エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第7章:衝突

第83話

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「さすが元騎士。手馴れてるねぇ。」

森の外れでテントを設営していた僕の元に、別チームで行動していたラヴィがやって来た。日が暮れる前にリーガルの率いるチームと合流し、森で野営する事になっていたのだ。

「お疲れ様ラヴィ。そっちはどうだった?」
「そりゃあもう大量よ~。リーガルとシェリアが迅速に対処してくれるから、あたしは楽チンでさ。」
「それならよかった。そっちのチームは1人少ないから、大丈夫かな?って少し心配してたんだ。」
「ん?フランあんた…腕、怪我したのかい?」
「あーこれ?実はちょっとヘマして…吸血鬼に捕まっちゃってさ。ガゼルが助けてくれた時に、少し弾がかすっただけだよ。」

大した怪我では無いことを見せる為、腕に巻かれたハンカチを解いてみせた。

「あ、本当だ。少し傷が残ってるけどほとんど目立たないね。」
「あれ?もう少し大きかったはずだけど…。」
「応急処置が早かったおかげじゃない?ちゃーんと手当すれば、それなりに治りは早いものだし。」
「じゃあ、後でもう一度リアーナにお礼を言わなくちゃ。」
「そういや、他のみんなはどこいったんだ?」
「ラズは枝を拾いに、リアーナとガゼルは川岸で料理をしてるよ。」
「じゃああたしも、枝拾いを手伝ってやろうかねー。」
「僕も終わったら合流するね。」
「りょーかい!よろしくねー。」

森へ入っていく彼女を見送り、しばらくしてテントの設営を済ませた。
先に森へ向かったラズとラヴィに合流すべく、身支度を済ませてテントの外へ出ると、先程感じた視線が川の向こうから送られて来るのを感じた。
木々の間を吹き抜ける風が、甘い花の香りを運んでくる。その香りは、ステラ様がレジデンスへ来た時の事を思い出させた。
こんな所にステラ様が居るはずはないと思いつつも、僕の足は自然と川の向こう側へと運ばれていた。微かな花の香りを辿っていくと、川の側で佇む1人の男の姿があった。

「ラギト様…?どうしてここに…。」

そこには、レジデンス幹部吸血鬼のレーガイルラギトの姿があった。彼は僕の存在に気付き、こちらに振り返る。

「え…フラン?なんで…。」
「それはこっちのセリフです…!まさか…あなたが吸血鬼を率いて…」
「…そうだよ。僕がここの指揮を任されてる。」

その言葉に、僕は躊躇無く剣をひきぬいた。

「ま、待ってフラン!僕は君と戦いたい訳じゃ…」
「僕だって…1度やり損ねた相手を、もう1度手にかけるとは思いませんでした。でも僕は、この戦いを終わらせる為にここへ来たんです。相手が誰であろうと、剣を抜くと決めました。」
「本気みたいだね…。それなら僕は、君を大人しくさせて連れ帰らせてもらうよ。」

彼は魔法で剣を作り出し、一気に間合いを詰めた。彼のスピードは目で追えるような速さでは無い。まさに人間離れした、吸血鬼ならではの並外れた身体能力だ。
彼の剣をギリギリの所で受け止めると、身体を回転させる遠心力で振り払う。再び斬りかかる剣を受け流し、後ろへ跳ねて距離を取った。
しかし彼は、それを見逃してはくれなかった。僕から全く離れようとせず、ピッタリとマークしてくる。それどころか、攻撃の隙を全く与えてはくれなかった。彼の一方的な攻撃を耐えているものの、全く攻撃に転じる事が出来ない。苦しい状況のまま、ひたすら彼の攻撃を耐え続けた。

「ガゼル!今だ!」

僕は咄嗟に、彼の名前を呼んだ。すると、その言葉に驚いたラギト様が森の方へ視線を向ける。その一瞬の隙をつき、僕は彼の剣を弾き飛ばした。
咄嗟に僕の腕を掴もうとする彼の腕を交わすと、その場にしゃがみ込んで足を掛けた。
バランスを崩した彼はその場に倒れ、彼に向かって剣を突きつける。

「はぁ…はぁ…。」
「…トドメは刺さないの?ようやくここまで追い詰めたのに。」
「ここから…っ吸血鬼達を連れて…撤退すると言うなら…っ…見逃します。」
「ここで僕を逃がして、本当に退くと思ってる?」
「あなたが僕の父親だと言うなら…そうすると信じています。」
「っ…。」

僕が彼の事を父親と呼べば、彼の決意が揺らぐ事はわかっていた。
彼との実力差は歴然だ。彼は本気で僕に斬りかかっていない事は、剣を交えれば自ずとわかる。
だからこそ、卑怯な手を使ってでも、なるべく早く事を収めたかったのだ。例え、それで僕の自尊心が傷付けられたとしても。

ーバァン!

