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古賀栄智

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『片思い 解決』
『年上 男 落とし方』
『セフレ 男 恋愛感情』

「……ったく」

 哀愁漂う検索履歴を長押しで消去しながら、俺は寝返りを打った。ここ1時間程、ベッドに寝転びながら恋愛コラムを読み漁っている。旭さんに恋人がいないと分かった今、焦る必要はないはずなのに、俺は恋愛コラムを検索する手を止められなかった。それもこれも、旭さんにセフレがいるせいだ。

「セフレって……なんだよ……」

 もっと干物だと思っていた。いや正確には、その辺でひっかけた相手と行きずりの一夜を共にすることはあっても、仕事とギャンブル以外でわざわざ時間を割いて恋人でもない特定の女に会いに行くなんて思わなかった。例えそれがセフレであっても、旭さんに誘われてセックスするんだから、今の俺よりも地位が上なことに変わりない。旭さんの性的に興奮した顔を眺められるなんて、特権階級が過ぎる。

「クソ羨ましい……」
「なにが?」
「いや、だからセフ……って旭さん!?」

 ベッドの上から俺を覗き込んでいるのは、紛れもなく旭さんだった。頭を壁にぶつける程飛び退くと、旭さんは「よいしょ」と俺のベッドに上がってくる。いや、俺のベッドには上がらないで欲しい。

「ちょっとなんすか。いきなり部屋入ってきて」
「ノックしたけど、気が付かなかったのは栄智じゃん」

 我が物顔で俺のベッドに寝そべった旭さんの手には、最近流行りの漫画が複数巻握られていた。

「今日新刊発売でさ。これ栄智も読みたがってたよな?だから全巻持ってきた。読んでいいよ」
「あー、あざっす……」
「もうちょっと嬉しがってくれる?」
「嬉しがってますって、わーい」

 せっかく無理した俺のリアクションを大して見ずに、旭さんは1巻を投げ渡してきた。確かに以前読んでみたいと言った漫画だが、それは旭さんがハマっているから話を合わせたかっただけだった。さらに本当のことを言えば、俺のベッドの上で仲良く読みたくなどなかったが、持ってきてもらってしまったのなら文句も言えない。しぶしぶ1巻を拾って、旭さんから最も離れたベッドの端に座った。

「3巻まで読んだら絶対ハマるから、マジで」

 そう言って旭さんは最新刊を読み始める。俺は壁に背中を預けながらとりあえず漫画を開き、寝そべった旭さんを眺めた。ジャージのズボンにスーツ用のシャツ姿。スラックスを皺にしないために下だけ変えてから部屋に来たのかなと想像を広げていると、旭さんがこちらをチラリと見た。何かと思って見つめ返すと、旭さんは漫画に向き直ってから口を開く。

「栄智ってさ、セフレ欲しいの?」
「は?」
「セフレいる俺が言うのもなんだけど、好きな人いるならセフレとか作んない方がいいよ」

 一体誰がいつそんなことを言ったことになってるかわからないが、俺は慌てて否定した。

「いや、なんですかその風評被害。俺全然セフレ欲しくないって」
「あ、そうなの?それなら良いけど」
「俺、わりと長く片思いしてる人いるし、好きな人いなくてもセフレ欲しいと思わねえから」

 好感度が確実に下がる噂話を払拭したくて、早口で言葉を続けると、「へぇ、そんなに好きなんだ」と感心した声が返ってくる。

「……まぁ、完全に脈なしだろうけど」
「栄智に対して脈なしな子なんているんだな」

 お前だよ。
 と、言いたい気持ちを抑えて頭をガシガシと引っ掻く。男同士な上に俺をガキだと思っている大人相手だ。この状況で俺はどうしたらいいというのか。
 そんな俺の悩みも露知らず、漫画を読み続けていた旭さんが、ふと口火を切った。

「気持ち伝えちゃえば?」
「え?」
「好かれてると気づけば、相手の見方も変わってくるし。そこで嫌悪感抱かれたら何やっても無駄だから諦めもつくし。片思いなんて告っちゃうしかないだろ」

 漫画片手に軽く言われた言葉だったが、俺は強く動揺した。
 もしかして、今言うしかないんじゃないか?これを逃したら、言うにふさわしいタイミングは一生訪れないかもしれない。どれだけ悩んでいても、いつかどこかで告白するしかないとは思っていた。それが今なんじゃないか?フラれたって仕方がないんだ、言わないよりはダメ元でも伝えておきたい。
 片思い相手からの思いもよらぬ助け船に、俺の体は勝手に乗ろうとしていた。

「……旭さんは、全然意識してなかったやつから告白されて、意識するようになったことあるの」
「あるある。俺のこと好きなんだって思うと可愛く見えてきたりする」

 漫画を見たまま、旭さんはうつ伏せから仰向けに体勢を変える。ベッドの端に座っていた俺は、それを機に旭さんのそばまで体を動かした。うるさくなる心臓を押さえながら、口を開く。

「俺、旭さんに言いたいこと、あるんですけど」
「ん、漫画ハマった?」

 本を少し下にずらして、旭さんがこちらを見る。俺は旭さんの手から漫画を取り上げると、そのまま覆い被さった。

「ちょっと何」

 新刊を手で追おうとする旭さんの腕ごと掴んでベッドに押し付ける。

「俺のこと見て」

 低い声で言うと、漫画を見ていた目がやっとこちらに向く。

「なに?」
「……好き」
「は?」
「俺、旭さんのこと好きだから」

 人生初の告白を吐きそうになりながら終えた。さっきまで細められていた瞳がこれ以上ないくらい大きくなる。ここまで呆然とした旭さんは初めて見た。俺は意地でも目をそらしてやるものかと、その綺麗な瞳を見つめ返す。

「え……」

 数秒長くて数十秒、俺達は黙って見つめあっていた。旭さんが言葉ともわからない掠れた声を漏らし、やっと1回まばたきをした。
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