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矢代頼
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都内某所の高級個室居酒屋。
そこで俺はテレビ局のお偉いさんにビールを注がれている。お偉いさんの部下やら同じ事務所の俳優やらモデルやらもいて、なかなか凄い飲み会だ。
「いやぁ~ホントにJETの活躍は凄まじいね!いまや世界規模のアーティストだ」
「いえ、まだまだ精進しなければと感じてます」
「謙虚なのもいいねえ!矢代くんどんどん食べて飲んで」
お造りやら蟹やらが目の前に置かれる。
翔太郎が喜びそうと思って、今ごろみんなでピザ食ってんのかなとちょっと寂しくなる。
いい歳なので接待も仕事だと割り切っているが、ツアーの打ち上げには参加したかったというのが正直なところだ。
「今度ゴールデンでJETを特集したいんだけど、どうかな~!ファンも喜ぶと思うしさ」
「それは光栄です。ぜひよろしくお願いします」
過密スケジュールのどこに収録をぶっこむのか、それに気を取られて若干上の空でお偉いさんに愛想笑いを向ける。
「そう言えば、立花くんは大丈夫?」
「え、立花ですか?……もしかして、なんかやらかしました……?」
颯と涼真のイチャつきあいに勘づかれた?
と、思ってから勘づかれたからって別になにもないんだし、そんなビビることはないと咳払いで誤魔化しながら焦った表情を整える。
「いや違うよ。ほら、活動休止してたでしょ。……過激なファンのせいで」
案外良識のあるらしいお偉いさんは声を潜めた。
「……そのことなら、もう回復してるというか。パフォーマンスも問題ないので大丈夫だと思ってます」
「そうなんだ、それはよかったよ。でも無理させないようにね。グループの花形だろうし」
お偉いさんの言うとおり、少し前まで──もう復帰して半年ほどになるが、颯は芸能活動を休止していた。
公には体調不良ということにしていたが、原因はファンの暴走によるものだった。
クリスマスの日だった。
恋人たちが仲睦まじく過ごす日、俺たちアイドルはクリスマスライブをこなしていた。
「みんなー!俺たちとクリスマス過ごしてくれてありがとー!」
「また来年も一緒に過ごそうね!約束だよ?」
「メリークリスマース!」
アイドルの恋人であるファンたちに愛を叫び、叫び声を返されライブを終えた。
ライブ後は宿泊先のホテルに移動する予定だった。
予定通り支度を終え、移動車に乗り込もうとしたとき「ハヤテ!!」という叫び声がして1番後ろに立っていた颯に黒い影が突進した。
「っ、!」
「ハヤテ、やっと会えた!」
颯の腕を掴んだ黒い影の正体は、小太りの女だった。
芸能人、特にアイドル業には、出待ちはもちろんストーカー行為までする悪質なファンが存在する。今までJET全員迷惑行為をされたことがあるが、颯は特に過激な女ファンが多かった。
「ちょっとあなた!離れなさい!」
「やめて!私はハヤテに話があるの!」
その場にいたスタッフが大慌てでファンを引き剥がす。
颯は目を見開いて立ち尽くしていた。
「ハヤテ、早くこっち!」
わめき散らすファンから離れさせたくて、俺が腕を引っ張ると少し躓くようにして颯は車に乗り込んだ。
「カーテン閉めたからここ座って、ハヤテ」
「あ、うん」
涼真に手を引かれストンと座った颯は、表情がなかった。
「あの女、前もいたか?」
「いや僕は初めて見たよ。ハヤテにつきまとう迷惑女はほんと減らないね」
窓の外を睨む丈に、珍しく口の悪い翔太郎が返す。
「……俺も、初めて見たと思う」
「ハヤテはすぐ忘れていいから、ね」
律儀に答えた颯を安心させるように、涼真が顔を覗き込む。
みんな颯を心配して、ファンの女に怒っていた。
「とりあえずホテル戻って休もう。運転手さん、出してください」
クリスマスライブは大成功だったが、一気に最悪な日になってしまった。
