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そうして、本当に毎晩ダン王子の部屋へ行き魔法の個人レッスンを受けた後、添い寝をするという生活が始まってしまった。個人レッスンが始まったことでダン王子が授業についてこなくなったので、俺を目の敵にする生徒は段々と減った。それは良い効果だったが。
(なんで、俺はこの俺様と毎日毎日一緒に寝てるんだっけ……)
偉そうな人の命令に逆らえない会社員時代の悪癖のせいで律儀に約束を守っていたが、それが当たり前になりかけたあたりで俺は原点回帰して冷静になっていた。
(俺に夜の予定がないのはそうとしても、ダン王子は夜の相手いるだろうに……)
ダン王子はイケメンだ。男らしさと美しさが調和した顔立ちで、俺様が許される能力の高さを持ち、自信にも満ち溢れ、そして意外と弱者のことも考えている。俺様すぎる点はあっても、魔界の男女には大モテだろう。
そんなことを考えながらダン王子の顔を見ていると、鋭い両目が俺を睨んだ。
「おい、集中しろ。水かけられたいのか」
「ちょ、やめてください……!集中しますって」
俺が思考に気を取られていたら、ダン王子が水の入ったデキャンタを俺の上で浮かせていた。この人は本当に水をかけてくる性格なので、慌てて目の前の紙に集中する。
(紙を燃やす実技……。もうちょっとで出来そうなんだけど)
ここ数日はずっと魔法で紙を燃やす実技をやっていた。慣れれば火炎放射のような炎からマッチのような小さい火まで自在に操れるようになるらしい。俺にも魔力はあるらしく、なんだかんだ紙を焦がすくらいならできるようになっている。超能力者になったみたいで、正直ダン王子に教えてもらうようになってから魔法へのモチベーションは高まっていた。
(でも、火は出ないんだよな~)
もう1度集中すると、じわじわと紙の一部が焦げ始める。
「紙が熱くなり、燻り、火が出る。このイメージを明確に抱け」
言いながら立ち上がって、ダン王子は俺の横に立った。
「そして、魔力の流れだ。背中の椎から腕、そして指先へと流れる」
ダン王子の指が俺の背中から腕をゆっくり撫でてきて、意図せず肩が震えた。
「んっ……」
「随分敏感だな。勝手に感じるな」
「な、違いますって……!」
「ちゃんと集中しろ」
楽しそうな声音がして、指が俺の手の甲を触れるか触れないかの距離で滑る。くすぐったくてぞわぞわして、吐息が漏れそうになって唇を噛むと、ダン王子が魔力に関係ない耳を撫でた。
「っ、ちょっと!もういい加減に──」
──ボウッ!
俺が耐えきれずに大きい声を出した時、目の前の紙が大きな炎に包まれた。迫る熱波に目を瞑ると、瞬間身体が浮く。
(え!?)
ダン王子が俺を抱きかかえてテーブルから距離を取り、すぐに魔法で水を操り消火した。ものの2秒くらいの出来事だった。
「……感情が高ぶると、魔力も暴れるようだな。情緒を安定させろ」
「は、はい……」
「しかし、良い威力だ。やはり人格が変わっても力は健在か」
ダン王子は何やら満足そうに言っているが、俺はそんなことより現状ダン王子にお姫様抱っこされていることの方が重大だった。
「あの……もう大丈夫なので、降ろしてください……」
成人男性として、これ以上お姫様抱っこには耐えられない。俺が羞恥で赤くなりながら頼むと、ダン王子は意外と優しい手つきで降ろしてくれた。
「……ありがとうございます」
恥ずかしさとか諸々で高まる心拍数を感じて、ダン王子から目を逸らしつつお礼を言う。一方ダン王子は平然としたまま、テーブルの燃えカスを退かして椅子に座り直した。俺も倒れた椅子を直して座ると、
「今晩、王家室に集まることになっている」
ダン王子が唐突に言った。
「……ということは、今日俺は帰ってもいいってことですか!?」
「喜ぶな。貴様も一緒だ」
「ええ……」
「ご歓談中に失礼いたします」
俺が喜んで即喜びを取り上げられたところで、ノックと共にクライドさんが部屋に入ってきた。いつもなら休憩用の茶菓子を用意してくれるクライドさんだったが、真剣な面持ちで足早にダン王子の元へ来て声を潜める。
「ダン様。急ぎご報告がございます」
「……」
ダン王子が見やると、クライドさんは僅かに首を横に振った。
「……席を外す。片付けたら帰れ」
「あ、はい」
(帰っていいんだ)
俺にそう言ってダン王子はクライドさんと共に寝室へ消えて行った。さっきまで帰っていいとは言われなかったところを見るに、かなり長引く報告があるということなのだろうか。
(聞かれたらマズイ話なのかな。クライドさん、深刻そうだったけど……って、なんだ?今白いのが)
心配しつつ寝室のドアを見ていたら、ふわっと足元を何か白いものがかすめた。テーブルの下を覗くと、美しい白猫がちょこんと座っている。
「ルカ様。ご無沙汰しておりま──」
「イ、イリスさん!?」
(なんで、俺はこの俺様と毎日毎日一緒に寝てるんだっけ……)
偉そうな人の命令に逆らえない会社員時代の悪癖のせいで律儀に約束を守っていたが、それが当たり前になりかけたあたりで俺は原点回帰して冷静になっていた。
(俺に夜の予定がないのはそうとしても、ダン王子は夜の相手いるだろうに……)
ダン王子はイケメンだ。男らしさと美しさが調和した顔立ちで、俺様が許される能力の高さを持ち、自信にも満ち溢れ、そして意外と弱者のことも考えている。俺様すぎる点はあっても、魔界の男女には大モテだろう。
そんなことを考えながらダン王子の顔を見ていると、鋭い両目が俺を睨んだ。
「おい、集中しろ。水かけられたいのか」
「ちょ、やめてください……!集中しますって」
俺が思考に気を取られていたら、ダン王子が水の入ったデキャンタを俺の上で浮かせていた。この人は本当に水をかけてくる性格なので、慌てて目の前の紙に集中する。
(紙を燃やす実技……。もうちょっとで出来そうなんだけど)
ここ数日はずっと魔法で紙を燃やす実技をやっていた。慣れれば火炎放射のような炎からマッチのような小さい火まで自在に操れるようになるらしい。俺にも魔力はあるらしく、なんだかんだ紙を焦がすくらいならできるようになっている。超能力者になったみたいで、正直ダン王子に教えてもらうようになってから魔法へのモチベーションは高まっていた。
(でも、火は出ないんだよな~)
もう1度集中すると、じわじわと紙の一部が焦げ始める。
「紙が熱くなり、燻り、火が出る。このイメージを明確に抱け」
言いながら立ち上がって、ダン王子は俺の横に立った。
「そして、魔力の流れだ。背中の椎から腕、そして指先へと流れる」
ダン王子の指が俺の背中から腕をゆっくり撫でてきて、意図せず肩が震えた。
「んっ……」
「随分敏感だな。勝手に感じるな」
「な、違いますって……!」
「ちゃんと集中しろ」
楽しそうな声音がして、指が俺の手の甲を触れるか触れないかの距離で滑る。くすぐったくてぞわぞわして、吐息が漏れそうになって唇を噛むと、ダン王子が魔力に関係ない耳を撫でた。
「っ、ちょっと!もういい加減に──」
──ボウッ!
俺が耐えきれずに大きい声を出した時、目の前の紙が大きな炎に包まれた。迫る熱波に目を瞑ると、瞬間身体が浮く。
(え!?)
ダン王子が俺を抱きかかえてテーブルから距離を取り、すぐに魔法で水を操り消火した。ものの2秒くらいの出来事だった。
「……感情が高ぶると、魔力も暴れるようだな。情緒を安定させろ」
「は、はい……」
「しかし、良い威力だ。やはり人格が変わっても力は健在か」
ダン王子は何やら満足そうに言っているが、俺はそんなことより現状ダン王子にお姫様抱っこされていることの方が重大だった。
「あの……もう大丈夫なので、降ろしてください……」
成人男性として、これ以上お姫様抱っこには耐えられない。俺が羞恥で赤くなりながら頼むと、ダン王子は意外と優しい手つきで降ろしてくれた。
「……ありがとうございます」
恥ずかしさとか諸々で高まる心拍数を感じて、ダン王子から目を逸らしつつお礼を言う。一方ダン王子は平然としたまま、テーブルの燃えカスを退かして椅子に座り直した。俺も倒れた椅子を直して座ると、
「今晩、王家室に集まることになっている」
ダン王子が唐突に言った。
「……ということは、今日俺は帰ってもいいってことですか!?」
「喜ぶな。貴様も一緒だ」
「ええ……」
「ご歓談中に失礼いたします」
俺が喜んで即喜びを取り上げられたところで、ノックと共にクライドさんが部屋に入ってきた。いつもなら休憩用の茶菓子を用意してくれるクライドさんだったが、真剣な面持ちで足早にダン王子の元へ来て声を潜める。
「ダン様。急ぎご報告がございます」
「……」
ダン王子が見やると、クライドさんは僅かに首を横に振った。
「……席を外す。片付けたら帰れ」
「あ、はい」
(帰っていいんだ)
俺にそう言ってダン王子はクライドさんと共に寝室へ消えて行った。さっきまで帰っていいとは言われなかったところを見るに、かなり長引く報告があるということなのだろうか。
(聞かれたらマズイ話なのかな。クライドさん、深刻そうだったけど……って、なんだ?今白いのが)
心配しつつ寝室のドアを見ていたら、ふわっと足元を何か白いものがかすめた。テーブルの下を覗くと、美しい白猫がちょこんと座っている。
「ルカ様。ご無沙汰しておりま──」
「イ、イリスさん!?」
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