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第一章 ミズガルズの層

第四話 師匠に教えてもらおう  ~RPについてちょっとだけわかった件~

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 猫のフォレストだった塊を抱いたまま泣き続けるフレイヤ。

「お家に帰りたい……。なんでこんな悲しい事ばかり起きるの……」

 かける声も見つからない。
 全ては俺が原因なんだ。

(喜ばせようと思ってやったのに)

 浮かれていた。
 後先考えずに暴走してしまったんだ。
 どれぐらいの時が過ぎたかわからない。
 フレイヤを連れて街の中の木が生い茂っている場所に行きフォレストだった塊を埋めた。
 ずっと会話も無く自分が原因だという負い目で永遠の時間に感じた。
 フレイヤを宿泊先まで送ると俺は師匠の元へと急いだ。
 大いなる力は、その責任を伴う。
 まずは自分自身で自分の力をコントロール出来なければいけない。
 そして、フレイヤに二度と悲しい思いをさせたくない。
 元の安全な世界へ帰してあげたい。
 

---


 ギルドマスターのダイアナに教えてもらいイズン師匠の住んでいる古道具屋にやってきた。
 ボロい二階建ての小さな一軒家だ。
 中に入ったがとてもお客さんが出入りするような場所にも見えない。
 二階への階段を登ったが完全な物置状態。
 六畳間ほどの大きさなので一階も二階も隠れる場所も無いはずだ。
 一階にはカウンターと壁に古びた道具らしきものが展示されているだけで、やはり何も無い。
 どうしてもすぐにイズン師匠にお願いしたいことがあり耐えきれず叫んでしまった。

「師匠! どこですか! 俺です! アルスです!」
「何やってんのさ。人の家で」

 部屋の左すみの床の扉が開いたと思ったら、モグラみたいにひょっこりとイズン師匠があらわれた。

「師匠! 何やってるんですか! どうしてもお願いしたいことがあって!」

 必死な俺の様子に気づいたのかイズン師匠も真剣な表情で答えた。

「こっちへ来なさい」

 師匠が出てきた床の扉の先には地下への階段があった。
 階段を降りると正面と左右にそれぞれ扉があった。
 真ん中は白い扉。右は赤い扉。左は青い扉。
 扉の色がそれぞれ違う。

「こっちよ。ついておいで」

 真ん中の扉を開け入っていく師匠の後に続いた。
 扉の中にはいると中には広大な白い空間が広がっていた。
 地平線彼方まで白い床が続き天井は見えない。
 とてもじゃないが地下2階におさまるような空間では無い。
 それに太陽や照明も無いのに適度に一定の明るさを保っている。

「ここは訓練用の部屋よ。アナタが何やろうが外界には影響無いわ」
「し、師匠、俺……」

 ブラックドラゴンの話はしておかないといけないだろう。

「何も言わなくていいわさ。
 顔見たらわかるわよ。
 泣いたり悩んだりする暇あったら前に進みなさい
 それと『大いなる力は、その責任を伴う』忘れるんじゃないわよ!」
「はい!」
「それでは、まずは力のコントロール。RPのコントロールね」

 師匠は俺のことをわかってくれているようだ。
 力のコントロールする修行が必要だと準備もしてくれていたんだろう。
 ありがたい。俺はそんな師匠の話も聞かずに飛び出してしまって、あんなことに。

「肩幅で両足を開いて立って、右手と左手の手のひらをギリギリくっつかないぐらいで合わせて」

 言われた通りにやってみた。
 合掌の形で、ギリギリくっつかない右手と左手の間に何か熱のようなものを感じる。

「何かあったかいもの感じるでしょ?
 それがRPよ。存在の源たる深淵なるエネルギー。
 ただし、今あなたが感じているのはRPそのものというよりも空気の振動や熱よ。
 今の感覚を頼りに自分で本当のRPを感じるのよ。
 同じ姿勢のまま続けなさい。
 目をつぶって余計な邪念を捨てるのよ」
「わかりました!」
「アタシは赤い扉の部屋に居るから何かあったら来なさい。食料もあるし休憩する時もね。あまり根つめてやらないように注意して」

 そういうとイズン師匠は白い扉から出ていった。
 一人で居ると本当に何の音も聞こえない。
 目をつぶってRPを感じるべく瞑想を続けた。
 

---


 どれほど経っただろうか?
 最初はフレイヤの悲しみや、自分自身の愚かさ。
 様々な雑念が頭の中を巡ったが今は落ち着いている。
 イズン師匠の言った本当のRPも感じられるようだ。
 そこに在るという感覚。
 それは全身を満たし心臓、目と目の間あたりが特に濃くなっている。
 オーラ、生命エネルギーと言ったものだろうか。
 

---


「ちょっと! もういいわよ!」
「イ、イズン師匠? まだまだいけますよ。やっとRPの感覚がわかるようになって来た所で」
「アナタ、どれぐらい経ったと思ってるの?」
「え? だいたい6時間ぐらいですか? もう少しかな?」
「何言ってるわさ! もう三日よ! ちょくちょくのぞきに来てたけど三日も動かないからさすがに心配したわよ!」
「え!ええええええ! そんなに経ってたんですか!」
「それで、どう? RPの感覚はつかめた?」
「うーん、まあ、なんとなくですが。
 師匠のRPは俺の1割ぐらいの大きさで、
 RPは心臓と目と目の間が一番濃いです
 すいません。今はこれぐらいで……」
「十分よ! 天才と言われたアタシでさえ心臓のRPを感じるのに1年。
 目と目の間のRPを感じるのに10年かかったのよ。
 アナタ底知れないRPだと思ったらアタシの10倍はあったのね。
 それは測定出来ないはずだわ。RP500万越えなんて聞いたこと無いわよ」

 天才の師匠より何倍も早く習得できるなんて。
 それに俺のRPは500万越え?
 相当強いよな。世界制覇できそうだ。
 いや、ダメだ。
 また調子にのってしまう所だった。
 力の使い方を覚えないといけないし、だいたい、完璧に出来たとして、俺より強い奴なんていくらでも居るはずだ。
 街の外へ出たのも最近だし、この世界のことは何もわかっていない。
 師匠だってもしかしたら第二形態とか第三形態とか、100%中の100%とか隠してるかもしれない。
 
「師匠、ところでこの世界について出来るだけ詳しく知りたいんですが」
「ちょうどアナタにこの世界について教えようと思ってた所よ。ついてきなさい」
 

---


「この世界にも海があるなんて!」

 イズン師匠に街から20キロほど離れた港につれてきてもらった。
 そこから海賊船っぽい木製の巨大な船で海へ出た。
 アースガルズの城壁というのを見に行くらしい。

「ギルドからの依頼であるこの船の護衛をするわよ。
 他の冒険者も居るので、アナタはアタシが言うまで手を出さないように」
「護衛ってことは……」
「そうよ。海は危険なの。次から次へとモンスターが襲ってくるわ」

 突然、高慢な女性な声が耳をついた。

「あらっ。アナタ達も冒険者なのね。少年にお子様、危ないからアタシが守ってあげるわ」
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