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女の子と夢魔の穏やか(?)なひととき
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注意!!
R指定になりそうな直接的な意味が含まれます。苦手な方は戻ってください。でもそこまでじゃないつもり。
夢魔君→→→→→→→→←←←←女の子
見たいな関係図です。
――――――――――
私は、夜という時間が一番嫌いだ。
閉じたはずの窓から吹き込む生ぬるい風、気が変になりそうな甘い香り。目の前には、絵画からそのまま出てきたような美しい顔の男。
「こんばんは。久しぶりに来たよ。」
「レン、ト」
夢魔、レントの女を誘う蠱惑的な声に、私は今日も惑わされる。
服の下に滑り込む、男性的で大きな手に、意識せずに体が跳ねてしまう。
「っ………あっ」
軽く声を上げれば、レントは口角を上げ、顔を覆いたくなるほど恥ずかしい言葉や甘い言葉を吐いてくる。
“こういうこと”が嫌いな訳じゃない。むしろ好きだし、レントにさわられるのは嬉しくて堪らない。初めて会ったときから、まるで本当のように彼は私を好いているように扱うから、私もいつの間にか彼を好きになってしまった。
でも、彼は夢魔。所詮は悪魔に過ぎず、私のことなんてただの餌(えさ)としか思っていないだろう。でも、臆病な私は、そうやって決めつけられずに、また彼との行為を受け入れてしまう。
そうやってどれだけ経っただろうか。彼と体を重ねるたびに、心の傷も深くなる。それでも打ち明けられずにいるのだ。
「何考えてるの?」
「っ!」
部屋に入り込む僅かな月の光で、レントの目がギラギラと光っている。まるで野獣のような。情欲に満ちた獣の目が私を見下ろしている。
「まさか、他の男のこと?」
彼は時々こうやって、恐ろしいほどの独占欲を出してくる。これも私が彼から離れられない理由の一つだ。『私だけを思ってくれている』という自己中心的な解釈で、自分自身を縛り付けてしまっている。
「ち、ちが…」
「何が違うの?さっき、声を掛けたら中が締まった。…ね、もう一回聞くよ?何を考えてるの?」
腰にくるような甘い囁きに息を飲む。
「れ、レントの、こと。」
「本当に?」
グリッと奥に押し込まれ、甘い痺れが体中を走った。
「はあっ!、んっ…ほ、本当。レントのことしか、考えてない、よ。」
息を整えながら言うと、お気に召したのか、噛みつくようなキスをされた。
「嬉しい!最近忙しくて君のところに来れなかったからさ、オレのこと忘れちゃったかと思って。
でも安心した。…他の奴らの臭いもしないし。」
「?」
「なんでもない。そ、れ、よ、り、も……ねぇ、続き、シよ?」
…
「そういえば、君に見せたいものがあったんだった。」
「見せたいもの?」
レントは行為のあと、落ち着くからと言ってベットの中で私を抱き締める。先にレントが寝てしまったときは、感傷に浸りながらも、いつもはかっこいいレントの、無防備な可愛い寝顔をつい見詰めてしまったりする。
「それをしてたから時々君に会えなかったんだ。…本当は毎日でも会いたかったんだけど、君のためって思ったら苦痛じゃなかったよ」
にこやかに言うレントは、先程の男らしい顔ではなく、年相応の青年らしい顔をしていた。
しかも、私のところに来ない日は、他の人間の精気をもらいに行っているのだろうと思っていたのに、まさか、それが私の為だとは。
「私の、ため?な、なんで」
「そう。ま、楽しみにしてて。明日の…うーん、どうしよっかなぁ。昼にしようかなー?」
どうしてという問いは彼の耳には入らなかったみたいだ。でも、そっか、…私の為かぁ。
頬を緩ませていると、そんな私を見て、レントも笑った。
「君も楽しみ?」
「えっ!う、うん。」
緩んでいた顔を見られたのが恥ずかしくて、目を伏せると、優しいキスが額に降ってきた。
