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第8章:迷走
第100話
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ライガヴィヴァンの身体能力は、幹部の中で最も高いと言えるだろう。しかし、いくら強かろうと、近付く事が出来なければ意味が無い。
ヴェラヴェルシュの魔法詠唱は、驚くほど早く正確だ。さらに、闇以外の属性魔法を使いこなしている所を見る限り、今まで俺達にみせていた奴の能力はほんの一部に過ぎなかったのかもしれない。
俺が奴等の元へ辿り着く頃には、既に剣を交えていた。ヴェラヴェルシュの手元には、見慣れない細剣が握られている。
「お前は俺達を攻撃する事に、何の抵抗もないのか!?」
「ええ、ないわ。言ったでしょう?お前達と一緒にいたくていた訳じゃないわ。」
「それでも…お前には情というものは無いのか!?」
「情?そんなもの、感じた事はないわね。そう言えば…家族だなんてほざいていたけれど、まさか本気で私達の事を家族だと思っていたの?」
「当たり前だ。何十年も一緒に暮らし…苦難を共にしてきた者達を、家族と言わず何と言う。」
「残念ね。お前ほど悪魔に近い吸血鬼は居ないでしょうに。」
かなりの体格差があるにも関わらず、ヴェラヴェルシュは奴の攻撃に食らいついていた。それどころか、力で押し切ろうとしているように見える。
「“…レイ”」
俺の手から放たれた光は、二人の間を突き抜けた。
「お前は相変わらずだなルドルフ。」
「俺様も、家族ごっこには興味が無いのでな。」
「ルドルフ。ヴェラの事は、俺が何とかすると言ったはずだ。」
「女に力で押し負けるような男に、任せてなどおけない。手加減しているようでは、いずれ怪我をするぞ?」
「だが…」
「家族を守る為に、家族を切り捨てる覚悟が出来ていないのなら、貴様はそこで黙って見ていろ。」
「っ…。」
奴は剣を握りしめたまま、それ以上何も言わなかった。
「まさか、お前と魔法で競い合う事になるとは思わなかったな。長生きしてみるものだ。」
「誰も魔法のみで戦うとは言っていない。俺様は手加減が出来ないのでな。剣も遠慮なく使わせてもらう。」
「そのくらいのハンデはあってもいいだろう。だが私も、お前が教え子だからといって手加減はしないわ。」
「…では、こちらからいかせてもらう!」
俺は剣を握りしめ、奴へ向かって走り出した。距離を詰めなければ、奴の魔法は止められない。詠唱が終わるよりも早く間合いに入り、妨害しなければ勝ち目は無い。
「“…アニムス”」
魔法が発動し、奴の周りが黒いモヤで覆われた。しかしそれは、少々視界が悪くなる程度の低級魔法だった。
「少々見えにくくなったくらいで、俺の攻撃が止められるとでも…」
黒いモヤの中に足を踏み入れた瞬間、奴はものすごい早さで魔法を詠唱しだした。魔法の詠唱を早める魔法など、今まで見た事も聞いた事も無い。
「“…プラーミア”」
奴は素早く床に手を付くと、床板が熱を帯びて燃え始める。燃え広がる速度が尋常ではない異変に気が付き、先程の黒いモヤが目くらましではない事を悟った。周りが早く見えているだけで、実際は自分の動きが遅くなっているのだ。
「ルドルフ!手を伸ばせ!」
モヤの外からライガヴィヴァンの声が聞こえ、俺は咄嗟に腕を伸ばした。見えない所から腕を掴まれて、モヤの外へ引っ張り出される。その瞬間、燃え広がった炎が魔法の力で爆発を起こした。爆風に飲み込まれ、ライガヴィヴァンと共に床へ倒れ込む。先程まで燃えていた床には、大きく穴が空いていた。
