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学院編:オヴェルニー学院

【130話】ウィルクの血

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なんとか気持ちを落ち着かせてから、モニカはアーサーの属性付与できる剣を取り出して聖魔法をかけた。アーサーはその間に増血薬とエリクサーを飲む。

「はー、生き返るぅ…」

「うん、薬だけで大丈夫そうね。よかった」

「モニカ、ウィルクとジュリアは?」

「二人とも無事よ」

「よかったあ…」

「ねえアーサー、ロイを見なかった?さっきまで戦ってたんだけど逃がしちゃったのよ」

「見てないなあ」

「彼は死んだよ」

「げ…」

火魔法で氷を溶かし、セルジュ先生は立ち上がった。アーサーは剣を構え、モニカは両手を広げて先生に向ける。妹を小突きながらアーサーがニヤッと笑った。

「モニカ、セルジュ先生のこと完全に忘れてたでしょ」

「ちょっ、どうして言ってくれなかったのよ!この変態が凍ってる間に聖魔法で倒せたのに!!」

「僕はセルジュ先生に聞きたいことがあったから…」

「こんなやつに聞く話なんてないわ!!…ちょっと待って、今、ロイが死んだって言った…?」

「ああ、死んだ。君の聖魔法でね」

先生が悲しそうに微笑んだ。ロイが死んだと聞きモニカも「そう…」と暗い声を出す。その反応が意外だったのか、セルジュ先生は彼女に優しく声をかけた。

「魔物と人間は争うものだ。ロイの死は私にとってはとても悲しいが…モニカが気に病む必要はないよ」

「どうして私を励ますのよ…。余計…辛くなるじゃない」

「優しい子だねモニカ」

「やめて…それ以上、人間のように優しく振る舞わないで…。あなたは魔物…倒さなきゃいけないんだから」

モニカの魔力を込めた手がぷるぷると震えている。魔物だったと言えど、かつての友人を殺したことが相当こたえているのだろう。アーサーはモニカの肩に手を置き、妹を後ろへ下がらせた。

「モニカは援護して。僕が先生と戦うよ。…少しだけ話をさせて。大丈夫、彼は敵だってちゃんと分かってるから」

「アーサー…」

「先生、僕にはまだミモレスの感情が残ってしまってる。あなたが愛しくて仕方がないんです」

「えっ、アーサー…?!」

「ミモレスがあなたと話している間、僕は彼女の記憶をずっと辿っていました。あなたと初めて出会ってから…別れなければいけなくなったあの日まで。ミモレスと一緒にいたあなたはとても優しくて…人間を大切にしていた。なのにどうして…こんなひどいことをしているんですか…」

「君は知る必要がない。何も聞かない方がいい」

「僕は教えてほしい。どうしてあなたが変わってしまったのか…」

「頼む。聞かないでくれ。…この世界のあまりにも汚い部分…君の耳に入れたくないんだ」

「セルジュ先生…」

「アーサー、モニカ。君たちに殺されるのなら私は喜んで首を差し出そう。…ロイを失い、ミモレスとの未来もない私に、生きていく意味はない。抵抗するつもりなど一切ない。君たちを傷つけようなど毛頭も思わない。だが、少し待ってくれないか。最後にやらなければいけないことがあるんだ」

セルジュ先生はアーサーとモニカを素通りして、扉の後ろで隠れているウィルク王子を引きずって来た。王子が隠れていることに気付いていなかったアーサーは青ざめた。

「ウィルク?!どうしてここに…!」

「アーサー…助けて…」

アーサーとモニカが慌てて王子を助けようとしたが、詠唱も仕草もなしに強風が吹き荒れ二人を吹き飛ばした。突然すぎてモニカも反魔法を打てなかったようだ。モニカは頭を打ったようでぐったりしており、アーサーは風魔法で床に押し付けられて立てない。

「ごめんね二人とも。これを終えたらどんな方法で私を殺しても構わないから」

「モニカっ…起きて…!!反属性魔法を…!!」

「……」

「モニカっ!モニカっ!」

「さてウィルク王子、あなたはどちらの血が流れているかな」

「ひっ…!」

セルジュ先生は不気味な笑みを浮かべながら王子の首に爪を立てた。一筋の傷から血が滲む。先生はぺろりと舌先でその血を舐め、すぐに吐き出した。

「おやおや。これまた色濃く薄汚い血を受け継いでいるね。正真正銘の腐った王族の血だ…。200年の歴史を振り返ってもこの血を持った者が王位に就くとろくなことをしない。…レオ国王だけは、例外だったがね」

「アーサー…助けて…」

「腐った実は周りの実も腐らせてしまう。お前のような者がいるから、愚かな貴族共は馬鹿な遊びを覚えるのだ。不味すぎて私の餌にもならん。さっさと殺してしまった方がいい」

「ひぃっ…」

セルジュ先生が王子に向かって腕を振り上げた瞬間、意識を戻したモニカが飛び上がった。

「はっ!」

「モニカ!!早く反属性魔法を!!」

「んっ!」

モニカは押さえつけられている兄に逆風の風魔法を放った。セルジュの風魔法が消滅しアーサーの体が自由になる。足に全力を込め、一瞬にしてセルジュ先生とウィルク王子の間に入った。アーサーの剣が先生の胸を貫き、先生の腕がアーサーの腹を破った。王子が恐る恐るアーサーの背中を見ると、吸血鬼の真っ赤に染まった手が覗いていた。
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