「かーわいい♪ 君の為ならオレ、なんだってできるからね。…愛してるよ。」
「……うん。」
明日の夜に会う約束をし、レントは眠る彼女を抱き締めた。
夢魔は、人間の夢に干渉することで実体をもつ。だから人間が起きているときに逢うことはできない。それが、どうしようもなくもどかしい。自分が彼女のことを好きだと分かった時、その気持ちを伝える言葉はいつも自分が吐いている戯言なのだともわかってしまった。
こんなにも愛しているのに、彼女への言葉は全て戯言になってしまう。伝わらないのは辛い、苦しくて堪らない。
だからオレは彼女を拐うんだ。一生二人で二人だけの世界に住めば、オレが浮気するなんていう疑いも無くなるし、彼女だってオレしか見なくなるはず。でも、あくまで冷静に。彼女に気に入らせて、そこからだ。
「楽しみだね…」
…
次の日の夜―。
(ど、どうしよう、わくわくして眠れない)
私はベットの上で何度も寝返りを打っていた。いや、期待なんかしてない。だってあれは演技…いやいや、でもあれは私の為って…。
と、色々考えてる内に、気づいたら私は真っ白な空間にいた。
「え?ここ、どこ?」
キョロキョロしていると、どこかで扉の開く音が聞こえた。振り向くと、
「あ、いたいたー」
「レント!」
まるで舞踏会で着るような礼装をしたレントは、こちらを認めると駆け寄ってきた。
「ごめんね、ちょっと準備に手間取っちゃって。結構待った?」
「ううん。多分今来たばっかり。というか、それ…」
「あ、これ?」
自分の服装を見下ろすレント。顔も相まって物語に出てくる王子様のようだ。なんだかキラキラして見える。
「かっこいい?」
「へっ?!」
期待したような目でこちらを見詰めるレント。確かにか、かっこいい、けど、そんなの簡単に言えないし…。ええいっ!ここは意地だ!
「か!」
「か?」
「………かっ、こ、いいです。」
「ほんと?ありがとう!」
ギュッと抱き締められて息がつまりそうだ。主に嬉しさで。軽くキスをすると、身を引いたレントは私に手を差し出した。
「じゃ、行きましょうか、プリンセス?」
「え!」
「あ、ドレス忘れてた。はい。」
レントが指を鳴らすと、私の服もドレスに変わった。真っ白で所々にリボンやスパンコールが施された、とってもかわいいドレスだ。
「すごい!ありがとうレント。」
「どういたしまして。これは夢だから、そのドレスも本物じゃないけど、いつか、それよりもかわいいのを買ってあげるからね。」
「!」
「改めて、さあ、行きましょう!」
レントに手を引かれドアの外へ出ると、絶景が広がっていた。
「わあっ…!」
明るい太陽に照らされた、どこまでも続く草原には、色とりどりの花が咲き誇っている。遠くを見れば、白い雪を被った青い山脈が草原を囲んでいる。
「綺麗…レント、ここはどこなの?」
こちらを向いたレントは、いつもよりもずっとかっこよかった。思えば日の下で彼を見たのは初めてだ。いつもは月明かりの中だったから、彼の容姿をハッキリとは見たことがなかった。
鮮やかな金糸雀色の目を細めてもう一度向こうを見る横顔に、ドクリと心臓が高鳴る。
「ここはオレたち夢魔の国…を、オレの記憶から再現した世界。でもって、オレの隠れ家の近く。」
「夢魔の国?」
「うん、そこと人間の夢の中でだけ、オレたち夢魔は実体を持つことができるんだ。」
私ももう一度辺りを見回した。なんだか、予想とかけ離れすぎててビックリだ。もうちょっと荒んだとこなんだと思ってた。
「都市周辺は、賑やかでそれなりに荒れてるんだけど、ここはドの付く田舎だからね。静かで、余計なことは考えなくていい。オレももう、ここが家みたいになっちゃってさ。」
「そう…なんだ」
「ほら、家に案内するよ。」
レントの隠れ家は、それなりに大きなレンガ造りの家で、家畜小屋や広大な畑があった。これなら自給自足も簡単にできるだろう。こんな場所で、彼と一緒に住めたら…きっとステキだろうなぁ。
「どう?」
「きゃっ!」