「貴様…まだここに居たのか?」
「助けてもらっておいて、礼の1つくらい言えないのか?」
「…助かった。感謝する。」
「俺もお前に感謝している。…覚悟を決める時間を、稼いでくれたのだからな。」
「時間稼ぎのつもりはない。俺様は1人でも戦うつもりだった。」
「悠長に話している場合か?まだまだ私の魔力は枯れていないぞ?」
「お前達の喧嘩に、俺も混ぜてもらおう。」
奴は俺の前に立ちはだかり、剣を構え直した。
「本当に覚悟は出来たんだろうな?」
「今ここでやらなければ、俺もお前もやられるかもしれない。そうなったらステラ様が危険にさらされる…もはや、家族だからと言って、好き勝手させる訳にはいかない。」
「ようやく気がついたのか?全く…随分時間がかかっ」
「“…ポルヴェレ”」
俺達が言い争っている間に、奴は周りに砂の壁を作り出した。砂の中に閉じこもり、一体何をするつもりなのか検討もつかない。
「所詮は砂の壁だ。切り崩すぞ!」
「わかった。」
「“…ヴィエーチル”」
突如、奴の周りに暴風が吹き荒れ、砂の壁が崩れ始める。飛び散る砂が視界を遮り、ヴェラヴェルシュの姿が見えなくなる。
「どこから仕掛けてくる…?」
「離れるなよルドルフ。どこから魔法が飛んで来てもおかしくない。」
静かに目を閉じ、魔力の流れを感じ取る。ポツポツと聞こえる詠唱の中に、大きさを増していく魔力の塊を見つけた。
「…向こうだ。」
「待て!上だ!」
上を見上げると、大小様々な氷柱が俺達の頭上に降り注いだ。素早く気付いたおかげで直撃は免れたが、服が擦り切れて肌が露出した。
「大丈夫か?」
「かすり傷だ。それより奴は…」
「ヴォォォ…!」
奴の背後で、人ならざるものの声が聞こえた。見た目は悪魔に似ているが、生気を全く感じられない。奴は後ろを振り返ると同時に剣を振り払い、
「ゾンビを召喚したか…。厄介だな。」
砂塵が薄れていき、ゾンビと呼ばれた者達が俺達を取り囲んだ。
「これは手厚い歓迎だな。」
「くそ…。これではヴェラに近付けない…。」
「ゾンビという事は、こいつらは死者だな?」
「そうだ。闇属性の魔法に、死者を呼び出す術がある。」
「ならば、俺の魔法の出番という訳だ。」
俺は魔法を詠唱し、周囲の光を手元に集めた。
放たれた光の玉はゾンビの身体に触れ、強い光を放った。ゾンビ達は光に包まれ、呻き声をあげながら床に崩れ落ちていく。
「っ…。」
魔力を使い果たした事で全身の力が抜け、俺は床に膝を着いた。
「ルドルフ…!」
「俺に構ってる場合か?この期を逃すな!」
奴は俺の側を離れ、背を向けて走り出した。
「ルル!」
奴の目の前で、ヴェラヴェルシュの使い魔の名前を叫んだ。呼び出された使い魔は、ライガヴィヴァンの肩の上に姿を現す。
「なっ…!」
ヴェラヴェルシュが驚いた隙に腕を掴み、奴は持っていた剣を手放して目元の眼帯に手をかけた。
「俺の目を見ろ!」
「っ!」
眼帯によって隠されていた呪眼が顕になり、視線を合わせたヴェラヴェルシュはその場に倒れ込んだ。術者であるライガヴィヴァンも、奴に覆い被さるようにして気を失った。
「くっ…俺が後始末をさせられるとはな…。」
「…僕が何とかするよ。」
「フランお前…。」
「ここまで頑張ってくれたんだから、もう十分だよ。君は中で休んで。」
「洗脳されていた奴が…随分と偉そうだな。」
「君に助けてもらったこの命…無駄にはしないよ。」
「ふっ…お前も言うようになったな。」
ルドルフから身体を取り戻した僕は、重い足取りでステラ様の元へ戻った。
「ルドルフ!ヴェラは!?」
