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淫魔編:ダンジョン巡り@ルアン
【186話】残されたたったひとつのことば
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結界が解け、何もないように見えていた壁に扉が現れた。アーサーは駆け寄りドアノブを掴む。焦りと不安で浅い息をして冷や汗をかいている。早く助けに行かなければならないと分かっているのに、この部屋の中で起こっていることを考え体が固まってしまう。
(この中でモニカは淫魔に…。いやだ…こわい。見たくない…)
《なにをしているアーサー…!早くモニカを…!》
「はっ…はっ…」
《…!まずい、すでに精神がやられかけている…!アーサー…!恐ろしいのは分かるが助けにいかねば事態が悪化するばかりだぞ!!》
(行かなきゃ…。早く行かなきゃ…!)
「くそっ…!動けよ僕の体っ…!」
ガタガタと震える手で、矢を一本引き抜き自分の太ももに突き刺した。痛みによって少し恐怖が和らぐ。アーサーは歯を食いしばってドアノブを回し、部屋へ飛び込んだ。だだっ広い部屋の中を見回しモニカを探す。部屋の奥からかすかに声と物音が聞こえた。
「ベッドに人影…っ。あそこだ…」
天蓋付きベッドのカーテンに透ける人影に背筋が凍った。地面にへばりついてしまったかのように重い足にもう一度矢を突き刺しベッドへ駆け寄った。
「モニカ?!モニカいる?!」
ベッドのカーテンを勢いよく開けたアーサーは、目の前の光景に頭が真っ白になった。カーテンの向こうには、キスをしながらモニカの体をまさぐっている自分がいた。信じられない光景にアーサーはあとずさる。思考が止まり体が痺れる。杖と弓が手から離れ床に落ちた。
「な、なんだよこれ…」
淫魔はちらりとアーサーを見た。一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニッと笑い見せつけるようにモニカと大人のキスをする。モニカの目はうつろで、だがどこか満たされた表情をしていた。唇が離れると淫魔にぎゅっと抱きつき、呂律のまわらない口調で呟くのが聞こえた。
「えへへ、アーサーだいすきぃ」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
悲痛な叫びをあげながら、アーサーは淫魔の髪を掴みベッドから引きずり下ろした。「いてて…」と痛そうに尻をさすっているそれの首を掴み持ち上げる。アーサーはフーフーと荒い息を立てて自分と同じ姿の魔物を睨みつけた。魔物は「もぉ~!今からってときに!タイミングわるぅ!!」と頬を膨らませている。
「おまえ…!僕の妹に…!!僕の姿でなんてことを…!!」
「やっほー本物のアーサー!なんでこの部屋にいるんだぁ?もしかして結界魔法破ったの?すげえな!グールと戦ってるときも思ったけど、君低級冒険者じゃないよなあ?いやだなあ、やめてくれよ。強者が弱者をいたぶるなんてよくないぞ?」
「どうして僕の姿なんだって聞いてんだよ!!」
「本当は君も分かってるんだろ?ドールちゃんが望んだからだよ」
「っ…」
「悔しいことに元の姿じゃ誘惑にかかんなくてさー。なのに君の姿になったら一発でがっつりかかったよ」
「もういいだまれっ…。殺すっ…!めちゃくちゃに殺してやるっ…!」
「それまでは嫌がってキスもさせてくれなかったのに、今じゃあすっかり甘えん坊さんだ。…ただ、誘惑に深くかかりすぎてちょっと呆けちゃったけどね。言葉も忘れちゃったみたい。ずっとおんなじことしか喋らないんだ。まあそれはそれでかわいいよ!」
「て…てめぇぇぇ!!!」
アーサーが淫魔の腹に拳をめりこませたが、淫魔はニコニコしながらアーサーの頭を撫でた。
「ありがとうアーサー、彼女をかわいいお人形にしてくれた君に感謝しなきゃね。これで名実ともにドールちゃんだ。あはは!!」
「だまれぇぇぇ!!!」
「グェッ」
首を掴んでいる手に力が入る。メリメリと骨が軋み、ゴキリと折れる音がした。首の骨が折れても淫魔は笑っている。
