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学院編:オヴェルニー学院
【148話】vsダフキャロル
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《さて!準決勝戦も残り2試合となりましたぁぁ!!彼らの対決を楽しみにしてた人は多いんじゃないでしょうか!では入場してもらいましょう!!ローズ寮!!ダフ選手、キャロル選手ぅぅぅ!!》
ダフとキャロルが入場すると大歓声が沸き上がった。試合に出場し慣れている彼らは観客に向かって手を振っている。ダフが「お前らぁぁぁ!!楽しませてやるからなぁあぁ!!」と拳を突き上げると、ローズ寮の生徒たちから声援が送られてきた。キャロルはそんなダフの襟首を掴んでモニカたちが待っているところまで引きずって行った。
「モニ…」
「モニカ!今日こそあなたに勝つわ!この9か月間、幾度となく寮対抗戦で戦ったけれど、私は一度も勝てなかった。あなたと私じゃ実力に雲泥の差があるから当然ね。でも今日はダフがいる。私たちは5年間ずっとこのペアでやってきたの。ペア戦で私たちの右に出るものはいないわ」
ダフの言葉を遮ってキャロルがモニカに杖を向けた。キャロルはローズ寮随一の魔法使いと知られている。2か月前に行われた魔法寮対抗戦ではジュリアに圧勝したほどの実力を持っている。だがそれも学院内での話だ。B級冒険者以上の実力があるモニカの前では赤子同然だった。キャロルはモニカに追いつくため、この日のために寝る間を惜しんで魔法の特訓をしていた。
彼女の意気込みを感じ取り、モニカは武者震いをしてからこくりと頷いた。
「キャロル!今日も私が勝つわ!手加減なんてしないわよ!」
「もちろんよ!!」
バチバチと火花を散らしている女性陣に気おされ、ダフとウィルクが目を合わせた。モニカへ言おうとしていたセリフをキャロルに取られてしまったダフは、慌ててウィルクに向かって叫んだ。
「ウィ、ウィルク王子!!今日は勝たせてもらいますよ!!体に傷を入れること、先に謝っときます!!」
「ダフ!僕を見くびるなよ!!この9か月間、お兄さまに何度腹に穴を開けられたと思っている!!そんなことくらいで腹を立てる僕はもういない!!だが、果たして僕に攻撃を当てられるかな?僕はすばしっこいぞ」
吸血鬼事件以降、ウィルクはアーサーに剣を教えてもらっていた。カミーユにしか特訓してもらったことのないアーサーは、彼の特訓が普通のものだと勘違いしていた。弟に教えを請われたアーサーは、S級冒険者が彼にした特訓を真似た。癖を正したあとはひたすら剣を交え合う。もちろん木刀ではなく真剣で。エリクサーで即時回復できる程度に留めていたが、ウィルクは特訓の度に血だらけになるまでアーサーの剣を体に受けた。おかげで剣が体を貫通するくらいでは全く動じないようになっていた。もちろん剣の腕も9か月前とは比べ物にならないほど上達した。
すっかり剣士の顔つきになったウィルクにダフは戦いたくてうずうずした。実況者が座っている場所へ大声で呼びかける。
「リーノ!ニコロ!!早く試合開始の合図を!!」
《おっとぉ…ダフ選手が目をキラキラさせていますねぇ。あいつは好敵手を見た時子どものような顔をする》
《あはは!!ウィルク選手がダフ選手のお眼鏡にかなったようですね!!審判!!試合を開始してください!》
審判が頷き試合開始の合図をする。さすが2vs2に慣れているだけあり、ダフは真っ先にモニカの背後をとった。
「っ!」
(反応が遅れちゃった!ダフ…!体が大きいくせにほんとっ、素早い!!魔法が間に合わないっ…!)
