシャナはカミーユと結婚してるけど…」
《そう!そうだカミーユ!!確かそんな名前だった!やっぱりあのエルフだ…。まずい…。彼女は人型の魔物を敢えて殺さない…。もう100年前と同じことをされるのはいやだ…。彼女に見つかったら…痛めつけられて痛めつけられて…俺が殺してくださいってお願いしたって…笑いながらめちゃくちゃにされる…!!!》
「ちょ、ちょっと待って。それ絶対シャナじゃないわ。とっても優しいエルフだもん」
《確かに冒険者を辞めてから丸くなったって聞いてるけど…!それでも…!》
急に怯え始めた魂魄にモニカは戸惑った。そんなモニカに魂魄が懇願する。
《ド、ドールちゃん!!お願い!!あのエルフに会う前に俺を殺してくれ!!頼む!!》
「え…ええ…?」
《エルフの魔物に対する憎悪は半端じゃない!あのシャナというエルフは特にだ…!そして彼女は魔物を苦しめる方法をよく知っている…!死ぬよりしんどい苦しみを与えられるくらいなら、今ここで大好きなドールちゃんにスパっと殺された方がマシ!!!》
「な、なに言ってるのか分からないけど、死んでくれるのなら願ったり叶ったりだわ。どうやったらあなたは死ぬの?」
《ありがとうドールちゃん!!…聖魔法で魂魄全てを包み込んで消滅するまでじっくりことこと焼き尽くせばいいよ!!もう俺も逃げないからさ!ちゃんとそれで殺せるよ!!》
「分かったわ。じゃあじっとしてなさいよ」
《はーい!あ、最後にキスしようよ~》
「するわけないでしょう!!ばか!!ばーーか!!」
《あはは!あーかわいいなあドールちゃんは!…はぁぁ~、これで苦しまずに死ねるぅぅ…。よかったぁぁ…》
「わけわかんない。さっさとやるわよ」
モニカは淫魔の魂魄を聖魔法で包み込んだ。ジュゥゥゥと音を立てて魂魄がだんだんと小さくなっていく。魂魄が消滅する手前で淫魔の呑気な声が聞こえた。
《あ!俺の魂魄が消えても誘惑とかはそのままだからー!せいぜい核が穢されないようがんばってね!》
「はああああ?!ちょっとぉ!聞いてないんですけどぉぉ!!」
◇◇◇
「ぜぇ…っ。ぜぇ…っ。もぉ…ほんとしつこいわね…!もう魂魄消滅してるんだからいい加減誘惑も消えなさいよぉ!!!」
淫魔の魂魄を消滅させて3日経っても、彼女の核を襲う誘惑の手は緩まなかった。気を抜けばその手が核に触れ誘惑に落ちかける。休む間など一時もなかった。さすがのモニカも疲れ果てている。
「っ…!」
また誘惑が襲い掛かってくる。聖魔法を打とうとしたが、魔力を大量に消費する聖魔法を3日3晩打ち続けてきた彼女にもう魔力は残っていない。弱々しい銀色の光が放たれるも、強い誘惑はそれをものともしなかった。
「うう…ここまでなのぉ…?アーサー…会いたいよぉ…」
諦めてへたりこんだモニカの核に誘惑の手が触れる。やっと掴んだ核に誘惑はけたたましい笑い声をあげたような気がした。…が、その時。
《ギェァァァァ!!!》
「?!」
核に触れた誘惑の手が焼けただれ、そして消えた。核の周りを囲っていた数えきれないほどの手も、汚い叫び声をあげながら消えていく。
「もしかして助かった…?」
核の周りに徐々に光が戻ってくる。モニカは深い吐息を漏らし、目を覚まそうとした。だがまだそれはできなかった。
「体はすっきりしたけど、まだ頭がぐちゃぐちゃなんだわ。…でもきっと大丈夫。シャナがなんとかしてくれる」
モニカの核は静かに待った。体が浄化され、精神も癒されていくことを感じる。それでもまだ目覚めることができない。目覚め方が分からなかった。何もない空間で、モニカの核はぼんやりと漂うことしかできなかった。
「…早く会いたい。会いたいよアーサー」
「……」
「アーサー…。早く私を目覚めさせて…」
「……」
「アーサー…」
「……」
「ふぇっ…ふぇぇん…アーサァァ…。寂しいよぉ…。ひとりぼっちはいやだよぉ…」
「……」
「ひぐっ…。うぇぇん…。アーサー…。アーサー…。会いたいよぉ…」
《…ア》
「…?」
《モリア…》
「…アーサーの声…」
《モリア…モリア…目を覚まして…》
「アーサー…!アーサーだ!!…で、でもどうしたら目を覚ませるのか分からないよ…」
モニカの声に答えるように、一筋の風がモニカを撫でる。嗅いだことがない花の香りがした。風が吹いてきた方向に目をやると、遠くできらきらと輝いている。モニカはその輝きに手を伸ばし空を掴む。なにかが手の中に握られた感触がしたのでゆっくりと開いた。
「トパーズだ…」
宝石を眺めていると、緑の香りがする水を滴らせた一筋の糸がそれに繋がった。
《モリア…戻っておいで…》
「!!」
その瞬間、モニカはその糸に勢いよく引っ張りあげられた。
淫魔により深い誘惑に落ちてしまったモニカ。呆けてしまった体と精神の奥、未だ穢されていない彼女の核は押し寄せる誘惑と戦っていた。モニカは苛立ちの声をあげながら、誘惑の手を聖魔法で焼き尽くす。だが、焼いても焼いても一向に数が減らない。必死に抵抗しているモニカの核に、淫魔の魂魄がすり寄ってきた。
《ドールちゃん…いい加減素直になりなよぉ…俺もう疲れてきちゃった…》
「じゃあさっさと私の体を返しなさいって!!もぉ何回言えば気が済むのよぉぉぉ!!もぉぉぉぉ!!!」
《いやに決まってるじゃん!君が欲しくて魂魄まで憑依させたのにさぁ~。なんで君の核はまだ俺のものにならないわけぇ?》
「ええ?!あんた、私に魂魄憑依させたの?!はぁぁぁ?!なに勝手なことしてるの?!やだあああ!!」
淫魔はアーサーに殺されたあと、早々に自分の体を捨ててモニカの中へ魂魄を憑依させていた。魂魄はまだ誘惑に落ちていない核を穢そうと、このようにずっと話しかけながら誘惑を試みている。モニカは淫魔が近寄るたびに聖魔法で威嚇していたのだが、魂魄はそう簡単に消えないらしい。聖魔法を受けると一時的に弱体化するが、すぐに元に戻りモニカの核を奪おうとした。
《ほら!君の大好きなアーサーの姿になってあげたよ!!ほら、ほらぁ~!》
「それ以上私のアーサーをグロウすんじゃないわよ!!!もぉぉ!!いい加減に消えなさい!!」
《どうしてそんなにツレないのさぁ!俺たちあんなにイチャイチャしてたじゃないかぁ~!!》
「きもっちわるいこと言うんじゃないわよ!!あたしの体好き勝手してぇぇぇ!!しかもアーサーの姿でって!!あんなの見たらアーサーがトラウマになっちゃうじゃない!!あああかわいそうなアーサー!!ずっとずーっと大切にしてきた私をこんなクズでバカな変態に…しかも自分の姿に化けて襲われちゃうなんて!!かわいそう!!かわいそうすぎるよぉぉぉぉ!!!」
《自分の体よりアーサーの心配してんのぉ?妬けるなあ~》
「当り前でしょうが!!私の体なんてどうなってもいいけどねえ!!アーサーがそれで立ち直れなかったら私あんたを一生恨み続けるからね!!ばーか!!ばかばかばーーーーか!!」
《ドールちゃん!残念だけどアーサーはもう壊れちゃったよ~。俺の体ズッタズタにして殺してから、ずっと君の体をだっこしながらボーっとしてる!あらら~…魂抜け落ちたみたいになっちゃってるねえ。涙が止まらないみたい~。よっぽどドールちゃんのこと大切だったんだねえ》
「ぎゃーーーー!!!ちょっと!!早く!!早く私の体を返しなさい!!アーサーは私がいないとダメなのよ!!早く目を覚まさないと!!もぉぉぉ!!あんたのせいだからねインマぁぁぁ!!ほんと許さない!!」
《いやいやー。もとはと言えば君がアーサーの姿を望んだんじゃないか!俺は悪くないしぃー》
「そ、そうだけどぉぉぉ!!そもそもあんたが私を襲わなかったらこんなことにもならなかったでしょぉ?!なんでもいいから私を元に戻しなさいって!!まずはこの誘惑を消してよ!!」
《なんで俺がそんなことしなきゃいけないのさ!俺はこのままでいいもーん》
「いやよこんななんにもない空間であんたの魂魄と二人っきりなんて!!さっさと死んで消えてくれない?!」
《ええ~!!ひどくない?!俺のこと捨てるわけぇ?!》
「捨てるもなにもはじめっからあんたとそんな関係じゃないでしょうが!!ふふ、残念だったわねインマ!体を介さない今の私はいくらだってあなたに攻撃できるのよ。聖魔法でギャンッギャンにしてやるわ!!」
《はぁ~。ヘコむなあ。だから本気で恋なんてしたくないんだよねー。こんなに好きなのに報われない俺まじ可哀そう…》
「あーめんどくさい!!めんどくさいわぁぁ!!早く本物のアーサーに会いたいよぉぉぉ!!アーサァァァ!!うわぁぁぁん!!」
《アーサーいいなあ…。こんなにドールちゃんに愛されてて…いいなあ…》
ひょいひょいと聖魔法を避け、淫魔が羨ましそうな声をあげた。モニカは襲い掛かる誘惑を焼き払いながら、暇さえあれば淫魔にも攻撃をしかける。数時間それを続けていると淫魔がぴくりと反応した。
《あ。アーサーが動いた》
「え?!」
《…馬車に乗った》
「馬車…?どこへ行く気かしら」
《ここから南へ向かってる》
「南…。はっ、ポントワーブへ戻ってるんだわ!助けを求めるのね…。よかった…。死んでしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたわ…」
《助け?》
「今はカミーユたちもベニートたちもいない…。助けを求めるとしたら…シャナね」
それを聞いた淫魔はびくりと魂魄を強張らせた。
《ポントワーブ…シャナ…?!シャナって、ま、ま、まさか…あのエルフの…?!》
「あら、知ってるの?」
《知ってるもなにも…!100年前に俺をボコボコにした子だ…!!その時はまだ低級冒険者だった…だったのに!それはもう恐ろしいほど強かった…!俺が誘惑にかける間もなくやつざきにされたんだ…!しかも…瀕死の俺を見て…笑ってた…!あんな…あんな血なまぐさいエルフ、その時まで見たことがなかった…!あの時言われたことはよく覚えてる…。"あらあらとっても汚い血の色をしているのね"、"もう少し泣き叫び声を聞かせてくれる?"って…!正直俺、その時すっごくゾクゾクした…!》
「え…?人違いでしょ?シャナはそんなこと言わないわ」
《ポントワーブに住んでるんだろ?!それに、その子は最近人間の冒険者と結婚したって噂で聞いた…!ちがう?!》
「う…たしかにシャナはカミーユと結婚してるけど…」
《そう!そうだカミーユ!!確かそんな名前だった!やっぱりあのエルフだ…。まずい…。彼女は人型の魔物を敢えて殺さない…。もう100年前と同じことをされるのはいやだ…。彼女に見つかったら…痛めつけられて痛めつけられて…俺が殺してくださいってお願いしたって…笑いながらめちゃくちゃにされる…!!!》
「ちょ、ちょっと待って。それ絶対シャナじゃないわ。とっても優しいエルフだもん」
《確かに冒険者を辞めてから丸くなったって聞いてるけど…!それでも…!》
急に怯え始めた魂魄にモニカは戸惑った。そんなモニカに魂魄が懇願する。
《ド、ドールちゃん!!お願い!!あのエルフに会う前に俺を殺してくれ!!頼む!!》
「え…ええ…?」
《エルフの魔物に対する憎悪は半端じゃない!あのシャナというエルフは特にだ…!そして彼女は魔物を苦しめる方法をよく知っている…!死ぬよりしんどい苦しみを与えられるくらいなら、今ここで大好きなドールちゃんにスパっと殺された方がマシ!!!》
「な、なに言ってるのか分からないけど、死んでくれるのなら願ったり叶ったりだわ。どうやったらあなたは死ぬの?」
《ありがとうドールちゃん!!…聖魔法で魂魄全てを包み込んで消滅するまでじっくりことこと焼き尽くせばいいよ!!もう俺も逃げないからさ!ちゃんとそれで殺せるよ!!》
「分かったわ。じゃあじっとしてなさいよ」
《はーい!あ、最後にキスしようよ~》
「するわけないでしょう!!ばか!!ばーーか!!」
《あはは!あーかわいいなあドールちゃんは!…はぁぁ~、これで苦しまずに死ねるぅぅ…。よかったぁぁ…》
「わけわかんない。さっさとやるわよ」
モニカは淫魔の魂魄を聖魔法で包み込んだ。ジュゥゥゥと音を立てて魂魄がだんだんと小さくなっていく。魂魄が消滅する手前で淫魔の呑気な声が聞こえた。
《あ!俺の魂魄が消えても誘惑とかはそのままだからー!せいぜい核が穢されないようがんばってね!》
「はああああ?!ちょっとぉ!聞いてないんですけどぉぉ!!」
◇◇◇
「ぜぇ…っ。ぜぇ…っ。もぉ…ほんとしつこいわね…!もう魂魄消滅してるんだからいい加減誘惑も消えなさいよぉ!!!」
淫魔の魂魄を消滅させて3日経っても、彼女の核を襲う誘惑の手は緩まなかった。気を抜けばその手が核に触れ誘惑に落ちかける。休む間など一時もなかった。さすがのモニカも疲れ果てている。
「っ…!」
また誘惑が襲い掛かってくる。聖魔法を打とうとしたが、魔力を大量に消費する聖魔法を3日3晩打ち続けてきた彼女にもう魔力は残っていない。弱々しい銀色の光が放たれるも、強い誘惑はそれをものともしなかった。
「うう…ここまでなのぉ…?アーサー…会いたいよぉ…」
諦めてへたりこんだモニカの核に誘惑の手が触れる。やっと掴んだ核に誘惑はけたたましい笑い声をあげたような気がした。…が、その時。
《ギェァァァァ!!!》
「?!」
核に触れた誘惑の手が焼けただれ、そして消えた。核の周りを囲っていた数えきれないほどの手も、汚い叫び声をあげながら消えていく。
「もしかして助かった…?」
核の周りに徐々に光が戻ってくる。モニカは深い吐息を漏らし、目を覚まそうとした。だがまだそれはできなかった。
「体はすっきりしたけど、まだ頭がぐちゃぐちゃなんだわ。…でもきっと大丈夫。シャナがなんとかしてくれる」
モニカの核は静かに待った。体が浄化され、精神も癒されていくことを感じる。それでもまだ目覚めることができない。目覚め方が分からなかった。何もない空間で、モニカの核はぼんやりと漂うことしかできなかった。
「…早く会いたい。会いたいよアーサー」
「……」
「アーサー…。早く私を目覚めさせて…」
「……」
「アーサー…」
「……」
「ふぇっ…ふぇぇん…アーサァァ…。寂しいよぉ…。ひとりぼっちはいやだよぉ…」
「……」
「ひぐっ…。うぇぇん…。アーサー…。アーサー…。会いたいよぉ…」
《…ア》
「…?」
《モリア…》
「…アーサーの声…」
《モリア…モリア…目を覚まして…》
「アーサー…!アーサーだ!!…で、でもどうしたら目を覚ませるのか分からないよ…」
モニカの声に答えるように、一筋の風がモニカを撫でる。嗅いだことがない花の香りがした。風が吹いてきた方向に目をやると、遠くできらきらと輝いている。モニカはその輝きに手を伸ばし空を掴む。なにかが手の中に握られた感触がしたのでゆっくりと開いた。
「トパーズだ…」
宝石を眺めていると、緑の香りがする水を滴らせた一筋の糸がそれに繋がった。
《モリア…戻っておいで…》
「!!」
その瞬間、モニカはその糸に勢いよく引っ張りあげられた。
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