いきなり顔を覗き込まれて、心臓が止まりそうになった。先程まで自分が考えていたことが恥ずかしくなって私は顔を赤くした。
「え、どうしたの?」
「なっ、なんでもないよ!それより、その、ステキなところだね!」
「気に入ってくれて何よりだよ。中も入ってみる?」
「う、うん。」
中は落ち着くような、暖かみのある家具が置かれ、大きな暖炉も、安楽椅子もあった。二階建てで、テラスもあり、そこからは大きな泉が一望できる。普段の喧噪からかけ離れた世界を見て、思わず感嘆が漏れた。こんな世界に住めたら、きっと、幸せに…
ふと、いい香りがして振り向くと、レントはいつ準備したのか、お茶とクッキーをトレーに乗せて持ってくるところだった。
「レント、それ…」
「ハーブティーと、オレお手製のクッキーだよ。」
「手作り?」
「そう。材料も全部ここで育てたやつだし、ハーブティーはオレの特別調合。」
「えぇ…す、すごすぎる」
まさかレントがここまで女子力あったなんて…。促されて座ると、カップに注がれたハーブティーのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「オレの調合したハーブティーは、結構好評らしくてさ、売りに出せば高値で買い取ってくれるんだ。だから味には自信があるよ。特にこれは売りに出してない、君のために特別に調合したやつだしね。」
飲もうとした手が止まった。また、『君のため』か。
「…レントは、」
「うん?」
「どうして私にここまで尽くしてくれるの?」
「決まってるだろ、君が好きだからだよ。」
そ、即答された…。
何も言えずにいると、あのねと、レントがカップを置いて、説教をするような口調で言った。
「前々から言いたかったんだけど、好きでもないやつに、それも人間に、ここまでやる夢魔がいるか?言っとくけどね、自分の記憶を誰かの夢と結びつけて、ここまで細かく見せるには、結構な魔力を消費するんだ。それをたかが一人の人間陥れるためにごたいそうな幻術見せる馬鹿なんて夢魔にはいないよ。」
「そ、そうなの?」
「君、夢魔のこと向こうで調べたことある?」
「あるけど…」
夢魔は、自分の醜い姿を隠し相手の好みの姿に化け、人間との性交に及ぶ。また、男性(インキュバス)にも女性(サキュバス)にもなることができるため、インキュバスには生殖能力がないとされる。その代わりサキュバスの搾り取った精を使うとかなんとか。
「で、調べたことのどこに『幻術を使ってお茶する』なんて書いてあったのかな?」
「!」
「オレ、前は人間を好きになるなんて思ったことすらなかった。ましてや今みたいに、人間みたいなことするなんてさ。」
レントは自嘲気味に笑った。底知れない、深い目の奥の闇に、鳥肌が立った。
「好きだって気づいたときにはもう遅かったよ。人間が好きな人に伝える言葉は、もう言い尽くしちゃったんだからね。
…だからこうして綺麗な場所を見せて、オレが君を本当に愛しているんだって伝えようと思ったんだ。……ね、オレの気持ち、分かってくれたかな?」
「っ………」
コクコクと必死に首肯くと、何か低く呟く声がして、すぐ目の前にレントの顔があった。
「君はオレのこと、好き?」
目が笑っていない。これ、怒ってるんだろうか。
「…す、好きです。とっても。」
返答を聞き、ニコっとレントが笑うと、彼女もひきつった笑みを浮かべた。
「両思いだねぇ、フフフ。」
「はは、そ、そうだね。」
ずっと欲しかったものが手に入ったけれど、どこか底知れない闇を感じて、素直に喜ぶことができない。レントと私の、好きの度合いが違うのだ。つまり愛が重すぎる。このままだと、拐われかねない。
「これからはさ、たまにここで過ごさないかい?精気も吸わないから、疲れも取れるよ。」
「…でも、魔力使うんでしょ?わざわざこんな為に…」
「たまにだから。ちゃんと精気も貰うからね。」
「ヒエッ」
黒い笑顔を浮かべるレントと彼に怯える彼女の間を、春の爽やかな風か通り抜けた。
――――――――――
【あとがき】