「君すごいなー!自分の姿をしているやつの首を躊躇いなく折るなんてさ!普通そんなことできなくない?!俺だったらやだわぁー」
「僕の姿でモニカにひどいことをするなんて。おまえは一番やっちゃいけないことをした」
「ひどいこと?冗談はよしてくれよ!見てみなよドールちゃんのこと。あんな嬉しそうな顔、君は見たことある?」
「うるさいやめろぉぉぉ!!」
アーサーは淫魔を床にたたきつけ、剣で首を斬り落とした。それでも淫魔は生きている。聖魔法でなければ死なないようだ。床に転がった頭がまだアーサーに話しかけてくる。
「わー、今度は首を斬り落とした!自分の顔をしてる頭をザックリ!」
「…聖魔法でしか死なないのか」
「そうだよ。残念だったねアーサー。首を斬ったって俺は死なないのさ。首がなくなったって動ける。モニカのこともまだ諦めてないぞ」
「っ!」
「きっと俺は今日アーサーに殺されるんだろうなあ。まあいっか。人気があるうちに死んだ方がかっこいいしなー。ま、死ぬ前に種だけは残しときますよ長老。俺、仕事できる淫魔っすから」
先ほどまで床に転がっていた胴体がいつの間にか消えている。振り返ると、首がなくなった体がまたベッドに上がりモニカと抱き合っていた。アーサーは叫びながら胴体を蹴り飛ばし、手足を切断してから心臓に剣を突き刺した。
「はぁっ…はぁっ…」
「こっわー。自分と同じ体をバラバラにしやがったよこの子」
「おまえ本当に…もう、黙れっ…!」
「ほら、やっぱり堪えてるんじゃないか。泣いてるよ、君」
アーサーはアイテムボックスをまさぐり聖魔法液を取り出した。胴体にかけるとジュゥゥゥと音を立てて肌が焼き爛れる。痛覚が繋がっているのか頭が痛みで絶叫している。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」
「おい、答えろ。おまえが死ねば誘惑は解けるのか?」
「どうだかなあ…。普通は解けるけど…ドールちゃんには3度も重ね掛けしたからなあ…完全には解けないかもね…。もしかしたら一生あのままかも。理性も倫理観も失った、本能のままただただ君を求めるだけのお人形…はは、かわいいだろ…?」
「うわぁぁぁぁ!!!殺す…!!殺す!!モニカをっ…!モニカを元に戻せぇぇぇ!!」
アーサーは剣に残りの聖魔法液をかけて顔の真ん中にぶっ刺した。それで怒りがおさまるはずもなく、何度も何度も自分の顔をした魔物に剣を突き刺す。顔が焼き爛れ刺し傷から血を流しながらも、淫魔は死ぬまでケラケラ笑いながらアーサーに話しかけ続けた。
「君の代わりを俺がして…俺が死んだら…俺の代わりを君がする…。はは…せいぜいドールちゃんをかわいがってやってくれよ…あの子が好きなことは…」
「うるさいだまれはやく死ねぇぇぇ!!!」
「……」
「死ねっ!!死ねっ!!僕はおまえを許さない!!死ねっ!死ねぇ!!!お前が…っ!モニカを…っ!モニカを…!!!」
《アーサー…やめよ…淫魔はすでに息絶えておる…。それ以上したらお前まで壊れてしまう…》
杖が弱々しく呟き、かすかな風を起こしアーサーを撫でた。アーサーはハッとして杖に目をやった。杖は先端をふわりと光らせて沈黙する。すでに息絶えた魔物の頭はもはや原型をとどめていなかった。床は血で赤く染まり、内臓や肉片が飛び散っている。
アーサーの手から剣が落ちた。血で濡れた体がガタガタと震えている。そんな彼の背中にふんわりとしたものが触れた。振り返ると、虚ろな目をしたモニカがアーサーを抱きしめている。
「モニカ…」
「えへへ…アーサーだいすきぃ」
「っ…」
アーサーは何も言わずにモニカを抱き返した。「えへへ」と笑うことしかできなくなったモニカの肩に顔を押し付けて泣く。モニカは嬉しそうに体を預け、唯一覚えている言葉を呟いた。
「アーサーだいすき」
(この中でモニカは淫魔に…。いやだ…こわい。見たくない…)
《なにをしているアーサー…!早くモニカを…!》
「はっ…はっ…」
《…!まずい、すでに精神がやられかけている…!アーサー…!恐ろしいのは分かるが助けにいかねば事態が悪化するばかりだぞ!!》
(行かなきゃ…。早く行かなきゃ…!)
「くそっ…!動けよ僕の体っ…!」
ガタガタと震える手で、矢を一本引き抜き自分の太ももに突き刺した。痛みによって少し恐怖が和らぐ。アーサーは歯を食いしばってドアノブを回し、部屋へ飛び込んだ。だだっ広い部屋の中を見回しモニカを探す。部屋の奥からかすかに声と物音が聞こえた。
「ベッドに人影…っ。あそこだ…」
天蓋付きベッドのカーテンに透ける人影に背筋が凍った。地面にへばりついてしまったかのように重い足にもう一度矢を突き刺しベッドへ駆け寄った。
「モニカ?!モニカいる?!」
ベッドのカーテンを勢いよく開けたアーサーは、目の前の光景に頭が真っ白になった。カーテンの向こうには、キスをしながらモニカの体をまさぐっている自分がいた。信じられない光景にアーサーはあとずさる。思考が止まり体が痺れる。杖と弓が手から離れ床に落ちた。
「な、なんだよこれ…」
淫魔はちらりとアーサーを見た。一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニッと笑い見せつけるようにモニカと大人のキスをする。モニカの目はうつろで、だがどこか満たされた表情をしていた。唇が離れると淫魔にぎゅっと抱きつき、呂律のまわらない口調で呟くのが聞こえた。
「えへへ、アーサーだいすきぃ」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
悲痛な叫びをあげながら、アーサーは淫魔の髪を掴みベッドから引きずり下ろした。「いてて…」と痛そうに尻をさすっているそれの首を掴み持ち上げる。アーサーはフーフーと荒い息を立てて自分と同じ姿の魔物を睨みつけた。魔物は「もぉ~!今からってときに!タイミングわるぅ!!」と頬を膨らませている。
「おまえ…!僕の妹に…!!僕の姿でなんてことを…!!」
「やっほー本物のアーサー!なんでこの部屋にいるんだぁ?もしかして結界魔法破ったの?すげえな!グールと戦ってるときも思ったけど、君低級冒険者じゃないよなあ?いやだなあ、やめてくれよ。強者が弱者をいたぶるなんてよくないぞ?」
「どうして僕の姿なんだって聞いてんだよ!!」
「本当は君も分かってるんだろ?ドールちゃんが望んだからだよ」
「っ…」
「悔しいことに元の姿じゃ誘惑にかかんなくてさー。なのに君の姿になったら一発でがっつりかかったよ」
「もういいだまれっ…。殺すっ…!めちゃくちゃに殺してやるっ…!」
「それまでは嫌がってキスもさせてくれなかったのに、今じゃあすっかり甘えん坊さんだ。…ただ、誘惑に深くかかりすぎてちょっと呆けちゃったけどね。言葉も忘れちゃったみたい。ずっとおんなじことしか喋らないんだ。まあそれはそれでかわいいよ!」
「て…てめぇぇぇ!!!」
アーサーが淫魔の腹に拳をめりこませたが、淫魔はニコニコしながらアーサーの頭を撫でた。
「ありがとうアーサー、彼女をかわいいお人形にしてくれた君に感謝しなきゃね。これで名実ともにドールちゃんだ。あはは!!」
「だまれぇぇぇ!!!」
「グェッ」
首を掴んでいる手に力が入る。メリメリと骨が軋み、ゴキリと折れる音がした。首の骨が折れても淫魔は笑っている。
「君すごいなー!自分の姿をしているやつの首を躊躇いなく折るなんてさ!普通そんなことできなくない?!俺だったらやだわぁー」
「僕の姿でモニカにひどいことをするなんて。おまえは一番やっちゃいけないことをした」
「ひどいこと?冗談はよしてくれよ!見てみなよドールちゃんのこと。あんな嬉しそうな顔、君は見たことある?」
