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学院編:オヴェルニー学院
【156話】双子、学院を去る
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ウィルクはホールの端に並べられているソファに腰かけ、一人ぽつんとワインを飲んでいた。両親と手を繋いでいる生徒たち、S級冒険者との再会を喜んでいる兄たちに無意識に視線が流れてしまう。期待なんてしていなかったが、彼らを見る目に切なさと羨望が滲んでいた。
「そんな目で見るんじゃないの。腐っても王族なんだから毅然としていなさい」
「っ、お姉さま!」
ジュリアがウィルクの隣に腰かけた。小さく乾杯してから一口ワインを飲む。落ち込んでいるウィルクにジュリアがぴしゃりと言った。
「慣れなさい。それしかないわ」
「……」
「私は慣れたわ」
「お姉さま…」
学院でも城でも、ジュリアは弱いところを見せない。小さい頃からいつも凛としていて、両親がヴィクスばかり可愛がっていても泣き言を言ったことは一度もなかった。寂しさでグズグズ泣いているウィルクに、みっともないだの恥ずかしいだのと非難しながら蔑んだ目を向けていた。ウィルクはてっきり、姉は一人でも寂しくないのだと、一人の方が性に合っているのだと思っていた。
だがそうではなかったのだとジュリアの一言で気付いた。いつも気丈に振舞っていたが、彼女はずっと寂しかったのだ。両親に愛されないことに慣れてしまうほど、彼女は孤独と付き合ってきたのだ。両親と自分の立場をわきまえ、ずっと孤独に耐えていたのだ。
ウィルクの視線に気付いたジュリアがぼそりと呟いた。
「でも、今年は幾分か気分がマシね。あなたがいるからひとりじゃないもの」
「えっ?」
驚いているウィルクにジュリアがウィンクをする。
「ここでも、お城でも…今のあなたがいてくれたら息苦しさがまぎれるわ」
「僕もです。お姉さま」
ウィルクはおそるおそる姉の手を握った。ジュリアは目じりをさげ、それを握り返す。二人が手を握り合ったのは生まれてはじめてのことだった。
「おーーい!!ウィルク、ジュリアー!!」
微笑み合っていたジュリアとウィルクの元へアーサーとモニカが駆け寄ってきた。双子はそのまま妹弟をぎゅーっと抱きしめる。
「わっ!」
「きゃっ」
「今日でお別れなんて寂しいよ!!もっとずっと一緒にいたかったなあ!」
「僕もですお兄さま!!」
「ジュリア!!あなたと出会えて本当に良かったわ!!」
「モ…モニカ様ぁぁぁっ!!」
「手紙を書くよ。たくさんね」
「僕も手紙書くぅぅぅ!!」
「良かったらポントワーブに遊びに来て。あ、ご両親には内緒でよ?」
「行きますぅぅぅ!!」
「立派な王子と王女になるんだよ。民のことを大切にした、素敵な国にしてね」
「「約束します!!」」
それからジュリアとウィルクは、双子と手を繋ぎながらパーティーを楽しんだ。ウィルクはアーサーの手をぎゅっと握り、隣にいるジュリアをちらりと見た。
(お姉さま。あなたは気づいていないけど、僕たちは今、家族と一緒にパーティーを楽しんでいるんですよ。僕たちのことを大切に思ってくれている家族と…)
笑い、はしゃぎ、食べて飲み…。パーティーが終わるまで、ジュリアとウィルクは大好きな人の手を離さなかった。
◇◇◇
パーティーが終わり、生徒たちとその両親がホールから次々とはけていく。カミーユたちは双子に黒いマントを被せ、フードで顔を隠させた。校長先生に特別に許可をもらい裏門へ停めていた馬車へ彼らを乗せる。
《気付かれてないか?》
《大丈夫よォ。王族関係者はこの子たちに気付いていないわ。追手もなし》
《よし、じゃあ出るか》
カミーユが合図をすると馬車が走り始めた。
「ねえカミーユ。どうして僕たちだけ裏門なの?みんなとお別れの挨拶したかったよぉ…」
「ジュリアとウィルクを見送りたかったよぉ…」
「忘れたのか?お前らはここの生徒じゃねえ。潜入捜査をしてたただの冒険者だ。ご貴族さまと同じ退場ができると思うなよ」
「むぅぅ…」
「だぁーーーー!!!はらが苦しすぎるぜーーーー!!」
双子の気を逸らすためか素でかは不明だが、リアーナが突然そう叫びながらドレスを脱ぎだした。次々とドレスをカミーユの顔に投げつけ、コットとペチコートの姿になって「あー!すっきりしたぁ!」と満足げに笑っている。
「リアーナてめぇ…なんでお前の脱ぎたてほやほやのドレスを顔面に浴びねえといけねえんだ…」
「ぎゃははは!!そんなこと言いながらちょっと嬉しそうだったぞ?!」
「ああん?やんのか?」
「お!やるか?いいぜ!」
「ぎゃー!!馬車の中でケンカするのはやめてぇ!」
立ちあがって武器を出そうとする二人に双子がしがみついた。カトリナはにこにこ笑っておりジルは目を瞑って仮眠をとっている。カミーユはアーサーを見てニヤッとした。口元がかすかに動いている。ジルとカトリナがぴくりと反応し、小さくため息をついた。
「そうだな。馬車の中でケンカすんのはいけねえな」
「ほっ」
リアーナもニィっと笑って頷いた。
「だなあ。馬車の中じゃあいけねーわ」
「よかったぁ…」
「御者、馬車を止めてくれ」
「ん?!」
馬車が止まると、カミーユとリアーナが双子をひっつけたまま外へ出た。二人はあたりを見回して「ここならいけるな」「おう。充分」と話している。
「あの…カミーユ、リアーナ、なにを…」
「アーサー、モニカ、2vs2するぞ」
「ええ?!」
「どうしてぇ?!」
「ケンカしねえかわりにお前らの力が訛ってないか確認してやる」
「馬車の中じゃねえから大丈夫だろぉ?」
「そういう問題じゃないんだけどぉ!!」
「大丈夫だ5分もかからねえよ。お前らの相手なんて」
「なっ」
「むぅっ!」
あっさりと挑発に乗せられた双子はアイテムボックスから杖と剣を取り出した。それを見たカミーユとリアーナはケラケラ笑いながら武器を握る。馬車の中から様子を見ていたカトリナとジルが苦笑いした。
「あららァ。あんな挑発に乗っちゃって」
「さすがはカミーユとリアーナの弟子だね。ちょろすぎる」
「カミーユ!僕たち結構強いんだよ!」
「そうよ!学院の先生たちよりも強いんだからね!」
「ほぉ?学院の先生と俺らを同列に並べてんのかお前ら」
「かー!これだから若造はぁ!」
「いやお前も充分若造だからな?」
「はぁ?!お前がジジィなだけだろ?!」
「ああん?やんのか?」
「やるか?いいぜ!」
「ちょっと待って僕たちと2vs2するんじゃないの?!」
「おっとそうだった」
「バカがいる」
「バカな大人が二人いるわねェ」
「おい外野うるせーぞ!!さっさと合図しろよ!!」
「はいはい」
カトリナは首にかけていたネックレスを外し、馬車から外へ放り投げた。それが地面に落ちた瞬間、カミーユとアーサーが消え、リアーナとモニカが杖を振った。
「ぐっ…!」
「ほお、アーサー。リアーナを攻撃するんじゃなくてモニカを守ったか。やるな」
モニカの背後でアーサーがカミーユの剣を受け止める。1年ぶりに受けたS級冒険者の剣の重みにアーサーは顔をしかめた。
(重い…!一撃受け止めただけで腕が痺れる…!押し返せない!)
「前までのお前なら剣を落としてたな。よく耐えた。だが一撃耐えられたって意味ねえよ」
「わっ!わっ!重っ!速っ!ちょっ!ぐっ!」
二人の攻防に構わずモニカが特大の雷を落とすが、リアーナに軽々打ち消されてしまう。
(むぅっ!やっぱりこの程度じゃリアーナに消されちゃうわよね!こうなったら…!)