「ルシュ様は、ヴァン様が押さえ込んでいます。あとは…彼が何とかしてくれる事を、信じて待ちましょう。」
「フラン…君はもう大丈夫?」
「はい。ご迷惑をおかけしました。その…レム様の容態は…?」
「フィーなら大丈夫。傷は回復したし、今はチェリムが傍についてるから。」
「よかった…。」
「問題は彼だね…。」
彼の視線の先には、大きな獲物を振り回す悪魔の長の姿があった。周りに群がるチェリム様の人形は鎌に引き裂かれ、無造作に積み重なっていく。
「僕の銃くらいじゃ、まるで歯が立たない…。かと言って、魔力を消耗すればみんなの事を回復できなくなる…。ハイトとチェリムが頑張ってくれてるけど…2人の魔力が尽きるのも時間の問題だよ。」
どうやらチェリム様の人形は、ハイト様が魔法を詠唱する間の時間稼ぎ程度にしかなっていないようだ。そのせいでハイト様の魔法は避けられてしまい、致命傷を与えられずにいるらしい。
「僕が奴を引きつけます。そうすれば…ハイト様の魔法も、より効果的になるはずです。」
「囮になるって事?それは危険すぎるよ…!確かに彼の攻撃は大振りだけど…少しでもかすったら致命傷になりかねない!」
「ルドルフの魔力が尽きた今、僕に出来るのは囮しかありません。…大丈夫です。僕が怪我しても、ステラ様が居てくだされば、何度でも立ち上がれます。」
不安そうな表情を浮かべる彼の手を取り、両手で包み込むように握りしめた。
「そもそもこの提案をしたのは僕なんだ。命の恩人であるルカくんと…ルナちゃんに恩返しがしたい。君達の為に、僕に出来る事をさせて欲しい。」
「フラン…。」
彼は僕の目を真っ直ぐ見つめ、静かに首を縦に振った。
「わかった。僕の力…ほんの少しだけど君に託すよ。」
彼は目を閉じ、魔法を唱えた。左手の小指にはめた指輪が熱を帯び、魔力が流れ込んでくるのを感じる。
「ありがとうございます…ステラ様。」
「1つだけ約束してフラン。絶対に無理はしないで。君を失う事だけは…したくないんだ。」
「…はい。お約束します。」
僕は剣を握りしめ、悪魔の長の元へ駆け出した。
ヴェラヴェルシュの魔法詠唱は、驚くほど早く正確だ。さらに、闇以外の属性魔法を使いこなしている所を見る限り、今まで俺達にみせていた奴の能力はほんの一部に過ぎなかったのかもしれない。
俺が奴等の元へ辿り着く頃には、既に剣を交えていた。ヴェラヴェルシュの手元には、見慣れない細剣が握られている。
「お前は俺達を攻撃する事に、何の抵抗もないのか!?」
「ええ、ないわ。言ったでしょう?お前達と一緒にいたくていた訳じゃないわ。」
「それでも…お前には情というものは無いのか!?」
「情?そんなもの、感じた事はないわね。そう言えば…家族だなんてほざいていたけれど、まさか本気で私達の事を家族だと思っていたの?」
「当たり前だ。何十年も一緒に暮らし…苦難を共にしてきた者達を、家族と言わず何と言う。」
「残念ね。お前ほど悪魔に近い吸血鬼は居ないでしょうに。」
かなりの体格差があるにも関わらず、ヴェラヴェルシュは奴の攻撃に食らいついていた。それどころか、力で押し切ろうとしているように見える。
「“…レイ”」
俺の手から放たれた光は、二人の間を突き抜けた。
「お前は相変わらずだなルドルフ。」
「俺様も、家族ごっこには興味が無いのでな。」
「ルドルフ。ヴェラの事は、俺が何とかすると言ったはずだ。」
「女に力で押し負けるような男に、任せてなどおけない。手加減しているようでは、いずれ怪我をするぞ?」
「だが…」
「家族を守る為に、家族を切り捨てる覚悟が出来ていないのなら、貴様はそこで黙って見ていろ。」
「っ…。」
奴は剣を握りしめたまま、それ以上何も言わなかった。
