エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第8章:迷走

第99話

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「ちっ…面倒な事になったものだ…。」

俺は今、フランの身体の中にいる。さらに周囲は闇に覆われ、身体の外へ出る事が出来ずにいた。
この状況を脱するには、身体を乗っ取った白いローブの男を見つけ出し、魔法を解除させなければならい。

「まさか奴も呪眼だったとはな。」

呪眼というのは、目を合わせる事で相手を支配する事が出来る特殊な力を持った眼の事だ。悪魔の血を濃く引く者に継承されると聞いた事があるが、ライガヴィヴァンの他に受け継いだ者がいるとは思いもしなかった。
俺が今こうして立ち尽くしている間にも、身体を乗っ取ったランと呼ばれる男がフランの身体を操っているに違いない。
俺は静かに目を閉じ、意識を集中させた。暗闇の中で、かすかに動く生き物の気配を感じ取る。

「なるほどね。ランの強さの秘訣は、君の存在か。」
「まさか術者が自らやられに来るとはな。」
「そう簡単にやられるつもりはないよ。人生楽しまないとね。」
「アサシンギルドの頭領がよく言ったものだ。」
「おや?君は私の事を知っているのかい?ランは忘れちゃってるみたいだったのに。」
「あいつと俺様を一緒にしないでもらいたい。」
「ふふっ。見た目は同じなのに、性格は違うんだね。むしろ真逆だ。」

奴が浮かべた笑みは、どこか不自然で不気味だった。

「貴様と話している暇は無い。さっさとこいつの身体を返してもらおう。」

俺は両手に剣を握りしめ、奴の方へ刃先を向けた。

「それは出来ない相談だね。私はランの役に立ったんだから、今度は君が私の役に立ってくれないと困るよ。…それに、君がどんな剣捌きをするのかを熟知してるし…ね。」
「何年この身体の中に居たと思っている。目的の為に利用されただけの貴様に、この俺様を上回れると?」
「随分自信があるようだね。こんなに楽しめそうな殺し合いは久しぶりだなぁ…!」

奴はナイフを握りしめ、こちらへ向かって斬りかかってきた。後ろへ下がって初手をかわし、追撃は剣で弾き飛ばす。ナイフが身体へ近寄る度に弾き続けるが、奴の攻めの姿勢は一向に崩れる気配がない。

「守ってばかりじゃつまらないよラン。もっと楽しませてくれないと。」

奴は不気味な笑みを浮かべながら、攻撃の勢いを増していく。弾き切れない斬撃が、俺の腕を切りつける。
時間が経てば衰えるはずの攻撃は腕を振れば振るほど加速していき、徐々に後ろへと追い込まれていく。

「このままだと私が勝ってしまいそうだけど…いいのかい?…もっと食らいついてくれるかと思ったんだけどな。残念だよ。」

奴が重い一撃を繰り出そうと腕を大きく振り上げた瞬間、俺は持っていた剣を手離し、奴の右腕を掴んだ。

「っ…!?いきなり何を…」
「“…ランビリズマ!”」

奴の攻撃を防ぎながら、ブツブツと呟いていた魔法を放った。溜め込まれた光が俺の手を通して、奴の身体に勢いよく流れ込む。

「うぁぁぁー!!!」

奴の悲鳴が響き渡り、辺りの闇は光に覆われた。



「っ…!」

気が付くと、俺はライガヴィヴァンと剣を交えていた。どうやら奴の支配から抜け出し、身体を取り戻す事が出来たらしい。

「…!お前…ルドルフか?」
「すまない。世話をかけたな。」 

剣を下ろし、奴の側を離れる。

「いいや。それよりも、よく戻って来れたな。奴も呪眼だとは…完全に油断していた。」
「フラン!良かった…正気に戻ったんだね。」

銃を手にしたステラが俺の元へ駆け寄り、安堵の声を漏らした。奴の腕には斬撃の跡があり、白い服が赤く滲んでいる。

「その傷は…。」
「あ、これ?ちょっとかすっただけだよ。舐めとけば治…」
「待て。じっとしていろ。」

引きさがろうとする奴の腕を掴み、治癒魔法を唱えた。恐らく、暴走したフランを止めようとして傷付いたのだろう。何故自分で治そうとしなかったのかは疑問だが、借りを作りたくはなかった。

「あ…ありがとうルドルフ。…じゃなかった。フランだったね。」
「どちらでも構わん。俺はフランであり、ルドルフなのだからな。」
「ルドルフ…。」
「それより、奴はどこに?」
「奴?…あ!白いローブの男の人?彼ならあの辺に…。」

奴が指さす先に視線を向けるが、白いローブはどこにも見当たらなかった。

「あれ?おかしいな…。さっきまであそこに…」
「ルドルフ貴様か?ラン様をあのような姿にしたのは。」
「っ…!」

声のする方へ振り返ると、黒いローブを身にまとった少女の姿をしたヴェラヴェルシュが立っていた。

「ヴェラ…!なんでここに!?」
「ステラ様!奴に近寄っては危険です!離れてください!」

駆け寄ろうとするステラを奴は引き止めた。俺は剣を握りしめ、奴の出方をうかがう。

「すっかりステラの犬になったなライガ。」
「そういうお前は、悪魔の手下にでもなったのか?」
「いつ私がお前達の味方をした?私は私の目的の為に、お前達と行動を共にしていただけだ。勘違いするな。」

奴は吸血鬼でありながら、ずっと悪魔側の味方をしていたような口ぶりだった。

「じゃあ教えてよ!レジデンスに戻れなくなった僕を、どうして助けてくれたの!?ルナに魔法を教えたのは、何の為だったんだよぉ!」
「ヴェラ…貴様、今までどこをほっつき歩いていた?さっさと我に手を貸さぬか!」
「はい。只今。」

ステラの訴えは虚しく、奴は悪魔達の長の側へ転移した。

「ランはもう使い物にならん。貴様がこいつらの相手をしろ。よいな?」
「かしこまりました。ヴァン様。」

すると奴はブツブツと魔法を唱え始めた。

「ヴェラ…!お願いやめて!僕は…君と戦うなんて…出来ない…。」
「ルドルフ!ヴェラの詠唱を止めるぞ!」

奴の声がけと共に走り出し、剣を強く握りしめる。

「行け!お前達!」

長の掛け声で悪魔達が集まり、俺達の行く手を阻む。こうしている間にも、ヴェラヴェルシュの詠唱は止まらない。

「ルドルフ!お前は先にヴェラの元へ行け!俺がこいつらを食い止める!」
「わかった。」

俺は悪魔達の間を掻い潜り、ヴェラヴェルシュに駆け寄る。しかし、俺の剣が届くよりも早く、奴の魔法は発動した。突如生成された岩の塊が、俺を目掛けて飛ばされる。
剣を構え、咄嗟に身構える。すると、足元に衝撃が伝わり、俺の身体はバランスを崩した。

「フィー!?」

放たれた魔法は、俺を庇った娘の身体に直撃した。
その衝撃で娘は床に倒れ込み、奴は娘に駆け寄って身体を抱き上げる。

「フィー!しっかりしろ!おい!」
「ライ…ガ…。私の事は…それ…よりも…ヴェラ…を…」

娘に向かって治癒魔法を唱えるが、残された魔力が底を尽き、癒しの光は薄れていった。

「くそっ…魔力が…。」
「ル…ドルフ…。無理…しないで…ください。私は…大丈…」

娘は言葉の途中で意識を失い、静かに目を閉じた。

「マーク!」

奴が聞き慣れない名前を叫ぶと、娘の影から使い魔が姿を現した。

「フィーを連れて、ステラ様の元へ!」

ーヒヒーン!

使い魔の背に娘を乗せ、奴の言葉に従って駆け出した。その背中を見送ると、奴は剣を握りしめ、ヴェラヴェルシュの方へ向き直った。

「あいつと話をつけてくる。お前は下がっていろ。」
「待て。いくら貴様でも奴の相手は…」

俺の静止を振り切り、奴はその場から走り出した。
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