エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第8章:迷走

第96話

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「あ、レミリーさん。」

僕はイムーブルの幹部達が休憩する部屋の前で、彼女が戻って来た所へ声をかけた。

「あら~?私に何か用事かしら~?」
「少し話したい事があるんだけど…これから時間はある?」
「ええ。もちろんあるわよ~。それなら部屋で話しましょうか~。」
「ありがとう。お邪魔します。」

扉を開けると、そこにはベッドに寝そべるアレクさんの姿があった。

「おーフランやん!いらっしゃいやで。」
「あれ?ユイさんとユノさんは居ないんだね。」
「風に当たってくるー…言うて、外へ行ったで。2人に用事やった?」
「私に話があるんですって~。珍しくてビックリしちゃったわ~。」
「え?そうなの?」
「確かにそうやなぁ。俺もやったけど、レミリーもフランと進級のタイミングが合わへんかったもんなぁ?」
「それもあるけれど~…。特に私は、みんなより先に中級クラスに居たから…話す機会がほとんど無かったのよねぇ~。」
「そうだったんだ…。てっきり、みんな下級クラスから友達なのかと…。」
「俺等が下級の頃は…ユノとユーリが上級で、レミリーとタックが中級やったっけ?」
「そうそう~。あなたとルナは特に進級が早くて、他のみんなが追いつけなかったのをよく覚えてるわ~。」

思い出話に花を咲かせる2人を見て、僕は不思議と温かい気持ちになった。少し前までは、自分の知らない過去がある事に戸惑い、心の奥がモヤモヤしていた。しかし、過去の記憶をある程度取り戻した僕にとって、もう過去に囚われるような事は無い。

「っと…悪い悪い。レミリーと話をしに来たんやったね。俺は居ない方がええよね。」

ベッドから起き上がる彼に、僕は慌てて声をかけた。

「あ、ううん!聞かれたらまずい話でもないから、ここに居ていいよ。」
「ほんま?なら…極力口挟まんように、大人しく話を聞かせてもらうわ!」
「話したい事があったのよね~?何かしら~?」

船に乗る前、彼女は人間の領土で捕まったという話を耳にした。彼女の部屋にやって来たのは、当時の詳しい話を聞く為だった。

「これから向かう場所次第では、レミリーさんの姿も変えた方がいいかもしれないと思って。僕は国外追放された身だから、船を降りた後の事はルドルフにお願いするつもりでいるんだ。」
「なるほどねぇ~。でも、それなら心配は要らないわ~。私が捕まったのは、お姉様の知り合いの所だったから~。」
「お姉様?レミリーさんにはお姉さんがいるの?」
「あーちゃうちゃう。レミリーがお姉様って呼んでんのは、姉貴分って事や。確か…ルシュ様の事を、お姉様って呼んでるんよね?」

アレクさんの説明に納得するように、彼女は首を縦に振った。

「そうなのよ~。お姉様は、私にエーリを勧めてくれたの~。お姉様の推薦が無ければ、今の私は居なかったと思うわ~。」

その話を聞いて、僕はステラ様の顔が頭に浮かんだ。僕にとっての彼と、彼女にとってのルシュ様は同じような存在なのだろう。

「ルシュ様って、人間の知り合いがいたんやね。ちょっとびっくりやわ。」
「そんなに驚く事じゃないわ~。お姉様が居たのは、ステラ様が暮らしてた場所だったのよ~。彼を迎えに行った時に、知り合ったそうよ~。」
「え!?って事は…レミリーさんが捕まった場所って…。」

ステラ様が暮らしていた場所といえば、サトラテールにあるギルドだ。僕の兄のクラーレが設立した施設であり、僕が暮らしていた家でもある。

「フラン?どうかしたん?」
「あ…ごめんごめん。ちょっとボーッとしてて…。ルシュ様の知り合いの所なら、大丈夫そうだね。教えてくれてありがとう。」
「いいえ~。こちらこそ、心配してくれて嬉しかったわ~。ありがとうフラン。」

彼女は笑顔を浮かべ、お礼の言葉を口にした

「なぁなぁ!話が終わったんなら、俺等も外に行かへん?」
「僕は別に構わないけど…何しに行くの?」
「え?えっと…ほら!順調に進んでるかどうか、確かめた方がええかな~と思って…?」
「本当は、ユイ達の事が気になるんでしょう~?」
「べ、別にそんなんやあらへんって…!そら…たまたま会う可能性はあるかもやけど…。」 

彼の下手な誤魔化しぶりに、彼女はくすくすと笑った。どうやら図星らしい。

「せっかくのお誘いだけど~…私は部屋に残るわ~。船の揺れが心地よくて、なんだか眠たくなってきちゃったのよね~。」
「ほんなら、到着前に起こしたるから今のうちに寝とき!ほんなら、俺等だけで行こか。」

レミリーさんを部屋に残し、アレクさんと共に再び甲板へと向かった。

「あ、いたいた。おーい!2人共ー。」

海の方を眺めている2人の姿を見つけると、彼は手を振りながら彼女達の元へ走り出した。まるで、飼い犬がご主人様を見つけて駆け寄るように見え、なんだか微笑ましかった。

「ちょっと!あんまり大きな声出さないでよ…!向こうにチェリム様もいるんだから…恥ずかしいじゃない。」
「すまんすまん…。つい、いつものテンションで声かけてしもーたわ…。」
「え?いつもこんな感じなの?」
「うん。アレクの声はよく通る。」
「この間なんて、ユーリの部屋に行こうとした時…姿が見えないのに声が聞こえてくるから、怖いくらいだったわ。」
「そ、それは…ビックリするだろうね。」
「けど、分かりやすくてええやろ?」
「そうね。街中であんたが迷子になった時も、すぐに見つけられたわ。」
「う…。それは…ノーカンで頼むわ…。」

2人の話はその後も途切れる事無く続き、何だかこの場にいるのが申し訳ないような気持ちになってきた。

「あ、そうだ。フランに見せたいものがある。ついてきて。」
「え?見せたいもの?」

そう言うとユノさんは僕の腕を掴み、船の後方へと歩き出した。

「あたし達も少ししたら部屋に戻るから、暗くなる前に部屋に戻って来なさいよー?」
「わかった。いこうフラン。」
「う、うん。」

2人の姿が見えなくなる所までやって来ると、彼女は掴んでいた腕を離した。

「ここなら大丈夫そう。」
「それにしても随分急だったね。見せたいものって何なの?」
「ごめん。あれは嘘。」
「え?嘘?」
「姉様とアレクがいい感じだったから、2人にしてあげたかった。」
「あぁ…なるほどね。」

確かに2人が話す様子は、友人同士の会話と少し違っていた。

「アレクは昔から姉様の事が好きだから、私はずっと応援してる。」
「へぇ~…そうだったんだ。大きな声を出さないでって言ってたけど、ユイさん嬉しそうだったよね。」
「うん。嫌いではないんだと思う。でも…姉様はタックの事が好きだったから…今はどうなんだろう?」
「え…?」

彼女の言葉に、僕は耳を疑った。なぜならタックさんは、僕の目の前にいるユノさんの事が好きだという事を知っているからだ。

「どうかした?」
「あ、ううん…!ユイさんがタックさんの事を好きだって話は知らなかったから、少しびっくりしたんだ。」
「そう?ならいいけど…。」
「そろそろ部屋に戻らない?夜には港へ着くらしいから、今のうちに休憩しておいた方がいいよ。」
「わかった。」

思った以上に複雑だった友人関係に戸惑いつつ、僕はそれをそっと心の内に隠しておく事にした。
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