エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第7章:衝突

第80話

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翌日。僕はイリスシティアの裏路地で身を潜めていた。占い師の言葉を確かめるべく、ルシュ様に会わないように気をつけながら彼女を探す事にしたのだ。

「なぜそのローブを着てきた?こんな薄暗い場所で白いローブなど...目立ってしょうがない。」
「仕方ないでしょ?ローブはこれしか持ってないんだから...。」
「そもそもローブを着るから目立つんだ。そんなもの脱ぎ捨てろ。」
「嫌だよ...!素性がバレたら困るのは僕なんだから、ルドルフはちょっと黙っ...」
「あれあれ~?そこにいるのはもしかして~...。」

見知らぬ男に声をかけられ、僕は冷静を装って言葉を返した。

「…何か私にご用でしょうか?」
「やっぱり~!あんた、ランだろ~?しばらく見かけなかったけど~…元気そうで何よりだわ~。」

僕の事をランと呼んだ男は、親しげな様子で話しかけてくる。どうするべきか悩んでいると、機転を効かせたルドルフが、男に言葉を返した。

「人違いでは?私はランという名前ではありません。」
「あれあれ~?じゃあ人違いかなぁ~?似てると思ったんだけどな~。」
「用事があるので失礼します。」

足早にその場を離れ、大通りに出て人混みに紛れ込んだ。

「だから言っただろう...。ローブは目立つと。」
「じゃあ、仮面でも被れって言うの?ますます目立っちゃうよ。」
「俺が見た目を変えてやる。そこの路地に入れ。」

フランは俺の言う通りに路地に入り、壁に身体を向けて魔法を唱えた。悪目立ちする白いローブを脱ぎ捨てて大通りへ戻ると、ヴェラヴェルシュの捜索を再開した。

「お願いだからルシュ様には会わないでよ?こんな所で死ぬ訳にはいかないんだから。」
「わかっている。お前は大人しく見ていろ。」

俺は人に会わないよう気を配りながら、路地裏を練り歩いた。しばらく歩き回っていると、遠くの方を歩いている白いローブの2人組を見つけた。片方は俺と同じくらいの身長で、片方は子供かと思えるほど小柄だった。親子のように見える2人が、特徴的な白いローブを着て歩いている事に強い違和感を感じた。

「あの親子、怪しいな。」
「確かに異様な光景だけど...ルシュ様と何の関係が?」
「奴は金の長髪だったな。あの子供、 ローブから金色の髪がはみ出ている。あの色...奴の髪色と同じだ。」
「まさか...ルシュ様も姿を変えてるって言うの?」
「奴ほどの実力があれば容易い事だ。もしも奴が犯人に加担して居るのであれば、姿を変えている事にも納得がいく。」
「でも、ルシュ様と決まった訳じゃ...。」
「ならば会いに行くか?」
「それは...。」

すると、怪しい親子は階段を降りていき、ある建物の地下へと姿を消した。
それを見て、俺の憶測は確信に変わった。あの子供は、魔法で姿を変えたヴェラヴェルシュであると。

「ここから先はお前が決めろ。追うか、帰るか。」
「...もういいよ。帰ろう。」
「わかった。」



レジデンスへ戻ると、自室の机の上に一通の手紙が届いていた。

「あれ?クラーレからの手紙だ...。」
「なぜ奴から手紙が届く?」
「この前ギルドに行った時、何かあったら僕に連絡できるように封筒を預けておいたんだ。一体何があったんだろう...。」

封を切って手紙を開くと、そこには目を疑うような内容が書かれていた。
サトラテールに吸血鬼の大群が押し寄せ、街は大混乱になっているらしい。クラーレはギルドのみんなを引連れて、吸血鬼を退けようと奮闘しているが、難航しているとの事だった。

