隣人、イケメン俳優につき

タタミ

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過ち

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    2回に1回は必ず負けるように、と思いながら連続で勝ってしまったりということを繰り返すうちに俺も久遠さんも完全に酔った。特に久遠さんは俺よりも明らかに飲んで明らかに酔っていて、もはや自力で座ることを放棄し俺にしなだれかかっていた。
    まだ俺の方が酔っていないにせよ、俺も久遠さんに何を聞いて何を答えたか記憶が曖昧だ。こんなに飲んだの初めてだった。

「また負けたよ~悲しくなってきた……うぅっワインも飽きた……」
「久遠さん、一旦水飲んでください。用意するからちょっと、ちょっと離れて……!」
「いーから質問して?ほら!質問しないともっと飲むぞ」
「もー大人しくして……!この遊び終わり!」
「俺に聞きたいことなんてもうないってこと?」
「わかりました!聞くからボトルから手離して!」

    俺に抱きつくようにして頭を首にぐりぐりと当ててくる久遠さんはデカい猫のようだが、猫ではない成人男性にこんなにも密着されては身動きがとれない。それに赤い顔の久遠さんに見つめられると心臓のあたりがきゅっとなってくる。やはり俺も飲み過ぎている。
    なんか当たり障りのないことを聞いて、それで水を飲ませようと思っていた。

「あー、じゃーえっと……あ、好みのタイプは?」
「好みの……」

    好きなものシリーズを封印したことはお互いもう忘れているし、恋愛系に触れないように質問していたことも俺は忘れていた。
    久遠さんは俺の肩に頭を乗せたまま、俺を見上げた。アルコールで潤んだ目に見つめられて、また心臓がきゅっとなる。

「女の子なら~芸能界に憧れてない子が好きだなぁ。俺のこと知らない子がいい……」
「へぇーありがとうございます。じゃ水飲んで……」

    水を取ってこようと立ち上がろうとしたら、久遠さんに腕を引っ張られて阻まれた。

「でも男なら一太くんみたいな人好き」
「へぇー……え?」

    言われたことを理解しようと俺は久遠さんを見つめ返した。目が合うと何も言葉が出てこなくて、俺は唾を飲むだけだった。

    どういう意味ですか?

    そう聞く前に気づけば久遠さんと唇が当たっていて、柔らかいと思った次の瞬間には口に舌が突っ込まれた。

「ッ、は……っ」
「ん……」

    杉崎久遠とキスしてる。なんだこれ。
    正直俺も酔っていた。言動に出ていないだけで思考回路も理性もアルコールに侵されていた。だから、キスを止めるべきだという判断の前に気持ちいいなというのが来てしまった。
    うわーキスがうまい。イケメンすごいな。
    ということしか考えられないくらい思考が鈍っていた。
    久遠さんの熱い舌が俺の口内を撫で回して背筋がぞくぞくする。男2人の息遣いと水音の響きに、脳が理解を放棄するのがわかる。やがて音を立てて唇を離した久遠さんは俺のベルトに手をかけた。

「……一太くん、恋人いるんだっけ」
「い、ないです。けどッ……」

    俺はバカみたいに赤い顔で久遠さんが俺のベルトを外していくのを見ていた。
    酔った勢いで、みたいなBL漫画を見かけて「男同士でそんなことならんわ」とか笑ってた自分を殴りたい。めちゃくちゃそんなことになってる。BL漫画で得た知識しかない男同士でのやり方が頭を駆け巡っていく。
    これ俺が突っ込まれるのか?待ってくれ、未経験のケツに突っ込まれるのは無理がある。つーか普通にケツ怖いし。いやでもキスの時点で拒めてない俺に何を言う資格があるんだよ。

「したことある?男と」

    俺の自問自答を遮るように久遠さんが囁く。俺は顔を熱くしたまま固まっていた。

「な、ない。ないですよ……、そんな」
「じゃ、俺が教える」

    久遠さんは俺のベルトを外し終えると、俺の上に跨がるように座った。
    オネショタじゃん。
    馬鹿になってる俺はそんなことを思った。
    にっこりと笑う久遠さんは相変わらずイケメンだ。イケメンは性別を越えるのか知らないが、俺の素直な下半身は興奮し始めていた。突っ込まれる訳じゃなさそうということに安心した下半身は正直でバカだ。

「口、開けて」
「ん……ッは……」

    またキスされて、今度こそ俺はキスに応えてしまった。
    ああもうダメだ、欲に流される。すでに流されてる。このままじゃヤバいと理性が訴えてきても、俺はキスを止められなかった。男は悲しいほど本能の下僕なんだ。すでにあとのことはどうでもいいという気持ちに支配されていた。
    唇を離した久遠さんが首筋に顔を寄せる。吐息が耳にかかって、俺の身体が熱くなる。
    押し倒す勢いで、俺は久遠さんに手を伸ばして──

「…………すー……」
「…………え?」

    手を伸ばしたら目をつぶって脱力している久遠さんがいて、俺の目は文字通り点になった。

「え、久遠さん……?」

    呼び掛けても反応はなく、明らかな寝息が聞こえる。
    安らかな顔で眠る久遠さんには先程まであったアダルトな空気がゼロで、俺だけ欲に囚われたままだった。同時に『何をしてんだ、俺たちは』と理性が猛威を振るってきて、俺は唸りのようなため息を吐いた。

「……どうしよう、ちょっと。え、ホントにどうすんの?」

    俺は自分の上で寝ている久遠さんを、どうすることもできず脱力した。
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