ガチィィンっ!と剣と剣が交わる音がした。ダフが目の前から消えたことに気付き、ウィルクがモニカの背後に回りダフの剣を受け止めたのだ。ダフの重い剣戟にウィルクの手が痺れる。
「ウィルク!!」
「ぐっ…!」
「やりますねウィルク王子!!俺の速さについてくるとは!!だが…力は俺の方が上のようだ…うぉぉぁっ!」
モニカの風魔法がダフを吹き飛ばす。キャロルが逆風の風魔法を当てるが、とてもじゃないがモニカの風魔法は完全に相殺できない。ダフは競技場の端まで飛ばされたが、すぐに戻ってきた。怪我はなさそうだ。
「ごめんダフ!殺しきれなかった」
「いい!充分だ!!お前の魔法がいなけりゃ観客席まで飛んでっちまうところだったぜ!!」
ダフはそう言いながら再びモニカに剣を振った。キャロルもモニカに向けて火魔法を打つ。モニカはキャロルの魔法を打ち消し、ウィルクがダフの剣を受けた。
(重いっ…!剣を受けるたびに腕がちぎれそうになる…!お兄さまとはまた違う…豪快な強さ!刺されるんじゃなくて、叩き潰されそうだ…)
「怖いか?ウィルク王子」
「!」
次々と攻撃をしかけてくるダフ。それをなんとか剣で受け止めているウィルク。ダフの力が強すぎ速すぎ、反撃できない。防いでいるだけではウィルクの腕力がなくなって終わりだ。ウィルクの頭に一瞬よぎった恐怖心を感じ取り、ダフがニッと笑った。
「顔にそう書いてあるぜ」
「ちっ…!」
モニカはキャロルがウィルクに向けて放つ魔法を逆属性魔法で打ち消しつつ、ダフに攻撃をしかけていた。モニカの火魔法をくらい皮膚が焼け焦げてもお構いなしに剣を振るう(即死攻撃をしてはいけないのでかなり手加減をしなければいけなかった)。死なない程度に雷を落としても、一瞬白目をむいただけですぐ意識を取り戻し何事もなかったかのようにウィルクを斬りつけた。
キャロルの土魔法である程度相殺されていたとはいえ、雷を受けてピンピンしている人など見たことがない(アーサーはモニカの全力雷魔法を食らって麻痺くらいしかダメージを受けていなかったが、モニカは兄のことを人間とは思っていないのであれは除外)。モニカはダフの頑丈さに「んひぃぃ!!」とドン引きの声を出した。
「ちょいとビリビリっと来たぜモニカぁ!!」
「気絶させてやろうと思ったのになんでそんなに元気なのよぉ!!こわ!こわぁー!!」
「ダフは魔法耐性がケタ外れなのよ。それが私たちが2vs2で強い理由のひとつ」
相棒の善戦にキャロルはニヤリとしながら呟いた。彼女の魔力と技術でモニカに敵わないことは分かっている。だが絶えず彼女に攻撃をしかけながら、彼女がダフに向けて放つ魔法を相殺することにより、ダフが耐えられる程度に魔法の威力を削ることができる。ダフとウィルクでは完全にダフが格上。
《これは…ダフ組が優勢ですね!さすが2vs2の最強タッグと呼ばれているだけあるなぁ!》
《そうですね。剣ではダフ選手が、魔法ではモニカ選手が勝っているので互角かと思いましたが…。連携が巧みですね、ダフ組は》
(さすがとしか言いようがないわ…!このままじゃウィルクが体力を削られるだけ…。っ!)