「うるさいやめろぉぉぉ!!」
アーサーは淫魔を床にたたきつけ、剣で首を斬り落とした。それでも淫魔は生きている。聖魔法でなければ死なないようだ。床に転がった頭がまだアーサーに話しかけてくる。
「わー、今度は首を斬り落とした!自分の顔をしてる頭をザックリ!」
「…聖魔法でしか死なないのか」
「そうだよ。残念だったねアーサー。首を斬ったって俺は死なないのさ。首がなくなったって動ける。モニカのこともまだ諦めてないぞ」
「っ!」
「きっと俺は今日アーサーに殺されるんだろうなあ。まあいっか。人気があるうちに死んだ方がかっこいいしなー。ま、死ぬ前に種だけは残しときますよ長老。俺、仕事できる淫魔っすから」
先ほどまで床に転がっていた胴体がいつの間にか消えている。振り返ると、首がなくなった体がまたベッドに上がりモニカと抱き合っていた。アーサーは叫びながら胴体を蹴り飛ばし、手足を切断してから心臓に剣を突き刺した。
「はぁっ…はぁっ…」
「こっわー。自分と同じ体をバラバラにしやがったよこの子」
「おまえ本当に…もう、黙れっ…!」
「ほら、やっぱり堪えてるんじゃないか。泣いてるよ、君」
アーサーはアイテムボックスをまさぐり聖魔法液を取り出した。胴体にかけるとジュゥゥゥと音を立てて肌が焼き爛れる。痛覚が繋がっているのか頭が痛みで絶叫している。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」
「おい、答えろ。おまえが死ねば誘惑は解けるのか?」
「どうだかなあ…。普通は解けるけど…ドールちゃんには3度も重ね掛けしたからなあ…完全には解けないかもね…。もしかしたら一生あのままかも。理性も倫理観も失った、本能のままただただ君を求めるだけのお人形…はは、かわいいだろ…?」
「うわぁぁぁぁ!!!殺す…!!殺す!!モニカをっ…!モニカを元に戻せぇぇぇ!!」
アーサーは剣に残りの聖魔法液をかけて顔の真ん中にぶっ刺した。それで怒りがおさまるはずもなく、何度も何度も自分の顔をした魔物に剣を突き刺す。顔が焼き爛れ刺し傷から血を流しながらも、淫魔は死ぬまでケラケラ笑いながらアーサーに話しかけ続けた。
「君の代わりを俺がして…俺が死んだら…俺の代わりを君がする…。はは…せいぜいドールちゃんをかわいがってやってくれよ…あの子が好きなことは…」
「うるさいだまれはやく死ねぇぇぇ!!!」
「……」
「死ねっ!!死ねっ!!僕はおまえを許さない!!死ねっ!死ねぇ!!!お前が…っ!モニカを…っ!モニカを…!!!」
《アーサー…やめよ…淫魔はすでに息絶えておる…。それ以上したらお前まで壊れてしまう…》
杖が弱々しく呟き、かすかな風を起こしアーサーを撫でた。アーサーはハッとして杖に目をやった。杖は先端をふわりと光らせて沈黙する。すでに息絶えた魔物の頭はもはや原型をとどめていなかった。床は血で赤く染まり、内臓や肉片が飛び散っている。
アーサーの手から剣が落ちた。血で濡れた体がガタガタと震えている。そんな彼の背中にふんわりとしたものが触れた。振り返ると、虚ろな目をしたモニカがアーサーを抱きしめている。
「モニカ…」
「えへへ…アーサーだいすきぃ」
「っ…」
アーサーは何も言わずにモニカを抱き返した。「えへへ」と笑うことしかできなくなったモニカの肩に顔を押し付けて泣く。モニカは嬉しそうに体を預け、唯一覚えている言葉を呟いた。
「アーサーだいすき」
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