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御厨涼真

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  寮に4人で移動し、コンビニで買った夜食を食べて時間を潰した。
  頼さんが暗くならないように吉岡に関係のない雑談をしてくれていたが、俺は時計ばかり気になって上の空だった。
  23時が刻一刻と近づき、口の中が渇いていく。針が5分を指して、いったん水を飲もうと時計から意識をそらしたとき、リビングのドアが開いた。

「うわ、ほんとにみんないる」

  目を見開いた颯が、マネージャーに促されてリビングに入ってくる。
  頼さん、丈さん、翔太郎さん、そして俺が集まって、テレビもつけずにテーブルを囲んでいるのはかなり異常に見えるようで、颯は目を泳がせていた。

「大事な話って、なに?まさかスキャンダル?」

  言いながら空いていた俺の隣に颯が座って、そのまま俺を見てくる。俺が首を緩く降ると、マネージャーが立ったまま口火を切った。

「大事な話は、スキャンダルじゃなく立花に関係した話だ。他のメンバーには既に話してある。落ち着いて聞いて欲しい」
「だから、何なんですか、話って」

  颯はマネージャーに見上げて、続きを急かした。
  マネージャーは表情を変えずに、静かに口を開く。

「吉岡が出所する。今週中に」

  ひゅっ、と息を飲む音がした。
  部屋に入ってきたときの何倍も目を開いた颯は、見るだけでわかるほど身体を硬直させていた。
  俺はたまらず、膝の上で握りしめられた拳に手を伸ばした。颯が少し震えているのがわかる。

「なんっ、なんで、どうして、まだ出てこないはずですよ」

  無理した半笑いで颯が聞くと、宥める声音で「仮釈放だからだ」とマネージャーが答える。

「吉岡の刑期は2年だが、態度良好につき仮釈放が許可された。仮釈放っていうのは、刑期満了前に刑務所を出られる制度で、仮釈放中は基本的に通常の社会生活を営める」

  皆が一様に颯に憂慮の目を向けたが、颯はしばらく何も言わず動かなかった。

  「それって──」

  息を吸って言いかけて、表情が崩れる直前で颯が顔を覆った。
  言葉は続かず静寂が落ちる。

「許しがたいが、法律でそう決まってるんだ」

  黙りこむ颯にマネージャーは冷静を保って伝えたが、眉は苦しそうに歪んでいた。
  俺は颯の肩を擦ってあげるくらいしかできなくて、唇を噛みながら颯の反応を待った。

「……仮釈放っていつまでなんですか」

  くぐもった声で颯が聞き、マネージャーは目を伏せた。

「問題行動がなければ仮釈放は懲役が終わるまで続く。要するに今回吉岡が出て普通に過ごす限り、もう刑務所に戻ることはない」

  被害者なら最も納得のいかない部分について説明がなされ、颯が深く息を吐くのがわかった。

「そう、ですか」

  ゆっくり顔を上げた颯は、覇気なく言った。
  その顔には怒りも悲しみもなく、少し虚ろなだけだった。
  心を守るために心を動かさないようにしてるとわかって、そして俺は腹の底で怒りが渦巻くのを感じた。

「俺は許せないですよ、全部。なにもかも。裁判の内容も全てが納得いかない。あんなやつ、一生刑務所にいるべきなのに。懲役2年だって短すぎるのに」

  怒りのままに『言っても無意味で虚しい』から黙っていたことを吐き出していた。
  みんな大人だから口にしないことを、大人になりきれない俺だけが口にしていた。

「……わかるよ、リョウマ。でもここで何を言っても何の解決にもならない」
「この件で騒いで、喜ぶのは吉岡とマスコミだけだ」

  翔太郎さんと丈さんが、俺を見る。
  言葉は理性的だったが、ふたりとも自分に言い聞かせるような声をしていた。

「だからって!……だからって、何も言わずにおくなんて、俺にはできません。なんでこんな──」

  颯ばっかり辛い目に。

  俺が勢いのままに立ち上がると、弱く腕を引かれた。

「リョウマ」

  颯の虚ろだった瞳が、意思を持って俺を見上げていた。

「……ありがとう。でも、いいから」

  まだ言いたいことはたくさんあったけど、颯の優しいような哀しい目に見られたら、黙るしかなかった。
  俺の背中を颯が擦って、俺は離れたばかりの椅子に腰を戻す。

「事情はわかりました。それで、話は終わりですか」

  この話題を早く終わらせたいのだろう、颯は完全に切り替えた事務的な態度を見せた。

「いや、まだある。吉岡出所に合わせて、立花にはしばらく警戒体制をとってもらいたい」

  言いながらマネージャーは、テーブルに書類を広げた。
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