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第六話 存在しない世界
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目が冷めても何もやる気が起きずベッドに寝っ転がったまま過去のことを思いだしていた。
心配になったのか母さんが部屋の前に朝ごはんを置いていくと声をかけて仕事に出かけて行った。
いつの間にか時計は12:00すぎを表示していた。
さすがにお腹も空いてきて母さんにも悪い気がしたので部屋の前のご飯を部屋の机に持ってきた。
ごはんもおかずの目玉焼き、ベーコンも冷めきっていたが、保温容器に入れてくれていた味噌汁はあったかく、久しぶりに温かい食事をした気がした。
食べ終わるとまたベッドに寝転がった。
「明日は誕生日か……」
僕の誕生日にマミと2人で青梅駅前のベンチで夕日を見ながら色々と話をした思い出がよみがえってきた。
会話の内容は、どれもささいなもので細かくは覚えていないが、あの日、マミのことがそれまでより理解できてもっと好きになった。
マミとの過去の思い出が次々と思い起こされる。
いつの間にか日が落ちてきて、いつものマミの声が聞こえる時間になった。
17:00
「ソウ君、今日ね、学校ですごいことがあったの!」
「なんだかわかる?」
「なんと授業中に犬が迷い込んで来たの! 柴犬でものすごくかわいくて、とっても人懐こかったの」
マミはとても驚いているようだが、そこまで驚くことでも無いような……。
「?」
今まで、声が聞こえている気がしているだけだったが、ここまで鮮明に内容がわかることは無かった。
「明日はソウ君のお誕生日だよね」
右手に誰かが手の平を重ねて来たような気がした。
少し体温が低くて、ひんやりとした感じがする。
マミに違いない。
「マミ居るんだろ!」
僕はとんでもない間違えをしていたのかもしれない。
「ずっと待っててくれてるんだよね?」
僕の声は届いていないのかマミは話を続けた。
「明日は学校を休んで、ソウ君の外出許可も特別にもらって、あの場所に行きます。毎日病室の中じゃあ健康な人も不健康になっちゃうしね」
病室?
あの事故が起きた時マミが消失したのではなく僕が『アース』の世界へ取り残されたんじゃないだろうか?
現実に戻ったと思ったこの世界もVRの世界じゃないんだろうか?
僕が行ったミッション。
VR世界と現実世界で同一の物は、その距離が近ければ近いほど影響を受けやすくなるという実験。
僕が居る病室は、この自宅の近くでここまでマミの会話もはっきりと聞こえるようになったんじゃないのか?
マミに握られただろう手は、いつの間にか2人の体温であたたかくなっていた。
「ソウ君なんだか今日は手があったかい気がする」
現実世界のマミが僕に語りかけている。
「そうだ! マミ! 僕は今キミの手をこうやって握っているんだ!」
僕はマミが手を握っているだろう左手に右手を重ねて両手でマミの手をつつみこんだ。
「今、ソウ君の声が聞こえた気がする」
マミの声色が一瞬かわった気がする。
「あとちょっと居られませんか? 今日はなんだかいつもと違う気がして。ほら、なんだか今日は微笑んだような表情に見えます」
マミは誰かと会話しているのか?
「ごめん、時間みたい。明日はいつもより長く一緒に居られるし、また明日ね」
手の感触も無くなった……。
学校の授業が終わるのがだいたい16:00ぐらい、そこからマミが僕の居る病院まで移動と考えると、
数キロは離れているはず。
今、自宅に居るこの僕と現実世界の僕の体は、数十キロは離れていないもののそれなりの距離はあるようだ。
現実世界の自分の体と、今、ここに存在する僕の体をまったく同じ場所で一致させれば、こちらから
現実の世界のマミへ話かけることが出来るかもしれない。
現実世界の自分の体は、どこにあるんだろう?
病院の場所は?
