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魔女編:Fクラスクエスト旅

【64話】アイトヴァラス

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「ん…」

 目を開けると、晴天の空が目の前に広がっていた。ザー…ザー…と心地のいい波の音に癒される。
 モニカは気持ちよさそうに寝返りを打った。しかし隣にアーサーがいない。慌ててあたりを見渡すと、海の中で、ピチピチ跳ねる魚をわしづかみにしている兄の姿が見えた。

「アーサー!なにしてるの?」
「あ!モニカおはよう。起きたんだね!魚を捕まえてるんだよ、朝ごはんに食べようと思って。ほら見て!このエメラルドグリーンの魚、おいしそうじゃない?」
「わあ!かわいい!」

 モニカも海の中に入り、岩肌にくっついている貝を集めた。

 収獲を終え焚き火の前に戻った双子は、魚4匹、貝20こを火の前に置いて、ワクワクしながら焼き上がりを待つ。

「ねえアーサー、もう貝の方は食べられるんじゃない?!おいしそうな匂いがしてるよお」
「食べてみようか!」

 貝の殻を割り、身をほじくり出して頬張った。少し苦みがあったが触感が楽しい。
 そのあと少し焦げてしまった魚にかぶりついた。海水のおかげで塩味が効いていておいしい。ほくほくとした白身がたまらない。
 双子は両頬をふくらませてむしゃくしゃ食べた。

「おいしいねぇ」
「ん~最高!わたし海だいすき!また来たいなあ」
「ここは岩でごつごつした海だけど、さらさらの砂の海があるらしいよ。いつか行きたいね」
「行きたい!カミーユたちと行きたいなあ」

 魚と貝を食べ終わり、二人は火を消して次の目的地へ向かった。ここからさらに東へ30分移動した森の中だ。

「アイトヴァラス。蛇の魔物で、人がいる場所で盗みを働くらしい。攻撃性は少ないけどすばしっこくて捕まえるのが難しいらしい」
「だから町の近くで根城を張っているのね」
「まず見つけるのが大変そうだなあ」

 アーサーとモニカは森の中へ入った。静かで、魔物の気配がない。比較的安全そうだった。
 しばらく歩き回っていたが、アイトヴァラスのつけた痕跡すら見つけられない。

「歩き回ってるだけじゃだめだな。…そうだ、蛇は土に穴をあけて巣を作るよね。モニカ、土魔法で巣がありそうなところを探れる?」

 アーサーの質問に、モニカは自信なさげに頷く。

「できるけど、ある程度目星つけないと魔力がもたないかも」
「確かにそうだね。蛇が好むところ…水辺かな。まず川を探そう」

 川は森の奥深くに流れていた。川と言っても、ちょろちょろと水が流れている程度の小さなものだったが。
 モニカが川辺の地面に手を置き、土魔法を発動した。土を動かして地下を探るも、蛇の巣はなかなか見つからない。
 探る場所がだんだん遠くになるにつれ、魔力と集中力がより必要になった。モニカは顔をしかめ、額から汗を流している。
 そんなモニカを心配して、アーサーが声をかける。

「モニカ、ここじゃないみたいだね。別の場所を…」
「あった!!」

 突然モニカが目をかっ開き、雷を落とした。落雷した周囲の木が、音を立てて倒れる。

「あそこ! 今雷落とした場所に、蛇の巣があるよ!」

 魔法の規模のでかさと無駄遣い加減に、アーサーは呆れた声を出した。

「ええ…」
「行きましょう!」

 雷が落ちた場所に行くと、その近くに小さな穴があった。
 モニカが土魔法で穴に蓋をしたあと、アーサーが矢を入れて中を確認する。

「うわぁ…いるわぁ…ウネウネしてるわぁ…きもちわる…」
「アイトヴァラスの皮も素材になるからあまり傷つけないでね!」
「そうだね。でもすばしっこいから外に出したらだめだし…よし。毒作戦だ」

 アーサーはスライム液と大ムカデの毒を混ぜ合わせて矢じりにたっぷり付けた。そしてその矢を巣の中で暴れている蛇に当てていく。

「効くかなあ。大ムカデの毒はそんなに強くないから…」
「言っとくけど大ムカデの毒は普通の人だと3日は動けなくなるくらいの毒だからね?」

 しばらくするとアイトヴァラスは動かなくなった。
 アーサーが蓋を外し中を確かめる。4匹のアイトヴァラスが絡み合って息絶えていた。
 二人はその皮をはぎ、休息のため最寄りの町スィフィシュへ向かった。

「このクエストは簡単だったね!巣を見つけられてラッキーだったよ」
「そうね。逃げるアイトヴァラスを捕まえなきゃいけなかったら大変だったかも」

 町の門をくぐると、魚介類、野菜、陶芸品など、さまざまな屋台がずらりと並んでいた。屋台の店主たちが通行人に声をかけている。

「今朝あがりたての魚だよ!新鮮でうまいぞ!」
「お嬢ちゃんお嬢ちゃん!スィフィシュ特産のカボチャはいかが?」
「ここでしか手に入らないよ!安くしとくよ!」

 目新しい街並みにアーサーとモニカはおおはしゃぎだ。

「モニカ!見て!肉を焼いてるよ!」
「わあ!本当だ!」

 アーサーが指さした先には、網の上で大きな肉を焼いている屋台があった。ジュワァと肉が焼ける音と匂いが食欲をそそる。
 熱い視線に気づいた店主の若い男性が、ニッと笑って声をかけた。

「よおチビちゃん。食ってくか?」
「食べたい!」
「ほらよ」

 串に刺した肉を受け取り、二人は目を輝かせてかぶりついた。焼きたての外で食べる肉は格段においしく感じる。

「うまいか?」
「おいひい!これ、なんの肉?」
「オークの肉だぜ!」
「え…?」

 双子の表情が固まる。震えながら、手に持っている肉に目をやった。
 よく見ると分厚い肉と肉の間に、骨を抜いた指らしきものが挟まっている。
 アーサーとモニカが震えながら顔を見合わせた。

「意外といけるだろ!!」

 店主が自慢げに親指を立てた。モニカはショックで泡を吹いて倒れ、アーサーは「おいしかったですぅぅぅ!」と叫びながら、妹を背負い逃げるように宿へ向かった。
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