思い付いたら投稿する感じなのでどうにも不定期になってしまいます。
どの話も行き当たりばったりなもので。
R指定になりそうな直接的な意味が含まれます。苦手な方は戻ってください。でもそこまでじゃないつもり。
夢魔君→→→→→→→→←←←←女の子
見たいな関係図です。
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私は、夜という時間が一番嫌いだ。
閉じたはずの窓から吹き込む生ぬるい風、気が変になりそうな甘い香り。目の前には、絵画からそのまま出てきたような美しい顔の男。
「こんばんは。久しぶりに来たよ。」
「レン、ト」
夢魔、レントの女を誘う蠱惑的な声に、私は今日も惑わされる。
服の下に滑り込む、男性的で大きな手に、意識せずに体が跳ねてしまう。
「っ………あっ」
軽く声を上げれば、レントは口角を上げ、顔を覆いたくなるほど恥ずかしい言葉や甘い言葉を吐いてくる。
“こういうこと”が嫌いな訳じゃない。むしろ好きだし、レントにさわられるのは嬉しくて堪らない。初めて会ったときから、まるで本当のように彼は私を好いているように扱うから、私もいつの間にか彼を好きになってしまった。
でも、彼は夢魔。所詮は悪魔に過ぎず、私のことなんてただの餌(えさ)としか思っていないだろう。でも、臆病な私は、そうやって決めつけられずに、また彼との行為を受け入れてしまう。
そうやってどれだけ経っただろうか。彼と体を重ねるたびに、心の傷も深くなる。それでも打ち明けられずにいるのだ。
「何考えてるの?」
「っ!」
部屋に入り込む僅かな月の光で、レントの目がギラギラと光っている。まるで野獣のような。情欲に満ちた獣の目が私を見下ろしている。
「まさか、他の男のこと?」
彼は時々こうやって、恐ろしいほどの独占欲を出してくる。これも私が彼から離れられない理由の一つだ。『私だけを思ってくれている』という自己中心的な解釈で、自分自身を縛り付けてしまっている。
「ち、ちが…」
「何が違うの?さっき、声を掛けたら中が締まった。…ね、もう一回聞くよ?何を考えてるの?」
腰にくるような甘い囁きに息を飲む。
「れ、レントの、こと。」
「本当に?」
グリッと奥に押し込まれ、甘い痺れが体中を走った。
「はあっ!、んっ…ほ、本当。レントのことしか、考えてない、よ。」
息を整えながら言うと、お気に召したのか、噛みつくようなキスをされた。
「嬉しい!最近忙しくて君のところに来れなかったからさ、オレのこと忘れちゃったかと思って。
でも安心した。…他の奴らの臭いもしないし。」
「?」
「なんでもない。そ、れ、よ、り、も……ねぇ、続き、シよ?」
…
「そういえば、君に見せたいものがあったんだった。」
「見せたいもの?」
レントは行為のあと、落ち着くからと言ってベットの中で私を抱き締める。先にレントが寝てしまったときは、感傷に浸りながらも、いつもはかっこいいレントの、無防備な可愛い寝顔をつい見詰めてしまったりする。
「それをしてたから時々君に会えなかったんだ。…本当は毎日でも会いたかったんだけど、君のためって思ったら苦痛じゃなかったよ」
にこやかに言うレントは、先程の男らしい顔ではなく、年相応の青年らしい顔をしていた。
しかも、私のところに来ない日は、他の人間の精気をもらいに行っているのだろうと思っていたのに、まさか、それが私の為だとは。
「私の、ため?な、なんで」
「そう。ま、楽しみにしてて。明日の…うーん、どうしよっかなぁ。昼にしようかなー?」
どうしてという問いは彼の耳には入らなかったみたいだ。でも、そっか、…私の為かぁ。
頬を緩ませていると、そんな私を見て、レントも笑った。
「君も楽しみ?」
「えっ!う、うん。」
緩んでいた顔を見られたのが恥ずかしくて、目を伏せると、優しいキスが額に降ってきた。
「かーわいい♪ 君の為ならオレ、なんだってできるからね。…愛してるよ。」
「……うん。」
