14 / 71
休日
12話 ペースト調味料
しおりを挟む
トイレの中で叫びまくり、やっと落ち着いた私はそろそろとトイレを出た。ちらとリビングに目をやると、綾目が猫に戻っており薄雪の膝の上で喉を鳴らしていた。薄雪そこ代われ…。
戻ってきた私に、薄雪が「花雫は食事をとりなさい」と言った。私は狭いキッチンに立ち、買い込んだ食料で適当なごはんを作った。
「薄雪も食べますか?」
「いただこうかな」
「私の料理、まずいですよ」
「かまわないですよ。私はなんだっておいしくいただけますから」
「それを聞いてほっとしました。まずいって言われるの、あんまり嬉しくないから…」
ボソッと呟いたことばを聞いた薄雪は、微笑むだけで何も言わなかった。それがちょっとありがたかった。何を言われたって、私はきっと渋い顔をしただろうから。
私は気を取り直して食材がたっぷり入ったレジ袋を漁った。まず白菜を適当にざくざく切って沸騰した湯の中に入れる。そこに中華風ペースト調味料を入れたら立派なスープの完成。
次にキャベツと豚肉を適当にざくざく切ってフライパンで炒める。その中に卵を割って塩コショウ振ったら美味しそうな野菜炒めの完成。
あとはお酒のつまみにカマンベールチーズ。すごい。今日の私料理してる。
薄雪と綾目が待っているテーブルに料理を出すと、ミルちゃんが「みぇぁぁ!!」と目を輝かせた。
「え?ミルちゃんの姿でこんなの食べていいの?」
「まぅぅんぁ!」
「よし、じゃあお皿にいれてあげるね」
いつもキャットフードを入れていたお皿に、野菜炒めを山盛り入れる。ミルちゃんはバクバク食べて「みぇぇあぉ!」と嬉しそうに鳴いていた。どうやらキャットフードよりはおいしかったようだ。よかった。
「じゃあ、薄雪もどうぞ…」
ビクビクしながら薄雪にごはんを出す。彼は「いただきます」と言って野菜炒めを一口食べた。おいしいともまずいとも言わなかったけど、穏やかな顔でぱくぱくと口に運ぶ。
でも、スープを飲んだ時に「ん?」と目を見開いた。さすがに白菜だけのスープはまずかったかな、とビクビクしていると、薄雪が私の名前を呼んだ。
「花雫」
「は、はい…」
「この汁物は、あなたが作ったのですか?」
「はい…」
「とてもおいしいです。上手じゃないですか、料理」
そんなことを言われたことがなくて、私はポッと頬を赤らめた。たぶん薄雪がおいしいと思ったのは、ペースト調味料のおかげだ。だって私白菜切っただけだもん。でも、あんな料理をおいしそうに食べてくれたのが、ちょっと泣きそうになるほど嬉しかった。
「…おいしい?」
「ええ。とても」
「すごい?」
「すごいです。アチラ側では味わえなかったですね、コレは。ふふ。コチラ側に来てよかった」
「~~~…っ」
あんな質素なスープを、隣にいるあやかし二人はまるでご馳走かのようにおいしいと言って食べてくれた。明日からはもうちょっと、凝った料理を作ってあげようかな。
二缶目のビールを飲んでいると、薄雪も飲みたそうにチラチラとこちらを見ていた。頂き物の日本酒(私は日本酒が飲めないから長年眠っていたもの)を出すと、彼の表情がパッと明るくなった気がした。
「ふふ。私はコチラ側の酒が好きでね」
薄雪は上機嫌でグラスに日本酒を注ぎ、くいと飲み干した。薄雪もこんな顔するんだ。子どもみたいに喜んでいる。
くいくい飲む薄雪につられて、私もビールをいつも以上に飲んでしまった。きっと理由はそれだけじゃない。気の遣わない席で誰かとお酒を飲むのが久しぶりで、ちょっと楽しかったからっていうのもあるのかも。
私と薄雪はケタケタ笑いながらお酒を酌み交わした。ミルちゃんは薄雪の太ももの上で寝てる。なんで私の上にこないの?
