6 / 11
宮城旭
6
しおりを挟む
最寄り駅からシェアハウスへ向かう道を、緩慢な動作で歩く。面倒くさい会社の飲み会を断って、俺は帰路についていた。華金だから飲もうという気持ちを頭から否定する気はないが、今日の会は取引先の女性社員がいるものだった。明らかに俺をダシにしたいのが見え見えだ。女性、特に他社の女性がいる飲み会は、ほとんど合コンのようになるので嫌いだった。名刺以外の連絡先も交換するのが当たり前、というあの空気感。2、3回LINEでやり取りしたら終わってしまう人間関係を増やして、『人脈作り』と呼べる程ポジティブな人間ではない。
ふと思い立って寄ったコンビニで菓子と酒を買い、伸びをするように空を見上げる。そんなに飲む方ではないが、今日は金曜日だしと言い訳をしながら選んだ缶を1本取り出す。飲みながら帰ろうかな、と普段ではしないことを考えていると「旭さん!」と聞き慣れた声と共に足音が駆け寄ってきた。
「今帰り?今日なんか早いですね」
隣に並び立った古賀栄智が、綺麗な歯を見せている。
目元、鼻筋、唇、顔にあるパーツはシンプルだが均整がとれていて、芸能事務所にでも入ったら大化けしそうな容姿だった。親と不仲らしく、高校生ながら生活のために顔出し配信をして投げ銭で食いつないでいると聞けば、庇護欲をもわかせる雰囲気があって、栄智は蠱惑的だった。だからこそ投げ銭も多くされているのだと思うが、恋人となった今では栄智を性的に見ているファンもいると知ってしまって、生活費は出すから配信回数を減らしてほしいと思っていたりする。
「栄智は学校帰りにしては遅いな」
「今日学校行ってない。暇でふらふらしてただけ」
「またサボり~?適度に行きなさいよ。面倒なのはわかるけど」
「出席日数考えてるし心配ないんで。で、旭さんはなんで早いんですか」
「今日は飲み会断ったから定時帰り中」
「へぇ~でも酒買ってますよねコレ」
栄智は俺が持っていたビニール袋を指差す。
「部屋で飲もうと思って。会社の人と飲むのが嫌だから断っただけで、酒は嫌いじゃないし」
「ひとり飲みするの」
「まぁ、そうね。普通にひとりで」
「俺、部屋行っていいすか」
歩く速度は変えずにちらりと横を見ると、栄智は少し照れたように俯いている。『部屋に行く』という行為を申し出るだけなら、別に照れる必要はない。要するに栄智は『それ以上』のことを期待しているわけだ。こういうところは年相応に分かりやすくて可愛らしい。
「いーけど、酒は飲んだらダメだよ。未成年くん」
「飲まないっすよ、旭さんじゃないんだから」
「アハハ、否定できねー。栄智はまともに生きな」
俺の許しを得て、栄智は嬉しそうな空気を纏っている。『青春』という言葉の真ん中で生きている栄智は、時折俺の知らない感情を見せる。喜んだり、悔しがったり、恥じらったり。言葉で表現してしまえばありきたりなものなのだが、俺の持つ感情よりもずっと繊細で細やかな分類があるようだった。
「それ貸して。持ちます」
栄智がビニール袋を俺の手から奪おうとするので、袋を反対の手に持ち変える。
「老人扱いはまだ早い。まだまだピチピチの28歳だからね、俺」
「いやそういう意味で言ったわけじゃ」
「ほら、こっちの手空いたし」
そのまま、きゅっと栄智の手を握る。骨っぽい手は、俺と違って温かい。
振り払うかなと思って栄智を見ると、一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに俺の手を握り返してくる。
「ここら辺、人通り少なくてよかった」
そう言って頷いた栄智は、こちらに笑顔を向けた。その笑顔は純粋で、俺の心臓をぎゅっと締め上げてくる。
「栄智」
「ん、なに」
手繋ぎがOKならキスしてもいいかなと顔を近づけると、キョトンとこちらを見ていた栄智が瞬時に「それはやめろ」と俺の顔を手で押しやった。普通に体力があるタイプの十代男性に押されたため、普通に顔が痛い。
「外でイチャつくの無しっつったろ」
「ごめん、ごめんて。お手々は繋げて嬉しいです」
俺の言葉にふんと鼻を鳴らした栄智は、それでも手を離すことはなかった。栄智の許容範囲を計るのは、いまだに難しい。これが思春期なのかもなと、俺は頬を押さえつつ反省した。
ふと思い立って寄ったコンビニで菓子と酒を買い、伸びをするように空を見上げる。そんなに飲む方ではないが、今日は金曜日だしと言い訳をしながら選んだ缶を1本取り出す。飲みながら帰ろうかな、と普段ではしないことを考えていると「旭さん!」と聞き慣れた声と共に足音が駆け寄ってきた。
「今帰り?今日なんか早いですね」
隣に並び立った古賀栄智が、綺麗な歯を見せている。
目元、鼻筋、唇、顔にあるパーツはシンプルだが均整がとれていて、芸能事務所にでも入ったら大化けしそうな容姿だった。親と不仲らしく、高校生ながら生活のために顔出し配信をして投げ銭で食いつないでいると聞けば、庇護欲をもわかせる雰囲気があって、栄智は蠱惑的だった。だからこそ投げ銭も多くされているのだと思うが、恋人となった今では栄智を性的に見ているファンもいると知ってしまって、生活費は出すから配信回数を減らしてほしいと思っていたりする。
「栄智は学校帰りにしては遅いな」
「今日学校行ってない。暇でふらふらしてただけ」
「またサボり~?適度に行きなさいよ。面倒なのはわかるけど」
「出席日数考えてるし心配ないんで。で、旭さんはなんで早いんですか」
「今日は飲み会断ったから定時帰り中」
「へぇ~でも酒買ってますよねコレ」
栄智は俺が持っていたビニール袋を指差す。
「部屋で飲もうと思って。会社の人と飲むのが嫌だから断っただけで、酒は嫌いじゃないし」
「ひとり飲みするの」
「まぁ、そうね。普通にひとりで」
「俺、部屋行っていいすか」
歩く速度は変えずにちらりと横を見ると、栄智は少し照れたように俯いている。『部屋に行く』という行為を申し出るだけなら、別に照れる必要はない。要するに栄智は『それ以上』のことを期待しているわけだ。こういうところは年相応に分かりやすくて可愛らしい。