「遂に始まったか…。」
「遂にって…こうなる事を知ってたの?」
「遅かれ早かれ、いずれはこうなると思っていた。ステラが結界を維持していたという話は、この間聞いたな?恐らく、奴を水の中に閉じ込めたのは、結界の維持を阻止したい奴等の企みだ。結界が維持できなくなれば、人間の領土に攻め入る事も可能になる。」
「じゃあ…結界の外に出る為に、わざわざステラ様を閉じ込めたの?一体何の目的で…。」
「戦争だ。長年いがみ合ってきた、人間と吸血鬼のな。」

その言葉に、僕は背筋が凍るような感覚がした。

「ルドルフ。僕…」
「わかっている。…俺はしばらく大人しくしてやろう。ただし、危ないと思ったら容赦なく身体を乗っとるからな?」
「うん。行こう…サトラテールに。」

いても立ってもいられない様子のフランと共に、俺は人間の領土サトラテールへと転移した。



「クラーレ!」

到着してすぐさま、僕は彼の部屋へと向かった。

「フラン!?…来てくれたんだね。」

机の上に広げられた紙を取り囲むように、リーガル、シェリア、リアーナの3人がソファーに座っていた。

「マスター…フランも呼んでたんですか?」
「一応知らせておこうと思って、手紙を書いたんだ。呼んだつもりは無かったんだけど…フランなら来るんじゃないかと思ってたよ。」
「でも…フランがここに居て大丈夫なのかしら?騎士団に目を付けられたりしたら…。」
「この状況では、指名手配の事など構っている暇はないだろう。今は猫の手も借りたい。そこに座ってくれフラン。」
「うん…!」
「じゃあ、さっきの話をもう一度まとめるね。」

数日前、街中に吸血鬼の大群が押し寄せて来たのが事の始まりだった。その大群は、騎士団や中小ギルドが力を合わせて、なんとか街の外へ追い返したという。しかし、翌日には再び吸血鬼が攻め入り、それを再び撃退する…そんなイタチごっこを繰り返しているのが今の状況だ。
そんな状況を打開すべく、騎士団は特殊部隊を派遣し、サトラテールの北に広がる森の中に、吸血鬼の軍勢が陣取っている事を突き止めたらしい。

「それで、私達にお声がかかったのね~。」
「俺達のギルドは、元々吸血鬼が専門だからな。」
「全員で向かいたい所なんだけど…騎士団の方から、応援の要請も来てるんだ。だから、森へ向かうリーガルの班と、騎士団の方を手伝う僕の班に分けようと思う。」
「そうなると…僕は自然とリーガルの班になるね。」

罪人だったルナさんを連れて城から逃げた僕は、騎士団から目を付けられている。先程リーガルは、今の状況で僕を捕まえる事は無いと言っていたが…僕の罪が消えた訳では無いので、極力接触は避けるべきだ。

「シェリアとリアーナも、リーガルと一緒に行ってくれるかい?僕はイルムを連れて行くよ。彼女を戦わせるのは、まだ危ないだろうからね。」
「わかりました!」
「ラヴィとラズはどうする?」
「彼等は貴重な戦力だから…リーガルと一緒がいいかな。」
「ガゼルとフェリは、明日こっちに着くって言ってたわ。確か…スレイとレヴィも来るのよね?」
「うん。ガゼルは後からリーガルの方に合流してもらって、フェリとスレイ、レヴィの3人は僕の所に来てもらうように手配するよ。」
「そうなると…。俺、フラン、シェリア、リアーナ、ラヴィ、ラズ、ガゼルの7人で森へ。クラーレ、イルム、フェリ、スレイ、レヴィの5人で騎士団か。」
「あれ?オズモールは研究で忙しいから来れないのはわかるけど…ウナは来ないの?」
「一応、何かあった時の為に連絡係を残しておきたいから、今回は留守番を頼んだよ。」
「なるほど…わかった。」
「じゃあ、僕はこれからイルムと城へ向かうから、後の事は任せたよリーガル。」
「ああ。」

去り際、彼は僕の肩を軽く叩いていった。僕は彼の想いに答えられるよう、改めて意気込むのだった。
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