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淫魔編:1年ぶりの町巡り

【173話】クロネたちとの再会(ルアン)

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エドガから買い取った絵を郵便屋に預けてから、アーサーとモニカは再びカフェに行った。双子に気付いたマスターはニコニコしながらカフェの奥を指さした。見慣れた数人の背中に二人は駆け寄り飛びついた。

「わぁ!」

「クロネ!!」

「ヴァジー!!」

「その声、まさかアーサーとモニカか?!」

「「正解!!」」

カフェにいたのはクロネ、ヴァジー、リュノ、ヴィサロ、そしてもう一人知らない青年だった。クロネはアーサーとモニカをハグしてから彼を紹介した。

「シスルだ。以前君たちに洪水の絵を贈ったよね。その時に一緒に絵を描きに行ったのが彼だよ」

「はじめましてアーサー、モニカ。シスルだよ。君たちのことはクロネからよく聞かされている。なんでも強い冒険者な上に素敵な絵を描くとか」

「素敵な絵なんて、そんなっ」

モニカは照れながら両手を振った。絵を描くことが好きなモニカにとって、画家にそう言ってもらえることはとても嬉しかったのだろう。クロネはニコニコ笑いながらモニカの頭を撫でた。

「1年前に君たちにもらった絵、素晴らしかったよ。俺の家に飾ってある」

「わあ、嬉しいなあ!!」

「アーサー、モニカ。まあ座りなさい。何を食べたい?」

ヴィサロが空いている椅子をふたつ引きながら双子に声をかけた。アーサーとモニカはそこに座って「おにく!!」「チーズ!!」と元気に答える。マスターは「はいよっ」と頷いて注文を受け取った。料理が届くまで双子は画家たちとお喋りを楽しんだ。

シスルと呼ばれた青年は、おっとりしていて口調ものんびりしていた。クロネ曰くとんでもないマイペースで、一緒に絵を描きにでかけても少し目を離しただけでいつの間にか姿を消してしまうらしい。その時は決まって綺麗な女性に声をかけてはフラれているそうだ。それでもシスルは気にせず、なにもなかったかのようにクロネのもとへ戻り絵を描き始める。

「へえ!シスルはどんな絵を描くの?」

「好きなシュダイとかある?!」

「わ!みんなの好きなシュダイ聞いてみたいなあ!!」

早速エドガに教わった言葉を使ってみた。画家たちは「好きな主題か…」と口に手を当てて考えた。シスルはにっこり笑って即答する。

「空だよ」

「空?わ、素敵」

「空というか雲だな、シスルが好きなのは」

「雲…!」

「君たちが何気なく目にしてる雲、毎日、毎時間変わるんだ。僕はそんな雲を一つ残らず描きたいなあ」

「クロネはぁ?」

「俺は光だな」

「光?!光って描けるの?」

「もちろんかけるさ。この世界には光が溢れてるんだから。特に水面が好きだな」

「そう言われてみたらクロネの絵ってきらきらしてるもんね!」

「さすがモニカだな。前から思ってたが君は目がいいね」

「ううん。目が良いのはアーサーよ」

「いや、アーサーよりモニカのほうが目が良いな。目っていうのは、絵を見る目の事だ」

「アーサーもそこらへんの大人に比べたらずっと目がいいぞ」

「えへへ」

褒められて双子は嬉しそうにニコニコした。続けてリュノが好きな主題について話す。

「俺は女性を描くのが好きだ。少女もレディも大好きさ。特にふくよかな裸婦を描くのが好きだな。女性の乳房、あれ以上に芸術的なものはない乳房というのは…」

「ストーップ!おいリュノ落ち着けよお前が裸婦を好きなのは分かっているが、こんないたいけな少年少女の前で乳房について熱弁するんじゃない!」

「なぜだ?この子たちならきっと乳房の素晴らしさを分かってくれると思うんだが」

「やめておけ。ほらアーサーの顔を見ろ真っ赤になっているじゃないか!」

「ん?」

リュノがアーサーに目をやると、うつむいてもじもじと気まずそうにしている。乳房についての魅力を語るには、アーサーは少し早かったようだ。そんな兄を小突きながらモニカがにやにやした。