「花雫。グラスが空いていますよ。まだ飲みますか?」
「薄雪は?飲みます?」
「私はもう少し飲みます」
「じゃあ私も飲む~」
「ふふ。私に合わせて飲むと、ひどい目にあいますよ」
「こう見えても強いから大丈夫~!ねえ、私の料理おいしかったあ?」
「おいしかったですよ。これ10回目ですね」
「へへへ。うれしい」
「嬉しいのですか。でしたら何度でも、言ってあげましょう」
「明日も作るね~」
「楽しみです」
酔いすぎて呂律が回らなくなっ私を眺めながら、薄雪は私のグラスにビールを注いだ。
戻ってきた私に、薄雪が「花雫は食事をとりなさい」と言った。私は狭いキッチンに立ち、買い込んだ食料で適当なごはんを作った。
「薄雪も食べますか?」
「いただこうかな」
「私の料理、まずいですよ」
「かまわないですよ。私はなんだっておいしくいただけますから」
「それを聞いてほっとしました。まずいって言われるの、あんまり嬉しくないから…」
ボソッと呟いたことばを聞いた薄雪は、微笑むだけで何も言わなかった。それがちょっとありがたかった。何を言われたって、私はきっと渋い顔をしただろうから。
私は気を取り直して食材がたっぷり入ったレジ袋を漁った。まず白菜を適当にざくざく切って沸騰した湯の中に入れる。そこに中華風ペースト調味料を入れたら立派なスープの完成。
次にキャベツと豚肉を適当にざくざく切ってフライパンで炒める。その中に卵を割って塩コショウ振ったら美味しそうな野菜炒めの完成。
あとはお酒のつまみにカマンベールチーズ。すごい。今日の私料理してる。
薄雪と綾目が待っているテーブルに料理を出すと、ミルちゃんが「みぇぁぁ!!」と目を輝かせた。
「え?ミルちゃんの姿でこんなの食べていいの?」
「まぅぅんぁ!」
「よし、じゃあお皿にいれてあげるね」
いつもキャットフードを入れていたお皿に、野菜炒めを山盛り入れる。ミルちゃんはバクバク食べて「みぇぇあぉ!」と嬉しそうに鳴いていた。どうやらキャットフードよりはおいしかったようだ。よかった。
「じゃあ、薄雪もどうぞ…」
ビクビクしながら薄雪にごはんを出す。彼は「いただきます」と言って野菜炒めを一口食べた。おいしいともまずいとも言わなかったけど、穏やかな顔でぱくぱくと口に運ぶ。
でも、スープを飲んだ時に「ん?」と目を見開いた。さすがに白菜だけのスープはまずかったかな、とビクビクしていると、薄雪が私の名前を呼んだ。
「花雫」
「は、はい…」
「この汁物は、あなたが作ったのですか?」
「はい…」
「とてもおいしいです。上手じゃないですか、料理」
そんなことを言われたことがなくて、私はポッと頬を赤らめた。たぶん薄雪がおいしいと思ったのは、ペースト調味料のおかげだ。だって私白菜切っただけだもん。でも、あんな料理をおいしそうに食べてくれたのが、ちょっと泣きそうになるほど嬉しかった。
「…おいしい?」
「ええ。とても」
「すごい?」
「すごいです。アチラ側では味わえなかったですね、コレは。ふふ。コチラ側に来てよかった」
「~~~…っ」
あんな質素なスープを、隣にいるあやかし二人はまるでご馳走かのようにおいしいと言って食べてくれた。明日からはもうちょっと、凝った料理を作ってあげようかな。
二缶目のビールを飲んでいると、薄雪も飲みたそうにチラチラとこちらを見ていた。頂き物の日本酒(私は日本酒が飲めないから長年眠っていたもの)を出すと、彼の表情がパッと明るくなった気がした。
「ふふ。私はコチラ側の酒が好きでね」
薄雪は上機嫌でグラスに日本酒を注ぎ、くいと飲み干した。薄雪もこんな顔するんだ。子どもみたいに喜んでいる。
くいくい飲む薄雪につられて、私もビールをいつも以上に飲んでしまった。きっと理由はそれだけじゃない。気の遣わない席で誰かとお酒を飲むのが久しぶりで、ちょっと楽しかったからっていうのもあるのかも。
私と薄雪はケタケタ笑いながらお酒を酌み交わした。ミルちゃんは薄雪の太ももの上で寝てる。なんで私の上にこないの?
