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矢代頼
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練習スタジオに新曲が流れる。
「1、2、3、1、2、3……」
鏡で自分の振りを確認しながら、もう少し今のところは脚を上げた方がいいなと考える。その傍ら、俺の意識は颯と涼真に注がれていた。
練習用のダボついたスウェットでも、なおわかる長い脚でステップを踏む涼真は、さっきまで俺の部屋で半泣きだった男とは思えない。そして半泣きの原因である颯は、服をわざとはだけさせる振りで割れた腹筋を見せつけていて、俺は思わず視線をそらした。
あの腹筋を涼真に触らせてるわけか。
いや、こんな下ネタを後輩たちで考えたい訳じゃない。でも涼真の口から颯と身体だけの関係だと言われた今、考えるなという方が無理がある。
これが健全な交際だったなら、下ネタなんか考えないようにするけどさ。
「はぁ……」
踊りながら小さくため息を吐いていると、颯と涼真が接近するパートに入る。
チラ、とふたりを見れば、颯が振りの合間に涼真の腰を抱くように引き寄せていた。顔が近づいて驚いた涼真がもたつくと、満足そうに笑った颯は振りに従って離れていく。
年上のお姉さんに弄ばれてる男子高校生。
涼真の顔を見て、俺はそんなことを思った。
お互いに割りきった肉体関係なら、俺も大人としてある程度目をつむる、又はちゃんと説得してやめさせることもできただろうけど、問題は涼真の方は純粋な愛を颯に抱いているということだ。
涼真の気持ちを弄ぶのはやめさせないと。
それに涼真に約束した手前、颯をぎゃふんと言わせるために頑張る義務が俺にはある。
「はぁ……」
決意と裏腹に、俺の口からは再びため息が出ていた。
練習が一区切りとなって、休憩に入る。
俺が床に座り込むと、翔太郎が練習後とは思えない軽やかなスキップで近づいてきた。
「ライ、外のコンビニにアイス買いに行こ」
「えぇ~俺疲れた。動けん」
「そんなこと言ってるとすぐ三十路になるよ」
「三十路には黙ってても勝手になるから」
動かないという意思表示のために床に寝そべると、翔太郎は「も~」と頬を膨らませた。いい歳した男のくせに、これが似合うのだからすごい。
「てかショータロお前、練習前にもアイス食ってなかった?」
「うん。でも僕、まだ食う」
翔太郎は片言気味に答えて、床に寝る俺の上に乗ってくる。マネージャーに買ってきてもらえばいいのに、翔太郎は何かと現場主義だった。
俺はスマホを弄り始めてみたが、俺の上で横揺れしている翔太郎には退く様子がない。これ以上拒否しても機嫌を損ねるだけだろうし、仕方ない一緒に行ってやるかと思ったとき、俺の目の前に白いアディダスのスニーカーが現れた。
「ライさん、ちょっと次の収録のことで相談したいことあるんだけど」
見上げるとタオルで顔の汗を拭う颯がいた。
汗で濡れた前髪がオスっぽさを増幅させていて、ファンが見たら騒ぎ立てるんだろうなと思った。
涼真も騒ぎ立てるのかもしれないけど。
俺の頭がまた無駄なことを考えているうちに、「聞いてる?」と颯が追い立ててくる。
「聞いてる聞いてる。ほら、ショータロ退いて。俺ハヤテと話すことあるから」
「えー仕方ないなぁ~。リョーマ!僕と一緒にアイス買いに行こ!」
翔太郎が俺の上から退いて、丈と話している涼真の方に駆け寄っていった。
「で、相談って?」
起き上がって床に座り直すと、颯は俺の腕を引いた。
「人がいないとこで話したい」
颯に見下ろされて、俺は得体の知れない緊張を覚えた。
「1、2、3、1、2、3……」
鏡で自分の振りを確認しながら、もう少し今のところは脚を上げた方がいいなと考える。その傍ら、俺の意識は颯と涼真に注がれていた。
練習用のダボついたスウェットでも、なおわかる長い脚でステップを踏む涼真は、さっきまで俺の部屋で半泣きだった男とは思えない。そして半泣きの原因である颯は、服をわざとはだけさせる振りで割れた腹筋を見せつけていて、俺は思わず視線をそらした。
あの腹筋を涼真に触らせてるわけか。
いや、こんな下ネタを後輩たちで考えたい訳じゃない。でも涼真の口から颯と身体だけの関係だと言われた今、考えるなという方が無理がある。
これが健全な交際だったなら、下ネタなんか考えないようにするけどさ。
「はぁ……」
踊りながら小さくため息を吐いていると、颯と涼真が接近するパートに入る。
チラ、とふたりを見れば、颯が振りの合間に涼真の腰を抱くように引き寄せていた。顔が近づいて驚いた涼真がもたつくと、満足そうに笑った颯は振りに従って離れていく。
年上のお姉さんに弄ばれてる男子高校生。
涼真の顔を見て、俺はそんなことを思った。
お互いに割りきった肉体関係なら、俺も大人としてある程度目をつむる、又はちゃんと説得してやめさせることもできただろうけど、問題は涼真の方は純粋な愛を颯に抱いているということだ。
涼真の気持ちを弄ぶのはやめさせないと。
それに涼真に約束した手前、颯をぎゃふんと言わせるために頑張る義務が俺にはある。
「はぁ……」
決意と裏腹に、俺の口からは再びため息が出ていた。
練習が一区切りとなって、休憩に入る。
俺が床に座り込むと、翔太郎が練習後とは思えない軽やかなスキップで近づいてきた。
「ライ、外のコンビニにアイス買いに行こ」
「えぇ~俺疲れた。動けん」
「そんなこと言ってるとすぐ三十路になるよ」
「三十路には黙ってても勝手になるから」
動かないという意思表示のために床に寝そべると、翔太郎は「も~」と頬を膨らませた。いい歳した男のくせに、これが似合うのだからすごい。
「てかショータロお前、練習前にもアイス食ってなかった?」
「うん。でも僕、まだ食う」
翔太郎は片言気味に答えて、床に寝る俺の上に乗ってくる。マネージャーに買ってきてもらえばいいのに、翔太郎は何かと現場主義だった。
俺はスマホを弄り始めてみたが、俺の上で横揺れしている翔太郎には退く様子がない。これ以上拒否しても機嫌を損ねるだけだろうし、仕方ない一緒に行ってやるかと思ったとき、俺の目の前に白いアディダスのスニーカーが現れた。
「ライさん、ちょっと次の収録のことで相談したいことあるんだけど」
見上げるとタオルで顔の汗を拭う颯がいた。
汗で濡れた前髪がオスっぽさを増幅させていて、ファンが見たら騒ぎ立てるんだろうなと思った。
涼真も騒ぎ立てるのかもしれないけど。
俺の頭がまた無駄なことを考えているうちに、「聞いてる?」と颯が追い立ててくる。
「聞いてる聞いてる。ほら、ショータロ退いて。俺ハヤテと話すことあるから」
「えー仕方ないなぁ~。リョーマ!僕と一緒にアイス買いに行こ!」
翔太郎が俺の上から退いて、丈と話している涼真の方に駆け寄っていった。
「で、相談って?」
起き上がって床に座り直すと、颯は俺の腕を引いた。
「人がいないとこで話したい」
颯に見下ろされて、俺は得体の知れない緊張を覚えた。
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