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学院編:オヴェルニー学院

【104話】モニカの友だち

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出来損ないと呼ばれているモニカだが、魔法クラスで友人ができなかったわけではなかった。はじめて声をかけてくれたロイや、同じく魔法が上手に使えないで独りぼっちだったライラ、モニカとお近づきになりたい男の子チャドやノアなどはモニカに優しく接してくれた。

「ライラおはよう!今日も隣に座っていい?」

「っ、うん…!」

ライラは内気な女の子で、そのせいか前髪を鼻の下まで伸ばして目を隠している。きょどきょどしていて人を寄せ付けない雰囲気を出しているためか授業や食事の時はいつも一人だった。魔法の授業のではいつも教室の一番後ろの端の席に座っていて、小さな声で詠唱をしてはため息をついている。
モニカがライラと仲良くなったきっかけは、モニカが先生に言われて生徒たち全員に電球を配っているときにライラに話しかけたことだった。他の生徒はライラになにも言わずに渡すところを、モニカは「はいどうぞ」と笑顔を向けて電球を渡した。びっくりしたライラは前髪越しにモニカをじっと見た。

「ん?どうしたのライラ」

「えっ、私の名前知っているの…?」

「もちろん知っているわ。だって同じリリー寮なんですもの」

「モニカさん、配り終わったのなら早く席に着きなさい」

「あっはい!ごめんライラ、隣に座ってもいいかな?」

「え?」

「お話の途中でしょ。隣に座ったら授業を受けながらお喋りできるわ。先生にバレないようこっそりだけど」

モニカはいたずらっぽくウィンクをした。魔法が下手でジュリア姫とザラ先生にいびられているモニカ。てっきり授業中は落ち込んで元気がないものかと思っていたライラは、モニカの明るい雰囲気に驚いた。それに、魔法も下手で容姿も良くなく根暗なライラにもこうして接してくれる彼女にとても好感を抱いた。その日から二人は隣同士座って授業を受けるようになった。
話してみるとライラは話しやすくて面白い子だった。モニカはライラが大好きだった。

「モニカ、ライラ。まーた端っこに座ってんのかよぉ」

「ここ黒板見えにくいんだよなあ」

ぶつくさ言いながらチャドとノアが二人の前の席に座った。魔法クラスで人気のある男子2人がモニカだけでなくライラにまで話しかけているのを見て女子たちがムスっとしている。それを敏感に感じ取ったライラが「ひゃぅっ」と震えあがった。チャドがその変な声を聞いて笑った。

「ライラなんだよその声ぇ!他の子たちのことは気にすんなよ」

「そうだそうだ。お前はまわりを気にしすぎなんだよ。な、モニカ」

「そうよライラ。怖がらなくていいわ」

「モニカぁ…」

ライラはこくこくと頷いた。それを見た3人が満足げにニコっとした。そうしているうちに始業のベルが鳴りザラ先生が教室へ入ってくる。今日は土魔法の授業だった。土が入ったバケツを配られ、その土を魔法で猫の形にするよう言われた。

ジュリア姫は開始10分で完成させた。チャドとノアも優秀な方なので15分ほどで完成させる(チャドは猫というより狐のような形になっていたが)。次々と生徒が完成させていく中、いつも通りモニカとライラが苦戦している。チャドとノアが一生懸命アドバイスをするが、説明が下手なので全く参考にならない。こうなったらロイの出番だ。ノアが遠くで暇そうに座っているロイを呼び寄せた。

「ロイー!今日も二人に教えてやってくれよぉ」

「うん、いいよ」

ロイはジュリア姫の次に魔法が上手だと言われてるが、モニカはロイが一番上手だと思っていた。さりげなくだが手を抜いているように見えるのだ。
ロイは魔法の教え方も上手だった。彼のおかげで、ライラはゆっくりだが魔法が上手になっていた。だが残念ながら、モニカはロイのアドバイスをもってしても上達することはできなかった。転入当初だったら泣きそうになっていたモニカも、今では励ましてくれるロイやライラ、笑い飛ばしてくれるチャドやノアがいるので前ほどつらくなかった。

「わーん、全然できないよお」

「モ、モニカちゃん。一緒にがんばろうっ」

「はじめよりずっと良くなってるよモニカさん。だからめげないで」

「あはは!!モニカはほんとだめだなあ!」

「気にするなモニカ!お前はかわいいし性格もいいんだ。ちょっとくらいダメなとこがあったほうがかわいいぞ。それに、諦めずにがんばってるモニカは素敵だぞ」

「そうだぞモニカ!お前ができるようになるまでずっと見ててやるから、がんばれがんばれ」

《おいチャドとノア!本来のモニカならば精巧な神ヴァルーダ像を作ることができるのだぞ!!そんなキツネもどきを作るようなお前たちに偉そうなことを言われる筋合いはないわ!!》

「つ、杖。二人は元気づけようとしてくれてるだけだからっ」

騒がしい杖を小声でなだめながら、友人が見守てくれているなかモニカは何度も詠唱を続けた。授業が終わるころには、いびつな塊が完成していた。先生と姫に笑われたが、モニカは全然気にしない。就業ベルが鳴ると同時にライラ、チャド、ノア、ロイと一緒に教室を出て、訓練場から戻ってきたアーサーと合流してからおなかいっぱい昼食を食べた。食事中、ライラの隣に座っていたモニカが彼女のお皿を見て困った顔をした。

「ライラ!また野菜よけてるー!」

「だ、だって、お野菜きらいなんだもん…」

「果物も残してるねライラ」

「果物もきらい…」

「パンも?」

「お、お肉以外きらい…」

「お肉しか食べないの?」

「うん…で、でもお肉にもいろいろあるから!きっとそれで栄養取れてるから!」

「取れてるのかなあ?」

アーサーは納得できないようで首を傾げている。チャドがフォークにトマトを刺してライラの口に近づけた。

「ライラ。一口でいいから食ってみ?意外とうまいぞ?」

「やだっ!!食べたら吐いちゃうもん!!」

「えーそんな嫌いなのかよ…」

「まあ、今までそれでここまで育ってきたんだったら無理に食べさせる必要もないだろ」

好き嫌いが激しいノアはライラの味方だった。ライラはホッとした様子でうんうん頷いている。

「わ、私のことは気にしないでっ!大丈夫だから!」

「そっかあ。こんなにおいしいのにねえ」

アーサーの言葉にモニカは「ねー」と同意したが、それ以上ライラに無理強いするのをやめた。

(私だってオークの肉は苦手なんだもん。人の好き嫌いに口出ししちゃだめよね)

「ごめんねライラ。わたし、いやなことしちゃったね」

「ううん!モニカが私の体を気遣って言ってくれたの分かってるよ。ありがとうね」

「ライラぁ!優しいねライラはぁ!」

ライラとモニカはぎゅーっと抱き合い、それからは楽しくごはんを食べた。ライラの残した肉以外の食べ物は、ひとつ残らずアーサーとモニカの胃袋の中に入った。
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