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淫魔編:ポントワーブでの日常

【166話】金欠

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ユーリの薬屋をあとにして、双子は商人ギルドへ残りのエリクサーを卸しに行った。アーサーとモニカを見つけた受付嬢が慌ててギルドマスターを呼びに行く。すぐに息をきらせたギルドマスターが二人に挨拶しに来た。

「アビーさん!モニカさん!!今までどこへ行ってらしたんですかぁ!!10カ月もエリクサーの仕入れが止まってしまって、国中から問い合わせが殺到しているんですよぉ~!!」

「ええ?!」

「今やこの国にエリクサーは必要不可欠な希少品なんです!!中には金貨10枚出すからエリクサーを買わせてくれという人たちもいたくらいで…。しかし商品がないので売れず、本当に本当に困っていたんです!!」

「そ、そんなことになってたなんて…。ごめんなさい…」

「いいんですいいんです!こうしてまた卸してくださるのなら!!あーよかったぁ…。で、今日は何本卸していただけますか?!」

「えっと、12万8千本です」

「おお!!良かった…それだけあれば問い合わせて来てる人たちに回せます!ささ、買い取らせてください」

大勢の人に急かされていて余裕がないのか、ギルドマスターは従業員を呼び、アイテムボックスから取り出されたエリクサーをその場で箱に梱包し始めた。約13万本を梱包し終えると、受付嬢に出荷の準備を任せてギルドマスターは双子に白金貨1536枚を支払った。お金を受け取り店を出ようとする双子をギルドマスターが引き留める。

「お二人にお願いがあるんだ」

「なんでしょうか?」

「もしよければ、エリクサーを他の商人ギルドに降ろさないでくれないかな?そうしてくれるのなら、今まで1本小銀貨12枚で買い取っていたが、次からは小銀貨13枚で買い取るから…!」

「え?」

「くっ…やはりだめか…じゃ、じゃあ小銀貨14枚で買い取ろう!」

「え、いや…」

「むぅぅ…分かった!じゃあ小銀貨15枚で買い取る!!」

「えぇ…?」

アーサーとモニカは困ったように目を見合わせた。買い取り金額を引き上げなくとも、二人はポントワーブの商人ギルドにしか卸すつもりはなかったのだ。

「ど、どうするアビー?」

「ギルドマスターがそう言ってくれてるんだから…いいんじゃない?」

「じゃあ…ギルドマスターさん、それでお願いします…」

「本当か!!ありがとう!!!」

「ちゃんとお客さんに大銀貨2枚で行きわたるようにしてくださいね」

「もちろんだよ!そこは必ず守る!」

ギルドマスターは喜びで今にも泣きだしそうだった。双子の手を握りブンブンと振る。何度も頭を下げて、二人がギルドを出るのを見送った。

◇◇◇
家に戻ったアーサーは、モニカをダイニングチェアに座らせた。テーブルに今二人が所持している全財産を広げて見せる。モニカは驚いた顔で兄に尋ねた。

「え…?それだけ?」

「そうなんだよ。僕たち、今お金がないんだ」

テーブルに広げられた貨幣を数えると、白金貨1780枚と金貨8枚、大銀貨5枚だった。これだけあれば一軒家を7軒建てられるほどの資産なのだが、ひとつの町を預かっている二人としてはあまりにも少ない金額だった。

「学院に行く前は白金貨6100枚あったんだ。でもトロワの発展資金でほとんどなくなっちゃった。潜入捜査の報酬も、薬素材を買いとるのに全部使っちゃったし。今日エリクサーを売ったから1700枚になったけど、今朝の時点では白金貨90枚しかなかったんだ…。明日にはキャネモに白金貨300枚渡さないといけないのにどうしようかとヒヤヒヤしたよ…」

「そうだったの…。服で14枚も使ってる場合じゃないじゃないの」

「ま、まああれは、捜査を頑張った自分たちのご褒美ってことで…。モニカ、しばらく本気でエリクサーを作らないと、トロワを維持できないよ」

「分かった!頑張りましょう。私も粒薬をたくさん作って、エリクサー以外の収入を得られるように頑張るわ!」

「そうだね。僕もがんばるよ」

「トロワにエリクサーにダンジョンに…やることがいっぱいねアビー!」

「ふふ。忙しくなるねえ」

昼食(モニカ特製サンドウィッチ)を食べてから、双子はその日の分のエリクサーをしこしこ作った。エリクサー3000本、粒薬500こを作り終わった頃には夕方になっていた。一仕事終えたアーサーとモニカは、ほどよい疲れ(アーサーはかなり疲れていたが)を感じながら晩御飯を食べ、荷造りをした。

「トロワ楽しみだねアビー!」

「うん楽しみ!どんな風になってるのかなあ」

「1年前は養護施設が1棟建っただけだったもんね!えへへーみんな元気かなあ」

「早くイチに会いたいなあ」

「明日お寝坊しちゃだめよ?」

「しないよ!モニカこそちゃんと起きるんだよ?」

「しないもん!シャキッと起きるもん!!」

「へえー?」

「信じてないわね?!」

アーサーの予想通り、残念ながらモニカは翌朝シャキっと起きることはできなかった。熟睡して全く起きる気配のない妹を揺り動かしても不機嫌そうに唸られるだけだった。キャネモとの約束の時間に間に合わないと焦ったアーサーは、モニカの頬をつねったり腰をくすぐったりと思いつく限りのことをした。寝ぼけているモニカはうざったいことをする兄を氷漬けにして、そのまま30分気持ち良く眠った。
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