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魔女編:Fクラスクエスト旅
【66話】虎口
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「あ…あ…」
「大丈夫さ。目玉をくり抜いたわけじゃない。あんたの目のチカラをもらっただけだよぉ」
真っ暗で、何も見えない。目の記憶が失われ、脳で記憶していることだけがアーサーの中に残った。アーサーは手を前に出して歩くが、石につまずき横転した。
「さあて、早速いただくかねえ。うん、うまいねえ。哀しいねえ。こぉんな哀しいもの、初めて食べたよ。うまいねえ」
「モ…モニカ…。モニカ、どこ…」
「お嬢ちゃんは木の陰でぐっすり眠ってるよ。気持ちよさそうに口から血を垂らしてね」
「モニカ!モニカ!」
「シーっ、寝てる妹を起こしちゃだめだろう。もう、ガキはうるさくてかなわんね。ちょっと眠ってもらおうか」
「モニカ…モニ…」
突然襲う睡魔。抗えず、アーサーは気を失ったかのように眠りに落ちた。
◇◇◇
「ん…」
「おや、やっと目を覚ましたかい」
「っ!」
目を覚ましたモニカを、しゃがんでいる魔女が眺めている。ニコニコと笑いながら「おはようお嬢ちゃん」と挨拶をした。気を失っていたことに気付き、慌てて周りを見渡す。
「アーサーは…!」
「寝てるよぉ。さて、次はお嬢ちゃんの番なんだけど。あんたはやっぱり魔力がいいねえ。使い切ってしまってて残り少ないから、魔力の器ごともらってしまおうか」
「や、やめて!!」
モニカが杖を突きだした瞬間、魔女が杖を強く握りへし折った。
「つ…杖!!!ああああ!!杖!!」
「杖を折られたくらいで何を狼狽えてんだい。さあ、あんたなら杖がなくたって魔法を使えるだろう?つかってごらん」
「くっ…!あんた…絶対許さない!!!」
巨大な雷が魔女の真上に落ちる。しかし感電もせず焦げてすらいない。ニコニコと笑い続けるだけだ。
「お嬢ちゃんの魔力は質が高いねえ。でもね、私が今まで食べてきた魔法使い、何人いると思う?」
「……」
「300人だよ。私には300人分の魔力がある。もちろん反魔法も使えるよ」
「あ…あ…」
モニカは震えながら後ずさった。
「さて、お嬢ちゃんの魔力は…うん、最高だねえ。10年後に来てくれたら最盛期だっただろうに。若芽を摘み取るのはもったいないけど…仕方ないねえ」
魔女の細い腕がモニカの胸に伸びる。モニカはナイフで必死に抵抗をした。
「来ないで!来ないでええ!」
「あらぁ、怖くて泣いちゃってるの?可愛いわあ」
「うっ…!」
心臓がギュッと締め付けられる。そして力がだんだんと抜けていく感覚がした。立っていられなくなり、地面に倒れこむ。そんなモニカを見て恍惚の表情を浮かべながら魔女が立ち上がった。
「あなたの魔力、おいしいわ…。今まで食べてきたどの魔力よりもね…。
坊やの目も最高だったし、100年分のご褒美をもらっちゃったわね。私に会いに来てくれてありがとう。お礼として殺さないであげるわ。
まあ、目が見えない坊やと魔法が使えなくなったお嬢ちゃんだったら、この森に棲む低級魔物にだって敵わないだろうけどね。じゃあね」
そう言って魔女は小屋へ戻って行った。上機嫌で、鼻歌を歌いながら…。
◇◇◇
「アーサー…!もうちょっとだからね!!」
モニカは意識を失ったアーサーを背負って森を駆け下りていた。魔女の言っていた通り、魔法を使えなくなったモニカでは魔物一匹倒せない。追いかけてくる魔物から致命傷を避けながら逃げることで精いっぱいだった。
「あっ!!」