「アーサー?リュノはゲイジュツの話をしてるのよ?」

「わ、分かってるよぉ!」

「さて、次は僕かな。僕も人物画を描くのが好きだね。リュノと違って僕は男性をモデルにすることもよくあるな」

ヴァジーがそう言うと、隣に座っているクロネが彼の肩に腕を回しニッと笑った。

「ヴァジーは驚くほどの才能を持ってるんだ。あらゆる条件を満たした画家さ。だからこそ素晴らしいものをたくさん生み出さなきゃ、なあ?」

「クロネ。そんなおだてたって今月の家賃は払ってやらないよ」

「ははっ。それは残念」

クロネはおどけながら肩をすくめた。冗談っぽく聞こえるが、クロネは本気で先ほどの言葉を言ったのだとなんとなくアーサーには分かった。次にモニカがヴィサロに尋ねる。

「ヴィサロさんは何を描くのが好きなの?」

「わしか。わしは田園風景を描くのが好きだよ。描いていて落ち着くしね」

「で?モニカとアーサーは何を主題に描くのが好きなんだい?」

画家が自分の主題について話し終わったあと、ヴァジーが双子に聞いた。アーサーは「なんだろう…?」となかなか答えられなかったが、モニカがすぐさま即答した。

「私はね、アーサーを描くのがすき!」

「ああ、確かにこの前もらった絵はアーサーだったな。アーサーが屋台で飲み物を頼んでいるところ」

「そうなの!他にも描きたい絵がたくさんあるの!」

「いいね。完成したらまた送ってくれるかい?」

「もちろん!」

主題の話で盛り上がっている間に料理が次々とテーブルに並べられる。すべての注文が届いたので、主題の話はおしまいにして全員で乾杯した。アーサーはむしゃむしゃ肉を頬張りながら画家たちに話しかける。

「シュダイの話に夢中になっちゃって聞くの忘れてたけど、みんなあれから元気だった?!」

「ああ。元気さ。相変わらず毎日絵を描いてるよ」

「相変わらずこいつらは金がなくて俺の使い古しの絵具ばかり使ってる」

ヴァジーが冗談交じりにそう言うと、他の画家がハハハと笑った。

「俺たちの絵はなかなか売れない!稼ぎなんてないのに、最近増税されて困っている!でも俺たちは気にしないさ。だってヴァジーとカユボティがいるからな」

「おいおい。僕とカユボティは確かに資産家だが、それに頼りすぎるんじゃないよクロネ」

「カユボティ?」

はじめて聞く名前に双子は首を傾げた。彼らにはまだ仲の良い画家が何人かいるそうだ。その中の一人がカユボティ。画家であり資産家でもあるので、貧乏画家のクロネやリュノのパトロンらしい。絵を買ったり生活費を渡して彼らの画家としての人生を支えている。

「僕もカユボティも、クロネやリュノの才能はほっておけなかった。だから彼らに資金を渡してるんだがね。さすがにその金でメイドを雇ったときは怒ったよ」

ヴァジーがじろっとクロネを見た。クロネは「は、ははは。その話はもういいだろ…?な?」と珍しく冷や汗をかいている。

「君は金を持ったら全てすぐに使おうとする。だから金が溜まらないんだよ」

「ははは…」

「あっ、そうだクロネ。僕たちにもまた絵を買わせてよ。ヴァジーもヴィサロもリュノもシスレももしよければ」

「なに?また買う気なのか?」

「うん!実はね…」

アーサーはトロワに美術館を建てたいので展示する作品を集めていることを説明した。自分たちの美術館が建つかもしれないと聞いて、彼らは興奮して顔を真っ赤にした。

「な、なんだって…!!俺たちの絵を展示する美術館…!!」

「おいおい、君たちは一体何者なんだい。あのキャネモから土地を預かるなんて…。突拍子もないことをするなあ」

「あっ、このことは誰にも言わないでねっ。僕が男だってこと、キャネモは知らないし。それに僕たち、貴族の娘だって嘘ついてるから…」

「え?ってことはまさかアーサー、女の子としてキャネモに会ってるのかい?」

「…うん」

それを聞いた画家たちはおおはしゃぎした。

「確かに君は女の子みたいに綺麗な顔をしているものな!モニカと並んだらそりゃあ美少女姉妹としてキャネモも大喜びするだろう!!なるほどな!そういうことか!」

「色仕掛けとはなかなか計算高いことをするねえ」

「やぁ!マドモアゼル!」

「グラスがあいていらっしゃいますよ。お代わりはいかがかな?」

クロネとリュノがわざとらしくアーサーに会釈をした。アーサーは恥ずかしそうに「もー!からかわないでよぉ!!」と手足をバタバタさせた。モニカはその様子が面白くて声をあげて大笑いしている。その夜、カフェは夜中を過ぎるまで彼らの笑い声が絶えなかった。
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