このときそんなことを思っていたが、今思えば『最悪』はまだ訪れていなかったのだ。
そこで俺はテレビ局のお偉いさんにビールを注がれている。お偉いさんの部下やら同じ事務所の俳優やらモデルやらもいて、なかなか凄い飲み会だ。
「いやぁ~ホントにJETの活躍は凄まじいね!いまや世界規模のアーティストだ」
「いえ、まだまだ精進しなければと感じてます」
「謙虚なのもいいねえ!矢代くんどんどん食べて飲んで」
お造りやら蟹やらが目の前に置かれる。
翔太郎が喜びそうと思って、今ごろみんなでピザ食ってんのかなとちょっと寂しくなる。
いい歳なので接待も仕事だと割り切っているが、ツアーの打ち上げには参加したかったというのが正直なところだ。
「今度ゴールデンでJETを特集したいんだけど、どうかな~!ファンも喜ぶと思うしさ」
「それは光栄です。ぜひよろしくお願いします」
過密スケジュールのどこに収録をぶっこむのか、それに気を取られて若干上の空でお偉いさんに愛想笑いを向ける。
「そう言えば、立花くんは大丈夫?」
「え、立花ですか?……もしかして、なんかやらかしました……?」
颯と涼真のイチャつきあいに勘づかれた?
と、思ってから勘づかれたからって別になにもないんだし、そんなビビることはないと咳払いで誤魔化しながら焦った表情を整える。
「いや違うよ。ほら、活動休止してたでしょ。……過激なファンのせいで」
案外良識のあるらしいお偉いさんは声を潜めた。
「……そのことなら、もう回復してるというか。パフォーマンスも問題ないので大丈夫だと思ってます」
「そうなんだ、それはよかったよ。でも無理させないようにね。グループの花形だろうし」
お偉いさんの言うとおり、少し前まで──もう復帰して半年ほどになるが、颯は芸能活動を休止していた。
公には体調不良ということにしていたが、原因はファンの暴走によるものだった。
クリスマスの日だった。
恋人たちが仲睦まじく過ごす日、俺たちアイドルはクリスマスライブをこなしていた。
「みんなー!俺たちとクリスマス過ごしてくれてありがとー!」
「また来年も一緒に過ごそうね!約束だよ?」
「メリークリスマース!」
アイドルの恋人であるファンたちに愛を叫び、叫び声を返されライブを終えた。
ライブ後は宿泊先のホテルに移動する予定だった。
予定通り支度を終え、移動車に乗り込もうとしたとき「ハヤテ!!」という叫び声がして1番後ろに立っていた颯に黒い影が突進した。
「っ、!」
「ハヤテ、やっと会えた!」
颯の腕を掴んだ黒い影の正体は、小太りの女だった。
芸能人、特にアイドル業には、出待ちはもちろんストーカー行為までする悪質なファンが存在する。今までJET全員迷惑行為をされたことがあるが、颯は特に過激な女ファンが多かった。
「ちょっとあなた!離れなさい!」
「やめて!私はハヤテに話があるの!」
その場にいたスタッフが大慌てでファンを引き剥がす。
颯は目を見開いて立ち尽くしていた。
「ハヤテ、早くこっち!」
わめき散らすファンから離れさせたくて、俺が腕を引っ張ると少し躓くようにして颯は車に乗り込んだ。
「カーテン閉めたからここ座って、ハヤテ」
「あ、うん」
涼真に手を引かれストンと座った颯は、表情がなかった。
「あの女、前もいたか?」
「いや僕は初めて見たよ。ハヤテにつきまとう迷惑女はほんと減らないね」
窓の外を睨む丈に、珍しく口の悪い翔太郎が返す。
「……俺も、初めて見たと思う」
「ハヤテはすぐ忘れていいから、ね」
律儀に答えた颯を安心させるように、涼真が顔を覗き込む。
みんな颯を心配して、ファンの女に怒っていた。
「とりあえずホテル戻って休もう。運転手さん、出してください」
クリスマスライブは大成功だったが、一気に最悪な日になってしまった。
このときそんなことを思っていたが、今思えば『最悪』はまだ訪れていなかったのだ。
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