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 顎を掴まれる。ダン王子は器用に俺のシャツのボタンを片手で外し始めていた。これはただ寝るだけの流れじゃないと流石にわかり、俺は大きい声を出した。

「ま、ままま待って!!一緒に寝るだけって言いましたよね!?こんなことするとか聞いてない!!」

 若干半泣きで言うと、ダン王子は思い切り眉を寄せる。

「はぁ?貴様、共寝の意味を知らんのか」
「と、共寝って、一緒に寝るって意味じゃないんですか……!?わいわい過ごして眠くなったら寝る、みたいな……!」
「……」

 ダン王子は共寝の本当の意味を答えてはくれず、黙ったままチベットスナギツネみたいな顔で俺を見ていた。

「……もういい。抱く気が失せた」

 舌打ちをして、俺の上から退く。

「だっ……!?やっぱり俺抱かれるとこだったの!?ホントにどういう展開……!」
「本当に色気がなさすぎる。どうにかしろ」

 完全に俺が悪いという空気が流れていたが、俺はそれに負けないように声を大きくした。

「色気とか知りませんよ!俺そういうつもりで来たんじゃないんで!帰りますから!」
「待て」

 ベッドから降りようとしたらダン王子が腕を掴んだ。

「ここで寝ろ」
「は?」
「一緒に寝るだけなら、いいんだろ?貴様が言ったことだ」
「っ、いや、それは……!」
「自分で言ったことを守らないのか。我儘だな」

(ワガママはどっちだよ……!)

 しかし、一緒に寝るだけだと思って部屋に来たのは確かだ。ダン王子が何もしないと言うなら、断るのはなんか違う気がした。それにダン王子が小馬鹿にした顔をしていて、断ったら言い返す隙を与えることになるというのも、俺をイラつかせた。

「……何もしないと約束するなら、ここで寝ますけど」
「安心しろ。俺は貴様で欲を満たさなければならぬほど、飢えていない」
「ああそうですか!そりゃ安心だな~!」

(いちいち癪に障る言い方しやがって!)

 ダン王子を睨んでから俺はもう寝てやろうとベッドにもぐりこんだ。仲良くなんてしてやらない。さっさと寝返りしてダン王子の方に背を向ける。
 するとダン王子がベッドに入ってくるのがわかってすぐ、俺は後ろから抱きしめられていた。

「っ!?!な、なに……!?」
「一緒に寝る、と言って離れたところに並んで寝るとでも?」

 耳元で声がして、身体が固まる。

「い、いや、これ寝にくいですけど……!?」

 断固やめろと言えばいいのに、俺はなんかよくわからない理由を言ってしまった。腰に回った手を離そうと掴むと、逆に掴み返される。意外と高いダン王子の体温を肌に感じて、俺は思わず止まった。

「もしかして貴様、まったく経験がないのか」
「なっ、バカにしないでください!ちょっとはありますよ、ちょっとは……!」

 社会人になってからまともな恋愛はしていなかったし、何もしないのに一緒に寝るだなんてイチャつきは初体験だったが、俺は強がった。強がりすぎて言い返しながら振り返ってしまい、ダン王子と間近で目が合う。

「ほう。まぁ初心も一興だな」

 フッ、と薄く笑われて、俺は急いで目をそらした。心臓がなんだかバクバクしている気がする。今のダン王子にドキドキしたと認めたくなくて、俺は唇を噛んだ。

「……うぶじゃないです」

 口の中だけでもごもごと言い返し、俺は早く寝てしまいたくてぎゅっと目を閉じた。手にも背中にもダン王子の温もりを感じて、寝られたもんじゃないと思ったが、気づけば眠りに落ちていた。
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