木の根につまずきモニカは転んでしまった。背負っていたアーサーが投げ出される。アーサーの元へ駆け寄ろうとしたとき、トカゲの魔物の長い舌がモニカの胸を貫いた。
「カハッ…」
モニカはその場で倒れこむ。畳みかけるように魔物がモニカとアーサーを囲い爪や牙で二人に深い傷を負わせた。アーサーだけは守らないと、と血だらけの体を引きずってアーサーに覆いかぶさる。そして感覚のなくなった手でアイテムボックスから伝書インコを取り出した。
「助けて…アーサーが…」
それだけしか言えず、モニカは意識を失った。
《タスケテ アーサーガ》
そう言ってインコが飛び立った。飛び立つ前、インコの羽ばたきがアーサーの顔を撫でた。目を覚ませと言うインコの必死の訴えだった。
「ん…」
「ギエアッァァァァ!!ギャァ!」
モニカが気を失ってから2分後、アーサーが目を覚ました。魔物の甲高い鳴き声が四方八方から聞こえる。自分の上に何かがかぶさっている。さらりとした髪が指に触れた。
「…モニカ…?モニカ?!ねえ、モニカ!!」
肩を揺らしても起きる気配がない。モニカの腰に手を当てると、どろりと温かい液体がアーサーの手を濡らした。
「血…?まずい!魔物に襲われたのか!!」
ようやく状況を察したアーサーは、剣を取り出し構える。もう一方の手でアイテムボックスをまさぐり、エリクサーを探した。ポーションもエリクサーも同じ瓶に入っているため見分けがつかない。いくつか瓶を取り出して手あたり次第モニカの口あたりにかけた。
「くそっ!目が見えないとまともに薬を飲ませることもできないのか…!」
その後は、モニカを抱きかかえながら襲ってくる魔物に向かってひたすら剣を振り回した。敵との間合いも分からず、どこに何匹いるのかも分からない状態で。魔女と遭遇した時点でアーサーの体力はもうほとんど残っていなかった。しかし生き延びるため、妹を助けるためにと、何時間も剣を振るい続けた。
「大丈夫さ。目玉をくり抜いたわけじゃない。あんたの目のチカラをもらっただけだよぉ」
真っ暗で、何も見えない。目の記憶が失われ、脳で記憶していることだけがアーサーの中に残った。アーサーは手を前に出して歩くが、石につまずき横転した。
「さあて、早速いただくかねえ。うん、うまいねえ。哀しいねえ。こぉんな哀しいもの、初めて食べたよ。うまいねえ」
「モ…モニカ…。モニカ、どこ…」
「お嬢ちゃんは木の陰でぐっすり眠ってるよ。気持ちよさそうに口から血を垂らしてね」
「モニカ!モニカ!」
「シーっ、寝てる妹を起こしちゃだめだろう。もう、ガキはうるさくてかなわんね。ちょっと眠ってもらおうか」
「モニカ…モニ…」
突然襲う睡魔。抗えず、アーサーは気を失ったかのように眠りに落ちた。
◇◇◇
「ん…」
「おや、やっと目を覚ましたかい」
「っ!」
目を覚ましたモニカを、しゃがんでいる魔女が眺めている。ニコニコと笑いながら「おはようお嬢ちゃん」と挨拶をした。気を失っていたことに気付き、慌てて周りを見渡す。
「アーサーは…!」
「寝てるよぉ。さて、次はお嬢ちゃんの番なんだけど。あんたはやっぱり魔力がいいねえ。使い切ってしまってて残り少ないから、魔力の器ごともらってしまおうか」
「や、やめて!!」
モニカが杖を突きだした瞬間、魔女が杖を強く握りへし折った。
「つ…杖!!!ああああ!!杖!!」
「杖を折られたくらいで何を狼狽えてんだい。さあ、あんたなら杖がなくたって魔法を使えるだろう?つかってごらん」
「くっ…!あんた…絶対許さない!!!」
巨大な雷が魔女の真上に落ちる。しかし感電もせず焦げてすらいない。ニコニコと笑い続けるだけだ。
「お嬢ちゃんの魔力は質が高いねえ。でもね、私が今まで食べてきた魔法使い、何人いると思う?」
「……」
「300人だよ。私には300人分の魔力がある。もちろん反魔法も使えるよ」
「あ…あ…」
モニカは震えながら後ずさった。
「さて、お嬢ちゃんの魔力は…うん、最高だねえ。10年後に来てくれたら最盛期だっただろうに。若芽を摘み取るのはもったいないけど…仕方ないねえ」
魔女の細い腕がモニカの胸に伸びる。モニカはナイフで必死に抵抗をした。
「来ないで!来ないでええ!」
「あらぁ、怖くて泣いちゃってるの?可愛いわあ」
「うっ…!」
心臓がギュッと締め付けられる。そして力がだんだんと抜けていく感覚がした。立っていられなくなり、地面に倒れこむ。そんなモニカを見て恍惚の表情を浮かべながら魔女が立ち上がった。
「あなたの魔力、おいしいわ…。今まで食べてきたどの魔力よりもね…。
坊やの目も最高だったし、100年分のご褒美をもらっちゃったわね。私に会いに来てくれてありがとう。お礼として殺さないであげるわ。
まあ、目が見えない坊やと魔法が使えなくなったお嬢ちゃんだったら、この森に棲む低級魔物にだって敵わないだろうけどね。じゃあね」
そう言って魔女は小屋へ戻って行った。上機嫌で、鼻歌を歌いながら…。
◇◇◇
「アーサー…!もうちょっとだからね!!」
モニカは意識を失ったアーサーを背負って森を駆け下りていた。魔女の言っていた通り、魔法を使えなくなったモニカでは魔物一匹倒せない。追いかけてくる魔物から致命傷を避けながら逃げることで精いっぱいだった。
「あっ!!」
木の根につまずきモニカは転んでしまった。背負っていたアーサーが投げ出される。アーサーの元へ駆け寄ろうとしたとき、トカゲの魔物の長い舌がモニカの胸を貫いた。
「カハッ…」
モニカはその場で倒れこむ。畳みかけるように魔物がモニカとアーサーを囲い爪や牙で二人に深い傷を負わせた。アーサーだけは守らないと、と血だらけの体を引きずってアーサーに覆いかぶさる。そして感覚のなくなった手でアイテムボックスから伝書インコを取り出した。
「助けて…アーサーが…」
それだけしか言えず、モニカは意識を失った。
《タスケテ アーサーガ》
そう言ってインコが飛び立った。飛び立つ前、インコの羽ばたきがアーサーの顔を撫でた。目を覚ませと言うインコの必死の訴えだった。
「ん…」
「ギエアッァァァァ!!ギャァ!」
モニカが気を失ってから2分後、アーサーが目を覚ました。魔物の甲高い鳴き声が四方八方から聞こえる。自分の上に何かがかぶさっている。さらりとした髪が指に触れた。
「…モニカ…?モニカ?!ねえ、モニカ!!」
肩を揺らしても起きる気配がない。モニカの腰に手を当てると、どろりと温かい液体がアーサーの手を濡らした。
「血…?まずい!魔物に襲われたのか!!」
ようやく状況を察したアーサーは、剣を取り出し構える。もう一方の手でアイテムボックスをまさぐり、エリクサーを探した。ポーションもエリクサーも同じ瓶に入っているため見分けがつかない。いくつか瓶を取り出して手あたり次第モニカの口あたりにかけた。
「くそっ!目が見えないとまともに薬を飲ませることもできないのか…!」
その後は、モニカを抱きかかえながら襲ってくる魔物に向かってひたすら剣を振り回した。敵との間合いも分からず、どこに何匹いるのかも分からない状態で。魔女と遭遇した時点でアーサーの体力はもうほとんど残っていなかった。しかし生き延びるため、妹を助けるためにと、何時間も剣を振るい続けた。
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