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矢代頼

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「寮、ついたぞ」

  マネージャーの声で我に返る。
  ついさっき移動車に乗ったはずが、いつの間にか郊外のシェアハウス前だった。

「ボーッとしてどうしたんだ。飲み会、ウザ絡みされた?」
「いや……ハヤテは大丈夫なのかってお偉いさんに聞かれて。ちょっと思い出してただけです」

  普段表情が出ないマネージャーの顔にわかりやすくシワが寄った。
  颯がファンの女に襲われて、1番自分を責めたのがマネージャーだった。管理が甘くて申し訳ないと重ね重ね俺たちに謝罪して、マネージャーを辞めると申し出たのを昨日のことのように覚えている。

「……辞めるなんて、言わないでよ。俺が辞めないのに」

  そう返した颯の、濡れた声も耳元で鮮明に再生された。
  あぁ、なんか涙出そうだ。年かな。

「……立花が無理してそうだったら教えてくれ。復帰半年で海外ツアー出てくれたこと、感謝してるけどさ」
「ハヤテは本当によくやってますよ」
「立花だけじゃなくて、矢代も帳も瀬崎も御厨もよくやってるよ」

  マネージャーがこんなわかりやすく優しい言葉を言うのが珍しくて、つい面白くなってしまった。

「どうしたんですか、死亡フラグみたいなこと言って」
「お前な、たまには優しくしようとした労りを笑うな」

  早く降りろと手を振るマネージャーに従って立つ。ドアを開けたとき、ふと颯と涼真のスキンシップがよみがえった。

「あの、1個雑談なんすけど。メンバー同士で絡みやるじゃないですか」
「あーファンサの一貫のな」
「颯と涼真の絡み、増やす指示とか出してます?」

  出してるよ。事務所の命令で。

  という言葉を期待している俺がいた。

「いや、絡み推奨してるけど誰と誰がとかは決めてないぞ」

  真顔で言われて、俺は解消できない悩み事に腕を組んだ。


  事務所が言ってないなら、自主的に颯と涼真の絡みが増えたということだ。
  答えがでないまま、寮のカギを開ける。

「ただいま~」

  颯は事件後、当たり前だが1人でいるのを恐れるようになった。活動休止に合わせて、颯のマンションに事務所のスタッフが交代で行く制度ができた。
  寮とは別に全員マンションを所有しているため寮自体あるだけの状態が続いていたのだが、颯が『マンションよりメンバーも来やすい寮の方がいい』と提言し、結果俺含め他メンバーも颯に合わせて寮で過ごすようになっていった。そうして今でも予定が許すなら、全員なるべく寮にいるようになっている。

  颯の活動休止中、1番寮にいたの涼真だったな。

  ふと、リビングのドアに手を掛けながらそんなことを思い出した。

「お、ライさんおかえり。結局遅いじゃん」
「ライさんのケーキ、残ってますよ!」

  リビングに入ると、床のクッションに座る颯と涼真が振り返って手を振ってくれる。顔面偏差値の高さに気をとられるが、広いリビングで成人男性ふたりが肩を寄せあっている光景はやはり不思議だ。
  1人でいるのが怖いから、颯は涼真と一緒にいる。
  と考えるのが無難だけど、一緒にいるってかイチャついてんだよなぁ。

「うわ~おいしそうなケーキ……って言いたかったんだけど、切り方ヤバない?かつてケーキだったナニカじゃん」
「俺が切った。ちゃんと綺麗に残してやろうと思ってたんだけど、こうなってた」
「ジョーさんマジで不器用」

  ラブラブ集を観る前だったら絶対気がつかなかったと思うのだが、つい俺の目は涼真と颯の挙動に向いていた。
  だから気づいてしまった。
  肩をすくめた颯がちょんと涼真の膝に触れたことに。
  その瞬間、涼真が目だけで颯を見てから立ち上がる。

「俺、そろそろ寝ますね」
「ライが帰ってきたから寝るってよ。嫌われてるね」
「ショータロー、笑顔で言うのやめて」
「そういうことじゃないですよ!」
「俺も寝よ。ライさんは深夜にケーキ食べてニキビでも増やしてね」

  涼真に続いて立った颯は、無駄に色気のある流し目──普段から無駄に色気のある目元だが──を俺に向けてさっさと出ていった。
  涼真は頭を下げて「おやすみなさい」と律儀に言ってから颯を追いかけるように出ていった。

  どう見ても、颯の膝タッチが『寝よう』の合図で、合図に涼真が反応してふたりして出ていったとしか思えない。

「え、付き合ってる?」
「なにが?」
「いやあの、ハヤテとリョ……」

  丈の相づちについ口走ってから、確信もないのに言うべきではなかったかと慌てて口を閉じた。
  が、すでに時は遅い。

「ハヤテと?」
「リョウマが?」

  マットでゴロゴロしていた丈と翔太郎が同時に首を上げて俺を見た。
  このままではグループ内にいらない波紋が広がってしまう。

「ち、違う違う!ただホラ、同じタイミングで寝に行くからカップルかよ~って思って、な!そういうやつ!」

  身ぶり手振りで誤魔化そうとする俺に怪訝な目を向けた丈は、ヘアバンドを取って長い前髪を揺らした。

「何焦ってんだよ。あいつら前から一緒に寝てんだろ」
「は?」

  丈が当たり前のように言って、翔太郎も気にする様子がない。

「えっ、待って。同じ部屋で!?」
「知らなかったの?いっつも同じタイミングで寝に行ってるでしょ」
「寮にいるときは、大抵ハヤテの部屋で寝てるよあいつら」
「なん、なんで?!」

  まさか本当に付き合ってたらどうしようと、口が乾く。

「理由とか聞いたことないけど、ハヤテちゃんがひとりじゃ寂しいからじゃないの」
「まー総合的に仲良しなんだろ。てか、早くケーキ食えよライ」

  俺はまだまだ心の整理がついてなくてふたりに追撃で質問したかったのに、おもむろに立ち上がった颯が口にケーキを突っ込んできて、むせるしかなかった。
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