「いーけど、酒は飲んだらダメだよ。未成年くん」
「飲まないっすよ、旭さんじゃないんだから」
「アハハ、否定できねー。栄智はまともに生きな」
俺の許しを得て、栄智は嬉しそうな空気を纏っている。『青春』という言葉の真ん中で生きている栄智は、時折俺の知らない感情を見せる。喜んだり、悔しがったり、恥じらったり。言葉で表現してしまえばありきたりなものなのだが、俺の持つ感情よりもずっと繊細で細やかな分類があるようだった。
「それ貸して。持ちます」
栄智がビニール袋を俺の手から奪おうとするので、袋を反対の手に持ち変える。
「老人扱いはまだ早い。まだまだピチピチの28歳だからね、俺」
「いやそういう意味で言ったわけじゃ」
「ほら、こっちの手空いたし」
そのまま、きゅっと栄智の手を握る。骨っぽい手は、俺と違って温かい。
振り払うかなと思って栄智を見ると、一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに俺の手を握り返してくる。
「ここら辺、人通り少なくてよかった」
そう言って頷いた栄智は、こちらに笑顔を向けた。その笑顔は純粋で、俺の心臓をぎゅっと締め上げてくる。
「栄智」
「ん、なに」
手繋ぎがOKならキスしてもいいかなと顔を近づけると、キョトンとこちらを見ていた栄智が瞬時に「それはやめろ」と俺の顔を手で押しやった。普通に体力があるタイプの十代男性に押されたため、普通に顔が痛い。
「外でイチャつくの無しっつったろ」
「ごめん、ごめんて。お手々は繋げて嬉しいです」
俺の言葉にふんと鼻を鳴らした栄智は、それでも手を離すことはなかった。栄智の許容範囲を計るのは、いまだに難しい。これが思春期なのかもなと、俺は頬を押さえつつ反省した。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。
天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」
甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。
「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」
ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。
「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」
この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。
そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。
いつもこうなのだ。
いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。
私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ?
喜んで、身を引かせていただきます!
短編予定です。
設定緩いかもしれません。お許しください。
感想欄、返す自信が無く閉じています
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
君が好き過ぎてレイプした
眠りん
BL
ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。
放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。
これはチャンスです。
目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。
どうせ恋人同士になんてなれません。
この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。
それで君への恋心は忘れます。
でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?
不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。
「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」
ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。
その時、湊也君が衝撃発言をしました。
「柚月の事……本当はずっと好きだったから」
なんと告白されたのです。
ぼくと湊也君は両思いだったのです。
このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。
※誤字脱字があったらすみません
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。
ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18)
しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。
「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」
頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。
そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる