19 / 69
17
しおりを挟む
ドアを開けて入ってきたのはダン王子だった。突然の登場に静かだった教室が一斉にざわつく。
「うそだろ、ダン様がなんでこんな初級クラスに!?」
「私初めてこんなお傍でお会いできたわ……!ああ、なんて麗しい……!」
ダン王子の登場に驚く男子生徒と、ダン王子の容姿に胸打たれる女子生徒が口々に色々言っている。同性で結婚するのも当たり前な世界とはいえ、やはりイケメンは女子人気が高いようだ。
「どうされましたか、ダン王子。ここは実技初級のクラスで、あなたが受ける授業ではありませんが……」
「初心を思い出したくて来ました。別に俺が受けても問題ないですよね」
「ああ、それはもちろん……!どうぞおかけください」
ダン王子は敬語を使っているだけで、態度は威圧的で堂々としており、先生は終始低姿勢でペコペコしている。不健全な上下関係が垣間見えた。
(まぁ王子だしな。先生と生徒の関係性にはなり切れないか。社長の息子が新卒で入社してきたようなもんだよ)
などと呑気に例えを考えていたら、なぜかダン王子がまっすぐ俺の方に歩いてきて、俺の横に座っていた生徒に向けて顎をしゃくった。
「退け」
「う、わああ!」
言うが早いか生徒の身体が浮いて、先ほど俺を笑っていたいじめっ子集団の方に吹っ飛んでいく。
「おいおい、ちょっと何してんですか!」
「授業を受けに来た。教師とのやり取りを聞いてなかったのか?」
「聞いてましたけど!他に空いてる席なんてたくさんあるでしょ!」
「俺がこの席にすると決めた。それ以外に理由はいらん」
ダン王子は堂々と俺の横に座り、大きく脚を組む。
「ただのワガママじゃないですか、それ。あんた、ホントに自分勝手──」
「ちょっと、あいつなんなの?ダン様とあんなに親しげに……!」
「王族か?見たことない顔だけど。にしても、あの馴れ馴れしい態度はなんだ。生意気にもほどがある」
(やばい。ヘイトがやばい。これ以上目立ったらダメだ、絶対イジメがエスカレートする)
突き刺さる視線を四方から感じて、俺は頭を抱えた。取り急ぎ立ち上がりかけていた腰を椅子に戻し、ダン王子に抗議するのをやめる。
「それでいい。最初から言うことを聞け」
せめてもの反抗心で、満足げに肘をつく王子を無視して、俺は自分だけ先に実技に戻ることにした。羽を浮かせようと手をかざしてみる。
(ま、浮きませんけどね……)
「それでやっているつもりか?なぜ羽ごとき操れないのか、理解不能だな。逆に何ができるんだ、貴様」
「静かにしてください。集中できないんで」
小声で静かに言い返す。本当は「うるっさいな!黙っとれ!」と大声を出したいところだったが、ダン王子にこれ以上無礼を働いたら、いまだに俺を睨んでいる生徒たちに何をされるかわからない。
「魔力を込める、というのがわかってないな」
「え、ちょ、なに」
俺がかざしていた右手にダン王子が左手を重ねた。周囲から小さい悲鳴が上がる。
(結局悪目立ちしてるじゃん!というか、手が熱い……!)
「な、なんかぞわぞわするんですけど……!」
「魔力を込めているからな。今貴様の手には俺の魔力が流れている。羽が上がるのをイメージしてみろ」
手の接触を早く終わらせたいこともあり、俺は言われた通りに目の前の羽が浮く姿を想像した。すると。
「!あ、浮いた!すごい、ホントに……!」
「今の手の感覚が魔力だ。覚えておけ」
指先を動かすと、それに合わせて羽が動く。正直感動した。面白くてもっと羽を操りたかったが、ダン王子が俺から手を離すと羽も落ちてしまう。
「自分だけでやってみろ」
「は、はい。魔力を込める……魔力、魔力……」
「違う、こうだ。感覚を忘れるな」
ダン王子が再び手を重ねてきて、また悲鳴が上がった。
「それやめてください……!周りの反応見えないんですかっ」
「外野などどうでもいい。手っ取り早い教え方をしてやってるんだ、感謝しろ」
(くっそ、俺様め……!)
