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バート

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 午前2時3分。
 気絶したフィルを適当な空き部屋に運び込んでから1時間。
 俺は自分なら脚を折っても収まらなそうなベッドで眠るフィルを眺めていた。
 正確にはフィルをウォルトに任せて部屋に戻ろうとするのをウォルトに止められて、「告白の返事もまだなんだし起きるまで待って、なんか言った方がいいですよ!出血量すごかったけど傷は浅いから、どうせすぐ起きるし!」とフィルを押し付けられ、ついでにあまりの菓子パンも押し付けられ、仕方なくシャワーで身体の血を流し、小腹を満たすために菓子パンを食い終わってさすがに暇になってから2分ほどフィルを眺めていた。

「全っ然すぐ起きねえじゃねえか、この」

 文句を言いながらぐいっとマスクを剥ぐと、色白の幸薄そうな顔が現れた。口元から顎下まで目立つ古傷があり、俺は改めて初めて素顔を見たかもなと思った。
 ウォルト曰く、フィルの不幸そうで気だるげな雰囲気はミステリアスという評価を得て一定の女から支持されているらしい。
 弱そうなだけだろと見つめていると、フィルの目がぼんやりと開いて俺をとらえた。

「え……バートさん……?なんで!?」

 一気に目を見開いたフィルは、よろよろと上体をあげて周りを見渡した。

「ここは屋敷の空き部屋だ。ウォルトが手当てしてここに運んだ」
「あ、ありがとうございます……でも、なんでバートさんが……」

 赤くなってこちらを見るフィルの表情は、まさに恋するそれだった。
 俺はいつからこんな顔を向けられてたんだ?と自問自答しても答えは出ない。

「ウォルトが、告白の返事してやれって無理矢理オレを置いてったんだよ」
「あー告白の……って告白の!?なんでウォルトさんが告白のこと知って……!?」
「オレが話したから」

 先程よりも更に目を見開いたフィルは、赤い顔を両手で覆って俺から距離を取るようにのけ反った。

「あのぉ、えっとあれは忘れてください!今日死ぬかもと思って、言わないと後悔するとか思ってしまって!完全にエゴでした!すみませんでした!」

 一息に謝罪をまくしてたてて、フィルは耳まで赤くして肩で息をする。
 今まで数多のやつから謝罪を死ぬほど受けてきたが、こんな顔で言われたことはなかったので、つい俺はフィルを見つめてしまった。

「今日死ぬ予定だったのか?」
「……ウチの縄張り外でクスリの仕事があって、それで……もしかしたらと。実際はそんな危なくなかったんですけど、クスリ切れのジャンキーからもろにナイフ食らっちゃって」

 クスリの末端売買は下っ端の仕事だ。薬漬けの顧客を相手にしながら、別業者との縄張り争いも処理しなければならない。
 面倒なうえに多忙で死の危険も高い。
 だからこそ、いくらでも替えの利く下っ端が担う業務だった。

「でもウォルトさんに見つけてもらえてホント良かったです」

 フィルはへらへら笑ってすぐに、ウォルトにも告白のことは忘れてもらえるだろうかと焦燥の面になる。
 俺はフィルが告白をなかったことにしようとしているのが気に入らなかった。
 返事もする気がなかったくせになんでかはわからないが、おそらくフィルの告白が一瞬だとしても自分の心を乱す発言だったからだ。

「お前さ、オレのこと好きなんじゃねえの」
「えっ……す、好きですけど……」
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