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矢代頼
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遅れて楽屋に到着すると、翔太郎と丈は化粧を落として衣装を脱ぎ始めていた。
颯と涼真はすでに着替えも終えて、身を投げ出すようにソファに座っている。颯の長い脚が涼真の膝に乗っていてなんでやねんと思ったが、先ほどの翔太郎と丈の話を鑑みて気にしすぎだと思い直した。
「ハヤテ、ちょっと詰めて。お兄ちゃん年だから疲れちゃったよ」
「うわ、ライさん狭いってば」
ふたりがけのソファに無理やり入り込むと、颯は「まったく」と言いながらも不機嫌は治っているようだった。
「ライさん、今日のお疲れ様会でなに食べたいですか?」
颯の横から身を乗り出した涼真がキラキラとした笑顔を見せてきて、接待に召集された罪悪感が膨らむ。
JETは上下関係に厳しいわけではないが、年下組の涼真と颯は年上組の俺、翔太郎、丈のことを『さん付け』で呼んでいた。おまけに涼真は1歳差の颯以外には敬語を使う。
「小さい頃から剣道やってたので癖で」という信憑性のありそうでない理由を言われたことがあるが、とにかくリョウマは年齢の上下に従順だった。
「……実は俺、接待に召集されてしまってですね」
「えぇー!今日パーティーやるってツアー中から決めてたのに」
「スミマセン」
「残念です……料理とっておくんで、早く上がれたら一緒に食べましょ」
口をへの字にして不満顔の颯と、しゅんとしている涼真。どちらも俺の不在を悲しんでいる姿に、可愛い後輩たちだなぁと口元がニヤけそうになる。
「リョウマぁ、俺はピザ食いたい。でかいやつ」
「僕は刺身食べたいな~。寿司もいいね」
「いいですね、お腹すいてきました」
一方俺の不在を悲しむ素振りもなく、丈と翔太郎が私服に着替えながら涼真に希望を投げる。
「おい、俺が接待の生け贄になった労いは?」
「おつでーす」
「人付き合い上手いからなぁ、ウチのリーダーは。顔も良いしね」
俺に見向きもしない丈と違って、翔太郎が一応誉め言葉を発する。翔太郎のウインクに免じて、ここはよしとしよう。
「てか、早く着替えなよ。まだ疲れてんの」
颯が俺の太ももをぎゅっと掴んでポンと叩く。
痛いぞと言う前に、俺へのスキンシップに冷静になった。思い返せば、颯は俺にも丈にも翔太郎にも抱きついたり肩を組んだりすることがあるし、他グループと比べたらウチはそういう絡みが多めだ。
やっぱ、颯と涼真も仕事の範囲内の絡みかな……。
あんなラブラブ動画集を観てしまったから、颯と涼真がつい目についてただけだという思いが、じわじわと形成されていく。
「着替えるって。年上に鞭打つなよな~」
気にしすぎだった説を唱えることにしよう。ちょっとスキンシップ多めなだけ。そうだよ、普通に考えれば。
そう決めて晴れやかな気持ちで立ち上がった俺は、
「ね、リョウマ。俺はエビ食いたい。ピザにも寿司にもいそうだけど」
「エビのこと本当に好きだね、ハヤテは」
そう顔を寄せ合っているふたりの手がいまだに繋がれたままであることに気づいてしまった。
え?
今までずっと繋いでんの?なんで?
「矢代さん、お着替えこちらでお願いします」
言及する前にスタッフに背中を押され、繋がれた手は見えなくなった。
しかし、あれは見間違いでも夢でもない。
1秒前に気にしないと決めたのに、再び頭の中は『涼真&颯ラブラブ集』に支配されてしまっていた。
颯と涼真はすでに着替えも終えて、身を投げ出すようにソファに座っている。颯の長い脚が涼真の膝に乗っていてなんでやねんと思ったが、先ほどの翔太郎と丈の話を鑑みて気にしすぎだと思い直した。
「ハヤテ、ちょっと詰めて。お兄ちゃん年だから疲れちゃったよ」
「うわ、ライさん狭いってば」
ふたりがけのソファに無理やり入り込むと、颯は「まったく」と言いながらも不機嫌は治っているようだった。
「ライさん、今日のお疲れ様会でなに食べたいですか?」
颯の横から身を乗り出した涼真がキラキラとした笑顔を見せてきて、接待に召集された罪悪感が膨らむ。
JETは上下関係に厳しいわけではないが、年下組の涼真と颯は年上組の俺、翔太郎、丈のことを『さん付け』で呼んでいた。おまけに涼真は1歳差の颯以外には敬語を使う。
「小さい頃から剣道やってたので癖で」という信憑性のありそうでない理由を言われたことがあるが、とにかくリョウマは年齢の上下に従順だった。
「……実は俺、接待に召集されてしまってですね」
「えぇー!今日パーティーやるってツアー中から決めてたのに」
「スミマセン」
「残念です……料理とっておくんで、早く上がれたら一緒に食べましょ」
口をへの字にして不満顔の颯と、しゅんとしている涼真。どちらも俺の不在を悲しんでいる姿に、可愛い後輩たちだなぁと口元がニヤけそうになる。
「リョウマぁ、俺はピザ食いたい。でかいやつ」
「僕は刺身食べたいな~。寿司もいいね」
「いいですね、お腹すいてきました」
一方俺の不在を悲しむ素振りもなく、丈と翔太郎が私服に着替えながら涼真に希望を投げる。
「おい、俺が接待の生け贄になった労いは?」
「おつでーす」
「人付き合い上手いからなぁ、ウチのリーダーは。顔も良いしね」
俺に見向きもしない丈と違って、翔太郎が一応誉め言葉を発する。翔太郎のウインクに免じて、ここはよしとしよう。
「てか、早く着替えなよ。まだ疲れてんの」
颯が俺の太ももをぎゅっと掴んでポンと叩く。
痛いぞと言う前に、俺へのスキンシップに冷静になった。思い返せば、颯は俺にも丈にも翔太郎にも抱きついたり肩を組んだりすることがあるし、他グループと比べたらウチはそういう絡みが多めだ。
やっぱ、颯と涼真も仕事の範囲内の絡みかな……。
あんなラブラブ動画集を観てしまったから、颯と涼真がつい目についてただけだという思いが、じわじわと形成されていく。
「着替えるって。年上に鞭打つなよな~」
気にしすぎだった説を唱えることにしよう。ちょっとスキンシップ多めなだけ。そうだよ、普通に考えれば。
そう決めて晴れやかな気持ちで立ち上がった俺は、
「ね、リョウマ。俺はエビ食いたい。ピザにも寿司にもいそうだけど」
「エビのこと本当に好きだね、ハヤテは」
そう顔を寄せ合っているふたりの手がいまだに繋がれたままであることに気づいてしまった。
え?
今までずっと繋いでんの?なんで?
「矢代さん、お着替えこちらでお願いします」
言及する前にスタッフに背中を押され、繋がれた手は見えなくなった。
しかし、あれは見間違いでも夢でもない。
1秒前に気にしないと決めたのに、再び頭の中は『涼真&颯ラブラブ集』に支配されてしまっていた。
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