ダン王子はそれからも俺が成果を上げられない度に、俺の手に触れた。やめてくれといくら伝えても効果はなく、何度も教室から非難の悲鳴が上がることとなった。
「うそだろ、ダン様がなんでこんな初級クラスに!?」
「私初めてこんなお傍でお会いできたわ……!ああ、なんて麗しい……!」
ダン王子の登場に驚く男子生徒と、ダン王子の容姿に胸打たれる女子生徒が口々に色々言っている。同性で結婚するのも当たり前な世界とはいえ、やはりイケメンは女子人気が高いようだ。
「どうされましたか、ダン王子。ここは実技初級のクラスで、あなたが受ける授業ではありませんが……」
「初心を思い出したくて来ました。別に俺が受けても問題ないですよね」
「ああ、それはもちろん……!どうぞおかけください」
ダン王子は敬語を使っているだけで、態度は威圧的で堂々としており、先生は終始低姿勢でペコペコしている。不健全な上下関係が垣間見えた。
(まぁ王子だしな。先生と生徒の関係性にはなり切れないか。社長の息子が新卒で入社してきたようなもんだよ)
などと呑気に例えを考えていたら、なぜかダン王子がまっすぐ俺の方に歩いてきて、俺の横に座っていた生徒に向けて顎をしゃくった。
「退け」
「う、わああ!」
言うが早いか生徒の身体が浮いて、先ほど俺を笑っていたいじめっ子集団の方に吹っ飛んでいく。
「おいおい、ちょっと何してんですか!」
「授業を受けに来た。教師とのやり取りを聞いてなかったのか?」
「聞いてましたけど!他に空いてる席なんてたくさんあるでしょ!」
「俺がこの席にすると決めた。それ以外に理由はいらん」
ダン王子は堂々と俺の横に座り、大きく脚を組む。
「ただのワガママじゃないですか、それ。あんた、ホントに自分勝手──」
「ちょっと、あいつなんなの?ダン様とあんなに親しげに……!」
「王族か?見たことない顔だけど。にしても、あの馴れ馴れしい態度はなんだ。生意気にもほどがある」
(やばい。ヘイトがやばい。これ以上目立ったらダメだ、絶対イジメがエスカレートする)
突き刺さる視線を四方から感じて、俺は頭を抱えた。取り急ぎ立ち上がりかけていた腰を椅子に戻し、ダン王子に抗議するのをやめる。
「それでいい。最初から言うことを聞け」
せめてもの反抗心で、満足げに肘をつく王子を無視して、俺は自分だけ先に実技に戻ることにした。羽を浮かせようと手をかざしてみる。
(ま、浮きませんけどね……)
「それでやっているつもりか?なぜ羽ごとき操れないのか、理解不能だな。逆に何ができるんだ、貴様」
「静かにしてください。集中できないんで」
小声で静かに言い返す。本当は「うるっさいな!黙っとれ!」と大声を出したいところだったが、ダン王子にこれ以上無礼を働いたら、いまだに俺を睨んでいる生徒たちに何をされるかわからない。
「魔力を込める、というのがわかってないな」
「え、ちょ、なに」
俺がかざしていた右手にダン王子が左手を重ねた。周囲から小さい悲鳴が上がる。
(結局悪目立ちしてるじゃん!というか、手が熱い……!)
「な、なんかぞわぞわするんですけど……!」
「魔力を込めているからな。今貴様の手には俺の魔力が流れている。羽が上がるのをイメージしてみろ」
手の接触を早く終わらせたいこともあり、俺は言われた通りに目の前の羽が浮く姿を想像した。すると。
「!あ、浮いた!すごい、ホントに……!」
「今の手の感覚が魔力だ。覚えておけ」
指先を動かすと、それに合わせて羽が動く。正直感動した。面白くてもっと羽を操りたかったが、ダン王子が俺から手を離すと羽も落ちてしまう。
「自分だけでやってみろ」
「は、はい。魔力を込める……魔力、魔力……」
「違う、こうだ。感覚を忘れるな」
ダン王子が再び手を重ねてきて、また悲鳴が上がった。
「それやめてください……!周りの反応見えないんですかっ」
「外野などどうでもいい。手っ取り早い教え方をしてやってるんだ、感謝しろ」
(くっそ、俺様め……!)
ダン王子はそれからも俺が成果を上げられない度に、俺の手に触れた。やめてくれといくら伝えても効果はなく、何度も教室から非難の悲鳴が上がることとなった。
118
お気に入りに追加
535
あなたにおすすめの小説
動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。
モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる