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 ルカ。
 ちょっとキラキラネームで、俺が歳を取った時のことを一切考慮していない名前だと長年思っていたけど、この魔界とかいう場所では妙に馴染んで聞こえた。

「サトウ、ルカ……」

 俺の名前をつぶやいて、ダン王子は睨むように目を細める。

(この人こわ……パワハラ上司を思い出すなぁ)

「ルカ?可愛い名前してるね」
「トーキョーとは、魔界にない地名ですね。この方が至上様ではない、なんて冗談にもほどがありますが……」
「メーカーってなんだろう」

 他3王子も三者三様に何やら言っている。

「イリス。こいつが至上様ではなく、ルカというただの男だというのは本当なのか」
「いいえ、この方は至上様に間違いありません。しかし今回の蘇りに限り、至上様としての記憶を失っている、もしくは……」

 イリスさんが俺に視線を投げる。

「人格が変わってしまった、という可能性がございます」
「確かに記憶喪失よりは、そっちが近いと思います」

 俺には俺の記憶がちゃんと残っている。クリスマスに予定もなく残業しまくることが確定していた、社畜人生の記憶だ。家の住所も覚えているし、好きだった映画や漫画のこともちゃんと思い出せる。
 俺が賛同すると、ザッと音がするくらい一斉に王子たちの双眼がこちらを向いた。

「そんなことがあり得るのですか。いや、そうだったとして、これは一大事が過ぎる。露見すれば争いは避けられません」
「マーティアス様のおっしゃる通りです。至上様はつい先ほどお目覚めになられ、私としましても状況の把握が追いついておりません。しばし時間をいただきたい、というのが本音でございます」
「時間って言っても、至上様のお目覚めは魔界中が注目してるし、色々と誤魔化せないんじゃない?」
「うん……。『接吻の儀』はしないと、非常事態なのが国にバレると思う」

 俺は蚊帳の外状態で、深刻そうに話すイリスさんと王子たちを見ていた。
 俺にどうにかできる問題でもないので他人事のように突っ立っていると、唯一話し合いに参加していなかったダン王子が1歩下がって俺の前に立ち直した。

「中身が元々の至上様でなくなったとしても、力が健在なら問題ない。至上様の人格を知っている者など、イリス以外にいないのだからな」

 そう言って、ダン王子が何かをすくうように右手を上げると、そこに一瞬で炎の剣が現れた。熱気が肌を撫でる。
 本物の炎だった。

「っ!?え、なに……!?」
「至上様が俺ごときの魔法で死ぬわけない。試させてもらう」

(は、魔法!?いや待て、こいつ俺と戦おうとしてる!?)

「ま、待った!戦えないです俺!それにここって死後の世界ですよね?死ぬも何も──」
「何をほざいている。魔界は魔界だ。死後の世界などではない」

(え、死後の世界じゃない……?じゃあ魔界って……)

「ダン様、お待ちください。至上様への反逆行為は絶対死です。お考え直しを」
「至上様の力があれば、俺はこの場で剣など出すこともできない。こうして刃を向けた時点で、至上様による絶対死はすでに発動していなければおかしい。つまり、この男がおかしいのだ」

 イリスさんの制止も聞かず、ダン王子が1歩踏み出す。

「至上様であるならば、どうかこの無礼な刃をお避けください」

 顔色ひとつ変えずにそう言って、ダン王子は俺に向かって剣を振り下ろした。
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