「杖!」
《また我か!》
「おっ?」
モニカが両手をかざし、炎と風を同時に打った。リアーナは口笛を吹いて「ひゅー!すっげーなモニカ!そんなこともできんのか!」と目をキラキラさせながら、一瞬にしてそれらを萎えさせた。
「えっ?!」
「なに驚いてんだよモニカ!あたしはお前みたいに同時には打てねえが、素早く打ってほぼ同時にならできるぜ!!」
「むぅぅっ!!」
「ほれほれもっと打ってみろよ!!あたしの攻撃を打ち消すことも忘れんなよ!!」
「きゃっ!きゃー!!ちょ、リアーナ!!まっ!ひぃぃん!!」
◇◇◇
「おかえりなさい。ちょうど5分ねェ」
懐中時計を眺めながらカトリナが声をかける。血だらけで意識を失っているアーサーを抱えた無傷のカミーユと、黒焦げになってぐったりしているモニカを背負った無傷のリアーナが馬車へ戻って来た。二人にエリクサーを飲ませ、再び馬車を走らせる。
「二人とも成長してたね」
「ちぃっとだけだけどな!!」
「戦術の知識が増えたみたいだな」
「でもまだまだねェ」
「ガキなんてこんなもんだろ。厳しいんだよカトリナは」
「…モニカぁ。僕たち勘違いしてたみたい…」
「そうね…私たちなんて、まだまだへっぽこのよわよわだわ…」
《はは。へっぽこのよわよわだってさ》
《うふふ、おかしいわァ。A級の上位くらいの実力はあるのにねェ》
《おい見たか?!モニカあいつ魔法同時に打ちやがったぞ!!なんだあれやばくねえか?!》
《アーサーも…疲弊してるとはいえ本気出した俺にあそこまでついてくるたぁビビったぜ。本気の俺と5分もやりあえるやつなんてそうそういねえよ》
《へへっ、回復してた分の魔力がまたカッスカスになっちまったじゃねーか!モニカ、魔法のコントロールかなりうまくなってやがる。基礎練ちゃんと毎日やってんのが分かったぜ》
《でも…今の実力でも足りない。Sランクダンジョンに連れて行ったら間違いなく死ぬよ》
《ああ。だからこいつらに驕らせちゃいけねえ。もっと強くなんねえといけねえ》
《少なくとも下位S級くらいの実力にはなってもらわないとダメねェ》
数時間ごとに休憩を挟みながら、アーサーとモニカ、そしてS級冒険者たちはゆっくりとポントワーブへ馬車を走らせた。
この一年、たくさんの出会いがあり、たくさんの出来事があった。早くポントワーブへ帰りたいと思う日も少なくなかった。ウィルクやジュリアとうまくやっていくことなんてできないと諦めかけた日もあった。だが今は、もっと学院にいたいと思ってしまうほど、楽しく心地のいい場所になっていた。離れたくないと思ってしまうほど、妹弟のことが大好きになっていた。
「また、みんなに会いに行こうねモニカ」
「ええ。絶対に」
双子は手を繋ぎ、カミーユとカトリナの肩に頭をもたれて眠りに落ちた。夢のような一年間が終わり、またポントワーブでの日常が始まる。
「そんな目で見るんじゃないの。腐っても王族なんだから毅然としていなさい」
「っ、お姉さま!」
ジュリアがウィルクの隣に腰かけた。小さく乾杯してから一口ワインを飲む。落ち込んでいるウィルクにジュリアがぴしゃりと言った。
「慣れなさい。それしかないわ」
「……」
「私は慣れたわ」
「お姉さま…」
学院でも城でも、ジュリアは弱いところを見せない。小さい頃からいつも凛としていて、両親がヴィクスばかり可愛がっていても泣き言を言ったことは一度もなかった。寂しさでグズグズ泣いているウィルクに、みっともないだの恥ずかしいだのと非難しながら蔑んだ目を向けていた。ウィルクはてっきり、姉は一人でも寂しくないのだと、一人の方が性に合っているのだと思っていた。
だがそうではなかったのだとジュリアの一言で気付いた。いつも気丈に振舞っていたが、彼女はずっと寂しかったのだ。両親に愛されないことに慣れてしまうほど、彼女は孤独と付き合ってきたのだ。両親と自分の立場をわきまえ、ずっと孤独に耐えていたのだ。
ウィルクの視線に気付いたジュリアがぼそりと呟いた。
「でも、今年は幾分か気分がマシね。あなたがいるからひとりじゃないもの」
「えっ?」
驚いているウィルクにジュリアがウィンクをする。
「ここでも、お城でも…今のあなたがいてくれたら息苦しさがまぎれるわ」
「僕もです。お姉さま」
ウィルクはおそるおそる姉の手を握った。ジュリアは目じりをさげ、それを握り返す。二人が手を握り合ったのは生まれてはじめてのことだった。
「おーーい!!ウィルク、ジュリアー!!」
微笑み合っていたジュリアとウィルクの元へアーサーとモニカが駆け寄ってきた。双子はそのまま妹弟をぎゅーっと抱きしめる。
「わっ!」
「きゃっ」
「今日でお別れなんて寂しいよ!!もっとずっと一緒にいたかったなあ!」
「僕もですお兄さま!!」
「ジュリア!!あなたと出会えて本当に良かったわ!!」
「モ…モニカ様ぁぁぁっ!!」
「手紙を書くよ。たくさんね」
「僕も手紙書くぅぅぅ!!」
「良かったらポントワーブに遊びに来て。あ、ご両親には内緒でよ?」
「行きますぅぅぅ!!」
「立派な王子と王女になるんだよ。民のことを大切にした、素敵な国にしてね」
「「約束します!!」」
それからジュリアとウィルクは、双子と手を繋ぎながらパーティーを楽しんだ。ウィルクはアーサーの手をぎゅっと握り、隣にいるジュリアをちらりと見た。
(お姉さま。あなたは気づいていないけど、僕たちは今、家族と一緒にパーティーを楽しんでいるんですよ。僕たちのことを大切に思ってくれている家族と…)
笑い、はしゃぎ、食べて飲み…。パーティーが終わるまで、ジュリアとウィルクは大好きな人の手を離さなかった。
◇◇◇
パーティーが終わり、生徒たちとその両親がホールから次々とはけていく。カミーユたちは双子に黒いマントを被せ、フードで顔を隠させた。校長先生に特別に許可をもらい裏門へ停めていた馬車へ彼らを乗せる。
《気付かれてないか?》
《大丈夫よォ。王族関係者はこの子たちに気付いていないわ。追手もなし》
《よし、じゃあ出るか》
カミーユが合図をすると馬車が走り始めた。
「ねえカミーユ。どうして僕たちだけ裏門なの?みんなとお別れの挨拶したかったよぉ…」
「ジュリアとウィルクを見送りたかったよぉ…」
「忘れたのか?お前らはここの生徒じゃねえ。潜入捜査をしてたただの冒険者だ。ご貴族さまと同じ退場ができると思うなよ」
「むぅぅ…」
「だぁーーーー!!!はらが苦しすぎるぜーーーー!!」
双子の気を逸らすためか素でかは不明だが、リアーナが突然そう叫びながらドレスを脱ぎだした。次々とドレスをカミーユの顔に投げつけ、コットとペチコートの姿になって「あー!すっきりしたぁ!」と満足げに笑っている。
「リアーナてめぇ…なんでお前の脱ぎたてほやほやのドレスを顔面に浴びねえといけねえんだ…」
「ぎゃははは!!そんなこと言いながらちょっと嬉しそうだったぞ?!」
「ああん?やんのか?」
「お!やるか?いいぜ!」
「ぎゃー!!馬車の中でケンカするのはやめてぇ!」
立ちあがって武器を出そうとする二人に双子がしがみついた。カトリナはにこにこ笑っておりジルは目を瞑って仮眠をとっている。カミーユはアーサーを見てニヤッとした。口元がかすかに動いている。ジルとカトリナがぴくりと反応し、小さくため息をついた。
「そうだな。馬車の中でケンカすんのはいけねえな」
「ほっ」
リアーナもニィっと笑って頷いた。
「だなあ。馬車の中じゃあいけねーわ」
「よかったぁ…」
「御者、馬車を止めてくれ」
「ん?!」
馬車が止まると、カミーユとリアーナが双子をひっつけたまま外へ出た。二人はあたりを見回して「ここならいけるな」「おう。充分」と話している。
「あの…カミーユ、リアーナ、なにを…」
「アーサー、モニカ、2vs2するぞ」
「ええ?!」
「どうしてぇ?!」
「ケンカしねえかわりにお前らの力が訛ってないか確認してやる」
「馬車の中じゃねえから大丈夫だろぉ?」
「そういう問題じゃないんだけどぉ!!」
「大丈夫だ5分もかからねえよ。お前らの相手なんて」
「なっ」
「むぅっ!」
あっさりと挑発に乗せられた双子はアイテムボックスから杖と剣を取り出した。それを見たカミーユとリアーナはケラケラ笑いながら武器を握る。馬車の中から様子を見ていたカトリナとジルが苦笑いした。
「あららァ。あんな挑発に乗っちゃって」
「さすがはカミーユとリアーナの弟子だね。ちょろすぎる」
「カミーユ!僕たち結構強いんだよ!」
「そうよ!学院の先生たちよりも強いんだからね!」
「ほぉ?学院の先生と俺らを同列に並べてんのかお前ら」
「かー!これだから若造はぁ!」
「いやお前も充分若造だからな?」
「はぁ?!お前がジジィなだけだろ?!」
「ああん?やんのか?」
「やるか?いいぜ!」
「ちょっと待って僕たちと2vs2するんじゃないの?!」
「おっとそうだった」
「バカがいる」
「バカな大人が二人いるわねェ」
「おい外野うるせーぞ!!さっさと合図しろよ!!」
「はいはい」
カトリナは首にかけていたネックレスを外し、馬車から外へ放り投げた。それが地面に落ちた瞬間、カミーユとアーサーが消え、リアーナとモニカが杖を振った。
「ぐっ…!」
「ほお、アーサー。リアーナを攻撃するんじゃなくてモニカを守ったか。やるな」
モニカの背後でアーサーがカミーユの剣を受け止める。1年ぶりに受けたS級冒険者の剣の重みにアーサーは顔をしかめた。
(重い…!一撃受け止めただけで腕が痺れる…!押し返せない!)
「前までのお前なら剣を落としてたな。よく耐えた。だが一撃耐えられたって意味ねえよ」
「わっ!わっ!重っ!速っ!ちょっ!ぐっ!」
二人の攻防に構わずモニカが特大の雷を落とすが、リアーナに軽々打ち消されてしまう。
(むぅっ!やっぱりこの程度じゃリアーナに消されちゃうわよね!こうなったら…!)
「杖!」
《また我か!》
「おっ?」
モニカが両手をかざし、炎と風を同時に打った。リアーナは口笛を吹いて「ひゅー!すっげーなモニカ!そんなこともできんのか!」と目をキラキラさせながら、一瞬にしてそれらを萎えさせた。
「えっ?!」
「なに驚いてんだよモニカ!あたしはお前みたいに同時には打てねえが、素早く打ってほぼ同時にならできるぜ!!」
「むぅぅっ!!」
「ほれほれもっと打ってみろよ!!あたしの攻撃を打ち消すことも忘れんなよ!!」
「きゃっ!きゃー!!ちょ、リアーナ!!まっ!ひぃぃん!!」
◇◇◇
「おかえりなさい。ちょうど5分ねェ」
懐中時計を眺めながらカトリナが声をかける。血だらけで意識を失っているアーサーを抱えた無傷のカミーユと、黒焦げになってぐったりしているモニカを背負った無傷のリアーナが馬車へ戻って来た。二人にエリクサーを飲ませ、再び馬車を走らせる。
「二人とも成長してたね」
「ちぃっとだけだけどな!!」
「戦術の知識が増えたみたいだな」
「でもまだまだねェ」
「ガキなんてこんなもんだろ。厳しいんだよカトリナは」
「…モニカぁ。僕たち勘違いしてたみたい…」
「そうね…私たちなんて、まだまだへっぽこのよわよわだわ…」
《はは。へっぽこのよわよわだってさ》
《うふふ、おかしいわァ。A級の上位くらいの実力はあるのにねェ》
《おい見たか?!モニカあいつ魔法同時に打ちやがったぞ!!なんだあれやばくねえか?!》
《アーサーも…疲弊してるとはいえ本気出した俺にあそこまでついてくるたぁビビったぜ。本気の俺と5分もやりあえるやつなんてそうそういねえよ》
《へへっ、回復してた分の魔力がまたカッスカスになっちまったじゃねーか!モニカ、魔法のコントロールかなりうまくなってやがる。基礎練ちゃんと毎日やってんのが分かったぜ》
《でも…今の実力でも足りない。Sランクダンジョンに連れて行ったら間違いなく死ぬよ》
《ああ。だからこいつらに驕らせちゃいけねえ。もっと強くなんねえといけねえ》
《少なくとも下位S級くらいの実力にはなってもらわないとダメねェ》
数時間ごとに休憩を挟みながら、アーサーとモニカ、そしてS級冒険者たちはゆっくりとポントワーブへ馬車を走らせた。
この一年、たくさんの出会いがあり、たくさんの出来事があった。早くポントワーブへ帰りたいと思う日も少なくなかった。ウィルクやジュリアとうまくやっていくことなんてできないと諦めかけた日もあった。だが今は、もっと学院にいたいと思ってしまうほど、楽しく心地のいい場所になっていた。離れたくないと思ってしまうほど、妹弟のことが大好きになっていた。
「また、みんなに会いに行こうねモニカ」
「ええ。絶対に」
双子は手を繋ぎ、カミーユとカトリナの肩に頭をもたれて眠りに落ちた。夢のような一年間が終わり、またポントワーブでの日常が始まる。
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