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立花颯

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 丈さんが俺の髪をぐしゃぐしゃにしてくる。いつもならやめろと抗議するところだが、俺は素直にうなずいた。この曲はぶっきらぼうな丈さんの、最大の励ましに思えた。

「元気……出た。出ました。ありがとうございます」
「あそ、よかった。ただフリはなんにも出来てねえから」
「えっ、フリなしじゃないのこれ」

 綺麗なメロディラインに傾いていた思考が一気に戻ってくる。歌うだけかと思っていたからだ。

「いやありだろ。間奏は踊り考慮して長めにしてるし、なんか踊った方が絶対盛り上がると作ってて思ったし」
「いやいや待った、ダンスどうするとか事務所に相談した?振付師を用意するとしてもあと1か月じゃ──」
「フリはハヤテとリョウマで考えればいい、と添えて審議に出してる。やるやらはさて置き、フリはそれでいいかみたいな反応だった」
「ええ……意外と雑で柔軟な反応……」
「周年を節目にして卒業するファンもいるから、事務所はちょっとでも熱量上げるネタに飢えてる。やりたいことやらせるなら弱ってる今が狙い目だ」

 丈さんは狩りの話でもしてるような口ぶりだが、確かに事務所の事情はその通りだ。もう何年もやってるJETから、周年を機に卒業していくファンは多い。丈さんの提案を突っぱねなかったということは、俺と涼真のデュオを見たから生涯に悔い無しと卒業するファンより、今回周年を理由に消えるファンの方が多いと事務所は考えているようだ。いくらJETが売れているとはいえ、どんどん他事務所の若手グループがデビューする中、そろそろ大きいネタを投入したい時期ではある。
 という事情諸々で、ダンスはさておき俺と涼真のデュオ曲をサプライズで披露できるということに事務所は惹かれているらしい。そりゃもちろんライブは盛り上がるだろうけど、パフォーマンスを仕上げながら今から振り付けも考えるのは結構大変な作業だ。
 そうとなればもうフリを考え始めようと、丈さんに「頭からもう1回聴きたい」と言ったとき、走ってくる足音が聞こえた。

「いた!そこのふたり、もう会議再開しますよ!」

 涼真がこちらに駆けてくる。しかしスマホから流れる曲が耳に入ると、なぜかぎこちなく脚を止めた。そしてゆっくり近づいてくる。

「もしかして、その曲は……」
「あれ、リョウマはもう知ってんだ」
「ああ。先に曲のこと話したら、このハヤテもんぺが『ハヤテに負担がかかるからダメ!』って止めてきたんだよ。おかげで事務所に言い出すのも遅れて、こんなギリのスケでハヤテに言うハメになった」
「うっ、だって既存曲に加えて新曲増えたら大変じゃないですか。振り付けまで考えろって言うし。ね?ハヤテ」

 涼真は同意を求めて俺のそばに立つ。俺の状態を1番知っているから、こうして負荷を制御しようとしてくれている。ありがたいことだけど、俺はパフォーマンスをやるのが好きでこの仕事を続けてきた。それに、何か新しくやるべきことができたら、嫌なことを考える時間が減ってくれるだろうという目算もあった。

「俺はやるよ」

 目を大きくする涼真の横で、丈さんが「ほらな、ハヤテはやるに決まってるって言ったろ」と得意げだ。茶化した丈さんと対象的に、涼真の表情は曇っている。

「本当に?無理してるなら、俺は反対」
「してない。俺はこの曲やりたい。かっこいいし、何よりせっかく丈さんが作ってくれたんだ。事務所NGになっても、やらせてくれなきゃツアー出ないと頼んでどうにかするよ」
「それ頼みじゃなくて脅しな」
「ハヤテ……」

 涼真は丈さんが見えていないかのごとく、俺だけを見つめて俺の名前を呟いた。葛藤がちらつく涼真に向かって、俺は頷く。大丈夫だと込めて。

「……わかった。それなら俺も頑張る。みんなのこと驚かせよう」

 涼真が頷き返しながら言うと、丈さんが涼真と俺の肩を強く叩いた。

「よっし!決まりな。今から会議でデュオのこと発表するぞ。事情知ってるやつらはまだ決定じゃないって怒るだろうが、既成事実にしたもん勝ちだ」

 普段見せない大きな笑顔で丈さんが俺たちを引っ張る。このあと丈さんは宣言通りに会議でデュオ曲を発表し、勝手な暴露で役職付き社員をしっかり困らせ、その他スタッフとJETメンバーみんなを喜ばせた。俺のせいで神妙にならざるを得ない関係者たちは、久しぶりに笑顔と活気に満ちていた。
 俺もつられて口角を緩めながら、自分はいい人たちに囲まれてると再認識させられた。メンバーだけではなく、スタッフもみんな今まで一緒に頑張ってきた仲間で、JETのことを想ってくれている。

(頑張ろ。嫌なこと考えてる暇なんてない)

 俺は決意と共にテーブルの下で拳を握った。
 隣で涼真も、俺と同じように手を握っていた。
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