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立花颯

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「ハヤテ~飯に何にする?」

 頼さんがソファでゴロゴロしながら声を上げた。

「中華とかどう?餃子食べたい気分」
「いいじゃん、俺うまい店知ってるぞ。ウーバーやってるかな」

 俺は簡単にシャワーを浴びて出てきたところだった。
 ホテルを転々とする生活をしていたが、吉岡が接近してくる可能性が現実味を帯びて、事務所が色々と対策に焦った結果、今は対策案が2周くらいしてメンバーの個人宅を転々とすることになっていた。
 俺は今週、頼さんのマンションに泊まっている。

「ウーバーあったわ。餃子2人前と、あとチャーハンもつけちゃお」
「エビチリあったらそれも欲しい」
「出たエビ好き。追加します~はい注文!」

 ソファに近づくと、寝ていた頼さんは起き上がって俺の席を空けてくれた。
 メンバーの家に泊まることになり、ほぼ初めてみんなの自宅を見ることになったが、頼さんが1番こじんまりとした生活をしていた。こじんまりとは言っても、もちろん高級マンションで防犯はしっかりしている。それでも部屋は1LDKなので広さはなく、家具なども庶民的だ。他のメンバーは収入に見合った、謎に何部屋もあるマンションに住んでいたので、ちょっと意外だった。

「頼さんって節約家?」
「いや別に。なんで?」
「部屋とか、生活が結構庶民的だから」
「おい、バカにしたな今」
「してないよ。ただ他のみんなはもっとこう……The売れてる芸能人って感じの部屋だったから」
「うわ~みなさん流石JETですねぇ。俺は広いと落ち着かないんだよな。てかリョウマも広いとこ借りてんの?あいつほとんど宿舎に住んでるじゃん」

 涼真の家だけは以前行ったことがあった。俺と同様にほぼ宿舎暮らしとなった今も、同じところを借り続けている。

「リョウマは3LDKに住んでるよ。あいつは家具が高いタイプだね。ベッドとかキングサイズでめっちゃ寝やすいけど100万超え」
「ひゃ、100万!?の、ベッド……か」

 頼さんは大きくリアクションを取ってから、その後はモニョモニョと声が小さくなっていった。涼真の家のベッドに詳しい俺に、中学生のように動揺したのがわかる。
 そこで俺はふと、頼さんに聞きたかったことを思い出した。

「ライさん。リョウマと俺の関係について、俺より先にリョウマから聞いてたっしょ」
「えっ!?あ、いや」

 頼さんはわかりやすく動揺して、スマホを落とす。我がリーダーは驚いた時のリアクションが大きい。なのに、俺が涼真とそういう関係だと暴露した時は、それほど驚いて見えなかった。
 誤魔化す隙を与えないために、俺はすぐに詰める。

「どうなの。正直に。ウソ禁止な」
「あっ、あの、えーっと……き、聞いてました」
「やっぱり。なに勝手に話してんだよアイツ……」
「いや!最初に俺が聞いたんだよ!お前らのこと気になって、俺からリョウマを詰めたの!だからリョウマは悪くない!な!?怒らないで……!」

 頼さんは両手を顔の前で合わせてすごい勢いで弁明してくる。俺は対象的な表情で、頼さんの両手を降ろさせた。

「ライさん。ほんと、ごめん」
「いやほんとに申し訳……っえ?なに?謝るのは俺だろ」
「俺のことで、ライさんをずっと振り回してる。吉岡の件も、リョウマとのことも。その謝罪」

 頼さんは驚いた目をして固まっていた。

「俺、ライさんの負担増やしたくないんだ。迷惑もかけたくない。全然叶えられてないから信憑性ないだろうけど」

 頼さんは、デビュー前からメンバー全員のメンタルを支えて、誰がどこと険悪になっても角が立たないように仲裁してきた。周囲に気を遣って立ち回る頼さんという存在に、いかに助けられてきたかガキの頃はわからなかったものだ。潤滑油をこなし続けて、その上感情的に不満を漏らすことも弱音を吐くこともないのだから、他のメンバーに代替は不可能だった。

「ライさんがいなかったらJETはここまで成功してないよ。ライさんはこれからもJETが成功し続けるために絶対必要だ。だから無駄なことで悩んでほしくない」

 俺が言い終わる頃には、頼さんから驚きは消えていた。そして俺が口を閉じると間髪れずに口を開いた。

「吉岡については吉岡が全部悪い。ハヤテが謝ることなんてひとつもない。それから俺がハヤテとリョウマのことを考えるのは、全然無駄なことじゃない」

 言い切られて、俺は反応に困った。俺を許容する即答が嬉しかったのは本音だが、嬉しがるのは甘えな気がした。
 俺が言い淀んでいると、頼さんは表情を和らげた。

「俺はふたりがお互いに幸せになる関係でいてほしいだけ。リョウマが片想い相手のセフレしてるのは、幸せとはかけ離れてる」
「それは……それこそ俺のせい。リョウマには本当に悪いと思ってる」
「だから、セフレをやめた?」
「うん。俺からけじめつけなきゃと思って」

 関係の終わりを告げたときに見た、涼真が頭に過った。どういう顔をすればいいのか、わからない顔をしていた。
 1つ言えるのは、涼真だって俺のような男に過度の期待などせず、いいとこ取りの割り切った関係だと思っていたはずだ。

「ハヤテが知ってるか知らないけど、リョウマは俺の前で泣くほどお前との関係に悩んでたよ」

 そう思ってきた俺は、頼さんの言葉に目を見開いた。
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