エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第7章:衝突

第88話

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「ん…?」

目を開けると、暗くなった部屋の中に月明かりが差し込んでいた。ゆっくりと身体を起こすと、テーブルの上にオムライスが置かれている。
ユノさんが作ると言っていた事を思い出し、明かりをつけて床に座り込んだ。用意されたオムライスを口に運ぶ。すっかり冷えて固くなったご飯を、一口一口噛み締めるように味わった。
食事を終え、食堂で片付けを済ませた帰りにユノさんの部屋を訪ねた。

「ユノさん…いる?」
「…フラン?入っていいよ。」

扉を開けると、机に向かって報告書のようなものを書いている彼女の姿があった。

「あ、ごめん…忙しかったかな?」
「ううん。大丈夫。そこ、座って。」

彼女に促され、テーブルの側に置かれたクッションに腰を下ろした。彼女は椅子を僕の方に向けて、緊張した面持ちで口を開いた。

「何か用事?」
「うん。オムライス作ってくれてありがとう。美味しく頂いたよ。」
「え…あれ、食べたの?」
「え?うん…食べたけど...?」
「時間経ったら美味しくない。捨ててくれても良かったのに。」
「捨てられないよ!せっかくユノさんが作ってくれたんだもん。」
「...あ、ありがとう。」

彼女は驚いた表情を浮かべ、僕から目線を逸らした。気恥ずかしいのか嬉しいのか、ほんの少し口元が緩んでいるのがわかる。

「ここに来たのは、オムライスのお礼だけじゃないんだ。ちょっと話したい事があって。」
「話?」
「...僕、ずっと前から好きな人がいるんだ。」
「え...。」

ルナさんとクレープを食べる夢を見て、僕はやっと自分の気持ちに気が付いた。
ララさんやユノさんと過ごす時間と、彼女と過ごす時間は違っていた。どちらも大切である事に変わりは無いが、僕が本当に大切にしたい...守りたいと思うのはルナさんの笑顔だった。

「僕はルナさんが好き。だから、ユノさんの気持ちも、ララさんの気持ちにも応えられない。」

彼女は硬い表情のまま、ポツリと呟いた。

「ルナはもう、この世に居ないよ?この間会えたのは、たまたま偶然が重なっただけ。この先ずっと会えなくても、ルナの事が好き?」
「うん。この先何があっても、何も無くても...僕は彼女以外を好きにはならない。」
「...どうしてわかるの?先の事は、誰にも分からない。」
「彼女との思い出を、全て思い出した訳じゃないんだ。でも...彼女の事を考えると胸が温かくなって、ドキドキして、苦しくなる。彼女の為に何でもしたくなって...彼女の為なら何でも出来るような気がする。僕は…これが好きって気持ちだと思うんだ。」
「...そっか。フランの気持ち、わかった。」
「わざわざ部屋に押しかけてごめんね。僕、これからレジデンスに帰るよ。」
「え?あ…うん。気をつけて。」
「ありがとう。じゃあ...またね。」

彼女に別れを告げ、僕はレジデンスへ戻った。



翌日。ラギト様に呼び出された僕は、彼の部屋を訪れた。

「お呼びでしょうか?」
「色々と聞きたいことがある。座ってくれ。」

ソファーに腰を降ろすと、向かい側に腰を下ろした彼が深くため息をついた。

「何から聞くべきか...。まずはそうだな、俺達に黙って人間の領土へ行った事について、理由を聞こう。」
「黙って居なくなってしまい...申し訳ありません。街が吸血鬼に襲われていると聞き、居ても立っても居られませんでした。」
「行った事を責めるつもりはないが...次からは、」
「いいえ。次はもうありません。人間の領土から、出て行くよう言われたので...。」
「ほう?その辺の話も、詳しく聞こうか。」

僕は、ルナさんを助けた事によって着せられた罪で、国外追放の命を受けた事を彼に説明した。

「なるほどな。いかにも人間がしそうな事だ。」
「あの...僕からも1つ聞いていいでしょうか?」
「なんだ?」
「ラギト様の体調は...?」
「レーガの体調?あいつは怪我でもしたのか?」
「えっ?」
「俺が見た限りでは、いつも通りだったが?」
「そ、そうですか...?なら、僕の思い違いだったみたいです!すみません...忘れてください。」
「そうか?他に聞きたい事はあるか?」
「いいえ。特にありません。」
「話は以上だ。次の依頼が来たらまた呼ぶ。」
「わかりました。...失礼します。」

階段を降りながら、僕は窓の外を眺めた。ラギト様はガゼルに撃たれた後、川に流されていた。あれから数日経ったとはいえ、何事もなくここへ帰ってきたのだろうか?彼の事が気になりつつも、僕は大人しく部屋に戻る事にした。



「ん?これ...僕宛だ...。」

数日後。暇を持て余した僕の元に一通の手紙が届いた。何の変哲もない白い封筒の裏に、青色の封蝋が付いている。しかし、差出人の名前はどこにも書かれていなかった。
不審に思いつつも、封を切って中から手紙を取り出す。

“フランへ。ルドルフからの手紙、ちゃんと僕に届いたよ。アスルフロルの花も、一緒に添えてくれてありがとう。封を開けた時にとってもいい匂いがして、なんだか嬉しくなっちゃった。って、こんな事書いてる場合じゃなかった...。ここから本題に入るね。
まずはヴェラの件だけど...ハイトとクレアがイリスシティアに向かってくれたんだけど、どうやら逃げられちゃったみたいなんだ。僕を狙った理由を彼女の口から聞きたかったけど...一旦保留にする事にしたよ。
後はクラーレの件...。この話を聞いた時、正直すぐには信じられなかった。でも、起きてしまった事は元に戻す事は出来ない。僕は彼の意志を継いで、前を向く事にするよ。
そこで、フランにも手伝って欲しい事があるんだ。もちろん、レジデンスの仕事の合間で構わないから、僕に君の力を貸してほしい。
今後、僕とのやり取りは手紙でする事になるだろうから、そのつもりでいて。クレアに仲介役を頼んでおいたから、エーリに居る彼女に手紙を渡して欲しい。ただ、手紙の内容は僕とフラン2人だけの秘密にしたいから、手紙は直接クレアに手渡ししてもらいたいんだ。少し面倒かもしれないけど、よろしくね。”

手紙の最後に小さく“ステラ”と書かれていた。

「えぇ!?ステラ様本人からの手紙!?」
「おい...!急に大きな声を出すな。」
「ご、ごめん...びっくりして...。」
「どうやら奴に手紙が届いたようだな。」
「うん。ルシュ様には逃げられちゃったみたいだけど...。」
「こうなったからには、奴も必死に身を隠すだろうな。」
「それにしても...僕に手伝って欲しい事かぁ...なんだろう?」
「さぁな。直接会える訳ではないなら、手紙で聞くしかないだろうな。」
「あ、そうだった!早く返事を書いてクレア様の所に渡さないと...!えっと...便箋便箋...。」
「これが総頭と幹部のやり取りとは思えないな...。」
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