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学院編:オヴェルニー学院

【105話】寮対抗剣術戦

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オヴェルニー学院では月に一回なにかしらの寮対抗戦がある。弓術対抗戦、火魔法対抗戦などさまざまだ。今月は剣術対抗戦が開催される。対抗戦の3日前、カーティス先生は武器戦術クラスの生徒を教室に集めた。

「お前ら。3日後に剣術対抗戦が開催されるのは覚えてるか?この大会は学院で2番目に人気のあるもんだ。リリー寮は生徒数が少ないから10歳でも選出するぞ。年上の相手ばかりでかなり厳しいだろうが、名誉ある剣術大会に出場できることを誇りに思え」

先生の言葉を聞き生徒たちがそわそわする。参加したいと思う生徒もいれば、参加したくないと思う生徒もいるようだ。

「おいグレンダ。目立たないように隠れるんじゃない。お前はいっつもそうだなあ。そんなに大会に出たくないのか?」

「だって痛いんだもん」

グレンダは先生から目を逸らしながら呟いた。剣術対抗戦では木剣でなく真剣で戦う。即死攻撃や四肢切断など治癒できないような攻撃は禁止されているが、逆に言えば治癒できるものであればどのような攻撃をしてもいい。先生曰く戦術クラス系の対抗戦のあとの地面は真っ赤になるほど、毎回大勢の生徒たちが血を流すらしい。

「お前なあ…。痛さを恐れてどうすんだよ」

「わ、わたし、将来はお嫁さんになって刺繍やダンスをするだけでいい暮らしをするもん!だから武器なんていらない!」

「はは。そうかそうか。立派なこった。お前は名門貴族の上に美人だ。きっとすぐいい相手が見つかるさ。だが残念だったな。今回の剣術対抗戦にはお前も参加してもらうぞ」

「やだぁー!!先生のいじわる!!」

「仕方ねえだろ。お前はそこらの男子より剣術がうまいんだから」

「考え直して先生!!傷が残っちゃったらどうするのよ!!」

「大丈夫だ。ここからずっと南の町から非常に質の良いポーションを大量に入手したらしいからな。お前がどんな傷負ったって痕ひとつ残らねえって」

ブーブー文句を言っているグレンダの言葉を無視して、カーティス先生は剣術対抗戦に参加する残り9人の名前も読み上げた。

「ウィルク王子。あなたはまだ10歳だが非常に優秀な剣使いだ。ぜひ参加してほしい」

「まあ、当然だろうな」

名前を呼ばれた王子はハンっと笑って足を組んだ。承諾と受け取った先生は頷いてから次の生徒の名前を呼んだ。

「マーサ」

「えええ?!」

「えええ、じゃねえ。出るんだ」

「なんで私なんですかあ?!」

「お前は面倒くさがりですぐサボろうとするが、剣術の才能があるからだ。はい次いくぞー」

先生はさくさくと7人の生徒の名前を呼んだ。男子生徒たちのほとんどは選出されて喜んでいたが、女子生徒たちは全員いやがっていた。アーサーはその様子をクスクス笑いながら眺めていた。傷が残ることがいやだと言えるほど今まで平和に暮らしてきた子どもたちを見て、とても微笑ましい気持ちになった。

「で、最後にアーサーだ」

「え?僕ですか?」

「当り前だ。お前を選ばず誰を選ぶ?」

カーティス先生はアーサーを見てにやりと笑った。

「アーサー、お前は参戦するだけじゃ許さねえ。優勝しろ。まあ言われなくてもするだろうがな」

「ええ…。僕だけハードル高くないですか?」

「当り前だろ。なんたってお前はカミ…」

「ちょ、先生!」

「おっとわりいわりい。まあ、そういうこった。師匠の名に泥を塗らねえ戦いをしろよ」

「分かりました…」

二人の会話を聞いていた王子はチッと舌打ちをした。そのあと隣に座っている取り巻きに耳打ちをする。取り巻きはニヤニヤしながら頷いた。アーサーは、またなにか悪いこと考えてるんだろうなあと考えため息をついた。

◇◇◇
アーサーの予想は的中した。対抗戦当日、朝目が覚めるとアイテムボックスがなくなっていた。そこにアーサーがいつも使っている剣が入っている。めんどくさいなあ、と頭をかきながらアーサーは服を着替え談話室で朝食をとった。そこに起きてきたモニカがやってきた。アーサーを応援する気満々なようで、頬にリリー寮旗の模様がペイントされている。

「アーサー、おはよう!今日は剣術対抗戦だね!がんばってね!」

「ありがとうモニカ。ほっぺたかわいいね」

「えへへ。ノアに書いてもらったの。ライラとチャドともおそろいよ。今日は4人で観戦しようって約束してるの。いっぱい応援するからちゃんと勝ってよね!!」

「ありがとうモニカ。でも困ったなあ。アイテムボックスを隠されちゃった」

バナナをほおばりながら、何気ない口調でアーサーがそう言った。

「なんですって?!」

「そこに剣が入ってるんだけどなあ」

「なんでそんな落ち着いてるの?!対抗戦、あと30分で始まっちゃうよ?!」

「訓練場に置いてる剣を借りたらいいかなーって」

「だったら早く訓練場に行きましょう!…もう!なんでそんなまったりしてるのよ!バナナ食べてる場合じゃないじゃない!」

モニカはアーサーの手を引いて急いで訓練場に向かった。だが訓練場に置いている良い剣は全て他の生徒が持っていってしまったようだ。残っていたのは、ガタガタに刃こぼれしたやたらと重い剣1本だけだった。アーサーはそれを持ち、うんざりした顔をした。

「なにこれ。すっごく重いや。戦いづらそう…」

「え、どれどれ?」

アーサーは妹に剣を持たせた。兄が手を離した瞬間、ずしりとした重みでモニカの体が沈む。彼女の力では両手でも持ち上がらないほどだった。

「こ、こんな重い剣…」

「まあ、ないよりマシかなあ」

モニカの手から剣を取り、ひょいと片手で持ち上げ剣を肩に乗せた。モニカは兄のことをまじまじと見て呟いた。

「アーサーって、そんなに力強かったんだぁ…」

「だてにカミーユたちと特訓してませんよ」

アーサーはニカっと笑い、対抗戦が開催される競技場へ向かった。控室の前でモニカと別れる。

「アーサー!応援してるからね!がんばってね!」

「うん!ありがとうモニカ」

控室へ入ると先生が「やっと来たかアーサー!」と駆け寄ってきた。

「遅いじゃないか!もう選手入場の時間だぞ!…て、お前なんだその剣。訓練場のゴミ剣じゃねえか」

「いろいろありまして。今日はこれでいこうと思います」

「…なるほど、王子のイタズラか。俺の剣を貸してやってもいいが、あれはそれより重いしな…」

「大丈夫です!これでいきます」

「いや、ちょっと待ってろ。俺から王子に返すよう言ってやる」

「待って先生!それだとなんだか僕が先生に言いつけたみたいになっていやです!」

「かまわねえじゃねーか。ゴミ剣で戦うよりましだろ」

「自分のことは自分でなんとかしますから!」

「お前なあ…ちっとは子どもらしく大人を頼れよ」

「あはは先生。カミーユと同じようなこと言ってる」

アーサーはそう言って笑いながら逃げるように控室を出た。その様子を、ニヤニヤとウィルク王子と取り巻きが伺っていた。

「あの剣、ウィルク王子でさえ振り上げられないんだぜ」

「そうさ。だからあいつは一回戦で剣も振れず終了だ。優勝どころか即刻敗戦。みんなの前で恥をかくがいい」

◇◇◇
《さー!今月も始まりました寮対抗!!今月は、二番目に人気のある剣術対抗戦でございます!》

競技場に拡声器からの声が響き渡る。実況が始まりワァァァ!と歓声が沸き立った。

《今回も実況を務めさせていただくのはァァ!ローズ寮5年のリーノとぉぉ?》

《ダリア寮5年のニコロです。俺たちは武器のセンスはありませんので一度も対抗戦に参加したことはありませんが、実況のセンスはあったらしくいつの間にか実況係に任命されてしまいました》

観戦者たちの笑い声が聞こえる。彼らの実況は生徒たちだけでなく先生からも人気らしく、「リーノォ!!」「ニコローーー!!」と実況者の名前を大勢が叫んでいる。

《あはは!みなさん俺たちのこと大好きですね?!ある意味俺たちが主役みたいなもんですからねえ》

《いやそれは違うだろう。こんなバカのことはほっといて早速選手を呼びましょうか》

《今日も辛口だねニコロ!!そういう君とこうやって実況するのが大好きだ!さあ、ではやっていきましょう!各寮ごとに10名の選手が参戦します!早速登場してもらいましょう!まずはぁぁぁ!リリー寮!!》

「フレー!フレー!!リ・リ・イ!!」

リリー寮の生徒たちが寮旗を振りながら応援をしている。ウィルク王子は慣れた仕草で彼らに手を振りながら入場した。ウィルク王子は人気者らしい。他の寮の女子たちも「キャァァ!!ウィルク王子ィィイ!!」と黄色い声を出して騒いでいる。アーサーや他の生徒も続いて入場した。

ローズ寮、ダリア寮、ビオラ寮の選手も入場した。寮ごとに整列し開会式をあげる。審判である強面の先生が拡声器を使って選手に呼びかけた。

「えー、今から寮対抗剣術大会を始める。首をはねることや心臓を突き刺すなど、即死に繋がる攻撃は禁止だ。四肢の切断も禁止。あとは武器に毒など状態異常を付与するものを塗ることも禁止する。その他は何をしてもいい。生徒のギブアップ、または審判が重症と判断したら試合終了となる。負傷したものはポーションで即時に治すので安心してくれ。では、始める。選手たちは呼ばれるまで控室で待機していなさい」

「はい!!」
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