上 下
144 / 718
淫魔編:ポントワーブでの日常

【164話】満喫

しおりを挟む
高級服の他にも、新しい下着や寝衣、帽子、アビー用の服などを購入した。店を出るとき、双子も店主も大満足の表情を浮かべていた。服屋での買い物を終え、新しい服を身に纏いるんるんとスキップしながら次はコスメ店へ入る。コスメ店の店主も1年ぶりのお得意さんを手厚くもてなした。

「お久しぶりねアーサー、モニカ。あなたたちがいなくて寂しかったわぁ」

「久しぶり店主さん!!ねえねえユリの香りの新商品って出てないかなあ?」

「それがあるのよ!ユリの香りの泡風呂液!モニカなら絶対欲しがると思って仕入れといたのよぉ」

「ユリの泡風呂液ぃ?!ほしい!!ねえアーサー買ってもいい?!」

「もちろんいいよ!わぁ。今まで薔薇の香りの泡風呂しか入ったことがなかったから楽しみだなあ」

「それにねモニカ。今じゃこういうのもあるのよ」

店主が小さな丸い缶を取り出した。蓋を開けるとバームが詰め込まれている。モニカは「これなあに?」と首を傾げた。

「ユリの練香油(練り香水)よ。これをつけるとユリの香りがほのかに香る上に、お肌もスベスベになるのよ。それに持ち運びも便利」

「練香油…!」

「わあ!それ僕も欲しいなあ。香水だとにおいがきつすぎて、アーサーの時だとあんまり付ける気になれなかったんだあ。練香油くらいの香りだと、僕がつけてもいい気がする!」

「そうね!店主さん、男の子が付けて似合いそうな香りはある?」

「もちろんあるわよ。こっちへどうぞ」

二人は練香油が並ぶ棚へ案内された。モニカはもちろんユリの香りを選び、アーサーはかなり悩んで最終的にベルガモットの練香油にした。さっそく手首と首に付け、妹に嗅がせる。

「どう?」

「いい香り!えへへ、私のお兄ちゃんからすっごく良い匂いするー!!」

「自分から良い匂いする~。ずっと嗅いでたいよお」

練香油を選び終わった後は、泡風呂液、石鹸、タオル、化粧品を金貨3枚分買い足した。店を出る頃にはお昼時になっていたので、アーサーとモニカはカフェへ向かった。いつも通り店内にはおしゃれな音楽が流れている。ドアのベルが鳴り店主が顔を上げた。

「お?」

「こんにちはぁ」

「……」

「?」

「おっとすまんすまん。久しぶりすぎて一瞬誰だか分かんなかった。アーサーとモニカだよな?」

「うん!忘れないでよぉ」

「はは。冗談さ。ご注文は?」

「ホットチョコレート!」

「ちょっとモニカ、まずはちゃんとごはん食べないとだめでしょ?ホットチョコレートと甘いのはあとで」

「むぅ。じゃあオレンジジュースとパンとポテト!」

「僕も同じので!」

「かしこまりましたっと。ところでお前ら、1年も町をあけてどこ行ってたんだ?」

「えーっと…」

「あー…えへへ…」

「まあどこでもいいんだけどさ。ちょいちょいいなくなるよなあお前ら」

店主は軽く笑ってポテトを揚げ始めた。ぱちぱちと油が跳ねる音が耳に心地いい。
料理を待っている間、双子はさきほど買ったコスメをテーブルの上に広げて満足げに眺めていた。泡風呂液の蓋を開けて香りを確かめたり、化粧品を早速付けて遊んでいる。モニカがアーサーの唇に紅を塗ろうとしたので慌てて止めた。

「モニカ!今はアーサーだから!紅はだめだよ!」

「ちゃんとしたアビーに会いたいよぉ!!1年も会ってないよぉ!!」

「明日はアビーになるから!今日はアーサー!分かった?」

「はぁい…。明日はちゃんとアビーしてね?」

「うん。約束する」

「やった!」

「はいお待たせ。オレンジジュースと…パンとポテトだ」

「ありがとう!」

料理が来たので急いでコスメを片付け、双子はむしゃむしゃポテトとパンを頬張った。デザートにフレンチトーストとパイを頼み、おいしすぎて二人ともとろけそうな顔をした。

「ふぁぁ…おいしい…」

「ここのフレンチトーストとパイが一番おいしいよぉ…」

「そいつぁうれしいねえ。ほら、サービスだ」

気を良くした店主がクッキーを3枚ずつ小皿に入れてテーブルの上へ置いた。アーサーもモニカも大喜びでクッキーを口に入れる。最後にホットチョコレートを飲み店を出た。
次に画材屋でキャンバスや顔料を、食料品店でパンや果物、肉を購入し、理髪店で髪を整えた。髪を伸ばしているモニカは、腰まで伸ばした後ろ髪は量だけすいてもらい長さはそのままにした。前髪は眉下まで切り、髪にヘアオイルを塗ってもらってツヤツヤのサラサラになった。アーサーは少し長めに髪を整え、全体的にふんわりとした髪型にしてもらった。

ばっちり身なりを整えてから、双子はシャナの杖屋へ入った。朝みたときと随分印象が変わった二人を見てシャナは「まあまあまあ!」と興奮した声を出した。

「アーサー!モニカ!どうしたの?!朝とまったく違うじゃないの!髪を切ったのね?とっても似合ってるわあ!それにどうしたのその服!すっごくすっごくかわいいじゃないの!」

「いいでしょお?服屋の店主さんがね、私たちに似合うと思って特別に仕入れてくれた服なの!!」

「とぉっても素敵だわ!!こんなおしゃれさんポントワーブにはあなたたちしかいないわ!あらまぁー。ジルが見ちゃったら死んじゃうわね!」

シャナの誉め言葉の連続に、アーサーとモニカは良い気分になってファッションショーを始めた。杖屋の端から端までをかっこつけて歩き、くるりとターンして戻ってくる。それを見ながらシャナは拍手をして喜んだ。

「かわいいわぁー!!かわいいわぁー!!」

《おいモニカぁ!!はやく我をシャナに渡さんか!!》

「あっ!」

「もうブナったら!私いま手いっぱいだからあとにしてくれないかしら?」

《シャナといいジルといい、お前ら大人はなぜこいつらにこうもメロメロなんだ!!誘惑でもかけられているのか?!》

「だってこんなに可愛いんだもの!それにあなただってモニカにメロメロでしょう!!」

《我がモニカにメロメロだぁ?!笑わせるなぁ!!》

「ふぅん?そんなにバテバテになるまで力を貸すなんて、前までのあなたじゃ考えられないもの。メロメロじゃなきゃそこまでしないでしょう?」

「え?」

《ふん!我の状態が分かっているならさっさと回復させんか!》

「はいはい。…アーサーごめんねえ。杖がうるさくって…。ファッションショーの続きはまた今度ね」

「うん!」

「モニカ、杖を貸してくれる?」

「うん…。ねえシャナ。杖、そんなに疲れてるの?」

「ええ。かなり弱ってるわ。モニカ、杖の力たくさん使ったでしょう」

「…うん。同時魔法をたくさん使った」

それを聞いたシャナが困ったように笑った。

「モニカあなた、5年前よりずいぶん魔力が多くなっているわ。それにコントロールもできるようになったでしょう。5年前のあなたは、2時間同時魔法を使って魔力を使い果たしていたわね」

「うん」

「だからあのときは杖を叱ったけれど、同時魔法は杖もかなり力を消費するのよ。あなたとアーサーを助けるために、杖は無理をしてあんな力をあなたに授けた」

「…そうだったの?杖…」

《シャナはおおげさに言ってるだけだ》

「あなたと私にとって、杖はただの杖じゃないでしょう?意思を持ったひとつのいのちよ。これからは、杖の声をよく聞いてあげて。あまり無理をさせないであげてね」

「ごめんなさい杖…。そう言われてみれば、杖はずっと疲れたって言ってたのに…ごめんなさい」

《かまわん。主に力を貸すのが我の役目だ》

「…モニカ。今では杖よりもあなたの方が力が強くなっている。今のあなたに見合った杖もあるわ。ブナは私が預かって、新しい杖にする手も…」

《……》

「それはだめ!私にとっての杖はブナの杖だけ!」

「そうだよ!モニカの相棒はブナの杖だけだよ!」

《アーサー…》

「この5年間、モニカを守ってくれたのはブナの杖だよ!それにブナの杖とお話してるモニカはすっごく楽しそうなんだ!」

アーサーの言葉にモニカはぶんぶんと首を縦に振った。シャナは目じりを下げて杖を撫でた。

「良かったわね、杖。あなたみたいな曲者を、こんなに大好きになってくれる人たちがいたのねえ」

《…フンっ》

「あれ?杖、水垂れてるよ」

「あははほんとだ。杖ってけっこう泣き虫だよね」

《泣いてなどいない…っ》

「さて、この泣きべそ杖を聖水に浸すわね。アーサーとモニカはお茶でも飲んでゆっくりしてて」

「うん!」

シャナが淹れたお茶を飲みながら、双子は杖が気持ちよさそうに聖水に浸かるところを眺めていた。2時間ほどしてやっと杖からほわほわと光が漏れ始めた。力が回復したようだ。そのあとはシャナの強風魔法で乾かされ、杖の絶叫が店に響き渡った。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。