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立花颯

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「そんなことに、応じるとでも?断固断ります」
『ええ、もし申し入れがあってもお断りになったほうがいいと思います』

 新山弁護士は、涼真の反応を待たずに続けた。

『私は吉岡氏の弁護を担当しておりましたが、今回のご要望には対応いたしません。吉岡氏は裁判中の幣事務所への不誠実な態度もあり今後依頼者として受け入れないことになっております。しかし、1番の要因は出所後の吉岡氏に反省が見られないからです』

 反省が見られない。
 あいつは何も変わってないってことか。

 これ以上聞きたくない気持ちと、全部知りたいという気持ちが俺の中でせめぎ合っていた。

「あなたの話が事実だとして……どうしてこの電話番号を知っているんですか」

 主導権を渡さないように、涼真が静かに問う。

『謝罪の件について吉岡氏が相談しに来た際、「立花様の件で事務所に連絡をしても門前払いだろう」と伝えました。すると吉岡氏が「事務所がダメなら個人に連絡すればいい」とこの電話番号のメモを見せてきました。難色を示すとメモは没収されましたが、私はおかしいと思い数字をその場で記録していたのです』

 なんらかの手段で、吉岡は涼真の電話番号までは行きついている。
 その事実が、俺の呼吸を止めた。

『正規ルートで入手した番号ではないため、誰の番号か確認すべきか躊躇しておりました。そして、本日正式に依頼を断る連絡をしたのですが、先程「自分で謝りに行く」と吉岡氏から返信がありました。それでもし、あのメモの番号が関係者のものであるなら、早急にお知らせしたくご連絡した次第です』
「……吉岡が、こちらに勝手に接触してくるということですか?」
『わかりません。別の弁護士に依頼するのではなく、自分で勝手に行動する可能性は十分あるとだけ伝えておきます』

 新山弁護士は一貫して落ち着きながら、こちらを心配する声音をしていた。
 その声が、この連絡を手の込んだイタズラだと思い込みたい俺を、そうはさせないと現実へ引き戻していた。

『本来依頼主の情報を私が第三者に知らせることはできない、かつ件の電話番号がどういった人のものかわからないこともあり、こちらの事情で非通知にてお電話させていただきました。非常識な振る舞いとなり、誠に申し訳ございません』
「話はわかりました。この件について相談したい場合はメント法律事務所に連絡すればいいですか」
『はい。個人名義で一般的な法律相談をしたいという内容で新山をご指名ください。吉岡氏の個人情報を教えることはできませんが、今の話を他の関係者の方にすることには応じさせていただきます』

 涼真は、頭痛でもするかのように頭を押さえてから顔を上げた。
 『なにか聞きたいことある?』とジェスチャーで聞かれ、俺はまとまらない思考のまま首を横に振った。俺の目を見て頷いた涼真が、スマホに顔を近づける。

「……最後に聞きたいんですが、この番号に何度かかけました?非通知で」
『いえ、先ほど申し上げたとおり確認しようと思ったことはありましたが、実際にかけたのは今回が初めてです』

 今回が初めて。
 でも、涼真は非通知が最近よくかかってくると言っていた。
 誰が電話をかけてきていたのか、頭の中がグルグルして俺は気が遠くなっていった。




 新山弁護士からの電話について、涼真はすぐにマネージャーに連絡して、翌日JETメンバーのスマホは電話番号もメールアドレスも全て新しくされた。
 マネージャーは俺は仕事を休むように主張したけど、経営陣は「自分の行動が立花に影響を与えている、と相手に感じさせることは悪手なのではないか」と主張した。
 要するに事務所は、稼ぎ頭の俺に出来るだけ働いていてほしいのだ。営利団体の会社としては至極真っ当な要望だった。

「悪い、立花。上が主張を変えなくて」

 マネージャーは謝ってくれたけど、俺はどちらでも良かった。仕事をしてもしなくても、安心などできないのだから。

「俺は全然平気です。仕事に影響出したくないのは俺も同じなので」

 そう答えた俺は、いよいよ不眠に悩まされることになっていった。
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