「そうだ! 明日、僕の誕生日にマミが行こうとしている場所は?」
マミは、あの初デートの時、ずっと待っててくれた。
駅前の木製のベンチに一緒に座って夕日を眺めたあの日。
僕の誕生日だった。
「行ってみよう。あの場所に。」
心配になったのか母さんが部屋の前に朝ごはんを置いていくと声をかけて仕事に出かけて行った。
いつの間にか時計は12:00すぎを表示していた。
さすがにお腹も空いてきて母さんにも悪い気がしたので部屋の前のご飯を部屋の机に持ってきた。
ごはんもおかずの目玉焼き、ベーコンも冷めきっていたが、保温容器に入れてくれていた味噌汁はあったかく、久しぶりに温かい食事をした気がした。
食べ終わるとまたベッドに寝転がった。
「明日は誕生日か……」
僕の誕生日にマミと2人で青梅駅前のベンチで夕日を見ながら色々と話をした思い出がよみがえってきた。
会話の内容は、どれもささいなもので細かくは覚えていないが、あの日、マミのことがそれまでより理解できてもっと好きになった。
マミとの過去の思い出が次々と思い起こされる。
いつの間にか日が落ちてきて、いつものマミの声が聞こえる時間になった。
17:00
「ソウ君、今日ね、学校ですごいことがあったの!」
「なんだかわかる?」
「なんと授業中に犬が迷い込んで来たの! 柴犬でものすごくかわいくて、とっても人懐こかったの」
マミはとても驚いているようだが、そこまで驚くことでも無いような……。
「?」
今まで、声が聞こえている気がしているだけだったが、ここまで鮮明に内容がわかることは無かった。
「明日はソウ君のお誕生日だよね」
右手に誰かが手の平を重ねて来たような気がした。
少し体温が低くて、ひんやりとした感じがする。
マミに違いない。
「マミ居るんだろ!」
僕はとんでもない間違えをしていたのかもしれない。
「ずっと待っててくれてるんだよね?」
僕の声は届いていないのかマミは話を続けた。
「明日は学校を休んで、ソウ君の外出許可も特別にもらって、あの場所に行きます。毎日病室の中じゃあ健康な人も不健康になっちゃうしね」
病室?
あの事故が起きた時マミが消失したのではなく僕が『アース』の世界へ取り残されたんじゃないだろうか?
現実に戻ったと思ったこの世界もVRの世界じゃないんだろうか?
僕が行ったミッション。
VR世界と現実世界で同一の物は、その距離が近ければ近いほど影響を受けやすくなるという実験。
僕が居る病室は、この自宅の近くでここまでマミの会話もはっきりと聞こえるようになったんじゃないのか?
マミに握られただろう手は、いつの間にか2人の体温であたたかくなっていた。
「ソウ君なんだか今日は手があったかい気がする」
現実世界のマミが僕に語りかけている。
「そうだ! マミ! 僕は今キミの手をこうやって握っているんだ!」
僕はマミが手を握っているだろう左手に右手を重ねて両手でマミの手をつつみこんだ。
「今、ソウ君の声が聞こえた気がする」
マミの声色が一瞬かわった気がする。
「あとちょっと居られませんか? 今日はなんだかいつもと違う気がして。ほら、なんだか今日は微笑んだような表情に見えます」
マミは誰かと会話しているのか?
「ごめん、時間みたい。明日はいつもより長く一緒に居られるし、また明日ね」
手の感触も無くなった……。
学校の授業が終わるのがだいたい16:00ぐらい、そこからマミが僕の居る病院まで移動と考えると、
数キロは離れているはず。
今、自宅に居るこの僕と現実世界の僕の体は、数十キロは離れていないもののそれなりの距離はあるようだ。
現実世界の自分の体と、今、ここに存在する僕の体をまったく同じ場所で一致させれば、こちらから
現実の世界のマミへ話かけることが出来るかもしれない。
現実世界の自分の体は、どこにあるんだろう?
病院の場所は?
「そうだ! 明日、僕の誕生日にマミが行こうとしている場所は?」
マミは、あの初デートの時、ずっと待っててくれた。
駅前の木製のベンチに一緒に座って夕日を眺めたあの日。
僕の誕生日だった。
「行ってみよう。あの場所に。」
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