明日の夜に会う約束をし、レントは眠る彼女を抱き締めた。
夢魔は、人間の夢に干渉することで実体をもつ。だから人間が起きているときに逢うことはできない。それが、どうしようもなくもどかしい。自分が彼女のことを好きだと分かった時、その気持ちを伝える言葉はいつも自分が吐いている戯言なのだともわかってしまった。
こんなにも愛しているのに、彼女への言葉は全て戯言になってしまう。伝わらないのは辛い、苦しくて堪らない。
だからオレは彼女を拐うんだ。一生二人で二人だけの世界に住めば、オレが浮気するなんていう疑いも無くなるし、彼女だってオレしか見なくなるはず。でも、あくまで冷静に。彼女に気に入らせて、そこからだ。
「楽しみだね…」
…
次の日の夜―。
(ど、どうしよう、わくわくして眠れない)
私はベットの上で何度も寝返りを打っていた。いや、期待なんかしてない。だってあれは演技…いやいや、でもあれは私の為って…。
と、色々考えてる内に、気づいたら私は真っ白な空間にいた。
「え?ここ、どこ?」
キョロキョロしていると、どこかで扉の開く音が聞こえた。振り向くと、
「あ、いたいたー」
「レント!」
まるで舞踏会で着るような礼装をしたレントは、こちらを認めると駆け寄ってきた。
「ごめんね、ちょっと準備に手間取っちゃって。結構待った?」
「ううん。多分今来たばっかり。というか、それ…」
「あ、これ?」
自分の服装を見下ろすレント。顔も相まって物語に出てくる王子様のようだ。なんだかキラキラして見える。
「かっこいい?」
「へっ?!」
期待したような目でこちらを見詰めるレント。確かにか、かっこいい、けど、そんなの簡単に言えないし…。ええいっ!ここは意地だ!
「か!」
「か?」
「………かっ、こ、いいです。」
「ほんと?ありがとう!」
ギュッと抱き締められて息がつまりそうだ。主に嬉しさで。軽くキスをすると、身を引いたレントは私に手を差し出した。
「じゃ、行きましょうか、プリンセス?」
「え!」
「あ、ドレス忘れてた。はい。」
レントが指を鳴らすと、私の服もドレスに変わった。真っ白で所々にリボンやスパンコールが施された、とってもかわいいドレスだ。
「すごい!ありがとうレント。」
「どういたしまして。これは夢だから、そのドレスも本物じゃないけど、いつか、それよりもかわいいのを買ってあげるからね。」
「!」
「改めて、さあ、行きましょう!」
レントに手を引かれドアの外へ出ると、絶景が広がっていた。
「わあっ…!」
明るい太陽に照らされた、どこまでも続く草原には、色とりどりの花が咲き誇っている。遠くを見れば、白い雪を被った青い山脈が草原を囲んでいる。
「綺麗…レント、ここはどこなの?」
こちらを向いたレントは、いつもよりもずっとかっこよかった。思えば日の下で彼を見たのは初めてだ。いつもは月明かりの中だったから、彼の容姿をハッキリとは見たことがなかった。
鮮やかな金糸雀色の目を細めてもう一度向こうを見る横顔に、ドクリと心臓が高鳴る。
「ここはオレたち夢魔の国…を、オレの記憶から再現した世界。でもって、オレの隠れ家の近く。」
「夢魔の国?」
「うん、そこと人間の夢の中でだけ、オレたち夢魔は実体を持つことができるんだ。」
私ももう一度辺りを見回した。なんだか、予想とかけ離れすぎててビックリだ。もうちょっと荒んだとこなんだと思ってた。
「都市周辺は、賑やかでそれなりに荒れてるんだけど、ここはドの付く田舎だからね。静かで、余計なことは考えなくていい。オレももう、ここが家みたいになっちゃってさ。」
「そう…なんだ」
「ほら、家に案内するよ。」
レントの隠れ家は、それなりに大きなレンガ造りの家で、家畜小屋や広大な畑があった。これなら自給自足も簡単にできるだろう。こんな場所で、彼と一緒に住めたら…きっとステキだろうなぁ。
「どう?」
「きゃっ!」
いきなり顔を覗き込まれて、心臓が止まりそうになった。先程まで自分が考えていたことが恥ずかしくなって私は顔を赤くした。
「え、どうしたの?」
「なっ、なんでもないよ!それより、その、ステキなところだね!」
「気に入ってくれて何よりだよ。中も入ってみる?」
「う、うん。」
中は落ち着くような、暖かみのある家具が置かれ、大きな暖炉も、安楽椅子もあった。二階建てで、テラスもあり、そこからは大きな泉が一望できる。普段の喧噪からかけ離れた世界を見て、思わず感嘆が漏れた。こんな世界に住めたら、きっと、幸せに…
ふと、いい香りがして振り向くと、レントはいつ準備したのか、お茶とクッキーをトレーに乗せて持ってくるところだった。
「レント、それ…」
「ハーブティーと、オレお手製のクッキーだよ。」
「手作り?」
「そう。材料も全部ここで育てたやつだし、ハーブティーはオレの特別調合。」
「えぇ…す、すごすぎる」
まさかレントがここまで女子力あったなんて…。促されて座ると、カップに注がれたハーブティーのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「オレの調合したハーブティーは、結構好評らしくてさ、売りに出せば高値で買い取ってくれるんだ。だから味には自信があるよ。特にこれは売りに出してない、君のために特別に調合したやつだしね。」
飲もうとした手が止まった。また、『君のため』か。
「…レントは、」
「うん?」
「どうして私にここまで尽くしてくれるの?」
「決まってるだろ、君が好きだからだよ。」
そ、即答された…。
何も言えずにいると、あのねと、レントがカップを置いて、説教をするような口調で言った。
「前々から言いたかったんだけど、好きでもないやつに、それも人間に、ここまでやる夢魔がいるか?言っとくけどね、自分の記憶を誰かの夢と結びつけて、ここまで細かく見せるには、結構な魔力を消費するんだ。それをたかが一人の人間陥れるためにごたいそうな幻術見せる馬鹿なんて夢魔にはいないよ。」
「そ、そうなの?」
「君、夢魔のこと向こうで調べたことある?」
「あるけど…」
夢魔は、自分の醜い姿を隠し相手の好みの姿に化け、人間との性交に及ぶ。また、男性(インキュバス)にも女性(サキュバス)にもなることができるため、インキュバスには生殖能力がないとされる。その代わりサキュバスの搾り取った精を使うとかなんとか。
「で、調べたことのどこに『幻術を使ってお茶する』なんて書いてあったのかな?」
「!」
「オレ、前は人間を好きになるなんて思ったことすらなかった。ましてや今みたいに、人間みたいなことするなんてさ。」
レントは自嘲気味に笑った。底知れない、深い目の奥の闇に、鳥肌が立った。
「好きだって気づいたときにはもう遅かったよ。人間が好きな人に伝える言葉は、もう言い尽くしちゃったんだからね。
…だからこうして綺麗な場所を見せて、オレが君を本当に愛しているんだって伝えようと思ったんだ。……ね、オレの気持ち、分かってくれたかな?」
「っ………」
コクコクと必死に首肯くと、何か低く呟く声がして、すぐ目の前にレントの顔があった。
「君はオレのこと、好き?」
目が笑っていない。これ、怒ってるんだろうか。
「…す、好きです。とっても。」
返答を聞き、ニコっとレントが笑うと、彼女もひきつった笑みを浮かべた。
「両思いだねぇ、フフフ。」
「はは、そ、そうだね。」
ずっと欲しかったものが手に入ったけれど、どこか底知れない闇を感じて、素直に喜ぶことができない。レントと私の、好きの度合いが違うのだ。つまり愛が重すぎる。このままだと、拐われかねない。
「これからはさ、たまにここで過ごさないかい?精気も吸わないから、疲れも取れるよ。」
「…でも、魔力使うんでしょ?わざわざこんな為に…」
「たまにだから。ちゃんと精気も貰うからね。」
「ヒエッ」
黒い笑顔を浮かべるレントと彼に怯える彼女の間を、春の爽やかな風か通り抜けた。
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