「まさか、お前と魔法で競い合う事になるとは思わなかったな。長生きしてみるものだ。」
「誰も魔法のみで戦うとは言っていない。俺様は手加減が出来ないのでな。剣も遠慮なく使わせてもらう。」
「そのくらいのハンデはあってもいいだろう。だが私も、お前が教え子だからといって手加減はしないわ。」
「…では、こちらからいかせてもらう!」
俺は剣を握りしめ、奴へ向かって走り出した。距離を詰めなければ、奴の魔法は止められない。詠唱が終わるよりも早く間合いに入り、妨害しなければ勝ち目は無い。
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黒いモヤの中に足を踏み入れた瞬間、奴はものすごい早さで魔法を詠唱しだした。魔法の詠唱を早める魔法など、今まで見た事も聞いた事も無い。
「“…プラーミア”」
奴は素早く床に手を付くと、床板が熱を帯びて燃え始める。燃え広がる速度が尋常ではない異変に気が付き、先程の黒いモヤが目くらましではない事を悟った。周りが早く見えているだけで、実際は自分の動きが遅くなっているのだ。
「ルドルフ!手を伸ばせ!」
モヤの外からライガヴィヴァンの声が聞こえ、俺は咄嗟に腕を伸ばした。見えない所から腕を掴まれて、モヤの外へ引っ張り出される。その瞬間、燃え広がった炎が魔法の力で爆発を起こした。爆風に飲み込まれ、ライガヴィヴァンと共に床へ倒れ込む。先程まで燃えていた床には、大きく穴が空いていた。
「貴様…まだここに居たのか?」
「助けてもらっておいて、礼の1つくらい言えないのか?」
「…助かった。感謝する。」
「俺もお前に感謝している。…覚悟を決める時間を、稼いでくれたのだからな。」
「時間稼ぎのつもりはない。俺様は1人でも戦うつもりだった。」
「悠長に話している場合か?まだまだ私の魔力は枯れていないぞ?」
「お前達の喧嘩に、俺も混ぜてもらおう。」
奴は俺の前に立ちはだかり、剣を構え直した。
「本当に覚悟は出来たんだろうな?」
「今ここでやらなければ、俺もお前もやられるかもしれない。そうなったらステラ様が危険にさらされる…もはや、家族だからと言って、好き勝手させる訳にはいかない。」
「ようやく気がついたのか?全く…随分時間がかかっ」
「“…ポルヴェレ”」
俺達が言い争っている間に、奴は周りに砂の壁を作り出した。砂の中に閉じこもり、一体何をするつもりなのか検討もつかない。
「所詮は砂の壁だ。切り崩すぞ!」
「わかった。」
「“…ヴィエーチル”」
突如、奴の周りに暴風が吹き荒れ、砂の壁が崩れ始める。飛び散る砂が視界を遮り、ヴェラヴェルシュの姿が見えなくなる。
「どこから仕掛けてくる…?」
「離れるなよルドルフ。どこから魔法が飛んで来てもおかしくない。」
静かに目を閉じ、魔力の流れを感じ取る。ポツポツと聞こえる詠唱の中に、大きさを増していく魔力の塊を見つけた。
「…向こうだ。」
「待て!上だ!」
上を見上げると、大小様々な氷柱が俺達の頭上に降り注いだ。素早く気付いたおかげで直撃は免れたが、服が擦り切れて肌が露出した。
「大丈夫か?」
「かすり傷だ。それより奴は…」
「ヴォォォ…!」
奴の背後で、人ならざるものの声が聞こえた。見た目は悪魔に似ているが、生気を全く感じられない。奴は後ろを振り返ると同時に剣を振り払い、
「ゾンビを召喚したか…。厄介だな。」
砂塵が薄れていき、ゾンビと呼ばれた者達が俺達を取り囲んだ。
「これは手厚い歓迎だな。」
「くそ…。これではヴェラに近付けない…。」
「ゾンビという事は、こいつらは死者だな?」
「そうだ。闇属性の魔法に、死者を呼び出す術がある。」
「ならば、俺の魔法の出番という訳だ。」
俺は魔法を詠唱し、周囲の光を手元に集めた。
放たれた光の玉はゾンビの身体に触れ、強い光を放った。ゾンビ達は光に包まれ、呻き声をあげながら床に崩れ落ちていく。
「っ…。」
魔力を使い果たした事で全身の力が抜け、俺は床に膝を着いた。
「ルドルフ…!」
「俺に構ってる場合か?この期を逃すな!」
奴は俺の側を離れ、背を向けて走り出した。
「ルル!」
奴の目の前で、ヴェラヴェルシュの使い魔の名前を叫んだ。呼び出された使い魔は、ライガヴィヴァンの肩の上に姿を現す。
「なっ…!」
ヴェラヴェルシュが驚いた隙に腕を掴み、奴は持っていた剣を手放して目元の眼帯に手をかけた。
「俺の目を見ろ!」
「っ!」
眼帯によって隠されていた呪眼が顕になり、視線を合わせたヴェラヴェルシュはその場に倒れ込んだ。術者であるライガヴィヴァンも、奴に覆い被さるようにして気を失った。
「くっ…俺が後始末をさせられるとはな…。」
「…僕が何とかするよ。」
「フランお前…。」
「ここまで頑張ってくれたんだから、もう十分だよ。君は中で休んで。」
「洗脳されていた奴が…随分と偉そうだな。」
「君に助けてもらったこの命…無駄にはしないよ。」
「ふっ…お前も言うようになったな。」
ルドルフから身体を取り戻した僕は、重い足取りでステラ様の元へ戻った。
「ルドルフ!ヴェラは!?」
「ルシュ様は、ヴァン様が押さえ込んでいます。あとは…彼が何とかしてくれる事を、信じて待ちましょう。」
「フラン…君はもう大丈夫?」
「はい。ご迷惑をおかけしました。その…レム様の容態は…?」
「フィーなら大丈夫。傷は回復したし、今はチェリムが傍についてるから。」
「よかった…。」
「問題は彼だね…。」
彼の視線の先には、大きな獲物を振り回す悪魔の長の姿があった。周りに群がるチェリム様の人形は鎌に引き裂かれ、無造作に積み重なっていく。
「僕の銃くらいじゃ、まるで歯が立たない…。かと言って、魔力を消耗すればみんなの事を回復できなくなる…。ハイトとチェリムが頑張ってくれてるけど…2人の魔力が尽きるのも時間の問題だよ。」
どうやらチェリム様の人形は、ハイト様が魔法を詠唱する間の時間稼ぎ程度にしかなっていないようだ。そのせいでハイト様の魔法は避けられてしまい、致命傷を与えられずにいるらしい。
「僕が奴を引きつけます。そうすれば…ハイト様の魔法も、より効果的になるはずです。」
「囮になるって事?それは危険すぎるよ…!確かに彼の攻撃は大振りだけど…少しでもかすったら致命傷になりかねない!」
「ルドルフの魔力が尽きた今、僕に出来るのは囮しかありません。…大丈夫です。僕が怪我しても、ステラ様が居てくだされば、何度でも立ち上がれます。」
不安そうな表情を浮かべる彼の手を取り、両手で包み込むように握りしめた。
「そもそもこの提案をしたのは僕なんだ。命の恩人であるルカくんと…ルナちゃんに恩返しがしたい。君達の為に、僕に出来る事をさせて欲しい。」
「フラン…。」
彼は僕の目を真っ直ぐ見つめ、静かに首を縦に振った。
「わかった。僕の力…ほんの少しだけど君に託すよ。」
彼は目を閉じ、魔法を唱えた。左手の小指にはめた指輪が熱を帯び、魔力が流れ込んでくるのを感じる。
「ありがとうございます…ステラ様。」
「1つだけ約束してフラン。絶対に無理はしないで。君を失う事だけは…したくないんだ。」
「…はい。お約束します。」
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