ウィルクの肩から血が噴き出した。ダフの渾身の一撃を剣で受けようとウィルクだが、防ぎきれなかった。ウィルクは顔をしかめてなんとかダフの剣を押し返した。
「ウィルク!!」
「大丈夫ですモニカお姉さま…はぁ…はぁっ…」
ウィルクの剣を握っている手がブルブルと震えている。もう握力が残っていないのだろう。あれほどダフの剣を受けてきたから当然だ。モニカが回復魔法をかけようとすると、ダフが彼女の目の前に立ち塞がった。
「ダフどいてよ!」
「どくかよ!お前の回復魔法のすごさは知ってんだ。あんな傷一瞬で治されちまうからな!」
「もぉぉ!!」
「さてモニカ!悪いがリタイアしてもらうぜ。おっと動くなよ。痛くねえところに刺してやりてえからな」
肩を掴まれ身動きが取れない。風魔法で吹き飛ばそうとしたがダフはびくともしなかった。驚いているモニカにダフがニヤリとして「足元見てみな」と言った。キャロルの土魔法で地面に硬く固定されている。
「…すごいわ。あなたたちの連携」
(思い返すとカミーユとリアーナって自分がやりたい放題してるだけだったもんね。連携とはまた違ったわ。こんなに息ぴったりな剣士と魔法使いの戦いを見れてよかった。私もキャロルみたいに、アーサーをサポートできるようになりたい)
できるだけ痛みが感じないよう、いつもとは打って変わって丁寧で静かな剣でモニカの腹に剣を突き刺した。
「くっ…」
「…剣を抜くぞモニカ。大量に流血すると思うから、すぐにリタイアしてエリクサーを飲むんだ。お前がいくら優秀な回復魔法を使えるっつったって、一瞬では治せねえだろ。…審判!」
ダフの呼びかけに審判が頷いてモニカを退場させようとした。しかしモニカはダフにしがみついてこう叫んだ。
「審判!!私は続行します!!まだ終わってないわ!!」
「なっ…モニカ!無理はやめておけ!!」
「ダフ、あなたのそういうところ大好きよ。でもね、私はそんなやわじゃないのよ。内臓を傷めないように剣を刺しこまれたくらいじゃリタイアなんてしないわ!私は戦いの場で、女の子だからって優しくされたこと、今の今まで一度もないのよ!!ウィルク!!今のうちに!!」
「はい!!」
「ぐっ!」
ダフの背中にウィルクの剣が刺さる。力いっぱい刺したせいで、しがみついてダフの動きを止めていたモニカの胸にも刃の先が食い込んだ。失血リタイアを狙ってウィルクが素早く剣を引き抜く。傷口からドロドロとした血が流れ、あっというまに床に血だまりができた。ダフが腹を押さえてしゃがみこんだ。
「もう、ダフったら!!」
回復魔法をかけようとしているキャロルに、ウィルクとモニカが襲い掛かる。キャロルは舌打ちして回復魔法から攻撃魔法に切り替えた。だがことごとくモニカに相殺されてしまう。ダフを失ったキャロルに勝ち目はない。
「キャロル!!…ガフっ」
血を吐きながらダフがキャロルを助けに行く。キャロルの盾となりウィルクの剣を再び受け、同時にウィルクの腹に剣を刺し素早く引き抜いてモニカに剣を振るった。今度の剣に優しさなどなかった。モニカは胸から腰にかけて深い傷を負った。ウィルクとモニカが床に倒れこむ。
「がっ…!」
「うぅっ」
「…大丈夫かキャロル」
「ええ…ありがとう。ダフ、回復魔法をかけるわ」
「助かる…」
「さ…せないっ…!」
「させる…かっ…!」
最後の力を振り絞り、ウィルクがキャロルの後ろに走りこんだ。キャロルを守ろうとしたダフだったが足が動かない。モニカが土魔法で彼の足を固定している。
「くそっ!キャロル!!」
「くはっ…!」
ウィルクの剣がキャロルの体を貫く。キャロルは倒れこみ痛さに呻いていた。普通剣で刺されたらこうなる。
これでモニカを妨げる魔法使いはいなくなった。ウィルクがダフに突っ込んだ。ウィルクの剣を払い、もう一度ウィルクを貫いてから蹴りを入れた。ウィルクは地面に打ち付けられ意識を失う。次にモニカの雷魔法がダフを襲った。半減されていない雷が直にダフの体に落ちる。雷に打たれ、真っ黒こげになっているにもかかわらずダフはまだ立っていた。
「うそぉ…」
もう一度雷魔法を打とうとした時、ダフが勢いよく地面に倒れた。どうやら一度目の雷の時点で気を失っており、気力だけで立っていたようだ。モニカはほぉぉぉ…と深いため息をついて体の力を抜いた。
