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5話

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「優成、キスしよう」

 ソファに座った優成の膝を枕にして、明樹は囁いた。
 たった今撮った自撮りをインスタに上げようとしていた優成は、スマホを明樹の胸に落とした。謝ることも忘れて目線を下げた優成の前髪が、彼の動揺を隠すように目元に落ちる。
 子ども扱いされがちな末っ子もセンターパートになると途端に大人の色気が出るな、と明樹は思った。

「え……なんですか?」
「キス。こないだしたでしょ。もっかいしよ」
「…………なんで?」
「したいから。したくない?」

 今、寮のリビングには明樹と優成しかいない。
 静かな空間に、お互いにしか聞こえないような囁き合いが響く。
 ちょっと前に、明樹は優成とキスをした。部屋で一緒に映画を観ていたら優成に「キスしたい」と言われたので明樹が応じた、というのがより正確な表現だ。付き合っているわけでもない優成が何故そんなことを言ったのか、明樹は理解していなかったが、優成にキスを求められるのは悪い気がしない──どころか嬉しくなっている自分がいた。
それに、優成とキスしたら心が満たされる感覚があって、その感覚が忘れられなくて。
 だから、明樹はまたキスしたいと思っていた。それで、ひとりでリビングにいる優成を見つけて膝に寝た。

「いや、したくない、とかではない……ですけど」
「じゃ、しよう。ほら」

 優成のうなじに手を這わせて、誘うように顎をあげる。
 ほんの一瞬、悩むように目をそらした優成は、しかし次の瞬間には明樹に唇を重ねた。

(どきどきするし、やっぱり嬉しい)

 優成の体温が身体に流れて、明樹は満たされていくのを感じる。長く感じても実際はほんの1、2秒のこと。優成はさっと唇を離そうとした。追いかけるように顔を寄せ明樹からキスを送ると、優成は間近で何か我慢するように顔をしかめてから、器用に明樹の下から脚を抜いた。そして明樹を閉じ込めるように覆い被さる。

「……こういうこと、いろんな人としてるんですか」
「え?してないよ」

 優成のつぶらな瞳が一回り大きくなる。
 予想外、といった表情に「おいおい、俺はそこまで遊び人じゃない」と笑い返したら、無言で腕を掴まれた。その形を確かめるような掴み方は、普段のじゃれあいにない生々しさが見え隠れしていて、明樹は息を止めた。しかし自分から仕掛けておいて、今さらやっぱやめようとは言い出せない。それに、明樹が何か言い出す前に唇は塞がれていた。
 優成の唇を食むようなキスは、先程と違い味わうようで長かった。

(さすがに口、開けたらダメだよな)

  ──ゴトンッ。

 明樹が意思をもって唇に力を入れたとき、何かが落ちる音がした。
 反射的に目を向けると、リビングの入り口で仲間であり親友の仁がこちらを凝視したまま固まっていた。
 親友の足元には水のペットボトルが落ちている。仁は一言も発していなかったが、その様子だけで『キスを見た』という状況が完成していた。

「じ、仁さっ……!」

 明樹と同じくリビングの入り口に顔を向けた優成は、転がる勢いで明樹の上から飛び降り即座にホールドアップした。

「待ってください、これはですね……!!」
「……一原、優成……」

 地を這うような低音でフルネームを発した仁は、鮮やかな跳躍で優成に特攻した。どう説明するべきかゆっくりとした思考で考え始めた明樹には、もちろん止める間もないスピードだった。
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