突如聞こえた銃声は、僕のすぐ側を通り過ぎて地面の土を抉った。その銃弾は、明らかにラギト様を狙って撃たれたものだった。恐らくガゼルが僕の不在に気付き、加勢しに来たのだろう。
続けざまに撃たれた弾の1つが彼の脚を掠め、バランスを崩した彼は後ろを流れる川に身を投げた。

「ラギ…」
「フラン!大丈夫か!?」

彼の名前を呼びかけ、駆け寄って来たガゼルの声で我に返った。

「ガゼル…!ありがとう…助かったよ。」
「くそ…仕留められなかったか…。」
「でも、弾は当たったはずだよ。血痕が残ってる。」

大した量では無いが、少なからず彼が負傷した事は間違いない。彼の安否が気になりつつも、僕はそれを悟られない様に素っ気ない態度を取った。

「なぁフラン。お前…奴と何か話してなかったか?」
「あ、うん…仲間の居場所を聞き出せないかと思って。でも、結局口を割らなかったよ。」
「なるほどな。ってか、1人で森の中をうろつくなよ。なんでこんな所来たんだ?」
「テントの設営が済んだから、僕も枝を拾おうと思って。そしたら、この辺りで孤立してる吸血鬼を見つけたから、チャンスだと思ったんだ。ごめん…勝手な事して。」
「またあいつが襲って来るとも限らない。一応、リーガルに報告しよう。」
「うん…そうだね。」

どこか後ろ髪を引かれるような思いをしつつ、ガゼルと共に皆の元へ戻る事にした。



「ミラ様に感謝して、頂きます。」
「「頂きます。」」

焚き火を囲み、全員でリアーナとガゼルが用意した食事を食べる。こうして大人数で食事をするのはいつぶりだろうか…そんな事をぼんやりと考えていると、隣に座っていたシェリアが僕に声をかけた。

「あら?フラン。この傷はどうしたの?」
「あ、ガゼルの弾がちょっとかすって…でも、大した事ないよ。もう痛みもないし。」
「あれー?でも、撃たれたのって左腕じゃなかった?右腕にも傷がついてるし…手首の辺りにもついてるよ?」

リアーナに指摘され、僕は右腕を伸ばした。すると、細かい切り傷が複数箇所に刻まれている事に気が付いた。痛みがなかったので、彼女に言われるまで全く気にもならなかった。
傷付いた原因は恐らく、ラギト様との戦闘の時だろう。彼が手加減していなかったら、今頃全身血まみれだったかもしれない。改めて、彼との実力の差を思い知るのだった。

「さっきリーガルには報告したんだが、川辺で孤立していた吸血鬼がいたんだ。フランと争っていたから俺が狙ったんだが…川の中に落ちていって安否がわからない。」
「あらあら…それは気になるわね。」
「フラン。後で薬を塗るからテントに来てね!」
「今日はリアーナにお世話になりっぱなしだね。」
「ふふふ!なんて言ったってお姉ちゃんだからね!」
「…まだ言ってんのかよ。」
「なあリーガル。そういえば、明日はマスターも合流するんだろ?」
「え?そうなの?」
「あぁ。怪我人の治療がほとんど済んだから、明日の朝こっちへ向かうと言っていた。フェリとイルムは残すそうだが、スレイとレヴィも合流するらしい。」
「となると…人数的に、3チームくらい分けられるんじゃないかい?」
「それもそうだな…。明日までに考えておく。」

騎士団の方に応援へ行っていたクラーレとスレイ、レヴィの3人が加わるなら、吸血鬼の撃退もスムーズに進むだろう。明日に備え、リアーナの治療を受けてテントで身体を休めた。
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