審判がやっと試合終了の合図を鳴らす。あまりの激戦に実況者も観客も静まり返っていた。
《……》
「……」
《…な…なんという戦いでしょう…!!!》
実況者の声を皮切りに観客も失っていた声を取り戻す。ワァァァァッ!!と両者を称賛する声が会場中を埋め尽くした。
《これが学生同士の戦いでしょうか…!!両方とも本当に素晴らしかった…!!!》
《互角の戦いとはこのことですね…。途中、モニカ組の負けが決定したと誰もが思ったでしょう。ですがモニカ選手とウィルク選手の勝利への執着がそれをつかみ取った…!》
《ダフ選手も深い負傷をしていながらキャロル選手をよくぞあそこまで守りました。両者、本当に良い戦いを見せてくれました!!!ということで、結果はモニカ選手、ウィルク選手の勝利です!!》
《4名ともかなりの怪我を負っているので、早急に治療をしてもらわないといけませんね。では彼らの治療が終わるまでしばらく休憩となります。次の試合までしばらくお待ちください》
モニカ、ウィルク、ダフ、キャロル、全員が重傷を負っていた。救急チームがエリクサーを飲ませると、ダフとモニカの意識が戻る。二人は目を合わせて笑った。
「モニカ…。すまないな。俺は無意識にお前を見くびっていたのかもしれない」
「ううん。あなたはずっと真剣に戦ってくれていたわ。それに、女の子の体に剣を刺すのは誰だってためらってしまうものよ」
カミーユとジルなんて、2か月間も特訓をしていたのにモニカを傷つけたことなど一度もなかった。
「私こそ、あなたの優しさを利用してごめんなさい」
「いいや。俺は感動したぞ。お前とウィルク王子の諦めない強さ。血反吐を吐きながらも相手に立ち向かう姿。本当に感動した。今までのどの2vs2よりも楽しかった。ありがとうモニカ、それにウィルク王子」
「私も楽しかった。それにとても勉強になったわ。あなたたちの連携は、誰よりも素晴らしいわ」
治療が終わり、4人はハグをしてから退場した。戦った後の地面は彼らの血で真っ赤に染まっていた。アーサーは血に濡れた土を見て胸が震えた。
(あんなすごい戦いを見せられて、奮い立たされないはずがない)
「ジュリア王女、勝ちますよ」
「もちろんですわ!」
ダフとキャロルが入場すると大歓声が沸き上がった。試合に出場し慣れている彼らは観客に向かって手を振っている。ダフが「お前らぁぁぁ!!楽しませてやるからなぁあぁ!!」と拳を突き上げると、ローズ寮の生徒たちから声援が送られてきた。キャロルはそんなダフの襟首を掴んでモニカたちが待っているところまで引きずって行った。
「モニ…」
「モニカ!今日こそあなたに勝つわ!この9か月間、幾度となく寮対抗戦で戦ったけれど、私は一度も勝てなかった。あなたと私じゃ実力に雲泥の差があるから当然ね。でも今日はダフがいる。私たちは5年間ずっとこのペアでやってきたの。ペア戦で私たちの右に出るものはいないわ」
ダフの言葉を遮ってキャロルがモニカに杖を向けた。キャロルはローズ寮随一の魔法使いと知られている。2か月前に行われた魔法寮対抗戦ではジュリアに圧勝したほどの実力を持っている。だがそれも学院内での話だ。B級冒険者以上の実力があるモニカの前では赤子同然だった。キャロルはモニカに追いつくため、この日のために寝る間を惜しんで魔法の特訓をしていた。
彼女の意気込みを感じ取り、モニカは武者震いをしてからこくりと頷いた。
「キャロル!今日も私が勝つわ!手加減なんてしないわよ!」
「もちろんよ!!」
バチバチと火花を散らしている女性陣に気おされ、ダフとウィルクが目を合わせた。モニカへ言おうとしていたセリフをキャロルに取られてしまったダフは、慌ててウィルクに向かって叫んだ。
「ウィ、ウィルク王子!!今日は勝たせてもらいますよ!!体に傷を入れること、先に謝っときます!!」
「ダフ!僕を見くびるなよ!!この9か月間、お兄さまに何度腹に穴を開けられたと思っている!!そんなことくらいで腹を立てる僕はもういない!!だが、果たして僕に攻撃を当てられるかな?僕はすばしっこいぞ」
吸血鬼事件以降、ウィルクはアーサーに剣を教えてもらっていた。カミーユにしか特訓してもらったことのないアーサーは、彼の特訓が普通のものだと勘違いしていた。弟に教えを請われたアーサーは、S級冒険者が彼にした特訓を真似た。癖を正したあとはひたすら剣を交え合う。もちろん木刀ではなく真剣で。エリクサーで即時回復できる程度に留めていたが、ウィルクは特訓の度に血だらけになるまでアーサーの剣を体に受けた。おかげで剣が体を貫通するくらいでは全く動じないようになっていた。もちろん剣の腕も9か月前とは比べ物にならないほど上達した。
すっかり剣士の顔つきになったウィルクにダフは戦いたくてうずうずした。実況者が座っている場所へ大声で呼びかける。
「リーノ!ニコロ!!早く試合開始の合図を!!」
《おっとぉ…ダフ選手が目をキラキラさせていますねぇ。あいつは好敵手を見た時子どものような顔をする》
《あはは!!ウィルク選手がダフ選手のお眼鏡にかなったようですね!!審判!!試合を開始してください!》
審判が頷き試合開始の合図をする。さすが2vs2に慣れているだけあり、ダフは真っ先にモニカの背後をとった。
「っ!」
(反応が遅れちゃった!ダフ…!体が大きいくせにほんとっ、素早い!!魔法が間に合わないっ…!)
ガチィィンっ!と剣と剣が交わる音がした。ダフが目の前から消えたことに気付き、ウィルクがモニカの背後に回りダフの剣を受け止めたのだ。ダフの重い剣戟にウィルクの手が痺れる。
「ウィルク!!」
「ぐっ…!」
「やりますねウィルク王子!!俺の速さについてくるとは!!だが…力は俺の方が上のようだ…うぉぉぁっ!」
モニカの風魔法がダフを吹き飛ばす。キャロルが逆風の風魔法を当てるが、とてもじゃないがモニカの風魔法は完全に相殺できない。ダフは競技場の端まで飛ばされたが、すぐに戻ってきた。怪我はなさそうだ。
「ごめんダフ!殺しきれなかった」
「いい!充分だ!!お前の魔法がいなけりゃ観客席まで飛んでっちまうところだったぜ!!」
ダフはそう言いながら再びモニカに剣を振った。キャロルもモニカに向けて火魔法を打つ。モニカはキャロルの魔法を打ち消し、ウィルクがダフの剣を受けた。
(重いっ…!剣を受けるたびに腕がちぎれそうになる…!お兄さまとはまた違う…豪快な強さ!刺されるんじゃなくて、叩き潰されそうだ…)
「怖いか?ウィルク王子」
「!」
次々と攻撃をしかけてくるダフ。それをなんとか剣で受け止めているウィルク。ダフの力が強すぎ速すぎ、反撃できない。防いでいるだけではウィルクの腕力がなくなって終わりだ。ウィルクの頭に一瞬よぎった恐怖心を感じ取り、ダフがニッと笑った。
「顔にそう書いてあるぜ」
「ちっ…!」
モニカはキャロルがウィルクに向けて放つ魔法を逆属性魔法で打ち消しつつ、ダフに攻撃をしかけていた。モニカの火魔法をくらい皮膚が焼け焦げてもお構いなしに剣を振るう(即死攻撃をしてはいけないのでかなり手加減をしなければいけなかった)。死なない程度に雷を落としても、一瞬白目をむいただけですぐ意識を取り戻し何事もなかったかのようにウィルクを斬りつけた。
キャロルの土魔法である程度相殺されていたとはいえ、雷を受けてピンピンしている人など見たことがない(アーサーはモニカの全力雷魔法を食らって麻痺くらいしかダメージを受けていなかったが、モニカは兄のことを人間とは思っていないのであれは除外)。モニカはダフの頑丈さに「んひぃぃ!!」とドン引きの声を出した。
「ちょいとビリビリっと来たぜモニカぁ!!」
「気絶させてやろうと思ったのになんでそんなに元気なのよぉ!!こわ!こわぁー!!」
「ダフは魔法耐性がケタ外れなのよ。それが私たちが2vs2で強い理由のひとつ」
相棒の善戦にキャロルはニヤリとしながら呟いた。彼女の魔力と技術でモニカに敵わないことは分かっている。だが絶えず彼女に攻撃をしかけながら、彼女がダフに向けて放つ魔法を相殺することにより、ダフが耐えられる程度に魔法の威力を削ることができる。ダフとウィルクでは完全にダフが格上。
《これは…ダフ組が優勢ですね!さすが2vs2の最強タッグと呼ばれているだけあるなぁ!》
《そうですね。剣ではダフ選手が、魔法ではモニカ選手が勝っているので互角かと思いましたが…。連携が巧みですね、ダフ組は》
(さすがとしか言いようがないわ…!このままじゃウィルクが体力を削られるだけ…。っ!)
ウィルクの肩から血が噴き出した。ダフの渾身の一撃を剣で受けようとウィルクだが、防ぎきれなかった。ウィルクは顔をしかめてなんとかダフの剣を押し返した。
「ウィルク!!」
「大丈夫ですモニカお姉さま…はぁ…はぁっ…」
ウィルクの剣を握っている手がブルブルと震えている。もう握力が残っていないのだろう。あれほどダフの剣を受けてきたから当然だ。モニカが回復魔法をかけようとすると、ダフが彼女の目の前に立ち塞がった。
「ダフどいてよ!」
「どくかよ!お前の回復魔法のすごさは知ってんだ。あんな傷一瞬で治されちまうからな!」
「もぉぉ!!」
「さてモニカ!悪いがリタイアしてもらうぜ。おっと動くなよ。痛くねえところに刺してやりてえからな」
肩を掴まれ身動きが取れない。風魔法で吹き飛ばそうとしたがダフはびくともしなかった。驚いているモニカにダフがニヤリとして「足元見てみな」と言った。キャロルの土魔法で地面に硬く固定されている。
「…すごいわ。あなたたちの連携」
(思い返すとカミーユとリアーナって自分がやりたい放題してるだけだったもんね。連携とはまた違ったわ。こんなに息ぴったりな剣士と魔法使いの戦いを見れてよかった。私もキャロルみたいに、アーサーをサポートできるようになりたい)
できるだけ痛みが感じないよう、いつもとは打って変わって丁寧で静かな剣でモニカの腹に剣を突き刺した。
「くっ…」
「…剣を抜くぞモニカ。大量に流血すると思うから、すぐにリタイアしてエリクサーを飲むんだ。お前がいくら優秀な回復魔法を使えるっつったって、一瞬では治せねえだろ。…審判!」
ダフの呼びかけに審判が頷いてモニカを退場させようとした。しかしモニカはダフにしがみついてこう叫んだ。
「審判!!私は続行します!!まだ終わってないわ!!」
「なっ…モニカ!無理はやめておけ!!」
「ダフ、あなたのそういうところ大好きよ。でもね、私はそんなやわじゃないのよ。内臓を傷めないように剣を刺しこまれたくらいじゃリタイアなんてしないわ!私は戦いの場で、女の子だからって優しくされたこと、今の今まで一度もないのよ!!ウィルク!!今のうちに!!」
「はい!!」
「ぐっ!」
ダフの背中にウィルクの剣が刺さる。力いっぱい刺したせいで、しがみついてダフの動きを止めていたモニカの胸にも刃の先が食い込んだ。失血リタイアを狙ってウィルクが素早く剣を引き抜く。傷口からドロドロとした血が流れ、あっというまに床に血だまりができた。ダフが腹を押さえてしゃがみこんだ。
「もう、ダフったら!!」
回復魔法をかけようとしているキャロルに、ウィルクとモニカが襲い掛かる。キャロルは舌打ちして回復魔法から攻撃魔法に切り替えた。だがことごとくモニカに相殺されてしまう。ダフを失ったキャロルに勝ち目はない。
「キャロル!!…ガフっ」
血を吐きながらダフがキャロルを助けに行く。キャロルの盾となりウィルクの剣を再び受け、同時にウィルクの腹に剣を刺し素早く引き抜いてモニカに剣を振るった。今度の剣に優しさなどなかった。モニカは胸から腰にかけて深い傷を負った。ウィルクとモニカが床に倒れこむ。
「がっ…!」
「うぅっ」
「…大丈夫かキャロル」
「ええ…ありがとう。ダフ、回復魔法をかけるわ」
「助かる…」
「さ…せないっ…!」
「させる…かっ…!」
最後の力を振り絞り、ウィルクがキャロルの後ろに走りこんだ。キャロルを守ろうとしたダフだったが足が動かない。モニカが土魔法で彼の足を固定している。
「くそっ!キャロル!!」
「くはっ…!」
ウィルクの剣がキャロルの体を貫く。キャロルは倒れこみ痛さに呻いていた。普通剣で刺されたらこうなる。
これでモニカを妨げる魔法使いはいなくなった。ウィルクがダフに突っ込んだ。ウィルクの剣を払い、もう一度ウィルクを貫いてから蹴りを入れた。ウィルクは地面に打ち付けられ意識を失う。次にモニカの雷魔法がダフを襲った。半減されていない雷が直にダフの体に落ちる。雷に打たれ、真っ黒こげになっているにもかかわらずダフはまだ立っていた。
「うそぉ…」
もう一度雷魔法を打とうとした時、ダフが勢いよく地面に倒れた。どうやら一度目の雷の時点で気を失っており、気力だけで立っていたようだ。モニカはほぉぉぉ…と深いため息をついて体の力を抜いた。
審判がやっと試合終了の合図を鳴らす。あまりの激戦に実況者も観客も静まり返っていた。
《……》
「……」
《…な…なんという戦いでしょう…!!!》
実況者の声を皮切りに観客も失っていた声を取り戻す。ワァァァァッ!!と両者を称賛する声が会場中を埋め尽くした。
《これが学生同士の戦いでしょうか…!!両方とも本当に素晴らしかった…!!!》
《互角の戦いとはこのことですね…。途中、モニカ組の負けが決定したと誰もが思ったでしょう。ですがモニカ選手とウィルク選手の勝利への執着がそれをつかみ取った…!》
《ダフ選手も深い負傷をしていながらキャロル選手をよくぞあそこまで守りました。両者、本当に良い戦いを見せてくれました!!!ということで、結果はモニカ選手、ウィルク選手の勝利です!!》
《4名ともかなりの怪我を負っているので、早急に治療をしてもらわないといけませんね。では彼らの治療が終わるまでしばらく休憩となります。次の試合までしばらくお待ちください》
モニカ、ウィルク、ダフ、キャロル、全員が重傷を負っていた。救急チームがエリクサーを飲ませると、ダフとモニカの意識が戻る。二人は目を合わせて笑った。
「モニカ…。すまないな。俺は無意識にお前を見くびっていたのかもしれない」
「ううん。あなたはずっと真剣に戦ってくれていたわ。それに、女の子の体に剣を刺すのは誰だってためらってしまうものよ」
カミーユとジルなんて、2か月間も特訓をしていたのにモニカを傷つけたことなど一度もなかった。
「私こそ、あなたの優しさを利用してごめんなさい」
「いいや。俺は感動したぞ。お前とウィルク王子の諦めない強さ。血反吐を吐きながらも相手に立ち向かう姿。本当に感動した。今までのどの2vs2よりも楽しかった。ありがとうモニカ、それにウィルク王子」
「私も楽しかった。それにとても勉強になったわ。あなたたちの連携は、誰よりも素晴らしいわ」
治療が終わり、4人はハグをしてから退場した。戦った後の地面は彼らの血で真っ赤に染まっていた。アーサーは血に濡れた土を見て胸が震えた。
(あんなすごい戦いを見せられて、奮い立たされないはずがない)
「ジュリア王女、勝ちますよ」
「もちろんですわ!」
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ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
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家ごと異世界ライフ
ねむたん
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突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
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