「花雫。グラスが空いていますよ。まだ飲みますか?」
「薄雪は?飲みます?」
「私はもう少し飲みます」
「じゃあ私も飲む~」
「ふふ。私に合わせて飲むと、ひどい目にあいますよ」
「こう見えても強いから大丈夫~!ねえ、私の料理おいしかったあ?」
「おいしかったですよ。これ10回目ですね」
「へへへ。うれしい」
「嬉しいのですか。でしたら何度でも、言ってあげましょう」
「明日も作るね~」
「楽しみです」
酔いすぎて呂律が回らなくなっ私を眺めながら、薄雪は私のグラスにビールを注いだ。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
Strain:Cavity
Ak!La
キャラ文芸
生まれつき右目のない青年、ルチアーノ。
家族から虐げられる生活を送っていた、そんなある日。薄ら笑いの月夜に、窓から謎の白い男が転がり込んできた。
────それが、全てのはじまりだった。
Strain本編から30年前を舞台にしたスピンオフ、シリーズ4作目。
蛇たちと冥王の物語。
小説家になろうにて2023年1月より連載開始。不定期更新。
https://ncode.syosetu.com/n0074ib/
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
便利屋ブルーヘブン、営業中。
卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。
店主の天さんは、実は天狗だ。
もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。
「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。
神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。
仲間にも、実は大妖怪がいたりして。
コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん!
(あ、いえ、ただの便利屋です。)
-----------------------------
ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。
カクヨムとノベプラにも掲載しています。
新訳 軽装歩兵アランR(Re:boot)
たくp
キャラ文芸
1918年、第一次世界大戦終戦前のフランス・ソンム地方の駐屯地で最新兵器『機械人形(マシンドール)』がUE(アンノウンエネミー)によって強奪されてしまう。
それから1年後の1919年、第一次大戦終結後のヴェルサイユ条約締結とは程遠い荒野を、軽装歩兵アラン・バイエルは駆け抜ける。
アラン・バイエル
元ジャン・クロード軽装歩兵小隊の一等兵、右肩の軽傷により戦後に除隊、表向きはマモー商会の商人を務めつつ、裏では軽装歩兵としてUEを追う。
武装は対戦車ライフル、手りゅう弾、ガトリングガン『ジョワユーズ』
デスカ
貴族院出身の情報将校で大佐、アランを雇い、対UE同盟を締結する。
貴族にしては軽いノリの人物で、誰にでも分け隔てなく接する珍しい人物。
エンフィールドリボルバーを携帯している。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
明治あやかし黄昏座
鈴木しぐれ
キャラ文芸
時は、明治二十年。
浅草にある黄昏座は、妖を題材にした芝居を上演する、妖による妖のための芝居小屋。
記憶をなくした主人公は、ひょんなことから狐の青年、琥珀と出会う。黄昏座の座員、そして自らも”妖”であることを知る。主人公は失われた記憶を探しつつ、彼らと共に芝居を作り上げることになる。
提灯からアーク灯、木造からレンガ造り、着物から洋装、世の中が目まぐるしく変化する明治の時代。
妖が生き残るすべは――芝居にあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる